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Act.12 ハイマー辺境領への帰還
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「……ふふ、混乱してるって顔だねえ」
「あ、当たり前です!!」
「じゃあまず一つ。何でディランがステップ踏めてるのかってのは、俺たちがまだ子供だったときに俺が遊びでディランと踊ってた時のステップだからだよ。体が覚えてたんじゃないかなぁ」
「……あ、そういえば……」
「そして、もう一つ」
ニ……とクリストファー様の笑みが深くなる。
それに俺は少し動揺してしまった。
「なんで若い女の子たちがみぃんな顔を赤くして、野郎共がボケッとした間抜け面で見てるのかってことだけど、」
俺は目が離せなかった。自分の心臓の音がうるさくて、うまく蓄音機の音が聞こえない。
奥様譲りの美しいかんばせに男の色気が乗った笑みが、俺を絡み取ろうとしている。
「ディランはそろそろ、自分の容姿が十人並みなんかじゃないことを自覚した方がいいよ」
……え?
「あ、の、……それは、どういう……」
ぷつ、という小さな音と共に、蓄音機が止まってしまった。
俺の腰を支えていた手がするりと離れる。ハッとして俺も慌てて手を離した。
一瞬、静まりかえっていた会場は、途端に沸いた。
「すっごい! すっごい!」
「いよっ! クリストファー様! 流石御館様のご子息! オオカミ!」
「ディラン~、おめぇ表情溶けてたぞ~」
は? んなワケあるか!!
最後の声の方向をギッと睨むと、誰かが「ごふぅっ!?」という呻きと共に崩れ落ちた。
あ、あいつ、騎士団のクリストファー様護衛小隊仲間の一人じゃねえか!!
まあいい。説教は明日にしよう。この場で問いただすのは雰囲気を壊しそうだ。無意識で<魔法素>の凝縮した塊を腹にぶち当ててたみたいだし、仕置きはこれでいいや。
ふと、親父が御館様に何かを言っているのが聞こえた。ふむふむ、と耳を傾けておられた御館様は頷かれ、パンパンと手を打ち鳴らした。
「さて! 宴もたけなわ! 孫らも眠そうにしておることだし、今夜は解散!」
その一声で、またみんな動き出した。とは言っても、俺はまたも何もさせてもらえず、母さんからリアンを抱かされ重しにされた。
「お前の労をねぎらうためでもある宴だったのに、お前が働いてどうするの」
……冷た~い目で言われましたよ、ええ。
でも長年の従者根性が、仕事を求めてしまうんだ……。もう習性なんだよ、これ。
ということを見透かしていたのか、リアンが俺の腕の中で矢継ぎ早に喋り始めた。
食べたアレが美味しかった、あのジュースは毎日でもイケる、小さい子連合の仲間に入れてもらいお茶会の真似事をしていた……などなど。
俺とクリストファー様は、会場であった庭が元の姿に片付けられていく風景を見ながら、話を聞いていた。
料理はあまり残らなかったが、残ったものは騎士団屯所の留守居役へのお土産になる。酒も半分くらいはそうだな。
食器やカトラリーは厨房へ、テーブルクロスは洗濯室に、テーブルは一旦大広間へ。
その光景を見ていると、御館様が俺たちにお声をおかけになった。
「そなたら、そろそろ中に戻らんのか」
「あ、父上、ちょっとリアンをお願いできますか?」
「ん?」
急なクリストファー様の申し出に、きょとんとなさった御館様とリアン。
クリストファー様はリアンに向かってこう言った。
「リアン。ちょっとママ、パパと話したいことがあるから、おじいさまとおばあさまについてってくれる?」
こてんとリアンは首を傾げていたが、素直に頷いた。
「わかったー」
「よし、ならばリアンはじじやばば様と部屋に戻るか!」
「はぁ~い」
俺からリアンを受け取った御館様は、奥様と共に、親父と母さんを引き連れ屋敷の中に戻られた。
気がつけば、使用人たちはほとんど屋敷の中に戻ったらしく、騎士達もとっくに屯所に戻っていったらしい。
人もまばらになった庭で、クリストファー様が俺の手を握ってきた。びく、と無意識に肩が揺れる。
その俺の様子に苦笑いしたような顔をして、クリストファー様が【転移魔法】を使った。
転移してきて、俺はびっくりした。
そこはグルシエス本邸の屋根の上だっただからだ。
さっきよりも星が近い。ビロードの上にダイヤモンドの粒を蒔いたようだった。
俺たちは屋根の上に座る。一瞬裁ちばさみを持って凄んでくるブラウニーの顔が浮かんだが、もの凄く汚れていたら【浄化魔法】持ちの人にお願いしてくれと言おう。
「あ、当たり前です!!」
「じゃあまず一つ。何でディランがステップ踏めてるのかってのは、俺たちがまだ子供だったときに俺が遊びでディランと踊ってた時のステップだからだよ。体が覚えてたんじゃないかなぁ」
「……あ、そういえば……」
「そして、もう一つ」
ニ……とクリストファー様の笑みが深くなる。
それに俺は少し動揺してしまった。
「なんで若い女の子たちがみぃんな顔を赤くして、野郎共がボケッとした間抜け面で見てるのかってことだけど、」
俺は目が離せなかった。自分の心臓の音がうるさくて、うまく蓄音機の音が聞こえない。
奥様譲りの美しいかんばせに男の色気が乗った笑みが、俺を絡み取ろうとしている。
「ディランはそろそろ、自分の容姿が十人並みなんかじゃないことを自覚した方がいいよ」
……え?
「あ、の、……それは、どういう……」
ぷつ、という小さな音と共に、蓄音機が止まってしまった。
俺の腰を支えていた手がするりと離れる。ハッとして俺も慌てて手を離した。
一瞬、静まりかえっていた会場は、途端に沸いた。
「すっごい! すっごい!」
「いよっ! クリストファー様! 流石御館様のご子息! オオカミ!」
「ディラン~、おめぇ表情溶けてたぞ~」
は? んなワケあるか!!
最後の声の方向をギッと睨むと、誰かが「ごふぅっ!?」という呻きと共に崩れ落ちた。
あ、あいつ、騎士団のクリストファー様護衛小隊仲間の一人じゃねえか!!
まあいい。説教は明日にしよう。この場で問いただすのは雰囲気を壊しそうだ。無意識で<魔法素>の凝縮した塊を腹にぶち当ててたみたいだし、仕置きはこれでいいや。
ふと、親父が御館様に何かを言っているのが聞こえた。ふむふむ、と耳を傾けておられた御館様は頷かれ、パンパンと手を打ち鳴らした。
「さて! 宴もたけなわ! 孫らも眠そうにしておることだし、今夜は解散!」
その一声で、またみんな動き出した。とは言っても、俺はまたも何もさせてもらえず、母さんからリアンを抱かされ重しにされた。
「お前の労をねぎらうためでもある宴だったのに、お前が働いてどうするの」
……冷た~い目で言われましたよ、ええ。
でも長年の従者根性が、仕事を求めてしまうんだ……。もう習性なんだよ、これ。
ということを見透かしていたのか、リアンが俺の腕の中で矢継ぎ早に喋り始めた。
食べたアレが美味しかった、あのジュースは毎日でもイケる、小さい子連合の仲間に入れてもらいお茶会の真似事をしていた……などなど。
俺とクリストファー様は、会場であった庭が元の姿に片付けられていく風景を見ながら、話を聞いていた。
料理はあまり残らなかったが、残ったものは騎士団屯所の留守居役へのお土産になる。酒も半分くらいはそうだな。
食器やカトラリーは厨房へ、テーブルクロスは洗濯室に、テーブルは一旦大広間へ。
その光景を見ていると、御館様が俺たちにお声をおかけになった。
「そなたら、そろそろ中に戻らんのか」
「あ、父上、ちょっとリアンをお願いできますか?」
「ん?」
急なクリストファー様の申し出に、きょとんとなさった御館様とリアン。
クリストファー様はリアンに向かってこう言った。
「リアン。ちょっとママ、パパと話したいことがあるから、おじいさまとおばあさまについてってくれる?」
こてんとリアンは首を傾げていたが、素直に頷いた。
「わかったー」
「よし、ならばリアンはじじやばば様と部屋に戻るか!」
「はぁ~い」
俺からリアンを受け取った御館様は、奥様と共に、親父と母さんを引き連れ屋敷の中に戻られた。
気がつけば、使用人たちはほとんど屋敷の中に戻ったらしく、騎士達もとっくに屯所に戻っていったらしい。
人もまばらになった庭で、クリストファー様が俺の手を握ってきた。びく、と無意識に肩が揺れる。
その俺の様子に苦笑いしたような顔をして、クリストファー様が【転移魔法】を使った。
転移してきて、俺はびっくりした。
そこはグルシエス本邸の屋根の上だっただからだ。
さっきよりも星が近い。ビロードの上にダイヤモンドの粒を蒔いたようだった。
俺たちは屋根の上に座る。一瞬裁ちばさみを持って凄んでくるブラウニーの顔が浮かんだが、もの凄く汚れていたら【浄化魔法】持ちの人にお願いしてくれと言おう。
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