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Act.11 リアンと共に

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「……なにこれ、どういう状況!?」
「聖女様、危のうございます!」

 俺から見て右手、多分順路の一つだと思われるところに、純白のローブと世界樹の枝葉をかたどったロッドを持った聖女マキナ、そして教団騎士団の騎士と思われる人物が二人現れた。
 ……ネレンミア殿の動きが止まった! 声の方に視線を向けている。
 彼を視認できたらしく、聖女の顔が驚愕に大きく強ばった。

「エイギルさん!? こんな所にいたの!?」

 聖女マキナが駆け寄ろうとしてきた。その前に立ちはだかって止める兜無しの騎士殿。
 うん、いいぞ。申し訳ないがもう少し足止めしといてくれ。

「どうして止めるの! 皆さんだってエイギルさんが心配だって言ってたじゃないですか!」
「確かにそうです! ですが、団長の様子が普段と違いすぎるのです!」
「普段と、って……」

 ほう? あの騎士殿、よく分かってるな。部下の鑑だ。
 と向こうの会話を聞きつつ、俺はネレンミア殿の拳や蹴りを避け続ける。

「うわ、」

 ネレンミア殿が刀身がもう短剣ほどにしか残っていない、元大剣を鎧の爪先で蹴り上げ拾った。それで俺の顔面を狙ってくる。
 避けたが、斬撃と同じオーラを剣に纏わせていたのか。剣圧が俺の想定よりも長かった。
 頬ともみあげの髪が切れ、血が流れる。
 だが目に入っていないなら全く問題ない。俺の顔に傷がついて発狂するのは、クリストファー様ぐらいしかいないしな。
 そのクリストファー様も、俺ならなんとか宥められる。ほら、全く問題ない。

 俺も剣で応戦する。同じように刀身に斬撃に使うときのオーラを付与し、雷のエンチャント状態にする。
 最早、誰もが俺たちの戦況を見つめていた。
 あれだけ喋っていた聖女マキナも、ネレンミア殿を呪い操っていたフードの人も、クリストファー様も一言も発しない。
 剣戟の音だけが響く中、俺はまた鍔迫り合いになったときに、試しに言ってみた。

「……聖女マキナが、あなたのことを心配して、街中探していましたよ」
「……、」

 お、ちょっとだけ動揺したな?
 ネレンミア殿にとって、聖女マキナはそれなりに比重を置いている相手ってことか。
 ここで鍔迫り合いが一旦解かれる。
 また剣を打ち合い、避け合い、時に手や足が出る。
 途切れ途切れになりながら、俺はネレンミア殿に向かって語りかけ続けた。
 動揺を誘う面もあるが、それ以上に、ネレンミア殿にかけられている呪法を解くための楔を、少しでも打っておきたいという思いもあった。

俺たちハイマー辺境領騎士団一般隊員は正直、あなたたちのことは一人一発ずつぶん殴りたいと思っていますが……、」

 だって俺は、御館様やゲオルギオス様、デイヴィッド様と同じくらいに、エイギル・ネレンミアという一人の騎士に対して、畏敬の念を持っているんだ。
 死んで欲しいなんて、この人に対しては思っていない。

「俺個人は、あなたのことを一人の従者として、剣士として、好ましく思ってるんです、よっ!」

 ガキィン!!

 ……ついに、俺の剣が、ネレンミア殿に届いた……!
 ばっ、と血が薄く舞う。ブレストプレートを斬り裂いて、胸部にもそれなりの深さの傷をつけながら、大剣を弾き飛ばす。
 傷のついた部分から鎧が、弾き飛ばされた剣は空中で、さらさらと分解されていった。

「だから、きっちりその呪いを解いて、あなたの帰りを待っている人たちのところに帰るべきです!」
「……っ……!」

 あ、虚ろだった目に少し光が戻ってきた! よしよし。
 って、やっべ、つい普通の声の大きさでこんなことを叫んでしまったじゃないか。のろ、い? という聖女の呆然とした呟きが聞こえる。
 そのときだった。

 蔦が、どしゃりと縛り上げられたままのフードの人物を、ネレンミア殿に向かって遠慮も無しにぶん投げた。
 ネレンミア殿は急なことで受け止めることが出来ずに、もろとも地面に崩れ落ちる。

『ママ今だよ、やっちゃえ~!!』
「心得た!!」

 ……ああ、世界樹から、リアンっぽい嬉々とした幼児の声が聞こえた……。
 いくら精霊っていったって、容赦なさ過ぎじゃないか?
 クリストファー様もダンジョンにたまに出てくる、人類驚異級亜種魔物みたいな顔になってるし……。
 しかも言葉遣いと声色が、完全にブチ切れモードだ。
 ワンドを上空に掲げて、もう俺には解読不可能な程の魔法陣を展開している。
 どれぐらいの威力の魔法を繰り出すつもりなんだ……!
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