王族の子【4】~古き血族の少年の物語

藤雪花(ふじゆきはな)

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バラモン王都国立学校

2、入学決定1

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ムハンマド一行は、王都へ一ヶ月ぶりに戻ると、王宮の横のムハンマド専用の離宮に寄らず、別に宿を取る。

宿屋の主人は王弟の宿泊に、従業員を全員呼んで喜んだ。

アルゴンに1滴の血が流れずに王位が交替できたのは、一重にムハンマド第六王子が兄に譲ったからだということは、周知の事実である。


「ひとまず、今回はここで我慢してくれ。そのうち、よいところに邸宅でも構えよう」

ムハンマドのいた離宮はバーライトの王宮に近すぎた。

アルゴンに留まることがあまりないとはいえ、リリアスと共にいるならば、距離をおくことに越したことはなかった。
リリアスも何となく、ムハンマドの気持ちがわかるような気がする。

あそこはバーライトと過ごした思い出が多すぎる。


翌日、満面の笑顔のバーライト王がムハンマドを迎えた。

「早かったな。風邪は引かなかったか?
少し雪焼けでもしたか?デンドロンに春は訪れたようだな。
女王はきれいだったろ?」

対照的にムハンマドはムッとしている。
あの不幸の手紙以来、ムハンマドの機嫌は治らない。

冬の国の件もバーライトははじめからムハンマドを行かせる予定であった。
うまく、ノアールとリリアスが女王の心を解放と解呪できなければ、リリアスの前で、アデュラリアを抱くはめにおちいることもありえた状況だった。

そうなれば、リリアスはあのとき、自分から去っていたかもしれなかった。

そこまで意図していたならば、バーライトは策士である。

「わたしの意見など聞くつもりもないだろう?王よ。リリアスをわたしから取り上げるな!」

バーライトは目を細めて、ムハンマドの不機嫌を楽しんだ。

赤毛の王と王弟は大変よく似ていた。
比べるとバーライトより、ムハンマドの燃え盛る情熱の方が、熱いようだった。

だから、義務や権力、国よりも、たった一人の黒髪の娘を選んだのだ。
一方で、バーライトのぎらつく野心は治まっている。


「あれは、決定事項か?」
ムハンマドは不機嫌に言う。

何度か、バラモン国民の義務教育化については議論をしたことがある。

「そうなる。リリアスを正式に妻か何かにするなら、二、三年学校へ入れよ」
バーライトはムハンマドの反応を見ながら言う。
「もっとも、その間にお前の小鳥ちゃんは飛んで行くかもしれないかもな」

ぎりっと、ムハンマドとバーライトはにらみあった。

リリアスのことをバーライトはよく知っている。
それをあえて言いたいようだった。

お前のいない一年はわたしがリリーの保護者であり、彼女のことを愛し慈しんだんだ、と言っていた。

二人はあの夜の対決を、もう一度繰り返していた。

ムハンマドは覚悟を決めた。
リリアスはもう、学校生活に憧れていた。
押さえつけるのもあまり得策ではない。
縛れば縛るほど、リリアスは逃げたくなるだろう。
「特別試験は不要。リリアスはバラモン王都国立学校に入れる。後見人だ。
卒業する頃には、誰もが振り向く才色兼備の美人になっている。
もしくは、男前にな。わたしはどちらでも良いからな」

ムハンマドは10年前の学生時代を思い出していた。

王都国立はバラモン国内外の王族や貴族や金持ちの子女などが集まっている。
うまくやれば、リリアスはこれから各国を背負う同年代の仲間を得られる。
仲間のなかには、どこかの王族に嫁ぐものもでてきたり、女であれば王妃になったり、男ならば王になるかもしれない。

強い絆を結べれば、リリアスは強力な味方を国内外に持てるだろう。

うまくすれば、だ。

駄目だと悲惨な結末も有り得る。
このハイソサイエティ学校は、外部の権力から完全に遮断されている。
いわゆる治外法権を主張し、独立性を保っている。

例え、暴力事件が起こったり、人が死んだり行方不明になったりしても警察に入られるのを拒み、内部が全て処理するのだ。

毎年不慮の事故で、数名がなくなっている。

政治の裏側を渡り歩くような、どろどろとしたものの中に、リリアスはどっぷり浸かることになるかもしれない。

(わたしは楽しかったがな。リリアスはどうか、、)


こうして、ムハンマド王弟が特別後見人となり、リリアスはバラモン王都国立学校に入学が決まったのだった。



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