孤独の魔女と独りの少女

徒然ナルモ

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二章 友愛の魔女スピカ

21.孤独の魔女と友愛に蠢く闇

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地上の白亜の城を絢爛豪華な楽園と称するなら、その地下に存在する地下牢は差し詰め暗澹冥蒙の辺獄 そのもの
 
薄暗い壁に天井、ジメジメとした床…罪人の健康状態など知るかと言わんばかりの劣悪な環境の中を、レグルスとエリスは歩く 
 
絵に描いたような地下牢だ、説明されずとも理解できるくらい牢屋牢屋しい、管理はされてなさそうな散らかり具合だが鉄格子はどれも頑強極まりない作りをしている上に、よく見れば魔耐合金で作られている、魔力や魔術に対して非常に高い耐久性を持つ鉱石マナライトと鋼鉄を使い作られた合金による格子だ

マナライトの含有率によって魔力による耐性が変わるが…これはかなりの純度だな、多分エリスの火雷招くらいなら弾くんじゃないか?これ、少なくとも並大抵の魔術師では傷一つつけられまい
 

ともあれ、地下牢とはいえ 広大な白亜の城の地下にあるだけあり、なかなかに広大…そしてこの国は存外治安が悪いのか あるいは騎士達が優秀なのか、結構な人数がぶち込まれている

人相の悪い男 卑屈そうな女、選り取り見取りの悪人達が 鉄格子の向こうから私達を爛々とした目で見ている、いや見ているのはエリスか…このガキ 悠々と外を歩きやがって見せもんじゃねぇぞ とその強面にも書いてある

「………ししょー」

「ん?大丈夫だよエリス」

エリスは強がっているのか、決して怖いとは言わない 故に私も安心させるため言おう、大丈夫だよと、別に今この瞬間牢屋が全部開いて囚人たちが私達に雪崩れ込んできても まとめて消し飛ばせるから大丈夫だよと

そうやってしばらく歩いていると、罪人達の反応が変わる 私を見てヒッと声を上げたり 避けるように奥へ隠れたり、露骨に怖がられる

顔に覚えはないが多分こいつらはあの盗賊団のメンツで私がぶちのめした奴らだろう、中にはクレアが倒した奴やエリスが倒した奴もいるだろうが、結局は同じこと…盗賊団がここに纏めて捕まってるところを見ると、レオナヒルドの牢も近いのでは

「おい、いい加減喋っちゃくれねぇか?」

と 考えるまでもなく、声が響いてくる 苛立ちのこもった、怒声寸前の声だ

薄暗い闇の中目を凝らせば 数人の騎士達が 一つの牢前に群がっているのが見える

「っ…っっ…」

「ずっとこれか、冷や汗流すばっかで 一言も喋んねぇ…怖いなら喋って楽になっちまえよ、事と次第によっちゃ減刑もあるかもだぜ?」

「っ…ー!」

牢の中には 冷や汗をダクダクと流し俯くレオナヒルドがいる、ガタガタ震えて 目の前に立つ騎士達の呼びかけに沈黙をもって答えている

「ダメです何も言いません、この数ヶ月とおんなじ反応ですね」

「そうか…ん?、ってレグルス様!?エリスちゃん!?なぜここに!?」

「あぁーっ!、魔女レグルス様ーっ!エリスちゃーん!」

騎士から報告を聞き残念そうに肩を落とすデイビッドは、次いで私の気配に気づき驚愕に肩を揺らす、その隣 と言うか影に隠れていたクレアが多分地上まで届いてんじゃないかってくらいの声で叫び手を振っている、やかましい 地下だからなおやかましい

「え…魔女レグルス?ええっ!?なな なんで!?」

続いて反応するのはレオナヒルド…といっても、私を視界に入れた瞬間半狂乱になりながらオシッコチビって腰を抜かして喚き散らしている、失敬な 人をなんだと…いや殺しかけたな、こいつのこと

「すまん、ちょっと様子を見に来た」

「ちょっとで、様子を見にくるようなところじゃないんですがね…まぁいいですよ、この件に関しちゃ レグルス様も無関係じゃないですしね」

ただ、無許可で立ち入っていい場所じゃないんで今後は控えてくださいね と小言を一くさり言われながらも、デイビッドは私を追い返したりはしなかった いやもしかしたらいずれ私もここに招いて何かさせるつもりだったのかもしれん、勝手に来たのは想定外だったろうが

「難航しているようだな、尋問」

「ええ、何も喋りません…レグルス様への反応でやっと口を開いたくらいで、それ以外はずっと無言ですよ」


無言…か、デイビッド達は今 レオナヒルドの裏に誰か黒幕がいるんじゃないか?との疑いを強め、それが誰なのかを調査中らしいのだが、彼らの顔色を見るに進展の方は芳しくないようだ

「ふむ…」

「ひぃぃっー!?ひひぃっ!?」

そう言いながら目を向ければ、レオナヒルドは私を邪神か死神でも見るかのように恐れ慄いている、…いやこの怖がり方は異常じゃないか?、こいつとはスピカ謁見の前に会ってるが その時はこんなにビビってなかったが

「ところで何を?、別に弟子に社会見学を というわけでもないのでしょう?」

「ああ、少しコイツに用があってな エンブレムについて聞きたいことがあるんだ」

「んぁ?、エンブレムってこれのことじゃないですか?、前領主様が賢人様がエンブレムのことを話してた と仰られてたので、私が捕まえた山賊からぶんどっておきましたよ」

そう言いながら懐から狼のエンブレムを取り出すクレア、そうそうそれだ いやエドヴィンの奴、あれから気にしてくれていたのか、ムルク村を遠く離れて尚も奴には世話になるな、クレアもお手柄だ…

「んー?確か、前捕まえた山狼もつけてたとかなんとかって魔女レグルス様も仰られてましたよね」

「なんだそりゃ、狼の模様が描いてある飾りに見えるが…そういや他にも山賊の中に何人かもってる奴がいたな、なんなんだこりゃ」

どうやら デイビッドはエンブレムもエンブレムの意味も知らないようだ、本当に廃れてるんだな 、というかスピカの奴 これがどういう意味か教えてないのか…いや教えられるわけないか、何故これを持つのがいけない事なのか、それは不吉の象徴であるのと同時にこれは厄災の……

「ひぃっ!?」

すると、エンブレムを見た瞬間やはりレオナヒルドの顔色が変わるのが見て取れる…

やはりこれは何かあるな、牢を囲む騎士達を退け レオナヒルドの前へ立ち 、腰を抜かす彼女に目線を合わせる

「お前、あのエンブレム あれはどういう経緯で身に付けるようになった、ただの飾り というわけでもないのだろう?その反応を見る限り」

「……っ…っ」

「自分達でつけたのか?それとも誰かに言われて身につけていたのか?」

「っっ…っ…」

「あのエンブレムの意味を知っているのか?、何故狼なんだ?お前のバッグにいるやつが着けさせたのか?」

「…………」

ダメだ、急に何も喋らなくなった いや喋らなくなったというより、顔を青くして喉を抑えてぇげぇげと変な音を立てている、おちょくっているのか?

まさかコイツがここまで口が硬いとは…仕方ない、どのみち使うつもりだったしな

「私の前で隠し事は出来んぞ…、すぅ 口に堰はなく、真実は今蛇籠を打ち崩す…『白日口露』」

「な 何を…っっ!?!?」

白日口露…使用された者は如何なる秘密さえ、その意思関係なく口にしてしまう自白魔術をレオナヒルドめがけ放つ、尋問など面倒なことをせずとも このように魔術を使えば一発だ

さぁ、喋ってもらおうか その真実を…、このエンブレムはなんなのか お前の裏に黒幕はいるのかを

「…っ…ぐっ…ごぉ…ぃぎぃ」

「ん?」

いやしかし様子がおかしい、これを使われれば誰しも隠し事など出来ず 湧き水のように口を割るはずなのに、どういうことか 魔術を使われたレオナヒルドは口を割るどころか、未だに耐えているではないか…

いや耐えてるんじゃない、首元を苦しそうに搔きむしり 鼻からは一筋の血が…ま マズい!

「レグルス様!」

「チッ!解除…!」

「ど どうしたんですか?レグルス様?、急に何をされて…そのぉ拷問とかは勘弁して欲しいのですが、最終手段なので」

「別に拷問したわけじゃない、真実を口にする魔術を使っただけだ」

白日口露を慌てて解除すれば 力なくその場に倒れるレオナヒルドを見て、デイビッドが拷問と勘違いするのも無理はない

それほどまでにレオナヒルドはもがき苦しんでいた 、爪で自分の肉をえぐるほど首を搔きむしり 、頭でも破裂するんじゃないかって勢いで顔を真っ赤にしてのたうち回っていたからな

「なるほど、そんな魔術が…いやでも コイツ口割ってませんよ、耐えられたんですか」

「いや違う、コイツは答えなかったんじゃない 答えられなかったんだ、恐らく お前達の質問に対しても…コイツの意思に反して口は何も語らなかったんだ」

白日口露…相手の意思に反して真実を口にしてしまう魔術があるならば当然、意思に反して何も言えなくなる魔術も存在する、今のレオナヒルドは恐らくそれをかけられている 

だから、いくら減刑して欲しくとも、言い訳したくとも 尋問が始まれば彼女は何も言えなくなるし、私が魔術で無理矢理口を開こうとしても無駄だった という事か…

「無理に口を開かせれば、レオナヒルドの体が爆ぜるよう呪いがかけられていた…多分、コイツの裏にいる何者かが レオナヒルドへ口封じをしたんだ」

「な 爆ぜるって!?、真実を口にしただけで死ぬなんてデタラメな魔術 この世に存在するんですか!?」

デイビッドだって いやこの場にいる誰もがそんな致死性の高い魔術は知らないだろう、だって この口封じの魔術も呪いも どちらも遥かな昔に失伝し消え去ったはずの古式魔術なのだから

そう、この世に魔女八人しか使い手がいないと言われる、失われた 古の魔術でレオナヒルドの口に戸が立てられていた

「…………」

「あ あの、その呪いとかも魔術なんですよね、魔女レグルス様で解除出来ないんですか?」

「…出来ないことはないだろうが、難しいな」

そもそもこの呪いは 大前提としてレオナヒルドがどうなってもいい という考えの元 心臓に強く打ち込まれている、もし下手に解けば レオナヒルドはその瞬間爆ぜるだろう、やられたよ 先手を打たれた…

「ってことは、なんですか? レオナヒルドはもう 何も真実を語れないと?」

「ああ、そう考えたほうがいいだろう…口で言えないとかそんなレベルじゃない、アイコンタクトとか身振り手振りとか 、全ての返答やリアクションが封じられている」

「マジか…あ 他の山賊に聞くってのはどうでしょうか、レオナヒルド以外にも幹部は捕まえてますし!、其奴らに聞いてきましょう」

無駄だろうな、ここまで周到に自分へ繋がる道を潰すやつが そんな分かりやすいミスをするはずがない、それより何より

「無駄だやめておけ、…この呪いというのは遠隔から一方的にかけることはできない、少なくとも視認できる距離に捉えなければ不可能…そして、コイツは牢屋に入れられる前までは普通に受け答えしていた、つまり」

「つまりなんですか?、レオナヒルドにこんな訳のワカンねぇ呪いをかけたやつはレオナヒルドが捕まってから、…ノコノコ牢屋までやってきてこの牢屋にいる人間全員に魔術をかけた ってことですか?」

そういうことになる、警備の目も掻い潜り この城全体を見回すスピカの目も盗み 地下牢に忍び込み、多分地下牢にいる人間全員に同様の呪いをかけたと考えられる

うん、腕前だけ見れば魔女級と言って差し障りない、…というかこの呪いかけたのスピカなんじゃと考え……

思考を止める そんなことスピカがする訳ない、そもそもスピカは治癒魔術は得意だが、呪いとかそういう陰湿な魔術は苦手だ 使えないと言っていいし そもそもやる意味もない、つまり外部からの侵入者だ


「くそっ、つまり この山賊を裏で操ってる奴がいるってのが確定したのに、それと同時に其奴への道全部絶たれたってことじゃないですか!」

デイビッドが恨めしげに怒る、そうだ この呪いをかける ということはレオナヒルドとの繋がりがバレたくない奴がいるという事、つまり黒幕がいるってのが確定したことになる

だが、皮肉にもそれと同時にその黒幕への道を絶たれるたのだからな、その上この私が不覚を取るとは…ん?、いや待て?なんか最近もあったな 何かをしようとして出来なかったこと、なんだったかな?思い出せん

「やいやいやい!、このやろー!吐け!吐いちまえ!呪いごと全部吐きやがれーっ!」

「っー!?っー!?」

クレアも呪いに苛立ち、ガンガンと檻を蹴飛ばし威嚇するが、無駄だ レオナヒルドは先程から泣きながら首を振るうばかりで返答一つ返さない、いや返せない いくらやっても無駄だろうな

「どうした、騒がしいぞ」

「ん?、あ バルトフリートさん!?」

なんて騒いでいると、私の背後からさらにもう一人の客人が現れる

他の若い騎士達とは違い、現れた彼は明らかに壮年へと足を踏み込んだ老騎士、使い込まれた鎧と顔や腕に刻まれた傷の数々は 彼が送ったであろう半生の過酷さを物語るようで、今日この日まで容易く生きてきた人物でないことが容易に想像出来る

というか、バルトフリート…聞いたことがある コイツが例の…、このレオナヒルドの兄と言われる

「英雄バルトフリートか」

「ん?、むっ!?これは!魔女レグルス様!」

チラリと顔だけ向けて彼を見れば、慌てた様子でその場に跪く その様はもう呆れてしまうほどに様になっている、私は彼以上に騎士らしい騎士を見たことがないよ

「顔を上げてくれ、私は君の主人ではない 君が守るべき主人以外に頭を下げるべきではない」

「いえ、我が主 スピカ様はレグルス様は我が至上の朋友、私と同列に扱うようにとの事でしたので」

跪き 顔を下に向けたままキビキビと受け答えをする、…彼 バルトフリートの事はこの数ヶ月のアジメク生活でいくつか聞き及んでいる、メイナードもヴィオラも デイビッドも滅多に人を褒めないクレアでさえも 彼を皆口を揃えて『英雄』と呼ぶ

なんでも二十数年程前、アジメクが非魔女国家エラトスに戦争を仕掛けられた時…獅子奮迅の如き活躍をし アジメクを守ったのが彼だという

エラトス王国 、当時はかなりの兵力を持つ精強な国であったとの記憶もあり 、その近辺では負けなしだった、周辺諸国を粗方叩きのめし終わり さて仕上げに一丁天下とってやりますかと魔女大国相手に喧嘩を売ったのだ

エラトスは態々世界の覇者 魔女大国を敵と定めるような奴らだ、軍備は年半世紀単位で整えられており何より戦争慣れしている 策も周到 武器も潤沢、アジメク史上に残るかなりの強敵であったらしいが バルトフリートはそんな敵よりも更に精強だった

若き頃のバルトフリートはエラトス戦役にて、時に最前線で敵を薙ぎ払い 時に撤退する味方を守る為身を盾にし、魔女を侮辱する者は誰であっても許さず たとえどれだけ傷ついても魔女への祈りと朝の鍛錬は欠かす事なく行う騎士の中の騎士として名を轟かせた

因みにアジメクとバルトフリートに敗れたエラトスは、今度は軍事国家アルクカースに喧嘩を売り、今度は王城ごと木っ端微塵に吹き飛ばされ属国になったらしい


しかし思えばバルトフリートという男…、私も偶に白亜の城に赴いた時 一度二度遠目で会ったことがあるな、その時は誰よりも早く私に気づき誰よりも深く私に対して頭を下げていた……

「真面目な男だな、君は」

「浅学非才の身なれば、真面目に取り組む以外取り柄もないもので」

バルトフリート…いや英雄バルトフリート・モンクシュッド …レオナヒルドの兄でもあるこの男を私は最初は信用していなかった、だってあの嘘つきの兄だぞ?きっとその活躍も嘘偽りなのだろうと疑ったが

この男は誠実だ、目や言動 そしてその身に刻まれた傷と鍛えられた肉体を見る限り少なくとも嘘はついていないと分かるし、今まで嘘もついたことがないのだろう、妹のレオナヒルドとは大違いだ…

何よりただ口先だけの男がここまで皆から信頼されるわけがない、行動が伴っている証拠だ

「だがいいよ、君の忠義は私には勿体ない …何よりデイビッド達にも頼んであるのだが、あまり敬われるとこちらも緊張する、ある程度で構わないよ」

勿論そんなこと言ってない、デイビッド達も敬ってくれるには敬ってくれるがこれほどではないだけだ、会う都度跪かれてはこちらも気が持たんし

「む、魔女様に気を使わせるとは何たる不覚か…」

私が顔を上げろといえば、彼はまたそれも当然のことのように顔を上げる…こんな騎士に忠義を尽くされるとはスピカも幸せな奴め、

「ところでバルトさん、何故地下牢に?今日非番じゃありませんでした?」

「デイビッドか、いやすまん尋問中とは知らなかったのだ…ただ、様子を見にきただけだ」

デイビッドに声をかけられれば少々バツの悪そうな顔で呟く、何の様子を見にきたの?なんて誰も言わない 妹レオナヒルドの様子だろう、本当に嘘がつけない男なのだな

彼は なんでもない風を装っているが、妹が罪人として捕まった事はかなり応えているはずだ、しかもその妹が 自分が身を捨ててまで忠義を尽くしてきた魔女スピカの怒りを買うような真似をしたのだ…

今、彼は家族への愛と主への忠誠心に板挟みになり、苦しんでいるはずだ…レオナヒルドの罪状 これがもし別の罪だったなら、バルトフリートは真っ先に魔女スピカに減刑を懇願しただろうが

よりにもよって魔女偽証罪ときた…これは完全に魔女への侮辱に近い、これではバルトフリートも何も言えない

「あ…あー、それにその バルトさん 実は言いづらいの…ですが…」

「ん?どうしたデイビッド」

今度は逆にデイビッドがバツが悪そうにする、いや なんだ?こっちは分からんぞ?、何か言い辛いことが…

あ…いやあった、しかも最悪なやつが



「じ 実は、レオナヒルドの体に 真実を口にできなくなる魔術がかけられているのが判明しました、無理に口を開かれせば 彼女は死ぬらしいです」

「なっ!?なんだと!?、いや 俺は魔術には疎いからよくは分からんが…だが確かに、黒幕ならばそのような口の塞ぎ方もするか、しかし…」

妹にそんな物騒な呪いがかけられていることに驚愕するバルトフリート、言ってしまえば自業自得な面もあるが…しかし『言い辛い事』とはそこではない、話はその先

「なので、恐らくですがレオナヒルドは近々処刑されるかと思われます」


処刑だ、そもそも魔女偽証罪は大罪 その上彼女には多くの罪状が加わる上に山賊団を率いていた親玉でもある、これでお咎めなしは無い …順当に処刑だろう

だが、それでも彼女が今日この日まで、地下牢にぶち込まれてより数ヶ月生き続けたのは、彼女がまだ真実を語っていなかったからだ、真実が語られていない以上彼女を殺す事はできない いや出来なかった…

だが、その真相も もう得られないと分かった以上、彼女はもう生かしておく理由がなくなってしまったのだ

「直ぐに、では無いでしょうが このまま近日中に日程が決まるでしょう、一週間も かからないと思います」

「…………そうか…」

バルトフリートの答えはそれだけだった

いやそれ以外言えなかったのだろう、罪人とは言え妹の処刑を喜べるほど、彼は心まで騎士ではないのだから


しかし、いくら外道の悪人とは言え 処刑されるとなれば気分が悪い、それも殆ど私に関わりある事なのだから尚のことな、だがこのまま彼女を解放すれば レオナヒルドはまた悪事を繰り返すだろう、そしてまた捕まり今度こそ処刑されるのが目に見えている

自分の目の前にいるから死んで欲しくない、と言うほど私も子供ではない 、人の生き死になど腐るほど見てきた 性根が腐るほどにな

「……レグルス様、エリスちゃん 外に出ましょう、しばらくバルトさんを一人にさせてあげてほしい」

とはデイビッドの言葉、バルトフリートは表面上は無表情だが うん…これ以上なく傷ついている目だ、これは一人にさせてやったほうがいい

クレアも先程から空気を読んで沈痛な顔をしているし、…そうだな 誰だって悪人だろうと 、死ぬ と決まった瞬間を見て楽観的にはいられないのだ

エリスよ、よく見ておけよ…これがを嘘つき他人を陥れる事をなんとも思えなくなった人間の末路だ、せめてお前は 誠実に生きろよ





………………………………………………


「んぁ、デイビッド副団長」

デイビッドとクレアに連れられ地下牢を後にし、地上へと戻ると彼女はそこにいた、多分待ってたとかではなく 偶然だろう

そのぼさぼさの髪と一層深くなったクマ そしていつもの気だるげな雰囲気の彼女は片手に何かの書簡を持ちながら こちらをポカーンと見つめて…




その後激烈にめんどくさそうな顔をしその場を立ち去ろうと踵を返す、というか全力でその場から逃げようとする

「げぇっ めんどくせぇーのに見つかったぁ、しまった非番は昨日か…ミスったなあ」

「て テメェ!ナタリア!お前今の今までどこに行ってやがった!」

が 許されなかった、彼女…いや数ヶ月ぶりに目にするナタリアを前にデイビッドが逃がすわけがない、襟元を引っ掴みバタバタと逃げ去ろうとするナタリアを捕まえる

いや本当に久しぶりだ、私も久しぶりに見る

話じゃ アジメクに戻ってきてから皇都を転々と移動していた為 なかなか捕まらなかったそうだ、一応騎士の仕事はしているらしいがデイビッドには会ってない と言うことはナタリアは意図的にデイビッドを避けていたのだろう

「はぁー…お仕事ですよお仕事、ほら遠征帰りで忙しいでしょう?」

デイビッドに捕まってはもはやこれまでと諦めたのか、クッソめんどくさそうな顔でヘラヘラと事情を述べるが、アレは嘘だろうな いや私も嘘を見抜くのが得意な方ではないが、だって右斜め上を延々と凝視しながら言ってんだもん 信じろってほうが難しいだろう


「忙しいには忙しいが 何ヶ月も本部に顔見せられないほどじゃないし、そもそもお前そんなに仕事熱心じゃねぇだろう」

「失敬なぁ、アタシだってそりゃあ本気で動くときだってありますよ」

「別にそれを悪いとは言ってねぇ、だが 俺になんか…言うこととかないのかよ」

「ありませぇん、デイビッド副団長に言うことは何にもありませぇん」

えっへっへっと煙に巻くように笑い体を揺らすナタリア、その軽薄な態度とは裏腹に 何が何でも話さないという重い決意が見て取れる、いや デイビッドもそれを感じているからこそここまでしつこく聞いているんだろうな

「お前いい加減にしろよ、どんだけ心配したと思ってんだ!」

「んぅー?、あ!クレアんにレグルス様エリスちゃん!久しぶりぃ!エリスちゃん前会った時はこのくらいだったのに見ない間に縮んだねぇ!なんちゃって!なはははは!」

「話を逸らすな!」

「なんていうか変わってないですね、ナタリアさん」

 …デイビッドには 普通に尋問の才能もないようだ、さっきから振り回されっぱなしだな、いやナタリア自身がそんなデイビッドの性質を理解しているからこそ、振り回すことで誤魔化しているんだろう

気安いが故に聞けないこともあるのだ

「あはは…ナタリアさん、お久しぶりです」

「うむ、見ない間に礼儀正しくなったねエリスちゃん、聞いたよ デティちゃんと仲良くなったって、デティちゃん いつも寂しそうにしてたからさ、エリスちゃんが助けてあげてよう」

「はい、デティはエリスが支えます…それはそれとしてナタリアさんは今まで何をしてたんですか?」

エリス相手にも話を逸らして誤魔化そうとするナタリアだが、それはエリスには通用しない、良くも悪くもエリスは知的好奇心が抑えられないタイプだ、その程度の会話で誤魔化されるような子じゃない

「…あはは、誤魔化されないか…こりゃ正直に言うべきかなぁ、と言っても?正直に言うと今はなんとも言えません としか言えねぇんだなぁこれが」

が ダメ、エリス以上にナタリアの意思も固い…まさに押し問答というか水掛け論というか、こっちが聞いてもナタリアは答える意思すら見せない、こうなったら私が白日口露を使うか?とも思ったが辞めた

別にさっき失敗して自信喪失してるからとかじゃない、こういうプライバシーを守らない魔術は知り合いには使わない方が良いのだ、決して自信喪失してるからとかじゃない 決して

「まぁ話したくないなら話さなくてもいいんじゃないですか?」

そう突き放すように言うのはクレアだ、いや クレア的にはどうでも良さそうな空気を漂わせている、冷たい奴だ

「おお!、クレアちゃんはアタシの味方かなぁ!?」

「別に味方ってわけじゃないですけど、さして興味もないですからね、でもまぁ後になって我々が不利益被ることになれば話は別ですから、何かやましい事があるなら先に言っておいた方がいいですよ」

ドライとも取れるクレアの言動だが、まぁ結局のところ話はここに行き着くのだ、ナタリアが何をしているかは心配だがこいつも大人だ、手前の尻は手前で拭く

なら後は他人に迷惑がかかるかどうかだが…

「…………大丈夫っすよう!別に人殺そうってんじゃないですから、なははは」

不安だな、あんまり自信のなさそうな顔だ 我々に迷惑がかかるから言いたくない、と言った感じか、しかしそんなナタリアの暖簾のような態度に思わず怒りを露わにするのはデイビッドだ、彼女の襟をぐいっと掴み引き寄せる

「お前、いつになったら騎士団の本部に帰って来るつもりだよナタリア」

 「団長代行が非番の日か、本部に寄り付かない日には帰りますよ、ちゃんと」

「なんで俺を避けるんだよ!?」

「ええっ、だってぇ~」




「騒がしい…っ!」


すると、我々の押し問答を叩き斬るようにピシャリと嗄れた声が響く、気味の悪い嫌な声が白亜の廊下に木霊し 皆押し黙る、声の主の顔を見なくとも伝わるその不快感が我々にも伝播してくるからだ、ふむ 確かに嫌な声だがやはり『最初』の時ほどではない


「オルクス卿?…貴方が何故白亜の城に」

それはいつぞやの会った痩せぎすの死神のような男オルクス卿であった、背後にいつものように護衛を数人引き連れ廊下の真ん中で我々を蔑んでいる、なんか いつもこんな会い方してるが、オルクスの中で私 仲間といつもはしゃいでる軽薄な奴に見られてないか心配だな

というか、オルクス卿を睨みつけるのはデイビッドだ、メイナードやヴィオラのように恐れながらも敬意を払うのではなく、あからさまな敵意と警戒心を向けている

「そんなに私が城にいるのがおかしいかね」

「おかしかありません、ただ 騎士という立場上どうしても警戒しなくてはならないので、国家転覆とかクーデターとか起こされたら たまりませんし」

お おいおい、大丈夫かデイビッド 相手偉いんじゃないのか

「ククク、その場凌ぎの団長代行の癖に 一端の騎士団長を気取るのかね」

「ええ、その場凌ぎなので 、とりあえずその場を凌いで次に繋げるのが俺の仕事ですから」

「誰にも手出しはさせないと?」

「誰にもじゃありません 何にもです」

なんだかバチバチやり合ってるな…騎士団長と大貴族 どちらも立場は相当な物だが それでもオルクスの方がデイビッドより10倍は権威があるのは間違いないだろう、ともすればオルクスが手を回せば 騎士団長であるデイビッドは為すすべなく皇都を追われるかもしれない

そんな事がわからない彼でもあるまいに、どうやらデイビッドの中でオルクスは『警戒すべき敵』らしい、分からんでもないが 口に出すほどか

というか、前城の前で会った程の威圧というか嫌悪感みたいな物をオルクスから感じない…変わったことと言えば後ろに控えている私兵が変わってるくらいか

やはり私の魔眼を防いだあの女の兵士 アイツが異常だったのか…今日は居ないみたいだが

「…あまり、貴族に対して無礼な態度を取るのは頂けないが まぁよい 、安心したまえ 別に今日はスピカ様どうこう というつもりはない、いつまで経っても現れない待ち人を迎えに来たのだよ」

「待ち人?」

「あっはは それアタシっすね 、すみませんすみません 先に用事済まそうと思ってたらその間にすっかり忘れちゃって」

オルクスの言葉に申し訳なさそうに頭を下げ 自らを掴む手を振り払うナタリア、その行動に最も驚いているのはデイビッドだ、まるで無二の仲間に裏切られたような顔…いや実際無二の仲間に裏切られたのだろう

ナタリアはデイビッドの手から離れるとオルクスの下まで走って行ってしまう

「お おいナタリア、お前…」

「ごめんなさいねデイビッド副団長、ちっとアタシ用があるんで 、んじゃ また今度」

と 淡白に一言告げると、オルクスの私兵に連れられ白亜の城を出て行ってしまうナタリア、せっかく久々に会えたのに 結局彼女は何も語ることはなかった…

会えばきっと何か答えてくれる そう信じていたデイビッドには、かなりショックな出来事だったようで、連れて行かれるナタリアを前に何も言えず呆然と立ち尽くしている…慰めてやろうにもどう声をかけたらいいか分からん

「それともう一人、用がありましてな」

「…誰にだよ、ってかなんでオルクス卿とナタリアがつるんでんだよ、…あんた一体アイツに何吹き込んで…」

デイビッドの糾弾など どこ吹く風とオルクスは顔を背けると別の一点を見つめ…いや、違うな オルクスが見ているのは『何処か』ではない、真っ直ぐ こちらを睨みつけるように見つめている…え?私?

「魔女レグルス殿?よろしければ我々と一緒に来てくれますかな?」

「…私か?」

有無を言わさぬ雰囲気だ、背後の私兵も オルクスの一言で皆殺気立つのを感じる…、なるほど 私が首を横に振れば力づくでも連れて行くつもりか?、他愛もない その程度の人数でどうこう出来ると思っているのなら心外だ

すると、オルクスの言葉を受けて真っ先に動いたのはエリスだ、私の手を引っ張り首を横に振ってる

「し ししょーダメです、あの人 悪い目をしてます…」

「そうです、レグルス様 コイツは魔女スピカ様の居城に兵隊連れてやってくるような奴ですよ!、言うこと聞く必要なんざありません、何をされるか…」

行くな と私を引き止めるエリスとそれに乗っかるデイビッド、まぁ 着いていけば十中八九なんかされるだろうな、コイツは今現在スピカと敵対し国を乗っ取ろうとしているなんて噂が立つような男…コイツからしてみれば私はさぞ面倒な敵に見えていることだろう


オルクスは嫌な奴でもあり 危険な男だ、あれから様々な噂を聞いたが 裏じゃあ犯罪スレスレ いや普通に法に触れる事をして荒稼ぎしているらしい、彼に裏で始末された人間もごまんといると聞く、 そんな奴においそれとついて行くわけがない

安心しろ、ついて行くつもりなどない と首を横に振ろうと瞬間 、オルクスが目を細めるのが見えた


「よろしいのですかな?、今 貴方が知りたがっていることに詳しく答えられるのは、この国では私だけですが」

「っ…!?」


知りたがっていること とは、間違いなくエリスとその元主人のハルジオンについてのことだろう、確かに言われてみれば ハルジオンはオルクスの息子 、彼のことを調べるなら態々館になど忍び混まず オルクスに聞けば解決するだろう


なぜこの男が私の調べ物を知っているのかは分からん…ともすれば、私を誘うブラフかもしれん、だが ハルジオンのことを調べるなら この男に接触出来るのは絶好の機会なんじゃないか?

「知りたがってること?」

「ししょー?、なんの話ですか?」

そうか、二人にはまだ話してなかったか、となるとメイナードもヴィオラも律儀に黙ってくれているのか、しかし ここで…エリスがいるこの場で説明するわけにもいかん、出来れば私がエリスの素性を調べていることを エリスに知られたくない、何故だか知らんが 知られたくない…

「……………」

この男が 何を考えているかは分からん、確かにデイビッドの言う通り 私をどうにかする罠とかかも知れない、だが …だからどうした? 別にこの男の私兵に囲まれても、私ならこいつの館ごと消し飛ばして悠々と帰ってこれる 、心配することなどない

よし、行こう 行ってオルクスにハルジオンのことを聞く 分からなければハルジオン邸探索の許可をもらう、それでいい

「分かった、ついて行こう」


「ししょーっ!?」

「なっ!?レグルス様まで…な 何の話をしてるんですか!」

「悪いな、詳しくは言えん 先にエリスを連れて家に帰っててくれ」

引き止めるエリス 立ち塞がるデイビッドの間をするりと抜けてオルクスの方へ歩み行く、なるほど こう言うことか…ナタリアが何も言わずにオルクスの方へ行った気持ちがわかる

みんなには説明し辛い事を聞くにはオルクスが一番だ、オルクスはこれでも国一番の貴族 表だけでなく裏にも通じている上に 多少融通が利く、ナタリアはオルクス相手に何か聞きたいことか頼み事があったのだ、別にデイビッドを裏切ったとかオルクスの味方になったとかではないのだろう

まぁ、そんな事 態々みんなに宣言も出来まい、二人とも納得のいかない顔をし ワナワナ震えている、ナタリアの時と同じだ…クレアだけは私を信じてくれているのか 何も言わずお気をつけてと声をかけてくれるが、少々不安そうだ


「最大限のもてなしは致しますが、魔女様には少々不足かも知れませんな」

「期待はしていない、…この後弟子に修行をつけようと思っていたんだ 、早めに終わらせるぞ」

「ふむ…?、あの小さいのがお弟子さんですかな?」

私が横に立てば 軽く会釈気味に頭を下げてくるオルクス、また随分と態とらしい…恐らくこの男の狙いはこうやってスピカ側に牽制する事だろうな…、もしくは私がオルクス側の人間と見せつける事か?、スピカには効果がないだろうが 何も知らない人間が見れば私がオルクスに手を貸しているようにも見えるし、それをどう勘違いするかは 見る人間側による

するとオルクスはチラリとエリスに目を向ける、こいつエリスにも何かを言うつもり…いや違う、なんだ 何か険しい顔をしている…まさかこいつもハルジオンのようにエリスに何かするつもりか

「おい、エリスに手を出したら殺すぞ」

「ふんっ、私を 場末の小貴族と同じように思われているのなら 心外というもの、では 我が館に向かいましょう」

苛立ちを隠す事なく鼻で笑うとコートを翻し踵を返すオルクスに、私もまたそれに追従する…エリスとデイビッドの不安そうな視線を背中に感じながらも振り返らない、別に大した用事じゃないし 後で概要は伏せつつ説明すればいいだろ


「ししょー…なんで、あんな怖い人と一緒に」

「くそっ 、何がどうなってんだよ…」


後には、何が何やら分からないデイビッドとエリス そしてあくびを一つ飛ばすクレアだけが取り残される、彼らからしてみればなんの説明もなく レグルスとナタリアの二人が、オルクスに拐かされたようにも見えよう あの野心深く何をしでかすか分からぬ男 オルクスに…

噂では国家転覆を企んでるとも聞く 噂では魔女スピカ様を敵視しているとも聞く

噂ではアジメク裏社会を牛耳っていると聞く 噂では数十年前のエラトス戦役の引き金を引いた男とも聞く

噂では 噂では 噂では…、何が恐ろしいって これだけのことに関与している疑いがありながら、誰一人 あの男の尻尾を掴めていない事最も恐ろしいのだ




「別に、そんな心配する事ないんじゃありません?、だってあの魔女レグルス様ですよ?何かお考えあってのことかも知れませんし、我々はレグルス様の言いつけ通り エリスちゃんを宿に送りましょうよ」

「お前…なんでそんなに落ち着いてられんだよ、二人とも弱みでも握られてるかも知れないだろうが」

「あははは あるんですか?弱みとか 、ナタリアさんはそんな簡単に尻尾見せる人じゃないですし、魔女レグルス様に至っては弱みどころか弱点さえ無い方ですよ、心配なんて烏滸がましいですよ」

ささっ 行きますよ、そう声をかけエリスちゃんの手を握るクレア、不安に思う気持ちもあろうが この中で最も長く生き多くの事を経験しているのが魔女レグルス様でもある、我々が心配するよりも我々が心配をかけさせないことの方が重要だろうと クレアは一人内心で言い聞かせる 

確かにあのオルクスという男は善人ではないだろう、だが 例え相手がアジメクの大貴族だとしても 魔女レグルス様相手に何か出来る相手など この世にはいないのだ、なら 魔女レグルス様の事は置いておいて 責務を果たそうじゃないか





…………………………………………………………


「なんなんだよ、オルクスの奴…裏で何やってんだ、なんでレグルス様までアイツについて行ったんだ」

「…分かりません、エリスは 何も聞かされていません」

あれから十数分 行きと同じく馬車で移動し宿に帰ってくるなり、エリスとデイビッドさんは不安を吐露する

というか、エリスは今までにない衝撃を受けて 些かながら呆然としていたのだ

聞けば、なんでも優しく話してくれたししょーが…

『悪いな、詳しくは言えん』

何も言わずにエリスを置いていった、なんの説明をしてくれず 黙って立ち去った 、はじめての出来事だ

あのオルクスという男の人は、一目で分かった あれは善人ではない、直感というかなんというか…言ってしまえばエリスの昔のご主人様を想起させる 嫌な目をしていた、あんな奴にししょーがおいそれとついて行った事が …理解できなかったのだ

「…レグルス様の知りたい事を オルクスは知っている、その言葉を聞いた瞬間 レグルス様の顔色が変わっていた、なんなんだ レグルス様の知りたい事って、オルクスの奴 何を知ってやがる」

宿の腰掛けに座り、ブツブツと苛立ちながら呟いている、いつも朗らかなデイビッドさんがここまであからさまに不機嫌なのは珍しい

いやエリスだって、今は凄く 心をかき乱されている…ともすれば苛立っていると言ってもいい

本当は、わがままを言ってエリスもついていきます!と声高に叫びたかったが…

(ししょーの背中が ついてくるなと言っていた…)

なんだか拒絶された気分になって、少々ブルーなのだ…

「ナタリア…レグルス様…くそっ」

「ほらほら、別に出てったわけじゃないですから!帰ってから聞けばいいじゃないですか!、考えようによってはレグルス様がナタリアさんを連れてきてくれるかも知れせまんし、ここで待つのが得策ですよ」

深く沈むデイビッドさんとエリスを励ましてくれるのはクレアさんだ、馬車の中でも宿に帰ってからもずっと声をかけてくれている 気にするなししょーを信じろって

「あのな、クレア …オルクス卿ははっきり言って危険人物だ、国にとっても個人にとっても!もしかしたら二人が誑かされて…」

「えぇい!やかましい!、気分が落ち込んでるから嫌な考えばかり出てくるんですよ!少しは論理的に考えなさい!、誑かされるって何をどうやって誑かすんですか!誑かされたからなんだってんですか!、あのガリガリジジイを怖がってのか嫌ってんのか知りませんがね!、私から言わせりゃ大の男がウジウジしてる方が見てらんないですよ!」

「なぁっ!?俺は二人を心配して」

「やかましいって言ってるでしょ!、ナタリアさんの事は信じてるんなら 今も変わらず信じ続けりゃいいじゃないですか、ちょっと単独で行動してるだけでしょうが!逐一行動をデイビッドさんに報告する義理はないですよ!」

「いやだから…」

「やかましい!!!」

ポカポカとクレアさんに殴られ壁際へ追いやられるデイビッドさんを見てると なんか不安な気持ちも引っ込んで行く、というか一切容赦ないな クレアさん

「お お前!殴るなよ!俺団長だぞ!代行だけど!」

「やかましいやかましぃーっ!、団長として見られたいなら団員信じてドッシリ構えてなさい!、次ウジウジ言ったらもっと強く殴りますからね!」

「っ…!?」

はたと 気付く、そうだよ 団長なんだよ俺はと…、部下を信じないで何が団長だ いいじゃねぇか単独行動で 。ナタリアも新人じゃない 本当にヤバくなったら自分でなんとかするし、出来なかったら頼ってくる なら、その時答えるのが一番正しいんじゃないのかと

クレアさんのやり方は強引だが、間違いじゃない 、そうだ…こういう時こそ信じて待つんだ、団長として 仲間として …!

「いや、そうだな…悪い その通りだ、団長なら団員を信じるのが仕事…うげっ!?殴るなよ!別にウジウジ言ってねぇだろうが!」

「ふんすっ、…エリスちゃん!」

「ひゃ ひゃいっ!?」

デイビッドさんを一頻り殴り終えたクレアさんがその苛立ちのままに、鼻息荒くこちらを見据える

殴られる…!、直感がそう告げる中反射的に両手で頭をガードする、いやダメだ この程度のガードじゃクレアさんの攻撃は防げないーーーっ


「出かけましょう、どうせ暫く魔女レグルス様も帰ってないんです」

ぽすん とエリスの頭に加えられた衝撃はとても優しげなもので

って、殴られたわけじゃない 軽く頭に手を置かれただけだ…、エリスの頭に手を置きさすさすと…出かける?

「出かけるって どこに行くんですか?」

「さぁ?、でもいつも修行三昧なんですし、たまには師匠の見てないところで遊んだって構わないと思いません?、見聞を広めるのだって立派な勉強と言いますし、ほら なんか外に出る適当な用事とかありません?」

分かる、これはエリスが落ち込んでいるのを察して気晴らしに付き合ってくれるというのだ

確かにエリスは毎日修行三昧だが自由時間はあるし 窮屈な生活はしてない、でも思えば なんの目的もなくぶらつくような暇な時間はなかったかも知れません、…ただ それで今のこのささくれ立ったエリスの心が癒されるとは思えませんが

「じゃ じゃあデティへのお返しの品を買いたいのですが付き合ってもらえますか?、いつも花を贈るばかりなので、一回くらいエリスから送ってみたいなぁと」

とってつけたような理由だ、別にデティだってお返しが欲しくて送ってるわけじゃないのは理解してるけど、それはそれ これはこれで

贈り物を渡したいという気持ちに嘘はない、せっかくクレアさんが付き合ってくれるというのだ、出かける口実的には良いものだと思う

「花を贈るんですか?、…うーん まぁいいか、よしっ!それで行きましょう、というわけなんでデイビッド団長はお留守番しててくださいね」

なぜか花を贈ることには難色を示されたが、とりあえずはそれで行こうといってくれた、お金はししょーから少なからず持たされているし足りるだろうし、軽くクレアさんと気分転換の散歩をしつつ デティへの贈り物を買う 、うん ジッとしてるより歩いて考え事してれるほうがいいか

「なっ!?なんで俺は留守番なんだよ、護衛だったら俺もついてったほうがいいだろ」

「なんのかんの言って、ナタリアさんのところへ行こうとするのでダメです、留守番しててください、ささっ行きますエリスちゃん」

「あっ、す すみませんデイビッドさん、夕飯までには帰ってきますので」


「いやいや!置いてくなよ!…本当に行っちまいやがった…俺そんなに不貞腐れてるように見えたか?、いや 見えたんだろうなぁ、あんなガキに気を使われるなんて、騎士団長失格だ…はぁ、ヴェルトなら こうはいかねぇのかな」


問答無用でエリスの手を引き 開け放たれた扉に向けて力なく ここには居ない本来の騎士団長の名を呟くデイビッド

ガックリとうなだれつつも いや仕方ないと落ち着かせる、こうなりゃクレア達が帰ってきた時 ナタリアとレグルス様が帰ってきた時意地でも笑顔で迎えてやる

「しかし、大丈夫かね 今の時間帯って 商業区画は一番混雑してる時間帯の筈だが…なんて、クレアだって馬鹿じゃねぇか その辺も考えてるよな」


……………………………………………………………………







なんて、クレアさんの妙案により 街に連れ出されてより 1時間近くの時がたった

「……………………」

エリスは今、アジメク商業区画の街の中、大通りから少し外れた壁にもたれかかり 目の前で行き交う人混みを眺めながらボーッとしている、片手には綺麗な花を一輪握りながら…、今の感情を言い表すならなんだろう 焦燥?絶望?違う虚無だ


「どうしてこうなった……」


そうだ、思い返し 復習し 反省すれば、自ずと答えは見えてくる 答えは過去の己にあり、ししょーの言葉通り 想起する、そうだ あれは…ほんと数十分前

商業区画へクレアさんと一緒に歩いて向かいながらいろいろお話をしたんだ、クレアさんはエリスのことをとても気を使ってくれていたしとても大切にしてれくれた

この間ししょーと来た時と違って商業区画は人でごった返していた、クレアさん曰く日取りや時間帯の問題らしく今はから今の期間は夕方まではピーク時らしい、まぁクレアさんの持ち前の強引さのおかげで人の海を真っ二つに割ってくれたおかげでそこまで不自由はしなかったんだ

クレアさんが途中でお菓子買ってくれたり 話聞いてくれたり、デティの為に綺麗な黄色の花を一輪買ったり、正直とても楽しく しばらく歩いた頃にはししょーへの不安な気持ちは吹き飛んでいたんだ

だからかな、エリスも気が抜けていたんだ 


視界の端 人の海の隙間から、なんだか面白そうな本屋さんを見つけたんだ、ムルク村の本屋さんはお世辞にも品揃えが良いとは言えないから、エリスからしてみれば とても心をくすぐられた…何か面白い本でも置いてないかなって?

それで、ちょっとだけクレアさんの手元を離れ 少しだけ寄り道するつもりで本屋さんの方へ立ち寄ったんだ、てっきり クレアさんがついてきてくれているものと思い…なんて言い訳やめよう

そうだ、迷子になったのだ エリスは、秒速で迷子になった


そのことに気がつき慌てて振り向いた瞬間には、もうクレアさんの姿はなく 人混みばかりで ここがどこかも分からなくなっていた

「ぷひぃー…エリス、一生の不覚です」

迷子だ、情けない 魔女の弟子ともあろう人間が 、迷子だ…情けない

あれから数分周りを歩き回ってみたけどクレアさんが見つからないどころか、エリス一人では人の海を渡航するのは無理だった 直ぐに押し流されこの岸辺…、壁際へ追いやられてしまうのだ 移動もままならない

故に、ほとほと困り果てて 壁に寄りかかり呆然としているのだ

「…はぁ、情けない」

出てくる言葉はそれだけだ、寂しいとか怖いではない 自分の不用意からこのような事態に陥るなんて、ししょーが知ったらどう思うだろう 呆れられるかな、それとも心配だと怒るのかな…

しかし思い浮かぶのは何も言わずに立ち去るししょーの背中、いや一度だけでない 思い返せばこの街に来てから都度都度、ししょーはエリスに何かを隠すような態度を取っている

ししょーを疑うわけじゃないけど、何をしているんだろう とは思うが

「……やめよう、ここで考えても解決する話じゃない、まずは目の前の事態をなんとかしなければ」

首を振り頬を叩く、別に迷子が解決してないのに別のこと考えても意味がない、まずこの迷子をなんとかしないと…

とはいえ通常の方法 つまり徒歩での帰還は無理だ、エリスには目の前の大人たちを押しのける力も 彼等の作る流れに逆らう力もない、ならどうする?魔術を使って屋根に登ってから 屋根伝いに…

いや、ダメだな …別に魔術を使えるのはエリスだけじゃないのに、みんな律儀に大通りを歩いている、つまり そう言うことはやっちゃいけないことなのかもしれない、下手したら法に触れるかもしれない 、と考えるとそれは最後の手段として取っておいた方がいいだろう

ならどうしよう、魔術が使えない となるとエリスは瞬く間にちょっと運動が出来る子供になる…エリス強くなったつもりだったけど、こうやって見るとししょーの『まだまだ未熟』という言葉を強く理解出来る

ひそ…ひそひそ…

「ん?」

なんだろう、人混みの中から囁き声や視線を感じる…道行く人たちがチラチラとエリスを見てる、物珍しい物を見というよりは…なんだ あんまりいい感情ではなさそうだ、ししょーは直ぐに他人の顔色から感情を読み取れるけど エリスにそれは出来ない為よく分からない

が、直ぐに理解できる  そうだ、道端で子供が一人で立ち尽くしてるんだ…それを見て 得る感情とはなんだ、憐れみだ

エリスの格好はお世辞にも良いとは言えない、迷子ではなく 孤児として見られているのでは?アジメクは平和だがそういう事に無縁というわけではないし、

加えて手に持つこの花…これがもし『エリスが買って手に入れた花』ではなく『孤児の少女が売っている花』と見られているとしたら?、客観的に見ればエリスは花売りの少女だ

確か、花売りの少女って あんまりいい意味の言葉ではなかったような…

「お嬢ちゃん」

「え?…」

記憶の戸棚を開けようと思案しているところ、人混みを掻き分け一人の男が詰め寄ってくる…

片手には酒瓶、まだ頭の上に太陽がある頃だというのに彼の顔は赤く 息も酒臭い、身なりも汚く 身につけた剣帯と皮の鎧から見るに、ううんこういうこというのはよろしくないのでしょうが あまり立派な人間には見えません

「ひっく…ちょうどいいぜ、俺ぁさっき割のいい仕事貰ったばかりでな、手持ちがあんだ いくらでも買ってやるぜ」

「か 買うってなんですか、エリスは何も売ってません これもさっき自分で買ったもので…」

酒に酔った男の耳にエリスの言葉は通じず、エリスの手を掴もうと強引に手を伸ばしてくる

怖い、下卑た顔 乱暴な空気 声を聞き届けぬその態度 全てあの館にいた頃の記憶を想起させ、身が縮んでしまうのを感じる 自分の身を守るなら魔術でもなんでも使えばよかったのに

「へへへ、安心しろよ 金ならいくらでも持ってるからよ」

「あ…あわわ…」

ど どうしよう、魔術で抵抗しようかな なんで悩んでるうちに男の手が エリスの手を掴み グイッと引き寄せられる…た たすけてししょー…



……いや違う、男の手はいつまで経っても近づいてこない 、乱暴に伸ばされた男の手は 別の誰かに鷲掴みにされ、中空で固定されてる

た 助けられた、もしかして クレアさんがエリスを見つけて……

「ぐっ…ぎっ!?」

「テメェ、いくらモテないからっていい大人が、こんな小さな子に言い寄って恥ずかねぇのか」

違った、エリスを守るように横に立ち 男の腕を捻り上げているのは…男の人だ、見たことない 男の人

豪華な装飾の為された長剣を腰に差し、剣とは反対に小汚いローブをまとった 黒髪の男性…特徴的なのは目元にタトゥーがあるところだろうか、剣を抽象化したような不思議なデザインのタトゥー…、少なくともエリスはこの男性に会ったことはない

「いっ!?いってぇ!?お前!俺を誰だと思ってんだよ!」

「昼間から呑んだくれてるロリコンクソ野郎だろ、それともここに負け犬とか間抜けなとかもトッピングしたほうがいいか?」

「へっ、聞いて驚くなよ、俺ぁ冒険者『鱗斬のベルザガル』様だよ、冒険者協会から字を賜った二ツ字級冒険者さ」

冒険者と名乗る男は自慢げに名乗る、冒険者…確か魔物を退治たり盗賊を退治したり時に戦争に加担したり起こしたり、所謂諸国を巡る荒くれ者 腕っ節はあるけど就職出来なかった者達が最後に行き着く場所 ししょーはそう呼んでいた

だが腕っ節はある 何もないが腕っ節はある、故に強いのだとも言っていた、その二ツ字級冒険者というのはよくわからないが 彼の自信満々の態度から、恐らく彼も強いのだということが理解出来る、ともすれば エリスが抵抗しても軽く制圧できてしまうほどに…

だが、黒髪の男は それに対して反応するわけでもなく、ため息とともに肩を竦める

「おいおい、二ツ字級って嘘だろうお前…お前程度、良くて一ツ字が限度だろ、冒険者協会も余程人材不足と見えるな…」

「あんだと、…そりゃあ お前、俺『達』に喧嘩売ろうってのかい?」

ベルザガルのその言葉を待ってましたとばかりに 人混みの奥から何人か現れ 人の海が真っ二つに割れ 巨大な空間ができる、現れたのはスキンヘッドだったり上半身裸だったりみんなユニークな格好だが、共通点があるなら皆 鍛えあげられた体と 歴戦を感じさせる傷跡、そして使い古された武具を身に纏っているという事だ、軽く数えて総勢10名程度

「喧嘩も買って女も買う お買い物が大好きな奴等だねぇ、…仕方ない 俺の喧嘩はほんとは高いんだが、今日はむしゃくしゃしてるから タダで売ってやるよ、喧嘩」

そう言うと黒髪の男は 腰に差した剣を抜く…のではなく 取り外し地面に置くと、指の関節を鳴らしながら拳を握る

「あ、おい嬢ちゃん!」

「へ!?は はいなんですか!?」

「ちっと乱暴なことするからさ、俺がいいって言うまで目瞑ってなさい、いいな?」

はい!閉じて! と言う黒髪の男の合図と共に、反射的に目をキュッと瞑ってしまう


黒く 閉ざされる視界に反比例して、聴覚というのは研ぎ澄まされる、今 何が起きているのか こういうことは案外音だけでもなんとなくわかる


聞こえてくるのはやっちまえー とか ふざけんじゃねぇー とか、意味のない怒声と エゲツない打撃音 、クレアさんとかが殴って出す音の十倍は鋭かろう音だ

一瞬棍棒か何かで殴っているのかと錯覚してしまうような音が一度響く都度、怒声が一つ消えていく 一つまた一つ消えていき…時間にして30秒ほどだろうか?、そのくらい待っていると 辺りが静かになる

「もういいぜ、大丈夫かい?嬢ちゃん」

その声と共にゆっくり目を開けば、するとそこにいたのは並み居る冒険者を山のように積み、その上に座ってるさっきの黒髪の男の人だった、見たところ傷があるようには見えない、というか汗もかいてない

「あ だ 大丈夫です、怪我とかはありません」

「そりゃよかった、これで嬢ちゃんがかすり傷一つでも負ってたら、俺コイツら縛り上げて川に投げ捨てなきゃ気が済まないところだったぜ」

なははは よかったよかった と朗らかに笑うこの人の笑顔は、なんだかデイビッドさんのような寛大さを感じさせる、多分…多分だけど いい人なのかもしれない、そう自然に思わせる何かがこの人にはある

「あの、ありがとうございます 助けて頂いて」

「別に構わねぇよ、俺は 子供を泣かす奴と俺の好きなこの国を汚す奴が許せねぇんだ…コイツらは両方とも満たしてたからな、…それよか いくら皇都とは言え、商業区画をがきんちょ一人で歩くなんてオススメしないぜ?」

「いえ、一人で歩いていたのではなく 迷子になってしまいまして」

「ああ…成る程ね、迷子か 確かにこの辺どこ見てもおんなじ景色だからな、そりゃ迷うか…俺も今でもたまに迷うしな、うっし 丁度いいや 暇してたし、分かるところまで送ろうか?」

そういうと黒髪の男性は冒険者の山から軽く飛び降り、服の埃を落とすとそのままこちらに手を差し伸べてくれる、助けて くれるのだろうか、見も知らないエリスを

「あ…ありがとうございます、助けて頂けるんですね」

「そりゃ ここまでやっといてハイおさらばはないだろ、…んぁー えっと 嬢ちゃん名前は?、いつまでも嬢ちゃんじゃ不便だしよ」

「名前ですか?、エリスの名前はエリスです」

「ふーん、いい名前じゃんか エリス」

地面に置いてある剣を取ると共に、エリスの手を取って握ってくれる…これは クレアさんやししょーのように、エリスのことを気遣ってくれる人の握り方だ、淡白な反応ながらも 歯を見せて笑うこの人の顔は 太陽のように眩しい

「あの、 よろしければお兄さんの名前を聞いてもいいですか?」

「えっ!?お 俺の名前?…ま …まぁ子供にならいいか」

なんだろう、名前を聞かれ あからさまに挙動不審に周囲の視線をを気にしたりエリスの顔を覗き込んだり、…急に怪しくなったな、 いやもしかしたら彼にも何かあるのかもしれない、…いやいや誰でも彼でも怪しんではいけないか

そうエリスが内心で納得していると、彼も決心がついたのか ゆっくりと口を開き…

「俺の名前はヴェルト、気のいい旅人とでも思ってくれ」

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