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ネロさんが険しい表情をしている中、ファーレンは玉座に座る二人の間に佇む大きな獣に駆け寄り、何やら仲良くじゃれあい出した。
もしかすると、あそこにいる大きな獣はファーレンの親なのかもしれない。
「あなた、名前は?」
「は、はいっ、リリアンナ・ハスブルトです」
お妃様の問いに、頭を深々と下げて挨拶をする。私はというと、緊張で耳は垂れ、ネロさんに肩を抱かれてないとその場に崩れ落ちそうになってしまっていた。
「父上、母上。あなた方が何を言おうと、俺はもう決めました。彼女以外、選ぶことはない」
「ネロさん……」
ぎゅっと力強く肩を握られ、支えられる。そこまで、ファーレンのお世話というのは大変重要な役割なのだろう。そんな大役に私を選んでくれたこと、私を頼りにしてくれているのが、何よりも嬉しかった。
「アーヴェント……」
「……そう、もうあなたは決めたのね」
「はい」
唖然とする国王様を余所に、お妃様とネロさんはやり取りを続ける。
「リリアンナ」
「は、はい!」
国王様が頭を抱えている中、お妃様は私に話しかけてきた。
「聖獣のお世話は、私が教えましょう」
「ローゼリッタ」
お妃様の発言に、国王様が声をあげる。お妃様は国王様に向け、「いいでしょう?」と笑みを浮かべた。
「アーヴェントが選んだんですから。その想いを尊重してあげましょう」
「だが……」
「フェン」
お妃様に名を呼ばれ、国王様は押し黙る。そして、私へと視線を向けた。
「……そう、だな」
「父上。ありがとうございます」
国王様は未だ納得していないような表情だったが、ネロさんとお妃様の二人の説得に諦めたのか深く溜め息を吐いた。そして、ネロさんに視線を移した。
「アーヴェント、お前が望んだのだから、それ相応の苦難は覚悟しなさい」
「わかっています」
またしてもよくわからないやり取りに、私は首を傾げるばかりだ。
「さ、行こう」
話が全て終わったのか、ネロさんに促されるまま玉座の間を後にする。ちらりと後ろを振り返ると、国王様は相変わらず頭を抱えていた。
やはり、亜人というのがネックなのだろうか……。
玉座の間のドアが閉まり、ネロさんの手が肩から離れる。
「ふぅ……さて、君の部屋に行こう」
「あ、はい……」
背中を押されながら、来た道とは反対の方角に歩き出す。
私はというと、国王様の姿が頭から離れないでいた。
再び階段を上がり、右へ左へと広い廊下を歩いていく。またしても階段を上り、目的の部屋へと着いた。
「ここが、君の部屋だ」
ネロさんが扉を開けると、そこは広く大きな部屋だった。
全ての家具が淡いピンクに統一され、ベッドは天蓋付きのふかふかな布団が敷かれている。中央にはテーブルとお揃いの柄のチェア。可愛らしいバラの描かれたドレッサーに、様々な化粧品。クローゼットは私がハスブルト家の屋根裏部屋で使っていたものより何倍も大きく、その前には大量のドレスが掛かったハンガーラックが置かれていた。
そして、部屋の中央には三人の侍女が待機していた。
「紹介する。彼女らは君の専属の侍女だ」
「え!?」
専属!? まさかの言葉に驚愕していると、侍女三人が私たちの前に移動してくる。左から黒髪ストレートの女性。真ん中にいるのは、茶色い毛並みをした立ち耳の犬族の獣人女性。そして、茶髪のボブカットの女性だ。
三人とも、私と同年代か少し年上に見える。
「はじめまして、リリアンナ様。リリアンナ様の侍女を務めますオイフェです」
「リーンです」
「パイです」
三人に挨拶され、私は「えっと、あの……っ」と慌てふためく。今まで自分が仕える身だった分、現実味が湧かない。
「三人とも、彼女のことを頼んだ」
「えっ、ネロさん?」
そっと離れたネロさんは、部屋を出ていくのかドアの方へと移動する。今まであった温もりと安心感がなくなり、心細くなる。
「リリア、安心してくれ。彼女らは君の味方だ」
そう言い残し、ネロさんは部屋から出ていってしまった。
「ネロさん……」
不安に駆られる中、ハッとし後ろを振り返る。すると、先程自己紹介をしてきた三人が近づきジッと私の足先から耳の先までを見ていた。
「さあ、リリアンナ様。始めましょう!」
「え!?」
獣人のリーンが私の手を握り、クローゼット前に置かれたハンガーラックの元に連れていかれる。
「鞄、お持ちしますね」
「え、あ、はい」
パイと名乗った女性に鞄を預けると、彼女は中央に置かれたテーブルの上に鞄を置いてくれた。
「リリアンナ様、まずは採寸をしましょう」
「ええ!?」
驚く私を余所に、オイフェと名乗った女性は採寸用の計りを片手にこちらに近づいてきた。
「リリアンナ様、肌白いから何色でも合いそうね!」
「もう、それよりもまずは採寸よ」
「ねえねえ! お化粧もしましょうよ!」
リーンさんにオイフェさん、パイさんが和気あいあいと話を進める中、私はいつの間にか着ていたメイド服を脱がされいた。そして、これまたいつの間にか採寸されていたのだった。
コンコン、と小さくドアがノックされる。
近づいてきた足音で、部屋を訪ねてきたのがネロさんだと理解した。
「リリア、着替えは済んだか?」
どうやら、先程までの着替えはネロさんの差し金だったらしい。
気恥ずかしさにどう返事をすればいいか悩んでいると、パイさんが「はーい、今お開けしまーす!」と元気にドアへと駆けていってしまった。
「あっ、パイさん!」
待って! そう言おうとしたが時既に遅し。ドアを開けられてしまう。
「――リリア」
呆気に取られるネロさん。それもその筈、今の私は別れる前と大違いな装いをしているのだから。
茶髪の髪はハーフアップに纏め上げられ、顔はうっすらと化粧を施して貰った。着ていたメイド服を脱ぎ、淡いオレンジに染め上げられたパフスリーブのロング丈ドレスはレースがあしらわれており、ふんわり感を醸し出している。獣人専用のものなのか、尻尾用の穴が空いており、そこからずっと隠してきた尻尾がゆらゆらと揺れる。
恥ずかしさに耳が赤くなる。だが、毛でわかりにくいのが救いでもある。
「その……変ですよね……」
ジッと見つめられ、恥ずかしさに顔を俯かせる。侍女三人は似合っているとお世辞を言ってくれたが、やはり似合ってないだろう。
「いや、似合っている。綺麗だ」
お世辞にもそう言ってくれるのが嬉しくて、私は照れ臭そうに視線を落とす。
「お世辞でも嬉しいです」
「リリア、俺は正直に言っただけだ」
「ネロさん……」
顔を上げると、真っ直ぐ見つめてくるネロさんと視線が交わる。重なった瞬間、彼は優しい笑みを浮かべた。
「本当に、綺麗だ」
彼の言葉に胸が熱くなる。嬉しいやら気恥ずかしいやらで、頬が紅潮していく。後ろに控えた侍女三人が満足げにしているのが気配でわかった。
「失礼しますよ」
ネロさんを横切り、お妃様が部屋に入ってきた。私は慌てて深々とお辞儀をする。
「お妃様、ネロさん、こんな素敵な部屋とドレス、本当にありがとうございます」
まだ実感は湧かないが、着替えの際に侍女三人にこの部屋もドレスもネロさんが私の為に用意してくれたのだと聞かせてくれた。どうしてこんな施しをしてくれたのかはわからないが、今までこんな豪華な服を着たことも化粧をしたこともなかった私には感謝以外の言葉が見つからない。
「構いませんよ。次の王妃になるのですから、このくらいの対応は当然と言えば当然です」
「……次の、王妃?」
なんのことだろうか? さっぱりわからなく首を傾げていると、王妃様も私同様に首を傾げた。
「……まさか、知らなかったのですか?」
「えっと……何が、でしょうか?」
質問に質問で返すのは申し訳ないが、本当になんのことだかわからない。不安にネロさんへ視線を向けると、彼はなぜか頬を紅潮させながらサッと視線を逸らしてしまった。
本当に、どういう意味なのだろうか?
「聖獣のお世話をするということは、次の王妃ということになるのですよ」
王妃様の言葉に、頭が真っ白になる。
「ええええええええ!?」
ハッと我に返った私は、大声で叫ぶしか出来なかった。
もしかすると、あそこにいる大きな獣はファーレンの親なのかもしれない。
「あなた、名前は?」
「は、はいっ、リリアンナ・ハスブルトです」
お妃様の問いに、頭を深々と下げて挨拶をする。私はというと、緊張で耳は垂れ、ネロさんに肩を抱かれてないとその場に崩れ落ちそうになってしまっていた。
「父上、母上。あなた方が何を言おうと、俺はもう決めました。彼女以外、選ぶことはない」
「ネロさん……」
ぎゅっと力強く肩を握られ、支えられる。そこまで、ファーレンのお世話というのは大変重要な役割なのだろう。そんな大役に私を選んでくれたこと、私を頼りにしてくれているのが、何よりも嬉しかった。
「アーヴェント……」
「……そう、もうあなたは決めたのね」
「はい」
唖然とする国王様を余所に、お妃様とネロさんはやり取りを続ける。
「リリアンナ」
「は、はい!」
国王様が頭を抱えている中、お妃様は私に話しかけてきた。
「聖獣のお世話は、私が教えましょう」
「ローゼリッタ」
お妃様の発言に、国王様が声をあげる。お妃様は国王様に向け、「いいでしょう?」と笑みを浮かべた。
「アーヴェントが選んだんですから。その想いを尊重してあげましょう」
「だが……」
「フェン」
お妃様に名を呼ばれ、国王様は押し黙る。そして、私へと視線を向けた。
「……そう、だな」
「父上。ありがとうございます」
国王様は未だ納得していないような表情だったが、ネロさんとお妃様の二人の説得に諦めたのか深く溜め息を吐いた。そして、ネロさんに視線を移した。
「アーヴェント、お前が望んだのだから、それ相応の苦難は覚悟しなさい」
「わかっています」
またしてもよくわからないやり取りに、私は首を傾げるばかりだ。
「さ、行こう」
話が全て終わったのか、ネロさんに促されるまま玉座の間を後にする。ちらりと後ろを振り返ると、国王様は相変わらず頭を抱えていた。
やはり、亜人というのがネックなのだろうか……。
玉座の間のドアが閉まり、ネロさんの手が肩から離れる。
「ふぅ……さて、君の部屋に行こう」
「あ、はい……」
背中を押されながら、来た道とは反対の方角に歩き出す。
私はというと、国王様の姿が頭から離れないでいた。
再び階段を上がり、右へ左へと広い廊下を歩いていく。またしても階段を上り、目的の部屋へと着いた。
「ここが、君の部屋だ」
ネロさんが扉を開けると、そこは広く大きな部屋だった。
全ての家具が淡いピンクに統一され、ベッドは天蓋付きのふかふかな布団が敷かれている。中央にはテーブルとお揃いの柄のチェア。可愛らしいバラの描かれたドレッサーに、様々な化粧品。クローゼットは私がハスブルト家の屋根裏部屋で使っていたものより何倍も大きく、その前には大量のドレスが掛かったハンガーラックが置かれていた。
そして、部屋の中央には三人の侍女が待機していた。
「紹介する。彼女らは君の専属の侍女だ」
「え!?」
専属!? まさかの言葉に驚愕していると、侍女三人が私たちの前に移動してくる。左から黒髪ストレートの女性。真ん中にいるのは、茶色い毛並みをした立ち耳の犬族の獣人女性。そして、茶髪のボブカットの女性だ。
三人とも、私と同年代か少し年上に見える。
「はじめまして、リリアンナ様。リリアンナ様の侍女を務めますオイフェです」
「リーンです」
「パイです」
三人に挨拶され、私は「えっと、あの……っ」と慌てふためく。今まで自分が仕える身だった分、現実味が湧かない。
「三人とも、彼女のことを頼んだ」
「えっ、ネロさん?」
そっと離れたネロさんは、部屋を出ていくのかドアの方へと移動する。今まであった温もりと安心感がなくなり、心細くなる。
「リリア、安心してくれ。彼女らは君の味方だ」
そう言い残し、ネロさんは部屋から出ていってしまった。
「ネロさん……」
不安に駆られる中、ハッとし後ろを振り返る。すると、先程自己紹介をしてきた三人が近づきジッと私の足先から耳の先までを見ていた。
「さあ、リリアンナ様。始めましょう!」
「え!?」
獣人のリーンが私の手を握り、クローゼット前に置かれたハンガーラックの元に連れていかれる。
「鞄、お持ちしますね」
「え、あ、はい」
パイと名乗った女性に鞄を預けると、彼女は中央に置かれたテーブルの上に鞄を置いてくれた。
「リリアンナ様、まずは採寸をしましょう」
「ええ!?」
驚く私を余所に、オイフェと名乗った女性は採寸用の計りを片手にこちらに近づいてきた。
「リリアンナ様、肌白いから何色でも合いそうね!」
「もう、それよりもまずは採寸よ」
「ねえねえ! お化粧もしましょうよ!」
リーンさんにオイフェさん、パイさんが和気あいあいと話を進める中、私はいつの間にか着ていたメイド服を脱がされいた。そして、これまたいつの間にか採寸されていたのだった。
コンコン、と小さくドアがノックされる。
近づいてきた足音で、部屋を訪ねてきたのがネロさんだと理解した。
「リリア、着替えは済んだか?」
どうやら、先程までの着替えはネロさんの差し金だったらしい。
気恥ずかしさにどう返事をすればいいか悩んでいると、パイさんが「はーい、今お開けしまーす!」と元気にドアへと駆けていってしまった。
「あっ、パイさん!」
待って! そう言おうとしたが時既に遅し。ドアを開けられてしまう。
「――リリア」
呆気に取られるネロさん。それもその筈、今の私は別れる前と大違いな装いをしているのだから。
茶髪の髪はハーフアップに纏め上げられ、顔はうっすらと化粧を施して貰った。着ていたメイド服を脱ぎ、淡いオレンジに染め上げられたパフスリーブのロング丈ドレスはレースがあしらわれており、ふんわり感を醸し出している。獣人専用のものなのか、尻尾用の穴が空いており、そこからずっと隠してきた尻尾がゆらゆらと揺れる。
恥ずかしさに耳が赤くなる。だが、毛でわかりにくいのが救いでもある。
「その……変ですよね……」
ジッと見つめられ、恥ずかしさに顔を俯かせる。侍女三人は似合っているとお世辞を言ってくれたが、やはり似合ってないだろう。
「いや、似合っている。綺麗だ」
お世辞にもそう言ってくれるのが嬉しくて、私は照れ臭そうに視線を落とす。
「お世辞でも嬉しいです」
「リリア、俺は正直に言っただけだ」
「ネロさん……」
顔を上げると、真っ直ぐ見つめてくるネロさんと視線が交わる。重なった瞬間、彼は優しい笑みを浮かべた。
「本当に、綺麗だ」
彼の言葉に胸が熱くなる。嬉しいやら気恥ずかしいやらで、頬が紅潮していく。後ろに控えた侍女三人が満足げにしているのが気配でわかった。
「失礼しますよ」
ネロさんを横切り、お妃様が部屋に入ってきた。私は慌てて深々とお辞儀をする。
「お妃様、ネロさん、こんな素敵な部屋とドレス、本当にありがとうございます」
まだ実感は湧かないが、着替えの際に侍女三人にこの部屋もドレスもネロさんが私の為に用意してくれたのだと聞かせてくれた。どうしてこんな施しをしてくれたのかはわからないが、今までこんな豪華な服を着たことも化粧をしたこともなかった私には感謝以外の言葉が見つからない。
「構いませんよ。次の王妃になるのですから、このくらいの対応は当然と言えば当然です」
「……次の、王妃?」
なんのことだろうか? さっぱりわからなく首を傾げていると、王妃様も私同様に首を傾げた。
「……まさか、知らなかったのですか?」
「えっと……何が、でしょうか?」
質問に質問で返すのは申し訳ないが、本当になんのことだかわからない。不安にネロさんへ視線を向けると、彼はなぜか頬を紅潮させながらサッと視線を逸らしてしまった。
本当に、どういう意味なのだろうか?
「聖獣のお世話をするということは、次の王妃ということになるのですよ」
王妃様の言葉に、頭が真っ白になる。
「ええええええええ!?」
ハッと我に返った私は、大声で叫ぶしか出来なかった。
応援ありがとうございます!
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