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「辺境騎士団へ異動?」


 夕食後、些か重たい表情をした夫アランに異動を告げられた、エミリー=ターナーは目を丸くした。


 アランは、王城第一騎士団で副団長として勤めているエリートだ。優秀な副団長だと、交際前から耳にしていた。無口だが真面目な夫は、仕事熱心だろう、とエミリーはいつも鼻が高かった。


 今回の異動は、栄転ということらしい。現在の辺境騎士団では団長が退職することが決まっており、その後釜としてアランが指名されたのだ。


「栄転なんてすごいじゃない!おめでとう!」


 満面の笑顔でお祝いするエミリーだったが、アランの重たい表情は変わらない。




「三ヶ月後には、辺境へ行かなくてはならない。」




「分かった。三ヶ月後なら余裕もあるし、私の仕事の方は問題ないわ。明日には職場に退職すると伝えるわね。」


 エミリーがそう伝えた瞬間、アランは呆気に取られた顔をした。





「・・・っ、その、大丈夫なのか。」


 アランが心配しているのは、エミリーが退職しても良いのか、ということだろう。エミリーは王城内の託児所に勤めている。待遇が良い為、人手不足では無いし、求人を出せばすぐエミリーの代わりは見つかるだろう。



「何も問題ないわ。心配してくれてありがとう。辺境に行けばまた仕事探しするから大丈夫よ。」



「そうか・・・。」


 アランの表情は浮かないままだ。エミリーは徐々に心配になってきた。




「アラン?異動について何か心配事があるの?私に出来ることはある?」



「い、いや。大丈夫だ。」


 アランは首を振り、エミリーを引き寄せた。アランの胸の中に閉じ込められ、エミリーの胸は高鳴った。結婚して二年経つが、アランからのスキンシップは珍しい。嬉しさの余り、笑みが溢れた。



「アランは引き継ぎで忙しくなるでしょう。荷造りは私に任せてね。」



 アランの胸の中から、エミリーはアランを見上げ微笑んだ。アランは、重要な役割に就いている人間だ。新しい場所へ異動し、また新たな役割を持ち、人間関係を構築していくことにナイーブになっているのかもしれない。エミリーは、アランの浮かない表情の理由をそう結論付け、自分に出来ることをしようと意気込んだ。



「・・・ありがとう。」

 低く掠れた声でそう囁かれたら、エミリーは何だって出来る気がした。
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