110 / 147
Act.10 いざ、敵の本拠地へ
17
しおりを挟む
「聖女様ー! どこにおわしますか!」
「聖女マキナ様ー!」
成人と思われる男性の声が二人分、遠くの方からした。
ばっ、とシスターは跳ね上がるように立ち上がると、慌ててフードを限界まで引っ張って下ろした。
「急だけどそろそろ行くわ。二人ともありがとう。良き日々を!」
早口で言い、彼女は人に紛れるためなのか屋台街に向かって駆けだしていった。
足早いな……、あっという間に人ごみの中に消えていった。
話を聞きながら丸めていたサンドの包み紙をまとめ、飲み終わっていたカップを重ねてまとめる。
その作業をしているうちに、教団騎士団の警邏隊らしい、白銀の軽鎧を来た男性が二人広場に入ってきた。
「まったく……。マキナ様はどこに行かれたのか……」
「あのお方は聖女らしからぬ方だからな……」
「ああ……。まあ、いつもの作戦だろうな。行こう」
二人でブツブツと話ながら、屋台街の方に向かっていった。
いつもの、ということは、人に紛れる作戦を多用しているんだろう。
大勢の人間に紛れるのは、メリットもあるがデメリットもある。だが、彼女はその作戦に自身があるのかもしれない。
或いは単純に人が多いところなら、探し人が見つかる確立も高いと思っているかだ。
二人の後ろ姿が完全に見えなくなった頃、俺たちと同じように休んでいた人たちがそれぞれに囁きあい始めた。
大方、さっき立ち去っていった女性が聖女か、とか、あいつら女性と話してたよな、とかだろう。
ちらちらこちらを伺うような視線を感じてもいるのだ。
だけどなぁ。訊かれてもいないのにわざわざ教えるのもなぁ。
「……あいつ、聖女だったのか」
ぽつりと、クリストファー様が呟いた。素が出てますよ?
と思っていたら、ちらりと外套の中からバングルを見せてくる。
「大丈夫。これで俺たち二人に【防音結界魔法】を張れるぐらいの魔力を補充したんだ」
「あ、なるほど」
声量も口調も設定も気にしなくて大丈夫だな。
「母上の話だと、貴族が選ばれる確率が高いって話じゃなかったっけ? 蝶よ花よって囲われて育てられてるとは思えないなぁ」
「……もしかするかもしれませんが、初代聖女の血が別れて別れて、市井にもその血を持つ家系があるのかもしれませんよ」
「ああ、まあそれはあるよね。初代聖女が1000年前のお方だもんな」
「1000年もあれば、没落して平民になった貴族家系とかもあるでしょうしね」
「逆に大成功を収めて取り立てられた人もいるだろうし」
「……聖女様の血筋は、国にガチガチに管理されてそうな気もするんですけどねぇ……」
「それも有り得るんだけどね……」
二人して、うーん、と首を捻る。
だがここを突き詰めて考えていても仕方ない、と判断したのか、クリストファー様は腕組みを解いた。
「……ま、顔と魔力の感じを確認できただけでもよしとしようか。魔力なんて、母上どころやエウフェ姉様エウラ姉様の足下すら拝めないくらいの質と量だったよ。僕らの魔力全解放状態なら、威圧するだけで抑え込めておけそう。ディランの雷無しでもね」
「そんなにですか……」
「そ、魔力圧をぶつけるだけで多分なんとかなる」
そう言うと、クリストファー様はベンチから立ち上がった。その瞬間右手を払うような仕草をした。結界を解除したんだろう。
サンドを包んでいた紙をポーチの中に突っ込む。
俺のポーチは数年前から愛用しているマジックポーチで、これもクリストファー様の【空間収納魔法】の亜空間と同期するように今回加工した。
つまりは俺のポーチも容量:大貴族の豪邸敷地。丸めた紙ナプキン二枚ぐらい、全く容量を食わないのだ。
ポーチの蓋を閉じ、カップを片手に持ち、もう片手をクリストファー様に差し出した。
「とりあえず、買い物をしたら宿に一旦戻ろう」
〝シグルド〟の方で話しかける。クリストファー様は頷いて手を繋いできた。
屋台街の方にのんびり歩き始める。カップを返して、パッセルへのご褒美兼お土産を探さないとな。
***************
屋台街でジュースのカップを返し、ベリーやパンを売っていそうな場所を訊ねてみる。
庶民向けのマーケット街への行き方を教えてもらったので、そこに向かってのんびり歩いた。
マーケット街では、ノルニアの森固有種の果物をいくつかと、バゲットを半分買った。
そうしたら、何だか観光客向けの日持ちをするお菓子をやたらと勧められる。金持ちだと思われてるのか?
……いや、クリストファー様から気品溢れるオーラでも出てるのかな。そういうのは、いくら隠しても出ちまうってことがあるからな。
だが俺たち……の設定はあくまで〝数カ国をまたいで駆け落ちしてきた同性カップル〟だ。いくら美味そうなお菓子であろうが、無駄金は使えない。
というわけで、店の売り子達の声を無視して、宿の方向に向かう。あまり街中をうろうろしすぎるのも良くないからな。
宿に戻って、受付に夕飯の時間を訊ねる。五の刻からだというので、部屋で荷物の整理をすることにした。
その後は夕飯。そして湯浴み。宿備え付けの寝間着までセットだ。
この宿も明らかに、値段設定とサービスのバランスが釣り合っていない気がする。
が、ここの宿も、マナ・ユリエ教の総本山がある街にあるから、国と教会双方から補助金が下りているそうだ。
だからこんなに、サービスと設備が行き届きまくっているのか……。
と、部屋にある魔道具ランプの明かりを頼りに、俺のマジックポーチから亜空間内の荷物を整理していると、窓が小さく叩かれる音がした。
「聖女マキナ様ー!」
成人と思われる男性の声が二人分、遠くの方からした。
ばっ、とシスターは跳ね上がるように立ち上がると、慌ててフードを限界まで引っ張って下ろした。
「急だけどそろそろ行くわ。二人ともありがとう。良き日々を!」
早口で言い、彼女は人に紛れるためなのか屋台街に向かって駆けだしていった。
足早いな……、あっという間に人ごみの中に消えていった。
話を聞きながら丸めていたサンドの包み紙をまとめ、飲み終わっていたカップを重ねてまとめる。
その作業をしているうちに、教団騎士団の警邏隊らしい、白銀の軽鎧を来た男性が二人広場に入ってきた。
「まったく……。マキナ様はどこに行かれたのか……」
「あのお方は聖女らしからぬ方だからな……」
「ああ……。まあ、いつもの作戦だろうな。行こう」
二人でブツブツと話ながら、屋台街の方に向かっていった。
いつもの、ということは、人に紛れる作戦を多用しているんだろう。
大勢の人間に紛れるのは、メリットもあるがデメリットもある。だが、彼女はその作戦に自身があるのかもしれない。
或いは単純に人が多いところなら、探し人が見つかる確立も高いと思っているかだ。
二人の後ろ姿が完全に見えなくなった頃、俺たちと同じように休んでいた人たちがそれぞれに囁きあい始めた。
大方、さっき立ち去っていった女性が聖女か、とか、あいつら女性と話してたよな、とかだろう。
ちらちらこちらを伺うような視線を感じてもいるのだ。
だけどなぁ。訊かれてもいないのにわざわざ教えるのもなぁ。
「……あいつ、聖女だったのか」
ぽつりと、クリストファー様が呟いた。素が出てますよ?
と思っていたら、ちらりと外套の中からバングルを見せてくる。
「大丈夫。これで俺たち二人に【防音結界魔法】を張れるぐらいの魔力を補充したんだ」
「あ、なるほど」
声量も口調も設定も気にしなくて大丈夫だな。
「母上の話だと、貴族が選ばれる確率が高いって話じゃなかったっけ? 蝶よ花よって囲われて育てられてるとは思えないなぁ」
「……もしかするかもしれませんが、初代聖女の血が別れて別れて、市井にもその血を持つ家系があるのかもしれませんよ」
「ああ、まあそれはあるよね。初代聖女が1000年前のお方だもんな」
「1000年もあれば、没落して平民になった貴族家系とかもあるでしょうしね」
「逆に大成功を収めて取り立てられた人もいるだろうし」
「……聖女様の血筋は、国にガチガチに管理されてそうな気もするんですけどねぇ……」
「それも有り得るんだけどね……」
二人して、うーん、と首を捻る。
だがここを突き詰めて考えていても仕方ない、と判断したのか、クリストファー様は腕組みを解いた。
「……ま、顔と魔力の感じを確認できただけでもよしとしようか。魔力なんて、母上どころやエウフェ姉様エウラ姉様の足下すら拝めないくらいの質と量だったよ。僕らの魔力全解放状態なら、威圧するだけで抑え込めておけそう。ディランの雷無しでもね」
「そんなにですか……」
「そ、魔力圧をぶつけるだけで多分なんとかなる」
そう言うと、クリストファー様はベンチから立ち上がった。その瞬間右手を払うような仕草をした。結界を解除したんだろう。
サンドを包んでいた紙をポーチの中に突っ込む。
俺のポーチは数年前から愛用しているマジックポーチで、これもクリストファー様の【空間収納魔法】の亜空間と同期するように今回加工した。
つまりは俺のポーチも容量:大貴族の豪邸敷地。丸めた紙ナプキン二枚ぐらい、全く容量を食わないのだ。
ポーチの蓋を閉じ、カップを片手に持ち、もう片手をクリストファー様に差し出した。
「とりあえず、買い物をしたら宿に一旦戻ろう」
〝シグルド〟の方で話しかける。クリストファー様は頷いて手を繋いできた。
屋台街の方にのんびり歩き始める。カップを返して、パッセルへのご褒美兼お土産を探さないとな。
***************
屋台街でジュースのカップを返し、ベリーやパンを売っていそうな場所を訊ねてみる。
庶民向けのマーケット街への行き方を教えてもらったので、そこに向かってのんびり歩いた。
マーケット街では、ノルニアの森固有種の果物をいくつかと、バゲットを半分買った。
そうしたら、何だか観光客向けの日持ちをするお菓子をやたらと勧められる。金持ちだと思われてるのか?
……いや、クリストファー様から気品溢れるオーラでも出てるのかな。そういうのは、いくら隠しても出ちまうってことがあるからな。
だが俺たち……の設定はあくまで〝数カ国をまたいで駆け落ちしてきた同性カップル〟だ。いくら美味そうなお菓子であろうが、無駄金は使えない。
というわけで、店の売り子達の声を無視して、宿の方向に向かう。あまり街中をうろうろしすぎるのも良くないからな。
宿に戻って、受付に夕飯の時間を訊ねる。五の刻からだというので、部屋で荷物の整理をすることにした。
その後は夕飯。そして湯浴み。宿備え付けの寝間着までセットだ。
この宿も明らかに、値段設定とサービスのバランスが釣り合っていない気がする。
が、ここの宿も、マナ・ユリエ教の総本山がある街にあるから、国と教会双方から補助金が下りているそうだ。
だからこんなに、サービスと設備が行き届きまくっているのか……。
と、部屋にある魔道具ランプの明かりを頼りに、俺のマジックポーチから亜空間内の荷物を整理していると、窓が小さく叩かれる音がした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
88
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる