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1章
勘違いと急患
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部屋を出て、また一度入口に戻る。
「あ、お疲れ様です。要件はどうでしたか?」
受付の方がこちらを見るなり話しかけてくる。
もちろん、内容を聞いているわけではないだろう。聖女様を呼んだ意味がない。
「えぇ、まぁ大丈夫でしたよ、それよりも」
そこで一度区切って、彼女に質問する。
それは忙しくて、疑問のまま放置してしまった話題だった。
「ここで働く人たちって、治癒した人数で日給が決まってるわけじゃないんですか? それだと早い者勝ちで怪我人の奪い合いとかしてそうだと思ったんですけど」
もしそうならば、先ほどの反応もまぁ、納得だ。
そう思っていたというのに、目の前の女性の顔は表すなら「何を言っているんだこいつ」のまま固まっていた。
が、数秒後に「あぁ!」と突如大声を出して、うんうんと頷きだした。
全く分からない、何をもって納得したんだ......
「何がわかったんですか」
まどろっこしいのは面倒なので、もう単刀直入に聞いてみた。
すると、少しそっぽを向いた後、言いにくいんですけど、という雰囲気で話し始めた。
「そのですね......普通の治癒術師って、十人の軽症者を治せたら一人前なんです。二十人治せればエースとか言われるんですけど......正直、まだ魔力に余裕ありますよね?」
「えぇ、まぁ」
と、そこまで聞いてようやっと納得できた。
つまり、給料云々を考えるよりも、魔力の限界が先に来てしまうということだ。
けど魔力がまだまだある俺は魔力を考えずに給料を考えていた......ということか。
「なるほど、つまり軽症者を片っ端から治してしまっても、誰かに咎められることはないんですね」
「まぁ、治癒して咎められる、ってものおかしな話ではあるんですけれどね」
確かにそうだ。だが社会的な、全体の平和を考えたときにはそれが起こりうるから怖いものもある。
それじゃあちょっと用事を、と、一度外に出ようと思った時だった。
「急患だ、急いで治癒を!」
聞き覚えのある声が聞こえた。
振り向くと、そこにいたのは見慣れた人が、しかし見慣れない状態で立っていた。
「どうしたんだ、リーダー、そこまで怪我を負って」
そこには、傷だらけになりながらもケルヴィンとクレディを担いで運んできた、俺の元パーティーのリーダー、マルコがいた。
「よせ、もうリーダーじゃない。それよりも、この二人の治癒を。気を失って、怪我も大きい」
マルコはそっと、ケルヴィンとクレディを地面に寝転がせた。
ケルヴィンは胸に三本の切り裂かれた跡が。形からして、獣の爪に切り裂かれたものだろう。それも、一度で。
ケルヴィンも男であり、体を資本に戦っている以上、それだけの体格をしている。
というのに、左上から右下まで、大きくえぐられるようについた傷を見ると、それなりの大きさの獣――――おそらく、魔物がいるだろう。
そしてクレディ。
彼女はケルヴィンほど怪我が大きいわけではなかった。些細な切り傷、それも運ばれている途中についた様子のものが多かった。
なら何故、運ばれたのか。
ふと感じた違和感に、俺はすぐに動く。
クレディのおでこに手を当てる、それだけだ。
「気を失っていて、熱がある、か」
まぁ、それだろう。
一応現物を確認するため、服を少しずらして首筋を確認した。
そこには、確かにさっき見た呪印が。ビンゴだ。
「さて、そい、からのほい」
とりあえず状況はある程度分かったので、すぐにでも治癒を開始した。
バチン、という音が響いたかと思うと、すぐに治癒の光があたりを包んだ。
「これで終わり、と。リーダー、状況は」
「よせ、もうリーダーじゃない。まぁ、状況はいうなれば最悪だろうね」
そこからは、傷を見て考えた仮説とほぼ一緒だった。
三人で森に行き、ウルフと遭遇。
撃破していたが、次第に数と能力が上がっていき、ケルヴィンが負傷、その後魔力が尽きたクレディが奇襲を受け、やむなく撤退。
「それだったら......リー、いやマルコ、クレディに聞いておいてくれないか」
「どうしたんだい?」
マルコは俺がクレディに直接聞くことが出来ないだろうことを読んでか、すぐに返答してくれた。
傀儡にしているような悪い気持ちも少々あるが、クレディと顔を合わせるよりは確実にマシだろう。
「奇襲を受けたとき、人間は何人いたか、って」
「! つまりそれは......」
「呪印があった。十中八九、これには呪術師が絡んでいる」
呪印のことに関しては小声で伝えた。被害を受けたパーティーのリーダーは知る権利があるだろうから。
だが、正直それ以上伝えるといらぬ混乱を招くだけだから伝える気はない。
呪術師が魔物を強化している、人を襲っているということはつまり、この街を、そしてこの国を転覆しようと考えているに他ならない。
「わかったよ、確かにクレディに聞いておく。結果はこっちに言いに来たらいいかい?」
「そうだな、いなかったら受付の人に手紙でも預けておいてくれ」
そう返すと「わかった」と一声。
さっきの治癒で同時に傷が癒えたマルコは、未だ意識が戻らない二人を担ぐ。
「助かった、礼を言う」と、ジャラ、と金属音のなる麻袋をどんと置いて、マルコは治療院を後にした。
「あ、お疲れ様です。要件はどうでしたか?」
受付の方がこちらを見るなり話しかけてくる。
もちろん、内容を聞いているわけではないだろう。聖女様を呼んだ意味がない。
「えぇ、まぁ大丈夫でしたよ、それよりも」
そこで一度区切って、彼女に質問する。
それは忙しくて、疑問のまま放置してしまった話題だった。
「ここで働く人たちって、治癒した人数で日給が決まってるわけじゃないんですか? それだと早い者勝ちで怪我人の奪い合いとかしてそうだと思ったんですけど」
もしそうならば、先ほどの反応もまぁ、納得だ。
そう思っていたというのに、目の前の女性の顔は表すなら「何を言っているんだこいつ」のまま固まっていた。
が、数秒後に「あぁ!」と突如大声を出して、うんうんと頷きだした。
全く分からない、何をもって納得したんだ......
「何がわかったんですか」
まどろっこしいのは面倒なので、もう単刀直入に聞いてみた。
すると、少しそっぽを向いた後、言いにくいんですけど、という雰囲気で話し始めた。
「そのですね......普通の治癒術師って、十人の軽症者を治せたら一人前なんです。二十人治せればエースとか言われるんですけど......正直、まだ魔力に余裕ありますよね?」
「えぇ、まぁ」
と、そこまで聞いてようやっと納得できた。
つまり、給料云々を考えるよりも、魔力の限界が先に来てしまうということだ。
けど魔力がまだまだある俺は魔力を考えずに給料を考えていた......ということか。
「なるほど、つまり軽症者を片っ端から治してしまっても、誰かに咎められることはないんですね」
「まぁ、治癒して咎められる、ってものおかしな話ではあるんですけれどね」
確かにそうだ。だが社会的な、全体の平和を考えたときにはそれが起こりうるから怖いものもある。
それじゃあちょっと用事を、と、一度外に出ようと思った時だった。
「急患だ、急いで治癒を!」
聞き覚えのある声が聞こえた。
振り向くと、そこにいたのは見慣れた人が、しかし見慣れない状態で立っていた。
「どうしたんだ、リーダー、そこまで怪我を負って」
そこには、傷だらけになりながらもケルヴィンとクレディを担いで運んできた、俺の元パーティーのリーダー、マルコがいた。
「よせ、もうリーダーじゃない。それよりも、この二人の治癒を。気を失って、怪我も大きい」
マルコはそっと、ケルヴィンとクレディを地面に寝転がせた。
ケルヴィンは胸に三本の切り裂かれた跡が。形からして、獣の爪に切り裂かれたものだろう。それも、一度で。
ケルヴィンも男であり、体を資本に戦っている以上、それだけの体格をしている。
というのに、左上から右下まで、大きくえぐられるようについた傷を見ると、それなりの大きさの獣――――おそらく、魔物がいるだろう。
そしてクレディ。
彼女はケルヴィンほど怪我が大きいわけではなかった。些細な切り傷、それも運ばれている途中についた様子のものが多かった。
なら何故、運ばれたのか。
ふと感じた違和感に、俺はすぐに動く。
クレディのおでこに手を当てる、それだけだ。
「気を失っていて、熱がある、か」
まぁ、それだろう。
一応現物を確認するため、服を少しずらして首筋を確認した。
そこには、確かにさっき見た呪印が。ビンゴだ。
「さて、そい、からのほい」
とりあえず状況はある程度分かったので、すぐにでも治癒を開始した。
バチン、という音が響いたかと思うと、すぐに治癒の光があたりを包んだ。
「これで終わり、と。リーダー、状況は」
「よせ、もうリーダーじゃない。まぁ、状況はいうなれば最悪だろうね」
そこからは、傷を見て考えた仮説とほぼ一緒だった。
三人で森に行き、ウルフと遭遇。
撃破していたが、次第に数と能力が上がっていき、ケルヴィンが負傷、その後魔力が尽きたクレディが奇襲を受け、やむなく撤退。
「それだったら......リー、いやマルコ、クレディに聞いておいてくれないか」
「どうしたんだい?」
マルコは俺がクレディに直接聞くことが出来ないだろうことを読んでか、すぐに返答してくれた。
傀儡にしているような悪い気持ちも少々あるが、クレディと顔を合わせるよりは確実にマシだろう。
「奇襲を受けたとき、人間は何人いたか、って」
「! つまりそれは......」
「呪印があった。十中八九、これには呪術師が絡んでいる」
呪印のことに関しては小声で伝えた。被害を受けたパーティーのリーダーは知る権利があるだろうから。
だが、正直それ以上伝えるといらぬ混乱を招くだけだから伝える気はない。
呪術師が魔物を強化している、人を襲っているということはつまり、この街を、そしてこの国を転覆しようと考えているに他ならない。
「わかったよ、確かにクレディに聞いておく。結果はこっちに言いに来たらいいかい?」
「そうだな、いなかったら受付の人に手紙でも預けておいてくれ」
そう返すと「わかった」と一声。
さっきの治癒で同時に傷が癒えたマルコは、未だ意識が戻らない二人を担ぐ。
「助かった、礼を言う」と、ジャラ、と金属音のなる麻袋をどんと置いて、マルコは治療院を後にした。
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