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◇本編Ⅰ◇
005 幸せが故の悩み②
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◆◇ ◆◇ ◆
――だが、とはいえ、さすがに我慢するにも限度と言うものがセフィロトにもあった。
「って訳なんだよー……!」
その日、オリバーに朝方まで挑まれ――死んだ目をしながらも、何とか店に出勤したセフィロトは、仕込みの作業中に、今までの一連の経緯―― 夜の営みが大変すぎることを、親友であるハイエルフのメドベージェフ・レイアに愚痴っていた。
「ただの惚気じゃん。おつー」
「いや、メーちゃん! 僕、本気で悩んでるんだよ! 冗談抜きで死活問題だからね!」
揶揄うように半笑いを浮かべるメドベージェフに、セフィロトは心外だと言わんばかりに、だんと強くテーブルを叩いた。
セフィロトは、自慢したいわけではなく、真剣に悩んでいるのだ。
だが、メドベージェフはたいした動揺もせずに「ふーん」と芋の皮をひたすら剥き続けている。
冒険者をかなり昔に引退したセフィロトと違い、現在も暇な時間を見つけては冒険者としてモンスター退治を請け負ったり、ダンジョンを探索していることもあってか、メドベージェフの包丁裁きは鮮やかなものだった。
メドベージェフは店子ではないのだが、以来隙間時間を見つけては、たまに手伝ってくれている。
今日も、夕方から冒険者としての依頼を控えているにも関わらず、こうして来てくれていた。
「真剣に聞いてよぅううう!」
「……えー」
セフィロトが、そんなメドベージェフの前でしおしおと耳を垂れ下げながら、テーブルの上に泣きながら突っ伏すと、メドベージェフが、心底嫌そうに声をあげた。その目が「友達の性事情とか知りたくないんだけど」と明確に言っている。
同性同士の猥談など、普通に皆するものだが、セフィロトと同じくらい――いやセフィロトよりも更に小柄で少女じみてるとは言え、メドベージェフは異性愛者だ。男同士の濃ゆすぎる性事情など知りたくないのだろう。
「いくら可愛くてもおまえは男」
というのは、メドベージェフの口癖だ。
だが、セフィロトはここで引くつもりはなかった。
だって、こんな明け透けなことを相談できるような友人は、今のセフィロトにはメドベージェフくらいしかいないのだ。
ザインの死をきっかけに、当時親しかった友人とは距離ができてしまっている。さすがに険悪と言う程ではないが、悪気はなかったとはいえ、彼らから「ザインのことは早く忘れた方が良い」的なことを言われた時のことを思い出すと、どうしてもぎこちない態度になってしまうのだ。
けっして恨んでいる訳じゃないが、あの一連の一言はしっかりとセフィロトの心に傷をつけていた。
加えて、言ってしまった側の方も当時の己の発言を失言だとは捉えてしまっていたので、唯一以前と変わりなく交流できているのは、良い意味でも悪い意味でも、切り替えが凄まじく早いメドベージェフだけだった。
「すまん。あの時の言い方は俺が悪かった。普通に失言だったわ。許してほしい」
オリバーのおかげで立ち直り、店を再開した翌日、突然店を訪ねて来たメドベージェフがそんな風に明るく話しかけてきた時はさすがに面食らったが、素直にそう謝られてしまうとセフィロトとしても遺恨は残らなかった。
店子が足りないと知ると、暇つぶしになるからと手伝いを申し出てくれたり、時に配膳まで手伝ってくれたりと、メドベージェフには本当に世話になっていた。
「……はぁ」
じとーとテーブルの上から、上目遣いで見つめてくるセフィロトに、メドベージェフは大きなため息を吐いた。
「まぁ、確かに顔色あんまりよくないもんな、最近のお前……」
どうやら、一応話を聞いてくれるつもりにはなったらしい。
メドベージェフが「わかったよ」と、どこか困ったような表情を浮かべながらも「真剣に聞いてやるからもうちょい詳しく話しな」と、ため息を吐き、仕方なさそうに作業の手を止めてくれた。
「男同士のことは今一つ分からないから力になれるかはわかんねーぞ?」
「全然良いよ! 藁をも掴む思いだから、もう!」
そこまで切実な悩みなのかよ? という小さな呟きが聞こえたが、冗談ではなく本当にギリギリなのだというと、メドベージェフもさすがに黙った。
セフィロトは、メドベージェフに包み隠さずに今までは言わなかったこと――手淫や口淫を断られたことについても含めて、すべてを話した。
――だが、とはいえ、さすがに我慢するにも限度と言うものがセフィロトにもあった。
「って訳なんだよー……!」
その日、オリバーに朝方まで挑まれ――死んだ目をしながらも、何とか店に出勤したセフィロトは、仕込みの作業中に、今までの一連の経緯―― 夜の営みが大変すぎることを、親友であるハイエルフのメドベージェフ・レイアに愚痴っていた。
「ただの惚気じゃん。おつー」
「いや、メーちゃん! 僕、本気で悩んでるんだよ! 冗談抜きで死活問題だからね!」
揶揄うように半笑いを浮かべるメドベージェフに、セフィロトは心外だと言わんばかりに、だんと強くテーブルを叩いた。
セフィロトは、自慢したいわけではなく、真剣に悩んでいるのだ。
だが、メドベージェフはたいした動揺もせずに「ふーん」と芋の皮をひたすら剥き続けている。
冒険者をかなり昔に引退したセフィロトと違い、現在も暇な時間を見つけては冒険者としてモンスター退治を請け負ったり、ダンジョンを探索していることもあってか、メドベージェフの包丁裁きは鮮やかなものだった。
メドベージェフは店子ではないのだが、以来隙間時間を見つけては、たまに手伝ってくれている。
今日も、夕方から冒険者としての依頼を控えているにも関わらず、こうして来てくれていた。
「真剣に聞いてよぅううう!」
「……えー」
セフィロトが、そんなメドベージェフの前でしおしおと耳を垂れ下げながら、テーブルの上に泣きながら突っ伏すと、メドベージェフが、心底嫌そうに声をあげた。その目が「友達の性事情とか知りたくないんだけど」と明確に言っている。
同性同士の猥談など、普通に皆するものだが、セフィロトと同じくらい――いやセフィロトよりも更に小柄で少女じみてるとは言え、メドベージェフは異性愛者だ。男同士の濃ゆすぎる性事情など知りたくないのだろう。
「いくら可愛くてもおまえは男」
というのは、メドベージェフの口癖だ。
だが、セフィロトはここで引くつもりはなかった。
だって、こんな明け透けなことを相談できるような友人は、今のセフィロトにはメドベージェフくらいしかいないのだ。
ザインの死をきっかけに、当時親しかった友人とは距離ができてしまっている。さすがに険悪と言う程ではないが、悪気はなかったとはいえ、彼らから「ザインのことは早く忘れた方が良い」的なことを言われた時のことを思い出すと、どうしてもぎこちない態度になってしまうのだ。
けっして恨んでいる訳じゃないが、あの一連の一言はしっかりとセフィロトの心に傷をつけていた。
加えて、言ってしまった側の方も当時の己の発言を失言だとは捉えてしまっていたので、唯一以前と変わりなく交流できているのは、良い意味でも悪い意味でも、切り替えが凄まじく早いメドベージェフだけだった。
「すまん。あの時の言い方は俺が悪かった。普通に失言だったわ。許してほしい」
オリバーのおかげで立ち直り、店を再開した翌日、突然店を訪ねて来たメドベージェフがそんな風に明るく話しかけてきた時はさすがに面食らったが、素直にそう謝られてしまうとセフィロトとしても遺恨は残らなかった。
店子が足りないと知ると、暇つぶしになるからと手伝いを申し出てくれたり、時に配膳まで手伝ってくれたりと、メドベージェフには本当に世話になっていた。
「……はぁ」
じとーとテーブルの上から、上目遣いで見つめてくるセフィロトに、メドベージェフは大きなため息を吐いた。
「まぁ、確かに顔色あんまりよくないもんな、最近のお前……」
どうやら、一応話を聞いてくれるつもりにはなったらしい。
メドベージェフが「わかったよ」と、どこか困ったような表情を浮かべながらも「真剣に聞いてやるからもうちょい詳しく話しな」と、ため息を吐き、仕方なさそうに作業の手を止めてくれた。
「男同士のことは今一つ分からないから力になれるかはわかんねーぞ?」
「全然良いよ! 藁をも掴む思いだから、もう!」
そこまで切実な悩みなのかよ? という小さな呟きが聞こえたが、冗談ではなく本当にギリギリなのだというと、メドベージェフもさすがに黙った。
セフィロトは、メドベージェフに包み隠さずに今までは言わなかったこと――手淫や口淫を断られたことについても含めて、すべてを話した。
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