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シムたちの移住

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 キャスリンはイソベラとシムの家に行くことにした。

 「ここから何か持っていくものはない?」
 
 「ここにあると思う?」

 イソベラは笑いながら今までいた部屋を見渡した。

 「それもそうね。じゃあ行きましょう」

 キャスリンとイソベラはここからシムの仕事部屋に転移した。
 
 シムは転移したイソベラを見ると、駆け寄り抱きしめた。

 「大変な思いをさせてごめんな」

 「ううん」

 キャスリンもシムに縋りついた。この人達は血はつながっていないけれど、確かな絆があることを目の当たりにして、余計ストラ男爵が許せなくなった。ストラ男爵は、このお互いを思う気持ちを利用したのだ。キャスリンの胸の中で怒りがみなぎり始めた時、マークが冷静な声で言った。

 「キャスリン様、早くこの人達を転移させましょう」

 キャスリンはマークのもっともな発言に怒りを鎮めた。

 「ねえマーク、シムには話した?転移に同意してくれたのね」

 「はい、どうかよろしくお願いします」

 マークの代わりにシムがキャスリンに答えた。傍らにイソベラを置いて頭を下げる。イソベラもシムの横で頭を下げた。

 「じゃあ結界をこの家全部に張るわね。あと時を止める魔法も」

 大がかりな魔法にシムの目は大きく見開かれることになった。

 「すごいなあ~」

 シムは自分にも感じた大きな魔力にただただ感心した。ただ魔力が消えると、すぐに隣の部屋にいった。

 「アン、イソベラが帰ってきたよ」

 隣の部屋で双子をあやしていたシムの妻であるアンは、びっくりして思わず立ち上がった。イソベラも母親のアンを見て駆け寄っていった。

 「イソベラ、ほんとにイソベラなのね。こんなに痩せてしまってごめんなさい」

 「ううん」

 イソベラの姿を見て、この前ストラ男爵邸で見たシムの息子であるアルも、部屋の隅で薬草の手入れをしていたが飛んできた。思い切りイソベラに抱き着いていった。
 しばらくキャスリンは家族の再会をじっと見ていたが、なかなか終わりそうもないので割って入った。一応時間は止めてはいるが、ストラ男爵邸の方はもう時を止めてない。いつイソベラが部屋にいないかばれるかわからない。一応イソベラに確認は取ったが、時間はいくらあっても足りないくらいだ。

 「ごめんなさいね。感動の再会を邪魔するようだけど、これからずっとみんな一緒だから、今はこのくらいにして準備を始めましょう」

 キャスリンの声にまず母親でありシムの妻であるアンが、キャスリンをいぶかしそうに見た。

 「準備?」

 これからの事はシムに話してもらうことにした。シムの話にはじめこそいぶかしげな顔をしていたアンだったが、話を聞くうちに先ほどのイソベラと一緒でどんどん顔が輝いていくのが見て取れた。隣にいたアルも学校へ行けると聞いたとたん、ガッツポーズをした。
 それからの家族の準備は早かった。一応マークから必要最低限なものは揃えておいたと聞いたとたん、アンは台所のものはすべて持っていくのを放棄して、ちょっとばかりの洋服をイソベラとまとめ始めた。シムとアルは、シムの仕事部屋に言って薬草やら薬を作る道具やらを箱に入れ始めた。
 それをキャスリンが見ていたのだが、シムが手に取ったものを見てびっくりした。魔道具だったのだ。キャスリンはシムからそれを受け取り、よく見ると薬を作るための魔道具だが、なかなかすごいものだった。

 「これであの流行り病の薬を作ったのね」

 ーなるほど、これがあれば作れそうだ。でもシムはダイモック公爵家が守るからそんなものは作らせない。まあその前にストラ男爵をどうにかするが。

 キャスリンが知らず知らず黒い笑みを浮かべていたのか、マークに指摘されてしまった。

 「お仕置きは後でお願いしますよ」

 「そうだったわね」

 キャスリンが慌ててシムが準備している荷物を確認し始めた。キャスリンがもう一つの部屋に行くと、もうアンとイソベラは荷物をまとめ終わっていた。イソベラは双子ちゃんのお世話をしていた。
 キャスリンが、イソベラと一緒に双子をあやしているとマークがやってきた。

 「もう終わったようです」

 「ありがとう。じゃあこの家の結界と時間を止めるのを一度解くわね」

 キャスリンはそういって、シムたちみんなを集めた。荷物も一つのところにまとめておいてもらった。

 「荷物は後で運ぶわね。じゃあいくわよ~」

 キャスリンは、あらかじめスコットから聞いて見ておいた地図を思い浮かべ、シムたちが住む場所にみんなで転移した。
 初めて転移を経験したシムやアンそしてアルは、突然変わった景色にびっくりしていた。まだ幼い双子はわけがわからないようだったが、イソベラは二度目とあってちょっと余裕だったのか、すぐあたりをきょろきょろしだした。そしてすぐ後ろにあるかわいらしい家を指さした。ちょっと離れたところには、家のミニチュア版のような小さい小屋が立っていた。

 「ねえキャスリン様、これがそう?」

 イソベラが指さした家を見てキャスリンはうなづいた。すると、やっと我に返ったシムやアンそしてアルも家にくぎ付けになっていた。 
  
 「うわあ~、ここに住むの?」

 うれしさを隠し切れない様子でアルがはしゃいだ声を出した。

 「マーク、皆さんを家の中に案内してくれる?私荷物を持ってくるわ」

 そういってキャスリンはすぐ転移していった。
 
 「じゃあみなさん、家にご案内しますね」

 マークは嬉しそうなみんなの顔を見られて幸せだった。ただ玄関に入った時だった。

 「マーク、遅いわね。もう荷物あるわよ」

 キャスリンの声が家の中からしてマークはびっくりした。これには家に入ってきたシムたち家族も飛び上がらんばかりに驚いたのであった。
 
 「お嬢様、驚かさないでくださいませ」

 マークがちょっとむっとしながらキャスリンの顔を見ると、キャスリンはいたずらが成功したといわんばかりの得意げな顔をしていたのであった。
 

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