79 / 91
メルビスとの関係
しおりを挟む
「メルビスびっくりするじゃない。ちゃんとノックぐらいしてよ」
キャスリンが怒って言うと、メルビスは悪びれた様子も見せずにやにやしていった。
「ずいぶん元気じゃないか。心配して損したよ。せっかくマベルのケーキかってきてあげたのにさ」
「えっ、マベルのケーキ?食べる!食べるわよ!」
メルビスは、キャスリンの変わり身の早さに笑いながら、キャスリンを誘って図書室を出た。
「やっぱり母親の言う通りだな。キャスリンは甘いものが好きだから持って行こうって言ったんだ!」
「そうなの、キーラ叔母様きていらっしゃるの?」
「ああ、昨日倒れたって聞いてずいぶん慌ててたよ」
「じゃあさっそくご挨拶しなくちゃあ」
キャスリンは、こうやってメルビスと普通に話をしている自分に少し不思議な感じがした。前の人生では婚約者だったにもかかわらず、こんな風に他愛ない話をしたことなど記憶にない。今世では、キャスリンとメルビスはいとこ同士だ。
メルビスの母キーラは、今世ではキャスリンの父スコットの弟ジェームスの妻なのだ。ジェームスは、もともとダイモック公爵家が持っていた爵位バリントン伯爵家を継いでいる。キーラは今世では子爵家に生まれており、キーラのデビュタントでジェームスが見染めたらしい。ジェームスのものすごいアタックで、二人は結婚したと聞いている。
「今日もまたうちの親たち、僕の前でイチャイチャしていたよ。少しは考えてほしいよ」
「うちもそうよ。でもねメルビス、お兄様が言ってたけど夫婦仲はいい方がいいみたいよ。仲悪いと家の中が大変なんだって」
「ふ~ん、そんなものなのか」
メルビスの両親は、キャスリンの父と母に勝るとも劣らずラブラブで、小さい頃はメルビスと自分たちの両親の悪口を言っては、ふたりで憂さ晴らしをしていたものだ。子どもの前でも隠すことなく両親がラブラブする姿は、あまり見たいものではない。
ジェームスは前世では結婚をせずに、伯爵位は確か遠縁のものに継がせるといっていた。もしかしたら、キーラが好きだったのかもしれない。ダイモック公爵家に執事の紹介状を書いたのも、自分の好きな女性の実家であるハビセル侯爵家からの依頼だったからかもしれない。まさかそれがあんな悲劇を生むとは思いもしなかったのだろう。昔からジェームスとキャスリンの父スコットは兄弟仲が良かったのだから。
兄弟が仲がいいので、自然とその妻同志も仲が良くなった。キャスリンの母ミシェルが、嫁いできたばかりのキーラにいろいろ教えてあげたのがよかったのかもしれない。キーラの実家は子爵家だったので、結婚した当時はやはり風当たりが強かったらしい。ミシェルはダイモック公爵家に勝るとも劣らない名家の出なので、そのミシェルが肩入れしているとなると、おいそれと手出しできないのだ。
そんなこんなで今世では妻同志も仲が良く、メルビスも小さい頃からよくダイモック公爵家に来ていた。もちろんキャスリンもバリントン伯爵家に遊びに行っていた。歳が近いのもあってよくイソベラや兄のクロードも交えて遊んだものだ。
メルビスの初恋が、イソベラだったのも記憶を思い出した今となってはずいぶん納得できる。しかし今世ではイソベラは、メルビスに少しの興味もなくメルビスは早々に失恋していた。今世のメルビスは、愛情あふれた両親に育てられたので、前の人生のメルビスではない。もちろん少しやんちゃで意地っ張りなところがあるが、人にやさしくできる人になった。
もちろん婚約者までいる。ただその婚約者が少し曲者で、その人のおかげで今メルビスは、筋トレを余儀なくさせられているのだ。ふたりケーキを食べに向かう途中、キャスリンは横にいるメルビスをちらっと見た。
「ねえメルビス、あなたまた筋肉ついてない?」
「そうだろ。そう思うだろ。なのにニーナはまだヒョロヒョロだっていうんだぜ」
「そうなの、それは大変ね~」
キャスリンは笑いをこらえるのが大変だった。
メルビスの婚約者は、アシュイラ皇国の出身だ。それこそキャスリンの元へ時々来るアシュイラ皇国からの使者の中にニーナはいた。ニーナは女性にして近衛兵なのだ。ちょうどダイモック家に遊びに来ていたメルビスは、使者として来ていたニーナに恋をしたのだった。
アシュイラ皇国は、今や女性の活躍が目覚ましい。近衛兵にも女性が多いし、普通の国では男性が付いている職業にも女性がずいぶんと進出している。
何よりアシュイラ皇国は、モテる異性の価値観がほかの国とはずいぶん違うのだ。アシュイラ皇国では、男性は無口で地味な顔立ちをしている方がモテる。そして女性はたくましく強いほうがモテる。自分たちの国は自分たちで守るというのが深く強く根付いており、国境付近を守る兵士達の中にも女性が多い。しかもほかのちょっとした男性たちよりよっぽど強いのだ。
前の人生を思い出したキャスリンは、今のアシュイラ皇国の様子に少し罪悪感がある。ちょっとあの魔法の影響が強すぎたのかもしれない。
キャスリンはあの時、皆の意識を変えたくて自分の国は自分で守るよう暗示をかけた。それにちょっと付け加えてしまったのだ。口ばかりで性格が悪く顔の良い男性より、無口でも誠実な男性の方が価値があると。また女性も守られるだけでなく、自分でも自分の身を守れるようにと魔法をかけてしまった。それは、あの砂漠の村での悲劇を繰り返してはいけないという思いからだったのだが、ここまで影響を及ぼすとは思わなかった。
メルビスは顔がいい。だから最初アシュイラ皇国のニーナは、メルビスを鼻にもかけなかった。しかしメルビスは凛としたニーナに惹かれたのだ。それからのメルビスは、思い出しただけでも涙が出るほど努力した。あの時にはただ大変ね!頑張れ!と思っていただけだったが、その原因を作ったのが自分だったのかと思うと、少し申し訳ない気がする。
巷ではアシュイラ皇国は、ある者たちにとっては聖地であるといわれている。ある者とは、自国で無口で面白みがなく地味だといわれ続けている男性たちの事だ。
その男性たちは、こぞってアシュイラ皇国へ行きたがる。モテるからだ。自国では振られてばかりいる男性が、強くてたくましく凛としている女性に言い寄られる、まさに夢のようなことであるらしい。
キャスリンは今世でその噂を聞いていて、記憶を思い出した今となってはちょっとだけ微妙な気持ちになったのだった。
キャスリンが怒って言うと、メルビスは悪びれた様子も見せずにやにやしていった。
「ずいぶん元気じゃないか。心配して損したよ。せっかくマベルのケーキかってきてあげたのにさ」
「えっ、マベルのケーキ?食べる!食べるわよ!」
メルビスは、キャスリンの変わり身の早さに笑いながら、キャスリンを誘って図書室を出た。
「やっぱり母親の言う通りだな。キャスリンは甘いものが好きだから持って行こうって言ったんだ!」
「そうなの、キーラ叔母様きていらっしゃるの?」
「ああ、昨日倒れたって聞いてずいぶん慌ててたよ」
「じゃあさっそくご挨拶しなくちゃあ」
キャスリンは、こうやってメルビスと普通に話をしている自分に少し不思議な感じがした。前の人生では婚約者だったにもかかわらず、こんな風に他愛ない話をしたことなど記憶にない。今世では、キャスリンとメルビスはいとこ同士だ。
メルビスの母キーラは、今世ではキャスリンの父スコットの弟ジェームスの妻なのだ。ジェームスは、もともとダイモック公爵家が持っていた爵位バリントン伯爵家を継いでいる。キーラは今世では子爵家に生まれており、キーラのデビュタントでジェームスが見染めたらしい。ジェームスのものすごいアタックで、二人は結婚したと聞いている。
「今日もまたうちの親たち、僕の前でイチャイチャしていたよ。少しは考えてほしいよ」
「うちもそうよ。でもねメルビス、お兄様が言ってたけど夫婦仲はいい方がいいみたいよ。仲悪いと家の中が大変なんだって」
「ふ~ん、そんなものなのか」
メルビスの両親は、キャスリンの父と母に勝るとも劣らずラブラブで、小さい頃はメルビスと自分たちの両親の悪口を言っては、ふたりで憂さ晴らしをしていたものだ。子どもの前でも隠すことなく両親がラブラブする姿は、あまり見たいものではない。
ジェームスは前世では結婚をせずに、伯爵位は確か遠縁のものに継がせるといっていた。もしかしたら、キーラが好きだったのかもしれない。ダイモック公爵家に執事の紹介状を書いたのも、自分の好きな女性の実家であるハビセル侯爵家からの依頼だったからかもしれない。まさかそれがあんな悲劇を生むとは思いもしなかったのだろう。昔からジェームスとキャスリンの父スコットは兄弟仲が良かったのだから。
兄弟が仲がいいので、自然とその妻同志も仲が良くなった。キャスリンの母ミシェルが、嫁いできたばかりのキーラにいろいろ教えてあげたのがよかったのかもしれない。キーラの実家は子爵家だったので、結婚した当時はやはり風当たりが強かったらしい。ミシェルはダイモック公爵家に勝るとも劣らない名家の出なので、そのミシェルが肩入れしているとなると、おいそれと手出しできないのだ。
そんなこんなで今世では妻同志も仲が良く、メルビスも小さい頃からよくダイモック公爵家に来ていた。もちろんキャスリンもバリントン伯爵家に遊びに行っていた。歳が近いのもあってよくイソベラや兄のクロードも交えて遊んだものだ。
メルビスの初恋が、イソベラだったのも記憶を思い出した今となってはずいぶん納得できる。しかし今世ではイソベラは、メルビスに少しの興味もなくメルビスは早々に失恋していた。今世のメルビスは、愛情あふれた両親に育てられたので、前の人生のメルビスではない。もちろん少しやんちゃで意地っ張りなところがあるが、人にやさしくできる人になった。
もちろん婚約者までいる。ただその婚約者が少し曲者で、その人のおかげで今メルビスは、筋トレを余儀なくさせられているのだ。ふたりケーキを食べに向かう途中、キャスリンは横にいるメルビスをちらっと見た。
「ねえメルビス、あなたまた筋肉ついてない?」
「そうだろ。そう思うだろ。なのにニーナはまだヒョロヒョロだっていうんだぜ」
「そうなの、それは大変ね~」
キャスリンは笑いをこらえるのが大変だった。
メルビスの婚約者は、アシュイラ皇国の出身だ。それこそキャスリンの元へ時々来るアシュイラ皇国からの使者の中にニーナはいた。ニーナは女性にして近衛兵なのだ。ちょうどダイモック家に遊びに来ていたメルビスは、使者として来ていたニーナに恋をしたのだった。
アシュイラ皇国は、今や女性の活躍が目覚ましい。近衛兵にも女性が多いし、普通の国では男性が付いている職業にも女性がずいぶんと進出している。
何よりアシュイラ皇国は、モテる異性の価値観がほかの国とはずいぶん違うのだ。アシュイラ皇国では、男性は無口で地味な顔立ちをしている方がモテる。そして女性はたくましく強いほうがモテる。自分たちの国は自分たちで守るというのが深く強く根付いており、国境付近を守る兵士達の中にも女性が多い。しかもほかのちょっとした男性たちよりよっぽど強いのだ。
前の人生を思い出したキャスリンは、今のアシュイラ皇国の様子に少し罪悪感がある。ちょっとあの魔法の影響が強すぎたのかもしれない。
キャスリンはあの時、皆の意識を変えたくて自分の国は自分で守るよう暗示をかけた。それにちょっと付け加えてしまったのだ。口ばかりで性格が悪く顔の良い男性より、無口でも誠実な男性の方が価値があると。また女性も守られるだけでなく、自分でも自分の身を守れるようにと魔法をかけてしまった。それは、あの砂漠の村での悲劇を繰り返してはいけないという思いからだったのだが、ここまで影響を及ぼすとは思わなかった。
メルビスは顔がいい。だから最初アシュイラ皇国のニーナは、メルビスを鼻にもかけなかった。しかしメルビスは凛としたニーナに惹かれたのだ。それからのメルビスは、思い出しただけでも涙が出るほど努力した。あの時にはただ大変ね!頑張れ!と思っていただけだったが、その原因を作ったのが自分だったのかと思うと、少し申し訳ない気がする。
巷ではアシュイラ皇国は、ある者たちにとっては聖地であるといわれている。ある者とは、自国で無口で面白みがなく地味だといわれ続けている男性たちの事だ。
その男性たちは、こぞってアシュイラ皇国へ行きたがる。モテるからだ。自国では振られてばかりいる男性が、強くてたくましく凛としている女性に言い寄られる、まさに夢のようなことであるらしい。
キャスリンは今世でその噂を聞いていて、記憶を思い出した今となってはちょっとだけ微妙な気持ちになったのだった。
応援ありがとうございます!
2
お気に入りに追加
2,252
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる