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16 言葉に言い表せない落胆

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 ヴァイリスの話を要約すると、十八歳になり家を継いだシーカに後を任せ、両親は旅行に出かけたのだそうだ。その間、シーカはヴァリスの言葉を無視し、贅の限りを尽くした挙句、リリーベル家の財産のほぼすべてを私利私欲の為に使ってしまったらしい。

 その当人であるシーカは、我関せず、どこ吹く風といった風な態度で自身の指に塗られたマニキュアを眺めている。

 要は、自分を屋敷に戻って来させ、尻ぬぐいをさせようというのだ。

「もう一度、君とやり直したい。やっぱり僕には君にしかいない。シーカは荷が重かったよ……。僕と来て、リリーベル家の再興に力を使って欲しい」

 手を差し出し、満面の笑みで言ってくるヴァリス。

「今ならば、お前の今までの態度も許そう」

 何故か上から目線で話す父。

 どうして、そんな自分勝手な言葉が出てくるの?

「グラヴィス家との婚姻の話はどうなさるおつもりですか」
「お前とシーカを交換すればいいだろうが」

 まだ婚約段階ならば、交換も出来ると踏んでの行為のようだが、あまりにも失礼な態度に一瞬、頭が真っ白になった。

 私のことはどうでもいい。でも、グラヴィス家に対するその態度は許せなかった。

 ユナは二人の前に立ち、軽蔑の眼差しを向ける。


「ヴァリス、シーカを選んだのは貴方でしょう? 私を捨てたのも貴方。今更やり直そうだなんて無理。それに、私の帰る場所はここよ。お父様も、私に二度と戻ってくるなと言っておいて、その言いぐさはないわ」

 キッと睨みつけるユナに怖気づいたのか、ヴァリスは手を下げ後退った。だが、父は違った。

「ならば、貴様などいらん。金を出せ。それで我が家を立て直す」

 あまりの暴論に、頭に血が上っていくのがわかる。自分を売った家に、今度は金をたかるというの? 恥ずかしげもなく言い放つ父の姿に、こちらの方が恥ずかしくなってくる。


「ねえ、お父さま~。当主様はまだこないの? 早く私を紹介してよ」

 その態度に、どうやらシーカは既に私と立場を交換する気でいるようだ。そんな二人の態度に、腸が煮えくり返りそうになる。

「シーカ、悪いけど、ロイド様はあなたを選ぶことはないわ」

 きっぱりと告げると、彼女は「はあ?」と表情を歪ませた。

「そしてお父様、グラヴィス家は公爵家です。伯爵家のあなたが命令する権利はありません」

 怒りを心の内に留め、ごく当たり前の回答をする。

「っ、このっ! 偉そうに父に歯向かうのか!」

 顔を真っ赤に染め、怒りに任せ手を振り上げる。すぐ後ろでヴァリスが「お義父さん!」と制止をかけるが、止まる気配もない。咄嗟に目を閉じ衝撃に備えるが、一向に来ないことに違和感を感じ、恐る恐る目を開いた。

「妻に手をあげるということは、我が家を敵に回すということでいいんだな?」

 そこには、父の手を掴み険しい顔で睨み付けるロイドの姿があった。

「ロイド様っ」

 思わず声を掛けると、小さく口角を上げた。手を掴まれた父は先程までの態度とは一変し、にこやかな笑みをロイドに向けた。

「これはご当主。敵に回すとは恐れ多い。今回は御頼みがあって来た次第です」
「……なんだ」

 ユナを庇うように前に立ち、あからさまに聞く気のない彼を無視しつつ父はシーカを呼んだ。シーカはロイドを見て、頬を紅潮させ目を輝かせた。

「我が娘ユナとシーカの交換をお願いしたいのです。何、ユナは悪女としても有名。グラヴィス家には相応しくないでしょう。ご当主も扱いに困っていると思いまして……この際、式も挙げておりませぬ故、今ならまだ間に合う。妹のシーカを妻にしてはいかがでしょうか?」

 父の見るに堪えない笑顔が見ていられず、ロイドの陰に隠れる。そうか、今、式を挙げれば父は結納金も手に入る。それすらも目当てにしているのだと理解できた。

 紹介されたシーカが近付き、上目遣いで見つめた。

「ロイド様……かわいそうに。姉の我が儘は酷かったでしょう? 私が妻になれば、もう安心ですよ!」

 シーカは憐れむようにこちらを見た。自分の方が相応しいと、そう思っているのだろう。

「さあ、ユナ。こっちに来なさい。お前は家に帰るんだ。何時までも我が儘を言っているんじゃない」

 まるで癇癪を起こした子どもを叱るような言い方で父は言ってくるが、その瞳は言うことを聞かない私への怒りに満ちていた。
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