御曹司様はご乱心!!!

萌菜加あん

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第二話 鳥羽さんの挙動不審が止まらない。

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「え? えええええええ????」

素っ頓狂な声が出てしまったが、
それはあたしの腹の底からの疑問形だった。

「いや、だから実際に恋人になれとは言っていないから。
あくまでフリで構わないんだ」

帝王はそう言ってばつの悪そうな顔をした。

「実は先日彼女に振られたんだ。
来月僕は20歳を迎える。
その誕生日パーティーにステディーな恋人がいないというのは、
とても体裁が悪い。君にはその役割だけを果たしてもらえればそれでいいんだ」

帝王の声色はひどく無機質だった。

「はあ、そうですか。そういうことでしたら」

こうしてあたしたちはLINEを交換した。

◇◇◇

とはいえ、あたしは基本的にあまりスマホを見ない。

大学の授業が終われば、死ぬほどバイトを入れていたし、
それが終わったら、速攻で家に帰って泥のように眠る毎日だったからだ。

翌日、一限目の大学の講義を終えた後、

「望月さくら、貴様なぁ~」

講義室の前で帝王が修羅のごとき形相で佇んでいた。

(ひぃぃぃ、地獄の低音ボイス……のみならず、
二人称が『君』から『貴様』に変わっとるやないか~い!)

あたしは
身の危険をひしひしと感じて後ずさった。

「は、はい、なんでしょう? 帝王様」

恐怖のあまり声が変なふうにひっくり返ってしまった。

「あのねぇ、俺の名前は鳥羽総一郎、ちゃんと覚えてくれる?」

(一人称も『僕』から『俺』に変わっとるやないか~い!)

あたしは心の中でさりげなくツッコミを入れる。

ジリジリと壁際に追いやられてからの、さりげない壁際ドンである。
けっこうな迫力だな。おいっ!

「ぞ……存じております……けど?」

帝王様の目力が凄い。
あたしも腹に力を入れて睨み返す。

「だったらちゃんと名前で呼んで?」

少し掠れた声で耳元で囁いてきやがるのだが、
吐息が頬に当たるくらいに顔が近い。

超イケメンの顔面が、
近いんですけど?

っていうか声までイケボだなんて、完璧ですね。

あたしは妙なところで関心した。

「と……鳥羽さん?」

あたしが蚊の鳴くような声でそういうと、

「できたら下の名前で!」

帝王の声のトーンが更に下がって、軽く瞳孔が開いている。

コワイ! だけど……。

「なんかキャラじゃないのでやめておきます。
鳥羽さんは鳥羽さんでいいでしょ?
鳥羽さんだってあたしのことフルネームで呼ぶんだし」

ため息とともにそういうと、

不思議そうに鳥羽さんが目を瞬かせた。

「あっそうか。じゃあ、俺も名前で呼ぶことにしよう。
さっ……く……」

鳥羽さんはなぜだかあたしの名前を呼ぼうとして、
口ごもった。

「……」

そして盛大に赤面する。

「なんだこの感覚は……妙にこっ恥ずかしいぞ」

挙動不審気味である。

「そっ……そんなことはどうでもいい。
それよりも望月さくら、貴様、昨夜はなぜ俺からのLINEに返信しなかったんだ!」

鳥羽さんが人差し指でビシっとあたしを指さした。

「え? LINE?」

あたしはカバンの中からスマホを取り出した。

ご臨終である。
充電が切れて電源が落ちていたのである。

「ごめんなさい。LINE送ってくれたんですね。
あたし知らなくて。なんかカバンの中でスマホの電源が落ちちゃってたみたいです」

あははと笑って、あたしが頭を掻いたら、

鳥羽さんがあたしの肩に両手を置いて盛大なため息を吐いた。

「はぁ~良かった。んだよ、めちゃくちゃ心配したつうの」

鳥羽さんはあたしの肩口に頭をもたせかけて、ひどく脱力している。

「お前昨日すごく体調悪そうだったし、何かあったんじゃないかって、
 こっちは生きた心地も……」

そう呟いて、鳥羽さんははっと顔を上げた。
そして再びみるみる激しく赤面する。

「べっ……別に、そんなんじゃないんだからなっ!
 かっ勘違いすんなよ!
おっ……お前のこと、心配したっつうか、これはそのっ、あれだ。
俺の誕生日の恋人代行の件な、あれが気になってだな。
っていうか、近い近い近い」

そう言って、鳥羽さんはビヨンという擬音語と共にあたしから飛びのいた。

鳥羽さんの挙動不審が止まらない。

「おっ……俺は二限の講義があるからっ! これで失礼するっ!」

そう言って鳥羽さんはくるりとあたしに背を向けて、ロボット歩きで去っていく。
鳥羽さん、右手と右足、左手と左足が一緒に出ているよ?

「あのっ、鳥羽さんっ!」

あたしは思わず鳥羽さんを呼び止めてしまった。

「心配してくれてありがとうございました」

そう言って頭を下げると、
振り返った鳥羽さんが妙な感じで動きを止めている。

この人見た目は超イケメンなんだけど、
本当に残念なイケメンだよね。

とてもかわいそうだけど。

「だっ……だだだだから、それはお前を心配したんじゃなくて、
おっおおおおおおおお俺の、だなぁ」

声がひどく上ずって、言葉が尻すぼみになっていく。

「それでもっ!」

あたしは声に力を込めた。

「あたしは嬉しかったんです」

鼻の奥がつんとして、
ちょっとだけ、泣きそうになった。

凍えてしまいそうな世界の中で、
その言葉だけで、あたしは充分生きられる。

なぜだかそんな風に思ってしまった。

「望月さくら!」

鳥羽さんはあたしの名前を読んで何かを言いかけた。
しかしそのとき、

「あっれー? 鳥羽先輩じゃないですかぁ」

一回生の女の子たちが、鳥羽さんに気付いてその周りを取り囲んだ。












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