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Act.7 世界樹の精霊と俺たちの真実

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 嗚咽し続けて、少し苦しそうなクリストファー様。そのお姿に俺はまた胸が締め付けられる思いだった。

(……ああ……。俺は、クリストファー様にまた悲しい顔をさせてしまった……)

 俺がこうしてクリストファー様の前で傷病の床に伏せるのは初めてではない。その度にクリストファー様を泣かせてしまっている。
 俺自身はクリストファー様を守った結果の傷は名誉、そして戒めと捉えている。
 俺の体に傷が残ったところでどうでもいい。クリストファー様に残るようなレベルの傷一つもつけないことが、俺の仕事なのだから。
 だが、クリストファー様自身はそう思っていない。もっと自分を大事にしろと泣きながら訴えられたこともある。

(……もっと自分を大事にしろ、か……)

 それはとても難しい。俺は主のためにある。俺の存在価値は、クリストファー様をお守りするだけだと思うくらいには、俺はクリストファー様第一主義だ。それを表にしすぎたら周囲と軋轢を生むことぐらい分かっているので、口に出したことは一切ないが。
 クリストファー様を守るためなら、命なんて惜しくない。それはこのグルシエス家に仕える全ての人間に共通する想いだ。だから非戦闘員も皆屋敷に残ったのだから。

 ふと、廊下の向こうからだだだ、という足音が急激に近づいてきた。
 その音にクリストファー様も顔を上げる。

「ディランよ!!!!! ようやく目が覚めたのだな!!!!!?」

 ひぃびっくりしたっ!!
 バンッ!!! と扉が粉砕しそうな勢いで開いたと思ったら、それ以上の声量が俺の耳をつんざいてきたのだ。
 俺とクリストファー様がそれぞれ不意打ちの驚愕に心臓を収めようとしているとき、大音声の発生元であらせられた御館様に、ひやり……と殺気と怒気の中間めいた気配がそのお背中をちくちくと刺してきた。

「御館様……、お声の強さは常識内の範囲内にお留めください。ご子息は病み上がり、我が息子に至っては意識が回復したばかりですゆえ」

 ……俺からは顔は見えないが、親父、絶対冷たい目で御館様を睨んでるな。
 その証拠に、御館様は身をお縮めになりながら「うむ」という小声しか出せなくなっているのだから。

 しょんぼりとしたお顔で部屋の中に入ってこられた御館様と、その背後でやはり冷たーい目をして見張っている親父。
 その後から部屋にお入りになったリリアンヌ様が、俺たちの側にお越しになった。

 回復、解毒、解呪、蘇生。この四種の回復術を高いレベルで全て修めた回復魔道士は医療魔道士とも呼ばれる。
 エウフェミア様と並んで、我が領最高峰の回復魔道士でもあらせられるリリアンヌ様が、俺の容態を看るためだと思われる魔法を発動なさった。
 指を揃えて開いた右の掌から、暖かい光が発せられる。すぅー……と掛け布越しに俺の体をなぞっていく。

「……あら?」

 頬に手を当てながら、リリアンヌ奥様はきょとんと首を傾げられた。
 最後に部屋に入ってきた母さんが、控えめに声をかける。

「……奥様、うちの次男がいかがいたしましたか?」

 その声に振り返られたリリアンヌ奥様。その首は未だに嫋やかに傾げられたままだ。

「……みんな、驚かないで聞いてほしいの。ディランちゃん、魔力がね……」
「ま、魔力が!? 母上、ディランに何かあったのですか!?」

 奥様のお言葉に、思わず立ち上がって縋り付いたクリストファー様。
 ……よくよく見たら、クリストファー様も寝間着にカーディガン姿だ。まだ療養中なんだろう。
 それなのに、俺の側にいていいのだろうか。余計疲れないかな……。

「……あのね、クリスちゃん。あなた並みに強くなってるのよ~……」

 クリストファー様の頭を撫でながらそう仰るリリアンヌ様。
 ぽかんとするクリストファー様。
 リリアンヌ様の仰ったことが一瞬理解できなかったような顔をしている御館様と親父。
 目を見開いて驚いているような母さん。
 部屋の中が、一瞬静寂に包まれた。

「……え? どういうこと……?」

 呆然としたクリストファー様の呟きに、俺はなんとか起き上がろうと動いた。

「せ、せつめ……、ゴホッ、でき、ます……」

 自分と情けない大きさの声だったが、全員の耳に届いたようだ。視線が集中する。
 いつの間にか戻ってきていたのか、リラさんが吸い飲みを奥様に差し出していた。クリストファー様が飛びつく勢いで吸い飲みをもぎ取る。
 ……後でお説教ですよ、クリストファー様。まあ、水は純粋にありがたいのでいただきますが。

 リラさんと奥様の二人がかりで起こしてもらい、リラさんが俺の背中とベッドの間に枕やらクッションやらをズボズボ差していく。
 その間に、俺はクリストファー様に吸い飲みを咥えさせられていた。少しずつ流れてくる水を、少しずつ嚥下する。
 とりあえず喉が潤ったので、手で合図する。意外な程あっさりと、クリストファー様は吸い飲みを外してくれた。
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