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●番外編
番外編:ココの為に密かに将軍が頑張ったり、ココが夫に惚れ直す話③
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走り始めてから約一時間ほど。
テオドシウス様の馬に乗って連れられてやって来たのは、広い牧場だった。
帝都の南側に位置する牧場は、帝国の騎士団が乗る馬たちを交配させている特別な場所として知られており、強固な魔術結界が張られている。
一般人は許可が無ければ入ることが許されないその場所に、僕はいるのだ。
「テオドシウス様? ここは僕が来ても大丈夫なんでしょうか?」
将軍であるテオドシウス様と一緒に来ている以上、無断ではないとは思うものの、はっきり言って僕に縁のある場所じゃないんじゃないだろうか? と僕は思った。
遠目に見える立派な馬たちに、僕の心はとてもわくわくはしているけれど……。
しかし、そんな僕にテオドシウス様は満面の笑みを浮かべた。
「今日ここに来る事は、皇帝陛下にも許可を頂いている。安心してほしい」
愛馬を繋ぎながら、テオドシウス様が言う言葉に、僕は目をパチパチと瞬かせた。
「ココは動物が好きだろう? 本当はもっと動物に関わりたいのではないか、と思ってな。何か息抜きにならないかと、陛下に相談したところ、この牧場で馬たちと触れ合うならばどうか、とな。ここならば、守りもしっかりしているし、馬たちも知能の高い子ばかりだから、怪我をさせる事も考え難いから良いのではないかと」
僕はその言葉を、驚いたと同時、とても嬉しく思った。
確かに、動物と触れ合えない時間に、僕は少しだけ苛々していたのは事実だったからだ。
ただ、テオドシウス様が僕にあまり動物と触れ合う時間を与えないのは、僕が前に遠乗りで倒れたのが理由だというのも理解している。
テオドシウス様は僕が心配で仕方ないだけなのだろう。
(多分、ここに連れてくるのだって本当は抵抗あるんだろうな……)
でも、テオドシウス様は僕を連れてきてくれた。
それだけでとても嬉しかった。
「ありがとうございます! すごく、すごく嬉しいです」
押し付けられる愛情は時に疎ましく思われてしまうとは言うけれど、テオドシウス様は決して僕に押し付けてはいない。
たとえ、自分が嫌だと思っていても、僕の為になるならと行動してくれる人だ。
だからこそ、僕は妻という立場を受け入れたのだから。
(僕は幸せなんだ。だから、もう十分だよね)
テオドシウス様と共に、牧場の馬を見ながら僕は昔の事を思い出して苦く笑った。
自由に馬と触れ合う事の出来たあの日々は、僕にとっていつまでも消えない優しい記憶だ。時にジュリアス様が訪ねてきたりして、本当に楽しい時間だった。
もう決して戻らない日々。
(そういえば、ユージーンはどうしてるんだろう?)
僕はふと、クロス王国に置いて来ざるを得なかったジュリアス様の愛馬を思い出した。
本心では一緒に連れてきたかったけれど、いくら何でも国王の持ち物を持ってくるわけには行かないと、泣く泣く諦めたのだ。
大切に面倒を見てくれると約束してくれた人がいたからこそ諦めたのだが、正直に言えばもう一度会いたいと……思っている。
(ユージーン……っ)
あの子の毛並みを思い出した僕の目には、涙が溜まっていく。
ユージーンは僕にとって、世話をする馬というだけではなく、弟であり友人でもあり、我が子のような存在でもあった。
「ココ……」
泣き出しそうな僕を、テオドシウス様が優しく抱きしめてくれる。
(あの時も、ジュリアス様が死んで、心細くて泣いた僕を、テオドシウス様は強く抱きしめてくれたんだ……っ)
僕の背を撫でながら、テオドシウス様が優しい声で僕の名前を何度も呼んでくれるけれど、僕の涙腺はそれだけでも決壊してしまった。
子供の様に泣きじゃくる姿は、良い年をした大人としては恥ずかしい話だろうが、止めようと思っても止まらなかった。
――帰る時刻になるまでずっと。
テオドシウス様の馬に乗って連れられてやって来たのは、広い牧場だった。
帝都の南側に位置する牧場は、帝国の騎士団が乗る馬たちを交配させている特別な場所として知られており、強固な魔術結界が張られている。
一般人は許可が無ければ入ることが許されないその場所に、僕はいるのだ。
「テオドシウス様? ここは僕が来ても大丈夫なんでしょうか?」
将軍であるテオドシウス様と一緒に来ている以上、無断ではないとは思うものの、はっきり言って僕に縁のある場所じゃないんじゃないだろうか? と僕は思った。
遠目に見える立派な馬たちに、僕の心はとてもわくわくはしているけれど……。
しかし、そんな僕にテオドシウス様は満面の笑みを浮かべた。
「今日ここに来る事は、皇帝陛下にも許可を頂いている。安心してほしい」
愛馬を繋ぎながら、テオドシウス様が言う言葉に、僕は目をパチパチと瞬かせた。
「ココは動物が好きだろう? 本当はもっと動物に関わりたいのではないか、と思ってな。何か息抜きにならないかと、陛下に相談したところ、この牧場で馬たちと触れ合うならばどうか、とな。ここならば、守りもしっかりしているし、馬たちも知能の高い子ばかりだから、怪我をさせる事も考え難いから良いのではないかと」
僕はその言葉を、驚いたと同時、とても嬉しく思った。
確かに、動物と触れ合えない時間に、僕は少しだけ苛々していたのは事実だったからだ。
ただ、テオドシウス様が僕にあまり動物と触れ合う時間を与えないのは、僕が前に遠乗りで倒れたのが理由だというのも理解している。
テオドシウス様は僕が心配で仕方ないだけなのだろう。
(多分、ここに連れてくるのだって本当は抵抗あるんだろうな……)
でも、テオドシウス様は僕を連れてきてくれた。
それだけでとても嬉しかった。
「ありがとうございます! すごく、すごく嬉しいです」
押し付けられる愛情は時に疎ましく思われてしまうとは言うけれど、テオドシウス様は決して僕に押し付けてはいない。
たとえ、自分が嫌だと思っていても、僕の為になるならと行動してくれる人だ。
だからこそ、僕は妻という立場を受け入れたのだから。
(僕は幸せなんだ。だから、もう十分だよね)
テオドシウス様と共に、牧場の馬を見ながら僕は昔の事を思い出して苦く笑った。
自由に馬と触れ合う事の出来たあの日々は、僕にとっていつまでも消えない優しい記憶だ。時にジュリアス様が訪ねてきたりして、本当に楽しい時間だった。
もう決して戻らない日々。
(そういえば、ユージーンはどうしてるんだろう?)
僕はふと、クロス王国に置いて来ざるを得なかったジュリアス様の愛馬を思い出した。
本心では一緒に連れてきたかったけれど、いくら何でも国王の持ち物を持ってくるわけには行かないと、泣く泣く諦めたのだ。
大切に面倒を見てくれると約束してくれた人がいたからこそ諦めたのだが、正直に言えばもう一度会いたいと……思っている。
(ユージーン……っ)
あの子の毛並みを思い出した僕の目には、涙が溜まっていく。
ユージーンは僕にとって、世話をする馬というだけではなく、弟であり友人でもあり、我が子のような存在でもあった。
「ココ……」
泣き出しそうな僕を、テオドシウス様が優しく抱きしめてくれる。
(あの時も、ジュリアス様が死んで、心細くて泣いた僕を、テオドシウス様は強く抱きしめてくれたんだ……っ)
僕の背を撫でながら、テオドシウス様が優しい声で僕の名前を何度も呼んでくれるけれど、僕の涙腺はそれだけでも決壊してしまった。
子供の様に泣きじゃくる姿は、良い年をした大人としては恥ずかしい話だろうが、止めようと思っても止まらなかった。
――帰る時刻になるまでずっと。
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