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Act.2 魔獣討伐の現場で子供を拾った話

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 ふと、子供が俺を見つめているのが分かった。
 髪と揃いの若芽色、品良くまつげで彩られた大きな瞳。
 その奥にあるものは、何故か郷愁と親しみ、それから――……。

「……いー……、ぅ?」

 ……っ、俺は何を感じたんだ!?
 昨日、文字通り降って湧いてきた子供に!
 狂おしいほどの懐かしさと、抗いがたい庇護欲がいっぺんに湧き上がるだなんて……!

「んん~……、まだ難しいかな。じゃあねえ……」

 難しい? ……そうか、さっき口に出していたのは俺の名前のつもりだったのか。

「ディランをパパ、僕をママって呼ぶといいよ!」

 ……は? パパ? ママ?
 パパとママって、アレか? 父と母、ってことか?
 えっ、クリストファー様? なんかものすごく、周りを魅了するような笑顔ですけど、真面目におっしゃってます?
 ほら、周りの護衛仲間たちも固まっちゃってるじゃないですか!

「何をおっしゃってるんですか! パパにママって……!」
「えぇ~? だって、あの声の主は僕とディランにこの子を預けたんでしょ? だったらパパとママでも何にも問題ないでしょ~。本当は僕がパパでディランをママにしたかったんだけど、身長とか体格を考慮したんだからね!」
「そういう問題じゃありません……!!」

 そう、ホントにそういう問題じゃないんだよ。
 仮にあの謎の声が本当にそういう意図で俺たちにこの子を預けたのだとしても、俺とクリストファー様が本当に男親と女親の代わりになって育てる必要なんてない。

「そもそもですね、クリストファー様」
「……ん? ちょ、ディラン静かにして?」

 何かに気づいたのか、クリストファー様が自身の口元に指を一本かざすポーズをとって俺を制してきた。
 それから、何やらあー、とか、うー、とか何かを発声しようとしている子供を指す。
 俺たちと護衛仲間達。決して少なくない視線の中、子供は俺の方を見た。

「ぁ、ぱ、……ぱ、ぁぱ!」

 ……ウッ、笑顔が眩しい……!! 何でだ……!
 純真無垢、天真爛漫、なんか他にいい熟語があったら誰か教えてほしい……!!
 うちの両親も俺や兄貴が小さい頃は、こんな風にただただひたすら、うちの子が可愛いっていう感情になったことがあるんだろうか……?
 いや、両親は関係ないな。今、俺が感じたこの衝動は、俺が感じたものなんだから。
 衝動。すなわち、守りたいこの笑顔!

「ぁ、ま、まぁー、ま!」
「おお、一発で覚えるなんて偉い子!」

 その会話にハッとして、俺は無意識に心臓のあたりを抑えていた手をそのままに、二人の方を見た。
 笑顔で子供の両頬を、柔らかく上下にもにもにと揉み動かしているクリストファー様。
 嬉しそうな笑顔で、されるがままになっている子供。

(……あれ? これ以上に尊い絵面ってあったっけ?)

 思わず真顔で見つめてしまったその光景は、俺と子供の組み合わせよりも、よっぽど聖母子像に相応しいように思えた。

「……ディラン、ディラン~?」
「ダメだ、魂抜けちまってら」

 いつの間にか護衛仲間達が、俺を囲んで手をひらひらと振ったり肩を揺さぶったりしていた。
 ……ありがとう仲間達。おかげで思考の再起動が出来たよ……。
 大丈夫と俺は片手を上げ、それからごほん、と盛大な咳払いをした。

「……とりあえず、ゲオルギオス様に報告申し上げましょう……」
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