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【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている② ~五大王国合同サミット~】

【第二十七章】 最後の扉

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「またこれぇ? なんかさっきと同じじゃん」
 これはカエサルさんの率直な感想。
 しかし、確かに広さは同じ様なものでも様相は随分と違う。
 さっきの場所では十個以上あった篝火が両端に二台しか無いせいで十分な明かりが無く、辛うじて周囲の状況が把握出来る程度で視界が悪いこと。
 そして、やはり正面の壁には扉が見えるが今度は数が三つしかない。
「また、正しい扉を選べということなんでしょうね」
「しかしコウヘイ、先程と違って扉が三つしかない。しかも立て札やヒントも見当たらないぞ」
「それが問題ですね。取り敢えず近くまで行ってみましょう」
 考えるのは捜索してからだ。ということでさっそく扉が並ぶ壁の方へと歩き出す。
 すぐのことだった。
「いてっ」
 後ろからシャダムさんの声がした。
 何事かと振り返る。
「大丈夫? シャダム」
「心配には及ばないさ姫よ。どうやら目に見えぬ何かが俺を闇へと誘おうとしたようだ。クックック、闇に好まれるというのも考え物だな」
「ばっかじゃないの。勝手に躓いただけじゃん、いちいち格好付けんな」
「黙れガキ」
 緊張感の無い連中ってどこにでもいるんだなぁ。あれ? デジャブ? 
 という感想が頭に浮かぶと同時に、普通に『いてっ』とか言うんだこの人……って感じだった。
 さておき、扉の前に到着。
 さっそく懐中電灯で周囲を照らしてみても立て札なんて見当たらないし扉には何も貼られていないし、今度は絵も描いていない。
 何のヒントも無し、ということか? いや、ここでさっきのアレがここで出てくるわけだ。
「本当に何もありませんね……これといってヒントもないとなると、どうしたものでしょうか」
 マリアーニさんも困り顔を浮かべている。
 やはりあちらのメンバーにあって頭が良いのはウェハスールさんだ。
「なんのヒントも無し、というわけではないですよ姫。先程の問題に書いてあった文章を思い出してください~。最後に【再び行く道を選ぶ時、本物の扉の位置に従え。答えは○○○○の○○】とありました。つまりはあの時と同じ答え、ということまでは手掛かりがあるということですね~」
「あれはそういう意味だったのね。でも、その○の中に入るの言葉は一体……」
「それはわたしにも分からないのでみんなで考えましょ~。ちなみにコウヘイ様はもう分かってたりします~?」
「いえ、さすがにこの状況では全く。何かここにも手掛かりが無いと中々簡単にはいかなそうです」
 ということで僕も考えてみる。
 ○○○○の○○とは一体なんだろう。
 四文字と二文字の何かが入るのは間違いないのだろうけど……。
「あたし分かった!」
「エル、みんな真剣なんだから少し黙っていてね~」
「普通に酷くないそれ!?」
「冗談よ~、じゃあ聞かせてくれる?」
「あのね、月の扉!」
「前も後ろも文字数があってないわよエル……」
「むう、姫まで……じゃあ、正解の扉!」
「前の文字数はあったけど、後ろがあっていないしこの場における答えにもなっていないんじゃないかしら」
「だったら~、真ん中の下!!」
「文字数は合致したけど……ここにある扉に上も下もないみたいよ?」
「じゃあもう分かんない!」
 やる気あんのか……と言いたくなるのをグッと堪え。
「セミリアさん、ちょっとこれ持っていてくれませんか?」
「む? ああ、それはいいがどうするのだ?」
「ちょっとじっくり見てみようと思いまして」
 セミリアさんに懐中電灯を手渡し、扉の近くに行ってそれぞれの扉をくまなくチェックしてみることに。
 しかし、やはり何か文字があるわけでもなく、絵も描かれておらず、扉の上にも下にも何も無い。本当にこの場におけるヒントは無しということなのか。
 ○には一つの音が入る。そう書いてあった以上は本当の意味で○一つに一文字が入るということだろう。
 では四文字と二文字の何か考えなければならないのだが、確かに【真ん中】というのが今のところ一番しっくりきそうではある。
 となると三つ並ぶ扉のうちの真ん中のそれが候補に挙がるわけだけど、さすがにそれだけで断定するのはリスクが高すぎるし、そもそも中央を表すのに【真ん中】というワードを使うだろうか。
「………………」
 取り敢えずこっちは後回しだ。
 では後ろの二文字に何が入るか。
 あの場において二文字の言葉と言えば【上】とか【下】というのがやはり最初に浮かぶ。
 あとはあの絵か?
 六つの扉に描かれていた「木」「太陽」「星」「炎」「月」「グラス」の中で二文字のワードは星と月。
 ○○○○の星。或いは○○○○の月。
 これでは前に何が入ったとて到底ヒントになるとも思えない。
 真ん中の星……真ん中の月……正解の星……正解の月……やはり今一つ意味がはっきりしない。
 正しい扉は月の扉だった。
 となれば月が入るのが濃厚とみるべきなのだろうが……やはり答えには程遠い気がする。
 では逆に絵の中で四文字の物は……太陽のみ。
 今あるキーワード。
 四文字→真ん中、正解、太陽。
 二文字→月、星、上、下。
 これをそれぞれ組み合わせたとして…………あれ、ちょっとまてよ?
 確か……あの時。
「うん、やっぱりそうだ……セミリアさんっ、ちょっとそれ貸してください」
「ど、どうしたのだコウヘイ。そんなに慌てて」
「もしかしたら答えが分かったかもしれません」
「本当か!」
 すぐに懐中電灯を受け取る。
 その様子を見てユノ勢も集まってきたが、説明は後だ。まずは確認しないと。
「コウヘイ様、何をしておられるのですか」
「僕の予想が正しければどこかにあるはずなんです」
「何のことを仰っているのです」
 答える余裕は無い。
 まずは扉を照らしてみる。
 続いて扉の上の壁をこまなく見回してみるが、やはり無い。
 ということは……。
「上か」
 真上にライトを向ける。
 そこには確かに、僕が探していた物があった。
「あれは……」
「太陽の……絵?」
「な、なんであんなもんが天井にあんの?」
 セミリアさん、マリアーニさん、カエサルさんが揃って驚きの声を上げる。
 これで半分まで辿り着いた。後はどこかにあるもう一つのあれを探さなければ。
「端から順に見て回るか……いや、違う」
 偶然得た可能性がある。まずはそこだ。
 頭の中で全てが繋がり、同時に僕は駆け出した。
 何が何やら分かっていない他の面々も慌てて付いてくる。
 僕を呼ぶ声への反応も後回しにしてこの空間のちょうど真ん中付近まで戻ると、地面をライトで照らした。
「あった……」
 そこには一部分だけほんの少し出っ張っている箇所があった。
 見ようによっては取っ手に見えるし、その証拠に周囲には正方形の切れ目が入っている。
「コウヘイ……それは一体」
「扉のようですね。持ち上げれば外れる仕様になっているはずです」
「そんな所にある扉なんて見つかるワケないじゃん! こんなに暗いのにさ! 卑怯だよこの国の奴等」
「こらエル、慎みなさい。そしてコウヘイ様、どうしてお分かりになったのです? エルの言う通り、この様な物は普通に探しても見つけられるとは思えません」
「そうだぞコウヘイ。お主一人は分かっている風だが、私達にも説明してくれ。いや、もしかするとウェハスール殿も分かっておいでで?」
「いやぁ~、お恥ずかしながら全く。あの○に入る言葉がなんだったのか、ということは今のコウヘイ様の行動とその扉を見て理解しましたけど、そこに辿り着くまでの道筋は是非教えていただきたいですね~」
 後学のために、といつか聞いたような台詞を口にするウェハスールさんも含め全員がしゃがみ込む僕の傍に集まっていた。
 ようやく僕も落ち着いたので久々の解説役になるとしよう。
「正直に言うと消去方だったんです。単純にさっき居た場所にあって、かつ関連がありそうな四文字と二文字のワードを挙げていきました。まず二文字の方ですが、上下に扉が分かれていたことから【上】と【下】そして扉に描かれていた絵のうち【星】と【月】。続いて四文字のワードはカエサルさんの言った【真ん中】と【正しい】それから同じく扉の絵から【太陽】です。その全ての組み合わせの中から一番扉の場所を示している様に聞こえるのが【真ん中の○○】或いは【太陽の上または下】だった。それでいてさっきマリアーニさんが言った通り扉の上下には何も見当たらない、ならば太陽の上下どちらかなのかと考えた時に答えが見えたんです」
「太陽の上か下ということか? しかしコウヘイ、何故それが答えだと分かるのだ?」
「よく思い出してみてください。正しい扉は月の扉だったんですけど、その位置は下段の真ん中にあったんです」
「さすがにそれは覚えているが……」
「その月の扉の上に何があったか、それを考えると上段の真ん中にある扉に描かれている絵は太陽だった。つまり、正解の扉は太陽の扉の下、太陽の下にあった。なのでまず太陽といえそうな何かを探したというわけです。答えが下なのだから上にあるだろうと扉の上を探して、次に思い付いた天井を探すと見つかったので、その下となると地面が一番に思い浮かびます。端から順に地面を探そうと思った時に……」
「先程シャダム殿が躓いたことを思い出したというわけか。まさかそんな答えになっているとは……いや、それよりもお主は何故当たり前の様にそんなことにまで頭が回ってそんなことまで覚えていてるのかと思うと自分で自分が情けなく思えてくるぞコウヘイ」
「そこまで凹むようなことでもないのでは……」
「いえいえ~、その気持ちも分かりますよ~。コウヘイ様が同行していなければ、ひょっとしたらわたし達はここで死んでいたかもしれませんもの~」
「ケイトの言う通りですよコウヘイ様。その洞察力や考察力は称賛に値します、あなたが居てくれてよかったと心から思いますわ」
 お世辞か社交辞令か、はたまた本音か。
 そのどれだったとしても僕のせいで、という結果よりは僕のおかげで、と言われた方が救われることは事実だ。
 というか、いずれにせよそんなことを微笑みながら言われると照れ臭い。
「でもさっ、つまりはあたしがそのうちの二つも考えたおかげってことじゃないの?」
「エル……正しい答えにあなたの言った二つのキーワードは含まれていないわよ?」
「え!? そうなの!?」
「一体あなたは何を聞いていたの……」
 一転、呆れて言うマリアーニさんだった。
 ともあれ、これでほぼ答えは出たはず。というわけでセミリアさんの言葉をきっかけにして僕達は話を進める。
「ではコウヘイ、マリアーニ王、この扉を開くということでよろしいか」
「そうですね、さすがにこれ以上の正解は無いでしょう。わたくしは異論ありません、コウヘイ様とケイトはどうですか?」
「わたしはまだ反対ですねぇ。というのも、先にやることがあると思いますよ姫。ね、コウヘイ様」
「先にやること?」
 マリアーニさんはウェハスールさんではなく僕を見る。
 まあ、そのあたりはさすがウェハスールさんだ。
「先に手分けして一通り地面を捜索してから、ということですね。太陽の下にある扉がこれ一つと決まったわけではないですから。まあ複数あれば答えが矛盾しかねないので可能性は低いでしょうけど、命が懸かっているのなら念には念を入れる意味でも」
「なるほど……本当に二人とも頭が回りますね。逆にわたくしは頭が上がりませんよ」
 情けない話です。と、それほど自虐的なニュアンスを含まずに言ってマリアーニさんは苦笑い。
 一国の王様がそういう役割を担うものでもないだろうし、情けないという程の話ではないと思ってしまうのは一般的な考えだろう。
 マリアーニさんが王である様にそれぞれに役割があって、他の部分を代わりにやろうとする人がいる。それが人望や人徳というものだ。
 他の四人を見ても王様の命令だから従っているという関係以上のものを大いに感じるし、僕がセミリアさんの役に立てたらいいなと思うこともまた同じなのだ。
 というわけで僕達は二人一組に分かれて端から地面を散策して回った。
 といっても明かりとなるものが二つしか無いのでマリアーニさんとカエサルさん組は元の位置で待機だ。
 ちなみに僕のペアはシャダムさん。
 戦闘力的に一番弱そうなのが唯一の男二人がくっついたペアというのだから女性上位もいいところだな……。
「兄弟、あの扉を見つけたのは俺が闇のお告げを聞いたことも大きな功績だ。ということを姫にそれとなく言っておいてくれ」
 などとわけの分からないことを言うシャダムさんを適当にあしらいつつ、慎重に地面を探すがやはり他に扉らしき物も手掛かりになりそうな物も特に見当たらず。
 セミリアさんウェハスールさん組も同じだったことを受けて僕達は最初に見つけた扉を開くことを決めた。
 今度はセミリアさんがその役を買って出たがやはり扉を開くことで何かが起きるということはなく、それすなわち答えが正しかったということを意味していた。
 開いた先にあったのは階段で、例によって明かりがなく先も見えない階段をウェハスールさんを先頭に降りていく。
 長く暗い階段をしばらく降りると、先の方に光が見えてきた。
 その光に近付いた分だけ逆にその目映い光が視界を遮る中でやっとのこと辿り着いた階段の出口。
 一歩踏み出すと意外や意外。
 そこは既に洞窟ではなく、辺り一面に木々や青空、湖が広がる自然に囲まれるどこかだった。
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