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53 青木さんが我が家にやってきました

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 次の日会社に行くと、朝さっそく廊下で出会った青木さんに言われました。

 「柳さんおはよう。場所わかったよ。よろしくね」

 「おはようございます。こちらこそよろしくお願いします。ただ久美ちゃん、今度親戚になる朝月久美さんというんですけど、彼女が挨拶したいと言ってるんです。当日挨拶だけお願いします。すみません」

 私がついしてしまった困った表情を見た青木さんもつられたのか、少し情けない顔をしました。

 「わかった。でもまいったなあ。彼女に挨拶するのか」

 「知ってるんですか? 久美ちゃんの事?」

 私がつい嬉しそうな声を出したからでしょうか。青木さんは私を見て困ったような顔をしました。

 「たぶん柳さんが思っていることとはちょっと違うと思うんだけどね。彼女、ある意味有名だから」

 私がそうでしょう! とばかりにうんうんうなづきました。久美ちゃんはかわいい上に、仕事はできるときたスーパーウーマンですからね。うん? ちょっと違う? 青木さんの言っていることはよくわかりませんが。

 「だから柳さんが思っているのとは違うんだけどね。まあ先に聞いておいてよかったよ。心の準備があるからね」

 青木さんはそういって自分の席に行ってしまいました。私も自分の席に行こうと思った時です。ちょうど後ろにいたのでしょう。小田係長の声がしました。

 「おはよう。お二人さんずいぶん楽しそうだね~」

 小田係長こそずいぶん楽しそうな表情を私に見せて、自分の席に行きました。あ~あ。きっと今の事がしばらくこの会社の話題になるんでしょうね。油断していました。
 
 それからしばらくの間、仕事の事で青木さんと話をして、席に戻ろうとするといつも小田係長と目が合いました。目が合うと分かってるよ! とばかりに微笑まれます。
 ただ近藤さんや鈴木課長は、普段通り仕事をしているのでいいのですが。小田係長の事ですから、きっと皆にも話はしていそうです。ほかの方たちも小田係長の様な態度をされると困ってしまいますが、まだ小田係長おひとりでよかったです。
 ただそれも週末になるころには、小田係長の態度も普通に戻りホッとしました。当の青木さんは、最初からそんな小田係長の態度にもわれ関せずで、小田係長の視線を少しも気にしていないようでした。さすがですね。

 
 とうとう土曜日になりました。毎日カレンダーを見て確認していました。やっと来たぞって感じです。準備はずいぶん前にしておきました。今日来ていく服も万全です。もう身元がばれているので、今日はちょっとお高いシックなワンピーズに、お揃いで買った靴とバッグです。ただデートもどきは前世も含めて初めての体験ですので、ドキドキです。
 昨日の夜には、久美ちゃんに何度もこの洋服でいいか念押ししてしまいました。
 
 「久美ちゃんどう? この洋服でおかしくない? 気合が入りすぎているように思われない?」

 「大丈夫ですよ。よくお似合いです。そのワンピースはシンプルなデザインですが、カジュアル過ぎずかといって肩ひじ張るほどフォーマルではなくて明日の企画展にはちょうどいい感じですよ」

 久美ちゃんは、まるで売り子さんの様にほめそやしてくれました。そうなんです。このワンピースは、この前久美ちゃんと一緒に行って買ったものだったのです。あの時には着る機会があるのかしらと思って買ったのですが、よかったです。さっそく出番がきました。

 今日も久美ちゃんに見てもらって確認していると、青木さんが来たと連絡がありました。なんだかドキドキしてきました。久美ちゃんが先に玄関に向かいます。私も急いで玄関に向かいました。玄関につくと、あらまあくみちゃんのほかに父や母、それから兄までいました。
 青木さんは、緊張のせいか顔色があまり良くなさそうです。
 
 「やあ。君が青木君か。千代子が会社でお世話になっているようだね。この前君のお父上ともお話しさせていただいてね。今日はよろしく頼むよ」

 「千代子の母です。今日はよろしくお願いしますね」

 「千代子をよろしく!」

 「お嬢様をくれぐれもよろしくお願いします」

 皆に声をかけられた青木さんは、あまりの緊張のせいか今にも倒れそうです。私は急いで青木さんのところに行きました。

 「青木さん、よろしくお願いします。じゃあ、行ってきます」

 「「「「いってらっしゃい」」」」

 皆の声を背中に受けて、私と青木さんは玄関を出ました。玄関を出たとたん、青木さんが深いため息を一つつきました。

 「あっ。ごめん。ずいぶん緊張しちゃって。まさか皆さんいるとは思っていなくて」

 「こちらこそ、すみません。父も母もいつもなら忙しくてなかなか家にいないんですけれど」

 「いや。でも最初が肝心だしね。まあ今日ご挨拶できてよかったよ。あっ、でも挨拶って言っても自分の名前を言っただけだった。これじゃあ小学生並みだなあ」

 最初こそ顔合わせが終わって安堵していた青木さんですが、挨拶が自分の名前を言っただけだと思い出した後はなんだかしょげていました。

 「すみません」

 こんな思いをさせてしまって申し訳ないと私は、青木さんにまた謝るしかありませんでした。青木さんは私が自分のせいで落ち込んでいると思ったのか、気分を変えようと明るい声を出しました。

 「今日は、ここから電車で行かない? この前電車に乗って楽しそうにしていたから」

 「いいですね」

 今世では、いつも送り迎えなので自宅からどこかに電車に乗っていくってこともないんですよね。また電車に乗れるなんて楽しみです。私が途端に元気になったのを見て、青木さんはほっとしたようでした。

 私たちはふたり最寄りの駅に向かいました。駅に向かう途中、青木さんはさっきの事を挽回しようとしてか、今日行く美術館の企画展の話をしてくれました。ずいぶん調べてくれたようでとても詳しく説明されました。ありがとうございます。

 企画展、楽しみですね~。

 

 


 
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