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14 新たな発見
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「ユナ、礼を言う」
「いえ、本当に私はただ意見を述べたまでですので……」
何度目かわからない問答を繰り返し、照れくさそうに顔を綻ばせる。
「だが、君の案が最適解だったのは事実だ。誇っていい」
「もう……褒めすぎです……」
そこまで言われると、頬が緩んでしまう。「事実を言ったまでだ」と言われてしまい、更に嬉しくなる。
「話を変えよう。ユナ、領地の管理に興味はあるか?」
「え?」
突拍子もない発言に、目を瞬かせる。驚くユナに、「言葉の通りだ」と告げてきた。
「君は生家でも、家の財政管理の管理も任されていたと調査報告が上がっている。今の君は限りなく時間がある。暇をつぶすにも、我が家の為にもなる。勿論、君が望めばの話になるが……」
告げられた言葉に、幾分悩む。確かに家では父に雑用としてやらされていたが、その程度だ。そんな自分が、果たして役に立つだろうか。でも、折角の申し出だ。引き受けたい。
「……私が少しでもお役に立てるのならば、やらせてください」
その言葉に、ロイドは口角を上げた。
「なら、明日から手伝って貰おう。大まかなことは侍従長に任せてある。ジェイク、教えてやれ」
「かしこまりました」
御者の隣に腰掛け話を聞いていた彼は、ロイドの言葉に頭を垂れた。
屋敷に戻って早々、ロイドに案内され侍従長と共に彼の書斎に入る。壁一面に並べられた書物に圧巻されている中、幾つかの書類を手渡された。応接用のデスクの方に向かい、腰掛ける。ジェイクの指示に従い、書類を見比べペンを走らせる。次の書類はよく読むように言われ、じっと内容を覚えていく。
そうこうしていくうちに、少しずつ楽しくなってきていた。
その日も、侍従長から領地の管理のノウハウを教わっていると、外から剣撃の音が聞えてきた。
「この部屋からは、外で鍛錬をしている施設騎士の様子も良く見えるのです」
「そうなんですね」
そう言えば、私設騎士の面々には会った事が無い。主に自分が彼らの側に行くことも少ないからおのずとそうなるのだが、会ってみたい気もする。
「今日は旦那様も休暇でそちらに鍛錬に向かわれております。ご覧になりますか?」
表情に出ていたのか、侍従長が視察を提案してきた。
「ですが、お邪魔になりませんか?」
質問に質問で返す形になってしまったが、侍従長は「大丈夫でしょう」と言葉を返してくる。
「寧ろ、士気が高まるかもしれませんしな」
呟かれた言葉を聞き取れなかったユナは首を傾げながら、書類を片し侍従長について行った。
案内されたのは、庭園とは反対側の屋敷の裏手だった。そこで、私設騎士は日々鍛錬を行っている。
ユナと侍従長が近付くと、気付いた一人の青年が歩み寄ってきた。
「侍従長。それに奥様も。見学ですか?」
にこやかな笑みを浮かべているのは、私設騎士の隊長でありユナが初めて屋敷に来た時に挨拶を交わしたガイルだった。
「ええ、剣撃の音が聞えたので……ご迷惑だったでしょうか」
「とんんでもない。寧ろ大歓迎です。丁度、ロイド様と若手が手合わせしてますよ」
向けられた手の方を見れば、私服姿のロイドと若い青年が剣を交えていた。
剣と剣、鉄と鉄が擦れ合う度、耳をつんざくような音が鼓膜に伝わる。ロイドと若い青年の剣撃は激しく、何度もつばぜり合いを起こしていた。その度に鉄が擦れ、血のような匂いが鼻につく。それでも、目を逸らすことが出来なかった。
次第にロイドの方が優勢になり、青年は彼の斬撃を受け止めることで精一杯になっていった。勢いよく振り下ろされたロイドの一撃を、何とか受け止める。だが、寸でで握った柄を持ち替え振り上げた剣によって、青年の持っていた剣が手から滑り落ちてしまった。
青年は体力の限界だったのか、その場で座り込んでしまう。対して、ロイドは汗一つかいていなかった。
「奥様、これをロイド様に」
手合わせの光景に夢中になっていたユナはガイルの声にハッと我に返り、差し出されたタオルとドリンクを受け取る。そのままロイドの元に向かい、声を掛ける。
「ロイド様」
「ユナか」
「先程の手合わせ、とても恰好よかったです」
ドリンクとタオルと両方を手渡し、賞賛の意を伝える。「これ位は普通だ」と答えるロイドだが、少し照れくさそうに頬を緩めた。
ロイドはその場に座り込んでいる青年に声を掛ける。
「足腰がなってない。上半身の筋肉だけで剣を振るうな」
「りょ、了解です!」
青年は立ちあがり、深々を礼をすると落としてしまった剣を拾いに走っていった。グラスを傾け空になった器をユナに返すと、「次、来い」と周りに声を掛け剣を構える。
そんな彼からゆっくりと離れ、侍従長の元に戻ると、目を伏せた。
「私、やはりお邪魔だったでしょうか……」
落ち込むように呟くと、ガイルは寧ろ微笑んでいた。
「ロイド様、あなた様が来てから動きが良くなっております。張り切っているのかと思われますよ」
顔を上げガイルに視線を向けると、彼はにこやかな笑みを浮かべていた。
嬉しさやら恥かしさやらで頬が紅潮していく。
「ガイル、話す余裕があるならお前が来い」
「おや、ご指名ですか……」
やれやれと肩を動かしながら向かうガイルを見送りながら、先程の彼の言葉を思い出す。
嬉しい。そんな言葉が心を満たした。
視線を感じ、振り返ると、侍従長が珍しくも笑みを浮かべていた。
「いえ、本当に私はただ意見を述べたまでですので……」
何度目かわからない問答を繰り返し、照れくさそうに顔を綻ばせる。
「だが、君の案が最適解だったのは事実だ。誇っていい」
「もう……褒めすぎです……」
そこまで言われると、頬が緩んでしまう。「事実を言ったまでだ」と言われてしまい、更に嬉しくなる。
「話を変えよう。ユナ、領地の管理に興味はあるか?」
「え?」
突拍子もない発言に、目を瞬かせる。驚くユナに、「言葉の通りだ」と告げてきた。
「君は生家でも、家の財政管理の管理も任されていたと調査報告が上がっている。今の君は限りなく時間がある。暇をつぶすにも、我が家の為にもなる。勿論、君が望めばの話になるが……」
告げられた言葉に、幾分悩む。確かに家では父に雑用としてやらされていたが、その程度だ。そんな自分が、果たして役に立つだろうか。でも、折角の申し出だ。引き受けたい。
「……私が少しでもお役に立てるのならば、やらせてください」
その言葉に、ロイドは口角を上げた。
「なら、明日から手伝って貰おう。大まかなことは侍従長に任せてある。ジェイク、教えてやれ」
「かしこまりました」
御者の隣に腰掛け話を聞いていた彼は、ロイドの言葉に頭を垂れた。
屋敷に戻って早々、ロイドに案内され侍従長と共に彼の書斎に入る。壁一面に並べられた書物に圧巻されている中、幾つかの書類を手渡された。応接用のデスクの方に向かい、腰掛ける。ジェイクの指示に従い、書類を見比べペンを走らせる。次の書類はよく読むように言われ、じっと内容を覚えていく。
そうこうしていくうちに、少しずつ楽しくなってきていた。
その日も、侍従長から領地の管理のノウハウを教わっていると、外から剣撃の音が聞えてきた。
「この部屋からは、外で鍛錬をしている施設騎士の様子も良く見えるのです」
「そうなんですね」
そう言えば、私設騎士の面々には会った事が無い。主に自分が彼らの側に行くことも少ないからおのずとそうなるのだが、会ってみたい気もする。
「今日は旦那様も休暇でそちらに鍛錬に向かわれております。ご覧になりますか?」
表情に出ていたのか、侍従長が視察を提案してきた。
「ですが、お邪魔になりませんか?」
質問に質問で返す形になってしまったが、侍従長は「大丈夫でしょう」と言葉を返してくる。
「寧ろ、士気が高まるかもしれませんしな」
呟かれた言葉を聞き取れなかったユナは首を傾げながら、書類を片し侍従長について行った。
案内されたのは、庭園とは反対側の屋敷の裏手だった。そこで、私設騎士は日々鍛錬を行っている。
ユナと侍従長が近付くと、気付いた一人の青年が歩み寄ってきた。
「侍従長。それに奥様も。見学ですか?」
にこやかな笑みを浮かべているのは、私設騎士の隊長でありユナが初めて屋敷に来た時に挨拶を交わしたガイルだった。
「ええ、剣撃の音が聞えたので……ご迷惑だったでしょうか」
「とんんでもない。寧ろ大歓迎です。丁度、ロイド様と若手が手合わせしてますよ」
向けられた手の方を見れば、私服姿のロイドと若い青年が剣を交えていた。
剣と剣、鉄と鉄が擦れ合う度、耳をつんざくような音が鼓膜に伝わる。ロイドと若い青年の剣撃は激しく、何度もつばぜり合いを起こしていた。その度に鉄が擦れ、血のような匂いが鼻につく。それでも、目を逸らすことが出来なかった。
次第にロイドの方が優勢になり、青年は彼の斬撃を受け止めることで精一杯になっていった。勢いよく振り下ろされたロイドの一撃を、何とか受け止める。だが、寸でで握った柄を持ち替え振り上げた剣によって、青年の持っていた剣が手から滑り落ちてしまった。
青年は体力の限界だったのか、その場で座り込んでしまう。対して、ロイドは汗一つかいていなかった。
「奥様、これをロイド様に」
手合わせの光景に夢中になっていたユナはガイルの声にハッと我に返り、差し出されたタオルとドリンクを受け取る。そのままロイドの元に向かい、声を掛ける。
「ロイド様」
「ユナか」
「先程の手合わせ、とても恰好よかったです」
ドリンクとタオルと両方を手渡し、賞賛の意を伝える。「これ位は普通だ」と答えるロイドだが、少し照れくさそうに頬を緩めた。
ロイドはその場に座り込んでいる青年に声を掛ける。
「足腰がなってない。上半身の筋肉だけで剣を振るうな」
「りょ、了解です!」
青年は立ちあがり、深々を礼をすると落としてしまった剣を拾いに走っていった。グラスを傾け空になった器をユナに返すと、「次、来い」と周りに声を掛け剣を構える。
そんな彼からゆっくりと離れ、侍従長の元に戻ると、目を伏せた。
「私、やはりお邪魔だったでしょうか……」
落ち込むように呟くと、ガイルは寧ろ微笑んでいた。
「ロイド様、あなた様が来てから動きが良くなっております。張り切っているのかと思われますよ」
顔を上げガイルに視線を向けると、彼はにこやかな笑みを浮かべていた。
嬉しさやら恥かしさやらで頬が紅潮していく。
「ガイル、話す余裕があるならお前が来い」
「おや、ご指名ですか……」
やれやれと肩を動かしながら向かうガイルを見送りながら、先程の彼の言葉を思い出す。
嬉しい。そんな言葉が心を満たした。
視線を感じ、振り返ると、侍従長が珍しくも笑みを浮かべていた。
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