孤独の魔女と独りの少女

徒然ナルモ

文字の大きさ
上 下
99 / 308
五章 魔女亡き国マレウス

デルセクト外伝・同盟首長の一日

しおりを挟む

デルセクト国家同盟群、世界随一の生産力と経済力 そして技術力を誇る絢爛なる大同盟

建築様式 生活習慣 そのどれもが他国とは数世紀分も離れており、この国に観光に来た者達は皆『まるで神の国に来たようだ』『これが同じ世界にある国とは思えない』など憧れのため息と共に賞賛する

まさしく 栄光の国…それこそがデルセクトだ

「…すまんな、遅れた」

黄金で装飾された豪勢な扉を潜り 目に刺さるような赤い絨毯を踏みつける、ここはそんなデルセクト国家同盟群の中で最も栄えている 華やかと称される中央都市ミールニア、その一角に存在する絢爛なレストランに軍服を着込んだ青髪の女性が現れる

顔立ちは若い、されど目は鋭く 油断なく周囲を見る目と険しい表情は彼女を年齢以上の物に見せる、あの目に睨まれて彼女を若造と罵ることができる剛の者は少なくともこのデルセクトにはいない

「おお、お待ちしておりました メルクリウス同盟首長殿、お席はこちらに 最上の物をご用意してあります」

するとそんな青髪の女性…メルクリウスに駆け寄るように小太りの背の低い中年の男が揉み手摺り手で寄ってくる、甘えるような猫なで声で全身を使って歓迎の意を示す男を前にメルクリウスは目もくれずため息をつく

「すぐに帰る、端席でも構わん」

「いえいえそんな、同盟首長様が我が『レストラン・アメティスタ』へお越しになったのですから 至上のおもてなしをさせていただくのは当然のことかと」

同盟首長…正式に言うなればデルセクト国家同盟群首長、この幾多の王侯と小国が寄り集まって出来たデルセクト国家同盟群を束ねる立ち位置にいる存在 、本来なら同格の存在同士でなされる協定であるはずの同盟達の一つ上に個人で立つ者 それこそが同盟首長

それこそがメルクリウス・ヒュドラルギュルムなのだ

(はぁ、来たくなかったなぁ)

メルクは心の中でボヤく…

エリスと別れ ラグナと会談し、さらに年月が経った…私も今や16…もう子供とは言えない年齢になり、同盟首長の座を正式に就任 今はこうして仕事とフォーマルハウト様の修行を繰り返す忙しい日々を過ごしているのだ

特に最近は忙しい、というのもデルセクト国家同盟群の柱たる五大王族の一人 ソニア・アレキサンドの失脚に伴い空いた空席、そこに座る者が決まっていないのだ

古来より五大王族の任命は魔女フォーマルハウト様が行ってきた、…のだが 今はその役目を諸々引き継いだ私の仕事ということになっている、つまり 新たな五大王族を決める権利は私が持っていることになる

そう、発表された途端まぁえらいことになった、デルセクト中の王侯貴族が私に擦り寄り始めてきた、私を五大王族の末席に…とな

経験が浅く若い私なら魔女様以上にうまく丸め込める事ができると踏んでのことだろう、もう連日色んな王族が翡翠の塔へと押しかけてきてとてもじゃないが仕事も修行も手に付かん

されどデルセクトは同盟だ、同盟に所属する王侯貴族達の力あってこそ成り立つ、無碍にも出来ない だから今日もこうしてとある王族の呼び出しを受けこのレストランへやってきたのだが、はぁ面倒くさい…仕事したい 修行したい

「どうぞどうぞメルクリウス様、こちらです」

小ぶりの中年、おそらくこのレストランのオーナーであろう人間がクネクネした動きで私を奥へと案内する

…『レストラン・アメティスタ』、デルセクト内でも有名なレストラン、と言っても有名なのは味じゃない 、ブランドと言おうか名前と言おうか、豪華な食材を有名なシェフが作る ただそれだけで有名になっただけのレストランだ

そんな店のオーナーが態々私を案内する、まぁ これはどこに行ってもそうなのだがみんな私に気に入られようとこれでもかというくらい歓待してくれる

なんせ私は同盟首長だ、デルセクトのトップだ 世界一金持ちの国と言われるデルセクトを統べる私は必然的に世界一の金持ちとも言える、正直信じられないぐらい私は今金を持っている 

私が今から10人くらいに分裂して世界中で酒池肉林の生活を五十年続けてもなくならないどころか逆に収入が消費を上回り減ることはないだろう、もう貯金を数えるのが億劫になるくらいの富豪になってしまったのだ

…そんな私が気に入って贔屓にすればその店は天下を取れるだろう、だからみんな歓待してくれる 気に入られようと…まぁ私としてはいくら歓待されても根が貧乏人だからあんまり嬉しくないんだがな、逆に萎縮しちゃう

はぁ、地下で硬いパンを齧っていた頃が懐かしい、あの頃に戻りたいとは思わんがな

「こちらでスティーブン・オレイカルコス様がお待ちでございます、オレイカルコス様は我が店を気に入ってくださっていつも贔屓にしてくださるのですよ、我が店の料理と対応は他の店とはまさしく比べものにならぬと…」

「待ってるんだろう、早く通してくれ」

店の一番奥 一番豪華そうな扉の前で何たらかんたらと申すオーナーに一喝すれば彼はワタワタと慌てて扉を開ける、ここはオレイカルコス殿の贔屓の店だったか まさしく彼にとってはホームとも言える場所か…

オレイカルコス…今から私が会食する王族の名だ、デルセクトの中でも有数の歴史と力を持つ王族で…おっと、私もボーッとしている暇はなかったな

「失礼します」

開けられた扉を潜り一礼、いくら同盟で一番えらいとは言え私はまだ若輩 礼儀を欠いていい理由はない

「おお、メルクリウス様 ようこそおいでくださいました」

通された個室は広く そして豪勢だ、というか壁も机も椅子も 上に乗せられた皿の数々も全て金で彩られており、よく言えば豪華 悪く言えば下品、いや下品だ 良くも悪くもない 下品極まるな、この店の趣向なのだろうが…趣があるとは言えんな

その部屋の中央で席に座り両手を広げて歓迎してくれる大柄で恰幅の良いおじさま、鼻の頭にはイボがあり上に広がったデコにはシワとシミ お世辞にも綺麗とは呼べぬ風体は彼の身につけている豪華な装飾で相殺されている節がある

彼こそ私をここに呼び出し会食を申し出た人物 名をステューブン・オレイカルコス…オレイカルコス家の当主にして一国の王

オレイカルコス家はかつて と言っても数百年前だが、五大王族としてデルセクトで名を轟かせたこともあるほどの名家中の名家、ただ贅沢を好む性質を持ち その性質のせいで国庫を空にしてしまい 五大王族の座から転落した経緯を持つ家でもある

最近は節制して権威を復活 ではなく、物は試しで国家ぐるみで始めた運送業が大当たりし国が再び潤い始め、またこうして大好きな贅沢が出来ているのだ

このスティーブン殿は父親が始めた運送を更に鉄道に絡めますます財力を高めている今一番勢いに乗っている人物でもある

「今日は招待していただき、ありがとうございます…このような豪勢な場にお呼びしていただけるなど、光栄です」

「そうでしょうそうでしょう、何せこのレストランはデルセクト随一の値段の高さを持つ超高級店 、我が自慢の店ですからなぁ、ぬっはっはっはっ」

スティーブン殿はくるりと一回転した髭を自慢げに指で伸ばしながら腹を震わせながら笑う、値段が高いのか そりゃ高いだろうよ、だってキンキンラキンだもん って思うのは私が貧乏人だからか?

「さぁどうぞ、おかけになってください、料理はすでに仕上がっておりますぞ?」

「これは失礼しました、では」

と言いながら椅子に座り 目の前の料理を眺める…、こ こんなに大きな皿にたったこれだけしか乗ってないのか?ってくらいしか皿に乗ってない、豆粒が数粒だこれいくら食べてもお腹いっぱいにならないのでは?

「あの、スティーブン殿?これは?」

「む?、これですか?分かりません ですがとても高いらしいですぞ?、確か古代の王族が特に好み食べた高級品だとか、金さえあれば時を超えこのように卓に並べることができるのですからなぁ 今の時代でこその贅沢と言えましょう」

食うものの名前くらい把握しておけよ…、とは言わずフォークを手にして豆を掬い食べる、マスターに弟子入りしてよりそこそこの年月が経った…あの方の修行には錬金術の向上以外にもこういった場での礼節などの内容も含まれている

とはいえ、これが難しいのが軍人の礼儀と王侯の礼儀とは全く違うもので、上手くなれない部分が多いのだ

「とても美味しいです、スティーブン殿」

「ぬっはっはっはっ、この豆は一度に数量しかとれぬ貴重な品 その中でもさらに選りすぐりのものですからなぁ」

そうか?、美味いものは一個獲れようが百万獲れようが美味いものは美味いと思うのだが、貴重であればあるほど良いというデルセクト貴族たちの常識はイマイチ分からない

まぁ事実美味いからなんともいえないがな、味は濃くない 薄いとも言えるが、鼻に抜ける僅かな香りが食欲を掻き立て胃袋を起こし、体を食事を行う状態へと移行してくれる 、少量なのは別にこれで腹を満たすためではないからだろう

「では次の料理を持ってこさせる間に、本題に入りましょうか」

そういうとスティーブン殿は執事にワインを開けさせ、グラスには注がず手元に置いてガボガボとラッパ飲みで飲むと、本題 それを口にする

本題とは何か?、など思うことはない ここ最近その本題を何度話したか 、一週間の間に10や20じゃ効かない程 その話ばかり持ちかけられる

内容は一つだ

「メルクリウス様、五大王族の席に座る者は誰が決まりましたかな?」

五大王族…先ほども言ったがまだ空席となっているその席の話だ、五大王族になればそれなりの権威と影響力を与えられる、何より『我こそは五大王族である!』と名乗ることができる、たったそれだけで 権威と財力がモノを言うこのデルセクトでは無敵に近い力を得ることができるのだ

彼もまた 五大王族の空席の座を狙っているのだろう

しかし

「いえ、…まだ」

まだ、誰を後継にするか 明確には決まっていない…あまり空席を長いこと放置したくはないが、明確に決めることが出来ないんだ

五大王族に求める条件は三つ

一つ 『財力があり 権威があり、そして国内が安定していること』
仮にもデルセクトの顔となる王族だ、木っ端な王族には務まらない、ゲスな話だが 結局金がなければ意味がない

二つ『良識があり、信用ができること』
これは私が勝手に思っていることだが、ソニアのようなことを繰り返してはいけない、五大王族の力を使って同盟を引っ掻き回してやろう、なんてもってのほかだ だから良識があり…かつ私自身信頼出来る人間を選びたい

三つ『他の五大王族や王侯貴族達にケチをつけられない人物であること』
これは一つ目にかかってることだが、他の人間からあんまりなめられていると同盟の足並みを揃えられない、我こそは五大王族なり!と名乗り周りから反感を買わない人物…それが望ましい

この三つを満たした人物が五大王族になるべきだと私は思う、スティーブン殿は一つ目三つ目を満たしてはいるが、信用できるかといえば否だ

理由は単純、散財が過ぎる また五大王族に任命した結果破産して零落、なんて真似をすれば私自身の信用にも関わる、私はまだ若輩者だ この選択を誤れば『やはりあいつには同盟首長は務まらない』なんて実しやかに囁かれることになる、そう思われたら終わりだ

「我々オレイカルコス家は歴史も長い、五大王族を務めた経験もある、何か困ったことがあればいつでも頼ってくれて構わないのですよ?」

誰が頼るか、頼ればつけ込まれる…マスターはそう言う人間も利用する器量を手に入れろと言うが、私にはまだこの男の手綱を引く自信はない だからまだ関わりたくない

「ありがとうございます、スティーブン殿」

顔で笑い心で睨む、誰が信用できて 誰が信用できないか、それを見極めるのは大切だ 

…そういえばかつてエリスに似たようなことを語ったな、信用できるか出来ないかで語れば誰も信用できなくなると…、エリスに説教した私自身がその状態に陥っているのだ

今の私を見ればエリスはなんと言うだろうか、嗤うか?怒るか?…いや彼女はまた私に力を貸すと言ってくれるだろうな、だがこれは私の問題だ 私自身で解決したい

「お待たせしました…こちらが本日のメニューになります」

そう言ってこのレストランの人間が持ってくるのはまた僅かな肉や魚…、切れ端と呼んでもいいくらいの大きさだ

「…小さいですね」

思わず私が口にすると店の人間はそれを予測していたように答える

「どれも最高級の牛や至上の魚の、最高の部分だけを贅沢に使っております、当レストランは最高のレストランを自負しておりますので、最高の部分以外の食材は使わないようにしているのです」

「他の部分は?」

「全て捨てております」

そうか、捨てているか…勿体無い気もするがな、エリスなら野菜の皮とくず肉だけで最高の料理を作って見せた、あれより美味しいシチューに私はあれ以降出会ったことがない…

なんて思うのは私が貧乏人だからか…

「むはははは、流石だな この一口で金貨数枚の値段があると思うとより美味く感じるというものだ」

この人は料理を食べているのか?それとも金を食っているのか?、やはり合わないな 金持ちの暮らしというのは、まぁこういうものを食べられる 遠慮なく消費できる というのはある種のステータスではあるのだろうがな

些か浅ましいとは思うが

「そうだメルクリウス様 今日は紹介したい者がいるのです」

「紹介したい者?」

「ええ、入りなさい」

紹介…このパターンは初めてだな、なんて身構えていると部屋の扉が軽くノックされ 静かに開けられる…

「失礼します」

入ってきたのは少年…いや私と殆ど変わらない年齢の青年だった、些か童顔であったため勘違いしてしまったが、うん がっしりした体つきと声変わりをしたこの野太い声は間違いなく青年だ

身につけている服飾も豪華なそれであり、貴族の坊ちゃんといったところか?そんな彼がスティーブンの声と共に部屋に入ってきて 軽く私に一礼をする、…誰だ?

「おい、自己紹介しなさい」

「はい、お父様…お初にお目にかかります メルクリウス様、ぼ 僕がユージン・オレイカルコスです」

「ユージンは我が息子でございます、私の後継で数日後には正式に玉座に座ることが決まっております」

息子 後継か、スティーブン殿とは似ても似つかない程に美しい顔つきだな、それに厚顔なスティーブンとは違い優雅な一礼 躾が行き届いているのだろうな、まぁ玉座に座る前から不遜な態度を取っているようじゃ先が思いやられるという者だが

…しかし、なんだ?さっきの自己紹介おかしくないか?、『僕がユージン』?僕はユージンじゃなくて?緊張で噛んだか?、なんて思っているとユージンはなんの断りもなく私の隣に座る

「…初めましてユージン殿」

「…………」

何勝手に隣に座ってるんだよという気持ちはおくびにも出さず 勤めて笑顔で対応すればユージンは目も合わせず言葉も返さない、なんだこいつ

「いや私ももうそこそこの歳とはいえまだまだ現役でやっていけるのですが、スマラグドスやサッピロスは共に若い王が統べ 魔女様もまた若きメルクリウス様に座を譲られた、時代は若い世代中心の物になろうとしているようなので オレイカルコスもそろそろ若い風をと思いまして」

「なるほど、確かにユージン殿はザカライア殿やレナード殿と年齢も近いでしょうし、歳も近ければそれだけで交友関係も結べそうですしね」

まぁ仲良くするのは難しいだろうがな、ザカライア様は一度仲良くなってしまえばこれ以上なく義理堅い男だが あのチンピラ気味の態度は周りの人間を寄せ付けない、レナード様に関してはあれは仲良くする以前の問題だ ザカライア様以外目に入ってないからな

「…………」

相変わらずユージンは黙ってテーブルを見つめている、料理を食べたいのかと思えば料理そのものには目がいってない、なんだ…何を考えている、さっぱり分からない

「ええ、まぁ私としてはザカライアやレナードではなくメルクリウス様と仲良くしていただきたいのですがね」

「…ッ!?お父様!!!」

スティーブンの言葉を受け跳ねるように立ち上がるユージン、その顔は赤く慌てているように見える

私と仲良くか、まぁ 分からんでもない、同盟首長と単純に交友関係を結ぶ たったそれだけで五大王族以上の権威を得ることができるだろう、彼の狙いはそれか…だから歳若いユージンをわざわざ同席させたか

「ユージン殿 落ち着いてください」

「あ…は はい、すみません…、その…メルクリウス様は…友人とかって いるんですか?」

なんだと!?私にだって友人の一人や二人くらいいるわい!と言いたいが本当に一人二人しかいないところが悲しいところだ、歳の近い友人といえばエリス…そして話した期間は短いがラグナかな、彼とは案外にも気が合う 歳若くして魔女の弟子となり国のトップに押し上げられた苦労を共有できるのは彼くらいしかいないからな

「そうですね、私の友人は今の所 エリスとラグナの二人くらいでしょうか」

「ラグナ…というと、アルクカースの大王 ラグナ・アルクカースですか?」

「ええまぁ、以前会談した時意気投合しましてね 親しいとまで言える関係ではないですが、私は少なくとも彼を友人だと認識しています」

「…………そうですか」

なぜ落ち込む、不可解だ あまりに不可解、一度二度の奇行ならば緊張故と見逃そう、だが些か不審が過ぎる、疑われても仕方がないぞ ユージン殿

「失礼ですがユージン殿?、私は何か 貴方に嫌われるようなことをしましたか?」

「えっっ!?」

こう言うことを口に出すのは良くない事だ、嫌われると察したら その心はうちに秘めておくのが正解だ、だが ここは王族と同盟首長の席…暗にその無礼を指摘するように微笑む

すると彼は何を勘違いしたのか

「そんな、嫌いになるなんて そんなことないですよ!」

伝わってないな、というか…うーん これは私の考えすぎか?、さっきから変じゃないか?

嫌いではない ではなく嫌いにはならない、些細な差だが…事実差はある、その言い方だとまるで

「ははははは、我が子ユージンはメルクリウス様に恋心を抱いているのですよ」

「父上!」

「は?、恋心?ってことは…」

私のことが好きなのか、ライクではなくラブという意味で、チラリとユージンの方を見ればその顔は真っ赤に染まっており

「そ…その、それはそのえっと」

「それは事実ですか?ユージン殿?」

「あ…あの、…はい」

そうか、好きなのか 私のことが…

いや、私とて好きと言われれば嬉しいし 愛してるなんて甘い言葉に夢を見ないことはない、彼の恋心は純粋に嬉しい

だが、だからと言って言葉と形で答えるかはまた別だ、少なくとも今の私にそんな自由はない、もし私がユージンとは言わず何処かの誰かと結ばれれば その伴侶となるものは、絶大な力をデルセクトで持ち得ることになる、それが良い結果を産めばいいが…私としてはそういう想像は今の所できない

すると私が何か言葉を続けるよりも早くユージンは立ち上がり、何か懐から取り出して

「見てください!これ!」

「これって…本ですか?」

「はい!、今コルスコルピで流行っている占いの本です!」

占い…って確か 未来を見たりとか運勢を見たりとかなんとか、曖昧なあれか 、いや私とて知り得ている、が 私はこういうのがあまり好きじゃない

誰かに勝手に将来を一方的に言いつけられているようで好きにはならない、例え占いに書いてある通り幸運が訪れてもそれは私の力で勝ち取ったもので、占いの通り不運が訪れてもそれは私の不注意で巻き起こったもの、私は私の行動に責任を取る

それに、占いは魔術ではないのだ 

何せ如何に魔術を使っても未来を見ることは能わぬからだ、一応未来を見る魔眼があるため不可能な魔術としてカウントこそされていないが、それでも数秒程度しか先しか見えないから…そんな将来のことまで見通すことなどできないのだ

故にこれはただただ胡乱でしかないただのオカルトでしかない、信じるに値しない それが私の評価だ

それで、彼の取り出した占いの本とやらを開いて中を見せてくる

「占い…ですか」

「はい!、しかもこれ あの伝説の占い師にして時詠みの導師 ユースティティア・クレスケンスルーナ様が自ら執筆された霊験新たかで厳かで神秘的な逸品なんですよ!これを買い付けるのに僕は領地の村一つ売り払ってしまったほどですよ」

誰だそのユース…なんたらとは、ややこしい名前な上に胡散臭い奴だ…というか待て!そんな本一冊の為に土地を売っただと!?、何考えてるんだこいつ!、お前の領地はお前の国のものだろうが!その国はデルセクトの一部なんだぞ!、何を…何を考えてるんだこいつ

「この本によると、僕とメルクリウス様はまさしく運命で結ばれる定めにあると書かれているんですよ!、メルクリウスさんは僕の将来の伴侶なんですよ!」

「将来の伴侶?」

私としてはその土地を売ったという件の方が気になって話が入ってこない、なんだって?運命が?結ばれる?私とユージン殿が?…ふむ、分からん 何を言ってるんだこの人は

「つまり、…何が言いたいのですか?」

「何言ってるんですか 本当はメルクリウス様も意識してるんでしょう?運命を!、ええそうです 僕もですよ!僕とメルクリウスさんは将来的に結ばれる運命にある…それを知った瞬間僕は貴方に恋い焦がれたのです、いつか結ばれる妻が こんなにも美しく気高いなんて…ああ!、運命万歳!、メルクリウス様もきっと同じように思っていると信じてますよ!」

つまり何か?その本に運命の相手が野良犬ですと書かれていたらこいつは野良犬に欲情するのか?、私と書かれていたから私に恋い焦がれたって それ私じゃなくてもいいじゃないか

決められた運命に恭順して能天気に生きる気持ちも分からんし、本に書いてある文字の羅列を鵜呑みにして人生を預ける気持ちもまるで分からん

……それに、ユージンの見せてきたページを読んでみると

『貴方の運命の相手は真面目で凛々しく、献身的で美しい青髪の女性で高貴な立ち位置に立つ女神のような人でしょう』

なんて書かれてる、これを私か?私じゃないだろ 共通点って青い髪くらいしかなくないか?別に私献身的じゃないぞ

「この本にはいつ結婚するかまでは書かれてませんが、結ばれれば幸せになることは確実と書かれています!」

「は…はぁ」

「あっはっはっ、すみませんなぁメルクリウス様、我が子ユージンはそう言った魔術ならざる力が大好きでしてな、昔からそういうものに傾倒しておるのですよ」

止めろよじゃあ

「メルクリウス様!いやメルクリウス!僕たちは結ばれる運命だ!結婚しよう!、そしてこの本に書いてある通り桃色の屋根の家に住んで 玄関口に水色のツボを置くんだ、そうすれば子宝に恵まれるし…ああそうだ!仕事もうまくいくと書かれている!きっとデルセクトという同盟も更なる隆盛を……」

くだらないな、何か言っているけど もう聞く気にもなれん、本に書いてあるから…誰かが言っていたから、別にそれを好むことを悪いことと断じるつもりはない 一つの指標としては役に立つ、こういう小さなことが存外バカにできない大きなことにつながることも理解している

だがあくまで一つだ、全てじゃない それに人生を委ね、ましてやその言う通りに動くなど言語道断、こんなものの為に己の役目たる領地を手放すなど言語道断を通り越して論外だ

目の前に押し付けられる本を押しのけ、ユージンを睨む…

「ユージン殿、悪いが…貴方と私は、どうやら合わないようだ」

「な…何を言って、この本にも相性はバッチリだと…」

「やめろ、占いを好むなとはこの際言わん 傾倒するなとも言わん、飽くまで趣味だからな…だがな、趣味は趣味だ 他人に押し付けるな」

「お 押し付けてなんか…実際僕たちは運命の糸で…」

「しつこい人だな…、もう良い 貴方たちの人柄は理解出来た 今日はここまでにさせていただく」

そう言いながら席を立ち、踵を返す 、食事の席を途中で放棄するなど礼儀としてなっていないのは理解している、だが 礼節を尽くさない相手にこれ以上礼儀を払う義理はない、ましてや五大王族の座にだと?仕事もろくにしない人間に任せられるか

「ま 待ってください!メルクリウス様!」

「ユージン殿!、はっきり言いましょう…私は貴方を伴侶と迎えることは絶対にない、そして、オレイカルコス家を五大王族に召上げることもな、それでは失礼する」

「なっ!?なぜっ!?最高級の店を用意したと言うのに!?」

「それが分からないからですよスティーブン殿」

汚らしく汚した奴のテーブルと 下品にラッパ飲みのされた酒瓶、踏ん反り返った態度に 不真面目な態度、悪いが これで好印象を覚えろと言う方が無理だ、礼儀とは両者が尽くす者 無作法で答えれば帰ってくるとは無作法だ

立ち上がり慌てるスティーブン殿と茫然自失のユージンを置いてレストランの扉を閉める

「あ…あの、当店はいかがでしたか?…」

すると扉の外で待機していたこの店のオーナーが顔を出し私の機嫌を伺う、私の機嫌を伺うなら 今の私がご機嫌に見えないことくらい察しろ

「もう立ち寄ることはないから安心しろ」

「へっ!?メルクリウス様!?メルクリウス様っ!?」

引き止めるオーナーを振り切りカツカツと軍靴で怒りを奏でながらレストランの入り口を跳ね飛ばすように押し開ける、全く嫌な気分にされたよ…少なくともオレイカルコス家が五大王族の候補に名を連ねることはないだろう、彼等のような己の立場に無頓着な者に任せれば 今度はどこを売り払われるか分かったものじゃない

「全く……」

扉をくぐれば霧と蒸気で普段は空には分厚い蓋がされているこのミールニアの街にしては珍しく太陽の光が私の顔を照らす

ふと、目の前を見れば 十数人ほどの軍服を着込んだ者達が私を外で待っていた…

ああ、利口にも店の外で待っていたのか、みんな…

彼等は私の部下 というか、私のサポートをする者達 同盟首長直属の部隊 『混成隊アマルガム』

様々な部隊から様々なプロフェッショナルを 血筋や立場関係なく揃えた完全実力主義の私にとって虎の子の部隊さ、私一人では上手く仕事を回せないからな 有能な彼等がいてこそ、私は今日まで同盟首長をこなせているのだ



「メルクリウス様、オレイカルコス家との会食はいかがでしたか?」

ふと、混合隊アマルガムの中から一人 一歩前へ出て恭しくも私に頭を下げる女性がいる

紫がかった黒髪はまるで濡れているかのように艶やかに輝き、中指でクイとあげる銀縁の眼鏡は彼女の苛烈なまでに真面目な気質を形で表しているかのようだ、美貌と呼ぶには些か野暮ったいというか キツい目つきをしているが、これも彼女が仕事に対して真摯だからだ…少なくとも私はそう思っている

彼女の名はミレニア・クリソプレーズ…私がこの同盟首長についてから秘書として側に置いている方にして、一応 混成隊アマルガムの隊長を務めている人でもある

その性格を簡単に言い表すなら『真面目一徹』、不正を嫌い 品性を重んじるその性格は腐敗したデルセクトにおいて貴重な人材だ

…まぁ、あんまりにも真面目すぎて私が見つける前は軍の末端で経理をさせられていたのだがな…

「いかがも何も、嫌な気分にされたよ…」

「国王とは言え 招く側になったからには、持て成しに全霊をかけるべきです…それが出来ないというのなら彼等は役目一つこなせないということ、これ以上気にかけることはないでしょう」

…真面目なんだが些か口が悪いんだよな、というか物言いを遠慮しない…こりゃ出世できないよな

聞けば妹がいるらしいが、その子は他国に渡って 他所で働いているらしい、どこで働いているかまでは分からないが、ミレニア曰くかなり不真面目らしい…


「殺しますか?メルクリウス様」

するとミレニアに続いて小柄な男の子が前へ出る、血色の悪い肌 ボサボサに伸びきった純白の髪 そして不健康そうな目の下のクマ、お世辞にも小綺麗とは言えない身なりの子供が 枯れたような声で言うのだ…殺すかと

「シオ…王族は殺すな」

「ん、わかりました」

彼は私が一言いい含めれば言うことを聞いておずおずと頭を下げる、彼の名は『シオ』

元々あの地下で生まれ 地下で育った捨て子だ、それを拾ってアマルガムに入れているのだ、つまり彼も私の部下ということになる

…言っておくが、別に捨て子で可哀想だからと温情で彼をアマルガムに入れたわけじゃない、彼は天才なのだ 銃を扱わせれば、それこそソニア様に匹敵する程の銃の名手、私がもしここでゴーサインを出せばシオは無感情にレストランに突っ込み スティーブンとユージンの額に一発で風穴を開けて帰ってくるだろう

もし私が拾わなければ デルセクト中を震撼させる殺し屋に育っていただろう、そう思わせるほどに シオの銃弾は情け容赦がない

「メルクリウス様がいうなら…やめます」

問題点があるとするなら、私の言うことしか聞かないくらいか

シオは私に拾われたことにこれ以上ないくらい恩義を感じていてくれているらしく、私のためならなんでもするし 私が言えば何もしない、それが厄介に運ぶときもあるがまぁ私の言うことだけでも聞いてくれるのはありがたいが

「まぁまぁ、物騒な話はこう言う往来じゃやめましょうよ皆さん、ほら怖いでしょ?軍服着込んだ集団が街のど真ん中で殺すだとなんだと言ってたら、それこそ治安維持隊呼ばれちゃいますよ」

「ああすまないトリスタン、君の言う通りだ」

すると往来で話し合う我等にまぁまぁと割って入る男性が一人、細く糸のような糸目に猫や狐のような印象を与えるやや胡散臭い顔立ち、やや目に痛い金髪…いや黄髪か、それを揺らすはトリスタン・サルファー 彼もまたアマルガムの大切な一員だ

彼の語り口は誰しも聞き入ってしまうほど不思議な声色をしており、口の達者な青年で我等アマルガムの交渉役や窓口を担当している

元々貧乏商家の出で上へ上がれるコネのようなものを持ち合わせていなかっただけで、彼は十分 この軍部で勝つやつできるだけの実力を持っていると、私は彼をアマルガムにスカウトしたのだ

「ほらほらミレニア隊長も怖い顔しないで」

「……分かりました」

「シオ君も メルクリウス様が周りから変な目で見られるのは嫌だろう?」

「……嫌だ」

「なら決定!、こんなところで屯してないで帰りましょ帰りましょ」

「そうだな、では とっととこんなところから退散するか、…みんな」

軍服についたコートの裾を翻し踵を返せば、ミレニアもシオもトリスタンも、他の隊員達もまた続く

混成隊アマルガム、計三十余人の部隊…人柄 生まれ 経歴…凡ゆる問題から掬い上げられなかった実力者達だけで構成されたスペシャリスト集団、同盟首長の手足となって動く彼等を人は『権力の泥犬』『何でも屋集団』など揶揄することもあるが

私にとっては大切な仲間だ…、私に出来た新たな仲間達だ

…思うのはエリス、我が無二の朋友…みんなにも君のことを紹介してあげたいよ

………………………………………………

同盟を取りまとめる職務を背負った同盟首長メルクリウス、元々親の借金のせいで地下に暮らしていた経歴を持ちながら 突如として異例の大出世を果たし、魔女の後継者に選ばれた彼女は今 地下ではなく地上に住まいを得ている

ミールニアの中でも一等地と呼ばれるセレブと貴族だけしか立ち入ることのできない領域、その中でも更に際立って良いとされる地区に彼女の家はある

元々栄光の魔女フォーマルハウト様が夏の暑さを凌ぐ為の避暑用の宮殿として用意したとされる離宮であり、このデルセクト同盟の中で最も壮麗で最も大きいと言われる宮殿

それが今のメルクリウスの…私にマスターより与えられた居宅だ

その名も『ピスケス・アウストリヌス・デルセクト・ミールニア・フォーマルハウト大夏離宮殿』

あんまりにも長いもんだからみんな頭文字を取って『ピア宮殿』なんて影では呼んでるらしい、私もそう呼んでる

ピスケスはフォーマルハウト様が昔赴いて感銘を受けた国の名前

アウストリヌスはこの宮殿の建設に携わった人間の名

デルセクトはこの同盟の名

ミールニアは建っている場所の名

フォーマルハウトはそのまま、持ち主の名

それを全て乗っけたらこうなったらしい、もう少し短い名前にすればいいのに…

まぁ今では呼び名も普通にメルクリウス邸なのだがな、フォーマルハウト様だけ昔の名前をフルネームで呼ぶが


「おかえりなさいませ、メルクリウス様」

「ああ、帰ったよ」

本日の同盟首長としての仕事を粗方終えた私は、自らの居宅たるこの宮殿へと帰ってきたのだが、私が帰ってくる都度 ズラリとメイドや執事が並んで私を出迎えてくれるのだ

あの地下のボロ屋からこんな大宮殿に居を移すことになるとは、あの時は思いもしなかったな…、まぁ栄えあるデルセクトのトップが地下暮らしは格好がつかないからな、というかほぼ無理やりフォーマルハウト様に引越しさせられたのだがな

お陰で私は借金で首の回らない小娘から世界一の金持ちに早変わりだ、とは言えいくら偉くなろうが金を得ようが 偉ぶる気にはなれない、私には役目があり使命があり 軍人である、そこは変わらない

「お夕食の支度は整っております」

「そうか、ありがとう」

「もったいなきお言葉で…」

礼を言えば恭しく執事は首を垂れる、…こう 執事を見ているとエリスを思い出す、懐かしいな 

巨大な宮殿の扉がメイド達によって開かれ、荘厳な宮殿内部が目に入る、もう夜だというのに 宮殿の中は光り輝いている、伊達に栄光の魔女が住んでいた宮殿ではないな そんじょそこらの王城よりも数十倍は豪勢だ

「ふぅ、疲れたな…」

軍服のコートを執事に預け 凝り固まった肩を自分でほぐしながらエントランスを歩く、すると

「…メルクリウス様、お肩をお揉みしますか?…」

「ん?、ああいや 結構だよ、シオ」

私のすぐ側をトボトボと歩きながらついてくるシオの姿がある、そう 混成隊アマルガムのシオだ、この子は元々地下の路地に住んでいた捨て子…家もないし金もない

一応同盟首長の私に仕える栄えある軍人が引き続き地下や路地に住むわけにもいくまい、この子は一介の軍人とは言えまだ子供 故にこの子だけは私の宮殿で引き取り、一緒に住むことにしたのだ

何、あの地下の家と違ってこの宮殿は死ぬほど広い、あと千人二千人拾おうとも窮屈に感じることはあるまい

「シオ、軍服から着替えて来なさい、軍服は軍人の命だ、夕餉で汚してはいけないよ」

「はい、メルクリウス様」

私に命じられればそそくさと自分の部屋へと走って消えるシオの後ろ姿を見てなんとなく思う、大体の年齢になるが 確かシオはエリスと同じ年だった筈だ

まだ小柄だが、これからどんどん大きくなっていくだろうな、エリスは今どのくらいの年齢なんだろうか、こうやって別れた後も 彼女のことは常々脳裏によぎる

「………」

…シオも戸惑っているのかな、路地に住んで鼠を食って生きてた頃から一転 、同盟首長に拾われこんなどデカイ宮殿に住むことになったのだから…、私も戸惑っているんだ あの子だって困惑するだろうに

「メルクリウス様、お耳に入れたいことが…」

「ん?、なんだ?」

シオの後ろ姿を眺める私の隣に音もなく忍び寄る執事、お耳に入れたいこと?何か報告か?、この執事はかなり優秀な部類に入る男、凡その事柄は私の耳に入れるまでもなく解決してくれるのだが…

「実は……」

耳元で小さく囁くその報告に私は…

「何ッ!?それは本当か!?」

報告を聞き顔を青くする、そんな…まさかそんなことが、分かっていたなら もっと早く帰って来たものを!、こうしてはいられないと大慌てで駆け出し報告のあった場へ向かう

くそっ!私としたことが!、夕食なんか食ってる場合じゃない!、走れ!メルクリウス!

…………………………………………

駆け出したどり着いたのは、寝室だ…私のではない 客人が泊まる用の天蓋付きのベッド、カーテンは閉め切られており、暗い ひたすらに暗い寝室 その奥のベッド…ランプの仄かな灯りに照らされた二人が、扉を開けた私の姿に気がついてこちらを見る

一人は裸だ、一糸纏わぬ裸 素っ裸だ、そんな状態でベッドの上に立ち 艶やかなポーズを決めている

もう一人は一応服を着ているものの、そんな裸の相方を眺めながら グラスに注がれたワインを揺らしながらベッドの脇に置いてある椅子に座っている

……異様な光景だ、これ以上ないくらい異様、普通なら疲れからくる幻覚と割り切ってしまいたくなるが

残念、現実だ…

ベッドの脇に座る女性は私の姿を見て軽く微笑むと

「あら、メルクリウス 帰ってらしたのね」

マスターだ、我が師栄光の魔女フォーマルハウト様がワインを揺らしながらこちらを見てくすりと微笑むのだ…

先程の執事の報告、それは

『数時間ほど前から栄光の魔女フォーマルハウト様がこの宮殿に参られております』と…

数時間も前からだ、来るという話は聞いてない だが聞いていなかったとしても師を待たせるなど弟子失格だ

「申し訳ありません、応対が遅れました」

「別に気にしてませんわ、待つつもりで来たのですもの」

「そ…そうでしたか…その、ところで…」

待つつもりで来た というのならそれでもいいのだが、チラリと見るのはベッドの上、そう さっきから裸の女性が客室用のベッドの上でずっとポーズを決めているのだ

この際ベッドの上に立ってるのはいい、ポーズを決めてるのはいい、だが何故裸なんだ…しかもその人物が

「お邪魔しています、メルクリウス同盟首長」

「ぐ…グロリアーナ総司令、、何故裸何ですか」

ベッドの上でポーズを決める全裸のグロリアーナ総司令は特に恥ずかしがるなど気まずそうな顔をするでも無く裸のままこちらに挨拶をし…ってこっちを向くな!前を隠せ!

「ああ、ごめんあそばせ?、少し暇だったので 我が至上の美術を観覧して楽しんでいたところですのよ」

「メルクリウス同盟首長もどうですか?」

「結構です、服を着てください」

…グロリアーナ総司令は、別段脱ぎ癖があるわけではない、人前で露出することに快感を覚えるタイプの趣味もない、ただ 自分の肉体に絶対的な自信を持っているだけなんだ、人前で脱ぐという行為は彼女にとってはとっておきの宝石を見せるのと同じ感覚なのだ

しかもフォーマルハウト様も美しいものであるならば物を問わず見るのが好きという最悪の需要と供給が成り立ってしまっているが故のこの珍光景

二人は夜な夜な栄光の黄金宮殿でこの全裸観覧会を二人で開いているとの噂だったが、まさかそれをここでするとは…宮殿の人間誰も見てないよな

「ふふふ、こんな夜まで忙しなく動き回るなんて 新同盟首長はお忙しいようで」

「いえ、この同盟で最も権力を持つ人間としての責任を果たすためです」

「真面目ですわね」

真面目…というより、私はフォーマルハウト様のように仕事をするのは無理だ、そもそもフォーマルハウト様は同盟首長である前に魔女だ 、彼女が言って逆らう人間はいない

対する私はただの小娘だ、そんな小娘が偉そうなことを言えば同盟首長と言えど反感を買う、ならどうするか?信頼を勝ち得るためひたすら働くしかないのだ、私の場合

「しかし、どうされたのですか?、今日は修行の予定は入っていなかったはずでは」

「いえ、すこし今日はお話をと思いましてね…、ですがそろそろ晩餐でしょう?ご飯を食べながら話しますわ、…シェフにはもう我々が同席することは伝えてありますのでご安心を?」

「そうでしたか、分かりました…ではご案内しますね」

寝室から二人をダイニングに案内する…前に、何を思ったか平然とついて来ようとするグロリアーナ総司令に上着だけでも羽織らせる、…今でこそここは私の家ということになっているが、昔フォーマルハウト様の別宅でもあった

案内なんかいらないだろうが、それでもこの家の主人として そして弟子として、客人を 師を先導するのは役目の一つだ、その私の気持ちを汲んでくれているのか フォーマルハウト様もグロリアーナ総司令も 蓋とも私の後をついてきてくれる



長い廊下を抜けて 辿り着いたのはダイニング…なんて、家庭的な言い方は似つかわしくないほどに広く絢爛な大部屋だ、壁には黄金の彫刻が幾重にも彫り込まれており、立てかけられた絵画はどれもフォーマルハウト様の美しい姿が描かれている…そしてその題名と共に掘られた名前はどれも歴史に名を残す大芸術家ばかりだ…

私が部屋に着く頃には既に長テーブルの上には料理が並べられている、ちゃんと四人分 私とシオとグロリアーナ総司令とフォーマルハウト様の分

ふと見ればシオは小綺麗な洋服に着替えて従者達と同じよう壁際に並んでいた

「シオ、君は従者じゃない ここの住人だ、こちらに座りなさい」

「…はい…」

別に従者とシオを差別するつもりはないが、区別するつもりはある

シオはあくまでここの住人、私と同等の扱いを受けさせるよう従者のみんなには言ってある、勿論シオがここの従者として働きたいと言えば 彼もほかの従者達と同じ扱いをする

だから彼がここの住人である限り、従者のような真似をする必要はないのだ

「シオ、マスターとグロリアーナ総司令だ、挨拶しなさい」

「…こんにちわ、魔女様 総司令様…」

ぶっきらぼうに頭を下げるシオ、別に二人を敬ってないわけじゃない、これが彼にとっての限界なのだ、最初の方はもっと言葉遣いも酷かったからな、私とグロリアーナ総司令の教育の甲斐あり 彼もここに住まうにふさわしい礼儀を身につけつつあるのだ

「御機嫌ようシオ、いきなりお邪魔して申し訳ありませんわね」

「…いえ…」

「今日もきちんと我が弟子を守ったようで何より、大義ですわ」

「ありがとうございます」

フォーマルハウト様も何だかんだシオの事は可愛がってくれている、弟子の部下 或いは護衛としてだが

「シオ 礼の仕方がなっていません、次からはもう少し流麗に」

「はい、総司令様」

ちなみにグロリアーナ総司令はあまり可愛がっていない、というより 一人の部下として厳しく接しているようだ、シオも一応軍人だ 私の直属とはいえ軍にいる以上総司令の指揮下にある、私としてはもう少しシオにもグロリアーナ総司令を敬って欲しいのだが、やはり忠義の相手は私しかいないようだ

「さ、立ち話もなんですし おかけください」



そうして、席に着く我ら四人…料理は皆豪勢、ではあるのだが 他の王侯貴族達の晩餐に比べれば些か貧相なものになる

金がないからこうなのではない、私の舌が単純に貧乏人の舌だから こう言う俗っぽい料理ばかりが食卓に並んでいるんだ、ここのシェフは優秀で私の好みを二日で把握して それから私の好むものばかりをバランスよく出してくれている

食べたい物を食べたい時食べたいだけ食べる、これそこそが至高の贅沢だと私は思っている、事実ここで普段から飯を食っているのは私とシオだけだし、こういう俗っぽい料理でも問題ないのだ

「ん、こういう料理もたまには良いですわね」

フォーマルハウト様も気に入ってくれているようだ、ナイフで肉を切り分けパクリ、その一動作だけでも綺麗なのだから流石だ…

対するシオは若干動きがぎこちない、元々無口で無表情な子だが どうやらマナー講師であるグロリアーナ総司令が目の前にいることもあってやや緊張しているようだ

当のグロリアーナ総司令は目を瞑り、黙って黙々と食事をしている …がやはりちょっと威圧を感じてしまうな

「それで、話とは何ですか?マスター」

「ん?、ああそうでしたわね…」

そういうとフォーマルハウト様はナイフとフォークを置いて、姿勢を正しながらこちらを見る

「いえ、普段はわたくし 翡翠の塔の最上階に住んでいるのですが、どうにも弟子を取ってからそこに居を構え続けるのが若干不便 というかいちいち登ったり降りたりするのが億劫になってしまいまして」

普段フォーマルハウト様は雲の上の翡翠の塔最上階 栄光の黄金宮殿に住んでいる、フォーマルハウト様やグロリアーナ総司令なら そこまで数秒と掛からず昇ることも出来るため普段は特に何も不便な事はないのだが

私という弟子が出来てからは少し事情が変わったのだ、私がマスターの元まで行くには翡翠の塔を それこそ雲の上まで昇って行かなくてはいけない、めちゃくちゃかかるのだ時間が、修行の時間の確保 仕事の時間の確保も考えると些か現実的ではないため

態々フォーマルハウト様が毎回地上に降りてきて私に修行をつけている、…が どうにもその生活が若干億劫になってきたようだ

「故に、わたくしも今日からここに住もうと思うのですが 如何でしょう」

「如何でしょうって、ここに?一緒に?フォーマルハウト様とですか?」

「ええ、ここは元々わたくしの家 居つく分には問題ありませんし、何より共に住まえば修行も捗るというもの」

…確かに、今現在判明している弟子達、例えばエリスはレグルス様と一緒に旅を ラグナもアルクトゥルス様と同じ砦に住みデティフローア殿も同じ城に住んでいるという

夢見の魔女リゲル様の弟子 ネレイド・イストミアに関しては分からないが少なくとも離れて暮らしている事はあるまい、つまり 今現在弟子の中で師と離れて暮らしているとは私だけということになる

それが悪いわけではないだろうが、少なくとも 他の弟子達に差はつけられるだろう、何せ他はいつでも修行が出来るのだから…

…嫌だな、次会った時ラグナやエリスに差をつけられているのは…、うん それなら

「マスター、共に生活でき 修行により時間を裂けるというのなら私としても大歓迎です、シオ お前もそれでいいな?」

「はい…、えっと、…」

とシオに同意を求めると、ややいい辛そうに目をチラチラどこかに向けている、…見ているのはグロリアーナ総司令だ

グロリアーナ総司令も一緒に住むことになるのか、この子はそれを聞きたいんだろう、別にグロリアーナ総司令のことは嫌いではないのだろうが、あの人はやや厳しいところがあるからな 苦手意識を持っているのかもしれない

「私は私の家がありますからね、態々同盟首長様の家に上り込むような真似は致しませんのでご安心を」

そしてそれを読んだかのように目を瞑ったまま答えるグロリアーナさん、ご安心をって…

ともあれ、フォーマルハウト様と共同生活をすることになった、これで私の修行もより進むだろう、正直 最近はあまり仕事ばかりで修行が全然進んでいる気がしなかったしな、共に住むことによってそれが解決するなら願ったり叶ったりだ

同居人のシオにはやや狭苦しい気持ちを味あわせてしまうかもしれないが、まぁ 彼も一応は魔女様に使える軍人の一人、その意識を持つには丁度いいだろう

「ふむ、それにしても、今日も美味しいですね…昔からしてみれば考えられないくらい良い料理です」

「俺も…」

「ふふふ、二人とも貧乏舌が抜けていませんわね、世界一の金持ちなんですから、もっと贅を凝らした物を嗜みませんと」

これでも十分贅沢だと思うのだが…、フォーマルハウト様も今日行ったあのレストランみたいな食事が好みなのだろうか

「…フォーマルハウト様、贅沢とは何ですか?」

「およ?、何ですの?急に」

「いえ、今日会食で赴いたレストランは…、これ以上ないくらいの高級食材の最高の部分だけを使い、それ以外を捨てるという方式をとって料理をしているところでした、相手のスティーブン殿はそれを最高の贅沢と呼んでいましたが…私にはどうにも贅沢というものが分からなくて」

「ふむ、高い食材を…」

フォーマルハウト様は考え込む、正直 贅沢というものはよく分からない、金があるものは皆贅沢をするというが ああいうものが贅沢なのだろうか、イマイチ理解できないからイマイチ味わえなかった、感じたのはただ勿体無いな…という感情だけ

それは私が貧乏舌だからか…或いは性根そのものが貧乏だからか…

するとフォーマルハウト様は口を開き

「三流…ですわね」

「三流?私がですか?」

「違いますわ、そのレストランとそれを楽しむスティーブンがですわ、貴方が今日味わったその料理はただ金をかけただけ、お金をたくさん使い 無駄にしているという事実を楽しんでいるだけ、それはただの散財であって贅沢ではありません」

「…贅沢とはお金をたくさん使うことでは?」

「金に糸目をつけないというだけですわ、安上がりで済む贅沢もありますもの…贅沢とは、即ち至高…これ以上ない悦楽を追求するもの、どんなに高級な食材を無駄にしても 悦がないならそれはただの金をかけただけの料理にすぎません」

なるほど、私にはよく分からないということだけが分かった

「つまりその場合、私にとっての贅沢とは何なんですか?」

「この程度で満足してはいけないという意味ですわ、現状が一番だと思っていても 心の何処かではこれ以上を求めるもの、その衝動に従い続ければいずれ真の贅沢にたどり着けることでしょう」

贅沢とは人それぞれですわとはフォーマルハウト様、つまるところ くだらないことで満足するなということだ、スティーブンのように金を使うだけで満足しそこに留まるようでは真に贅沢をしているとはいえない

私は私の贅沢を追求し続ける、それは即ち高みに登ることを意味している…と私は思っている

私にとっての贅沢、贅沢かは分からないが もし叶うならエリスやラグナ…いや二人だけとは言わない、魔女の弟子達全員を招いて共に晩餐を楽しみたいな

出来るかは分からないがな

「ありがとうございます、マスター」

「いえ、別に…貴方だけに言ったつもりもありません」

え?、じゃあ誰にだ?シオか?…

そう思った瞬間、私 そしてグロリアーナ総司令の手が一瞬止まり、次いでシオの手も止まる

…一瞬の静寂の後、皆 何事もなかったかのようにナイフとフォークを動かし始め

「何人ですか?」

と グロリアーナ総司令がポツリと問いかける、意味は…考えるまでもないな

「二十人ほどです」

肉を切り分けながら答える

「いつですか?」

「おそらく、紛れ込んだかと」

切れ分けた肉を頬張り、落ち着き払って返す

「手伝いますか?」

「結構です」

私達だけで十分だ…

「シオ」

と私が言うより早くシオは席を立ち腰に下げていた拳銃を引き抜き…


優雅な晩餐、静謐で怜悧な夜の贄を前に 銃を抜くシオ、しかしてそれを咎める者はいない

グロリアーナ総司令は黙ってナイフとフォークをテーブルに置き

私も立ち上がり、扉の方に目をやり

フォーマルハウト様が静かにグラスを傾けて…

「了解、メルクリウス様」

刹那、鳴り響く轟音 爆音 発砲音、突如としてシオが手に持つ銃の引き金を、扉に向けて何度も引いたのだ

一縷の乱れもない早撃ちは、容易く扉を貫通に風穴を開ける、…不思議なことにその扉の風穴からドロリと血が滴るではないか

扉の血か?、否…扉の向こうにいる人間の血だ

「ぐ…ぐぉ…」

すると風穴の空いた扉がギシリと開き 向こう側から血を吹いた三人の人間が倒れ込んでくる

倒れこむ人間の手には銃 顔はマスクで隠されたあからさまな不審者スタイル、こんな人間この宮殿で雇っていない、侵入者 下手人だ

「くそっ!襲撃がバレていたか!?」

扉の向こうには倒れた男達と同じように銃を構えた覆面の者達がウヨウヨいる、うっかり間違えて忍び混んじゃいました…って感じじゃないな、明らかに狙って入り込んだ言動と人数だ

「一応聞いておくが、何の用だ…ここが同盟首長の邸宅と知っての狼藉か?」

「チッ、こうなりゃこのままヤるしかねぇ!もう金は貰ってんだ!後には引けねぇよ!やっちまえ!」

私の言葉を無視して覆面の者達は構えを取る、銃の構え方が素人じゃないな、やはり殺し屋か

私もこう言う立場になってから この身を狙われる機会というのは抜群に増えた、この宮殿に忍び込んで襲撃してくる奴らも今までたくさん相手にしてきた

こいつらもその類だろう、誰ぞから金を貰って 私の襲撃を依頼された、馬鹿で愚かな金の亡者達だ、少し考えれば分かるだろう

私を殺すことなど容易いことではないことくらい

「シオ、片付けろ」
 
「了解…」

シオに命ずる、この子はこの宮殿で私と共に住まう同居人であり、同時にこの同盟首長の身を守る唯一にして絶対の刃なのだ

十人を超える敵の群、対するは拳銃一丁構えた子供一人、普通に考えれば勝負にはならない まさしく大人と子供だ、一方的に大人に子供が嬲られて終わる …そう思うだろう

だがそれがただの子供だった場合だ

「フッ…!」

「ぐぉっ!?」

「な なんだこのガキ!?」

覆面達の銃撃をくぐり抜け一瞬で肉薄するシオ、その手に握られた銃をくるりと回し 太もも 肩  足先に一発づつ銃弾を打ち込み無力化する…それと同時に視線を向けず、余所見をしたまま背後にいる覆面の腕を打ち抜き 右にいる覆面の足を打ち抜き、時が経つにつれて 地面でのたうちまわる覆面の数が増えていく

シオは銃の名手だ、そう紹介したな

だがあれをもっと詳しく言うなれば シオは『狙撃及び銃撃戦の天才』だ、ソニアのようにどんな銃でも扱えるわけじゃない、使えるのはあの小型の拳銃一丁のみ

だがそれを使わせればシオは無敵だ

初めてあの子に会った時、地下の路地裏であの子は鼠を捕まえて生き延びていた、足元に転がる石をヒョイと投げればその石は的確に逃げる鼠の頭を打ち砕き絶命させる

…あのすばしっこく小さな鼠の頭を狙って撃ち抜く、デルセクトの軍人…いやこのデルセクト中探してもそんなことできる人間なんかいやしない、その腕前に惚れ込み 真っ先にシオをスカウトしたよ

「っ…!」

目にも留まらぬ早撃ちで肩を射抜き 足を射抜き、されど致命傷は与えない…私が命令してるからだ、殺すなと

別に殺人を厭うわけではない、私も必要に迫られれば殺しくらいする、だがシオはまだ若い 私の一存で命を奪わせるには若すぎる、まだ子供のうちは 人は殺すな、そうよく命令しているが故に シオは絶対に銃を使って人を殺さない

それが枷になるかとも思ったが、そんなの関係ないくらいシオは強かった、多分銃の腕だけならこの子は私より上かも知れん

「終わり…」

「ぐぎゃあっ!?」

最後の一人を打ち抜き、シオは一息つく… 倒れている男達は皆利き腕を射抜かれている、例え動くことは出来ても もう銃は握れまい 

子供ながらダース単位の大人の殺し屋相手に大立ち回りをするシオを前に、覆面達は恐れ戦く

…シオにとってはこのくらい慣れたものだ、何せ私の所に来る殺し屋は全て彼が倒しているんだ、対殺し屋や殺し合いにかけては デルセクト随一の経験を持つ、裏社会じゃ殺し屋殺しとも呼ばれているようだ

「いえ、誰の依頼だ」

「ぐっ、誰が言うかよ!俺達ぁプロだ!」

「じゃ別のやつに聞く、お前が死ねば 他の奴も口を割るかもだし」

そう言いながらシオは覆面に銃口をグリグリ押し当てる、脅し方も様になってきたな、というか こういう光景を見る都度『シオにはやはり殺し屋としての才能がある』と慄いてしまう、拾ってよかった

ん?……

「へっ、余裕ぶっこいてられるのも今のうちだ…何せ俺達は先遣隊、本命は別に……」

「っ……!?」

「シオ!どけ!」

咄嗟にシオの襟を掴み後方へ投げ飛ばす、その刹那 シオの立っていた場所に銀色の閃光が飛び…覆面達の首もまた、鮮血と共に飛ぶ…

「外したか…」

声が響く、不気味な声だ 、ふと気がつけば首のなくなった死体達を踏みしめて、何者かが立っていた

「何者か、聞いてもいいかな?」

「無論、死だ…我こそは死 汝の死、須らく訪れ平等に与えられ、遍く全てに定められた終焉、もう一度言おう 我こそが死だ」

名付けるならば、それは暗黒の貴公子…いや若干臭いか?

だがそうとしか形容できない、黒を基調とした貴族服と黒刃の長剣を捧げ、漆黒の薔薇にキスをする…演劇かかったその口調も合わせて 言うならば、それこそ暗黒の貴公子と呼ぶより他ないだろう

というか

「要は殺し屋だろう」

「ノンノン、殺し屋ではない…死だ、この殺し屋達 そして殺し屋の依頼対象である君、そしてその目撃者…全てを始末し闇へ消し去る暗黒の使者、そうだな 彼らは皆僕をこう呼ぶ…、はふぅ 『トーデストリープ』…とね、気軽にリープと呼んでくれたまえ」

トーデストリープ…リープと名乗る男は自惚れるように吐息を吐きながら黒い薔薇に見惚れている、間抜けなやつだが 恐らく腕前は本物だ

こいつは今回の一件を完全に闇へ秘匿するため呼ばれた殺し屋に対する殺し屋、その場にいる全てを皆殺しにする存在、そうだな 強ち死そのものでもあると名乗るのも間違いではないのだろう

「彼らがしくじったからね、僕が代わりに君達をみんな殺すことになってしまった…尻拭いなどしたくはないが、お金…もらっちゃったからね、やらないと」

「ならそれ以上の金を出すから手を引け、二倍でも三倍でも出そう、金ならいくらでもあるからな…その依頼主を私に教えるというのなら 君の安全も保証する、悪い条件じゃないだろう」

提示する条件、金で人を殺すというのならそれ以上の金を出す、生憎金は腐るほどあるしな、金で解決できるなら安いものなのだが…リープの反応は芳しくない

「エレガントではない命乞いだね、僕達裏稼業は信頼が命なのさ…金で依頼主を売ったとなれば 僕達は生きていけない、悪いが…その条件は飲めないな」

リープは切っ先を向け答える、そうか 手を引かないか、…あまり この家を傷つけたくはなかったのだが、やるというのなら仕方あるまい

ただ一つ、言っておくことがあるとするなら

「生憎と、今のは命乞いではない……、最後通告だ」

「はっ、勇ましいなぁっ!」

ブレるリープの姿、まるで光に照らされた影の如く瞬時に剣を伸ばし突きを放つのだ、恐ろしい速さ 少なくともシオでは対応出来まい、私だって対応出来ないだろう…修行を受ける前の私では

「ふんっ!」

「ぬぉっ!?」

リープの剣を弾く、ホルスターから抜き放つは純白の銃 アルベドと漆黒の銃ニグレド、破壊と創造を司るデルセクト最高の錬金機構、それを剣のように手繰りリープの斬撃を防ぐ

「ほう、それが噂に聞く例の…」

「どのような噂かは知らんがな」

「君、相当恨まれているようだね、君の殺害依頼は毎日山のように舞い込んできていて参っていたんだよ!」

リープが踏み込む、ただ 踏み込みと斬撃のタイミングが一致しない、態とズラしているんだ 一度の踏み込みで態と何度も切り込んだり、逆に踏み込む前に切り込んできたり 

その剣術たるや幻惑の一言に尽きる、やはりシオが相手ではキツかっただろうな、変わってよかった…なっと!

アルベドに結晶を纏わせ剣の代わりにしながら斬撃を打ち払う

「毎日のように舞い込んでいるのなら、何故今まで断っていた?何故今になって急に受ける気になった!」

「面白い話を聞いたからさ!」

「話…?」

「君、占いって信じるかい!?」

リープの渾身の一撃を防ぎ、鍔迫り合いの形になりながら奴は問う、占いを信じるかだと?、…またそれかうんざりしてるんだよそう言うのには

「信じないさ」

「奇遇だね、僕もだよ」

「なら何が言いたいんだよ!」

「うーん…言いたいことは一つかな…」

刹那、リープが笑う…そのたった一瞬の出来事に、私はとてつもない悪寒を感じ

「メルクリウス!迂闊ですわよ!」


「死ね…」

その瞬間、リープが剣を捨てた まるで虚空に置き去りにするように手を離し一瞬で身を引いたのだ、鍔迫り合いの形になっていた私は 咄嗟に身を引いた奴につられて思わず前へと躓く

しまった、と思う頃には既に奴は懐から拳銃を一丁取り出して私の眉間に照準を合わせており

「メルクリウス様!」

シオが叫ぶ、助けに入ろうというのか?、確かに一年前 二年前の私ならこの一撃で死んでいただろう

だが、この二つの錬金機構を手に入れ 栄光の魔女より教えを賜った私は、生憎とこの程度じゃあ…

「ッッ…!!」

弾く リープの弾丸がメルクリウスの額を正確無比に射抜く、その衝撃でメルクリウスの体が大きく仰け反り…、静寂が広がる

誰もが幻視した、メルクリウスの死を

敬愛する主が銃によって撃たれる瞬間を見たシオは、呆然と銃を取り落す

愛する妹分が銃弾により体を弾かれる姿を見てグロリアーナでさえ息を飲む

リープは力なく崩れるメルクリウスの姿を見て!勝利を確信するでも 無事仕事を終えられたと安堵するでもなく、無感情にその姿を眺めて…ただ仕事の達成を感じていた

終わった、誰もがそう思った

ただ一人、優雅にグラスを傾けるフォーマルハウト以外


……………………静止する、メルクリウスの体が

「…ん?」

仰け反り そのまま倒れるかと思われたその体がピタリと止まり、あまつさえ ゆっくりと体を起こし始めるではないか

生きている?眉間ぶち抜かれて生きている?そんな人間いるわけがない、頭を撃ち抜かれた人間は須らく死ぬ、急所を撃たれれば誰しもが死ぬ リープはそうやって今まで幾人もの相手を殺してきたのだ

「そんなバカな…何で生きているんだい君、何で死なないんだい…君は」

驚愕に彩られるリープの顔を他所に、メルクリウスは体を起こす

驚くよな、そりゃあ驚く 最初私の体に起きた異常を感知した時 私も驚愕したものだ

「生憎と、この程度じゃあ 死ねない体になってしまったんだよ、私はな」

額に走る僅かな痛みを消し去るように眉間を撫でる、そこには…

傷跡など無く あるとは一つ、チリのようにパラパラと消える銃弾の姿だった

「なっ!!銃弾が触れた側から消えているのか…!?一体どんな魔術…」

悪いがこれは魔術じゃない…体質だ

きっかけはあの時、エリスを助ける為に究極の錬金機構であるアルベドとニグレドを私の持つ銃と一体化させ武器として使おうとした あの時だ

あの時 どうやら私の肉体は一瞬 アルベドとニグレドの相反する力によって完全に分解されてしまっていたらしい、そして 創造の力によって再構成された時 私の体は本来のものとはかけ離れたものに変わっていた

ニグレドとアルベド…あの本来の結晶体のようなあれはどこへ消えたか?私の銃と一体化したのか?違う、ここにあるんだ 私の胸…ニグレドとアルベドの核は再構成された私の心臓と一体化してしまったんだ

この手に持つ二つの銃は この力によって溢れ出てきた魔力の残滓によって構成されているだけで、ニグレドとアルベド本体は私の心臓となって今もここに存在している

今 私の体の中には破壊の因子と創造の因子が常にぶつかり合い 絶妙な均衡を保っている異常な状態にあるらしい、元々相反する存在が私という存在を介してなんとか同化しているんだ …


…そして、マスターは 私にその異様な均衡を力に変える術を教えてくれた

「な…なんだ、なんなんだいその姿は…まるで、まるで…死…いやそれ以上の、破壊の権化…!」

破壊の因子と創造の因子、それを意図的にどちらかに偏らせたらどうなるか?

簡単だ、その因子が私を包むのだ、例えば破壊の因子の方に傾ければ創造の因子は弱まり 私の体は破壊の錬金機構ニグレドそのものになる

触れただけで空気さえ破壊する、あのニグレドになるんだ…私自身が

「フゥーッ、実戦で使うのは初めてだが 存外悪いものじゃないな、姿以外は」

黒い瘴気が私の体を包み 黒い靄のようなものがマントのように私を包む、私の触れた地面がパラパラと朽ち 塵となって私の周囲を漂う

ふと、鏡を見てみれそこに映る 悪夢の権化のような己の姿に思わず吹き出してしまう、まるで悪魔だな…いや彼の言った通り今の私は破壊の権化なのかもしれない、何せこの肉体を構成する全てがニグレドになっているんだ、たとえ銃で撃たれても この体に触れる前に塵になって消えてしまう

名前をつけるなら…いやみんなからダサいと言われそうだが、そのまま…ニグレドフォームとでも呼ぼうか

「これが、デルセクト同盟群を統べる 同盟首長の力だ…悪いが 雑多な殺し屋ごときに殺されてやるわけにはいかん」

私が腕を軽く振るえば黒い靄が周囲に霧散し…

「っ!?剣が…」

リープの持つ剣がまるで炭のようにボロボロと崩れ始める、その気になればこれと同じように彼の体を崩すことも出来る、なんだったらこの宮殿ごとぶっ潰すことだってできる、限定的に魔女に匹敵する力 それがアルベドとニグレドの力だ

「さて?、まだ続けるかね?…私としても人一人 塵のように消えるところは見たくない、引き上げるなら引きあげろ…三秒やる、後ろを向いて 立ち去れ」

「……見逃すって?」

「見逃す、本来なら私の宮殿を血で汚した罰をくれてやりたいが、私は今お前よりもお前の依頼主に対してキレているんだ、お前ごとき もうどうでもいい」

こいつの言動から依頼主が誰かはわかった、まぁ彼らならこれくらいの殺し屋を雇う金くらいはあるだろう、何せ金だけは有り余っている連中だからな

まぁもちろん、リープを野放しにするつもりもないが…

「さぁ数えるぞ…三秒経っても私の視界内にいるなら、容赦無く消し去る…いーち」

「わ…分かったよ、僕だって命は惜しい 責任あっての殺し屋 命あっての物種だからね」

そういうとリープは肩を竦めて踵を返す…すると

「ただ僕はこれで諦めないよ、死そのものである僕でさえ殺せない破壊の王よ、いつか君に見合う死になって必ずまた現れるから、それまで待っていてくれたまえ」

そう言いながら私の足元に黒い薔薇を投擲し 投げキッスをするとともに館を立ち去るリープ、訳のわからんやつめ 

「ふんっ…」

「メルクリウス様…終わりましたか?」

黒い瘴気を納め、体の均衡を元に戻せば シオがおずおずと私の元にやってくる、終わったかだと?何を言ってるんだ、これからだ

「シオ、すまないが 直ぐにアマルガムに連絡を取ってリープの行方を追わせろ 見つけても手を出すなよ?居場所を探るだけだ、後オレイカルコス家に調査隊を送れ この一件の落とし前をつけさせる」

「…!、了解」

シオは良い子だ、どんな状況にあっても私のいうことを聞いてくれる、指示一つ飛ばせば彼は即座に銃をホルスターに仕舞い外へと走り出す、うん…いい子だ…シオにはあまり心配をかけさせられないからな

「ぐっ…」

シオが立ち去るのを見届けた後、体に走る電流のごとき激痛に苛まれ思わず膝をつく

くっ、…これは副作用だ 当然ながらあんな強力な力、なんの代償もなしに使うことなどできない

破壊の因子の側に体を傾けたせいで、内臓が朽ちかけた体が危うく崩れるところだったのだ…即座に創造の因子によって仲裁され再生はされるが、それでも胃や肺に穴が開く感覚は耐え難いものだ

マスター曰くもっと上手くやればこのデメリットも消せるらしいが…今はまだ未熟…ということか

「よくやりましたわねメルクリウス」

「マスター…不甲斐ないところをお見せしました」

「いえ、優雅でしたわよ?些か強引でしたが」

マスターは私を信じてくれていたのか、ずっとワインを嗜みながら観戦してくれていた、ありがたいことだ…

「ですが、ここはアルクカースではありません、勝負に勝ったらはいそれまで とはいきませんわ、この一件 上手く納めなさい?」

「はい、そのつもりです」

マスターはよく私に言う、『友や味方には至上の祝福を、敵対者には断罪の鉄槌を、裏切り者にはギロチンを』と…

私の暗殺を目論み 同盟を崩そうとする者に、私は一片の容赦もする気は無い、己の行いに責任を取らせる、それこそが私そのものの責任でもあるのだから

はぁ、しかし 食事どころではなくなってしまったな…


…………………………………………

後日、私が翡翠の塔に入る頃には 私の部下アマルガムの者達が全てを終わらせてくれていた

全てとは何か?、昨日の暗殺の一件だ…暗殺 殺し屋を雇い私の殺害を目論んだ者の捕縛だ、幸い どこの誰が私の暗殺を企んだかには心当たりがあったため シオとアマルガムの隊員に命じて調査させたところ、どうやらビンゴだったらしい


考えれば 犯人そのものを割り出すことは簡単なことだ、何せあれだけの数の殺し屋とリープのような凄腕を雇える人間は限られている

殺し屋は基本的に裏稼業だ、看板と店を構えているわけじゃ無いから 殺し屋達に対するパイプを持ち合わせていないとそもそも依頼できない

そして、そいつら全員を従わせられる莫大な金…となると犯人はもう殆どいない

…殺し屋を宿った犯人、それはユージン・オレイカルコスだった

アマルガムがオレイカルコスに立ち入り 昨日の一件を伝えその容疑者として疑われていることを伝えると、彼は証拠がどうのとか言ったらしい

何を言っているのやら、証拠がなければ立ち入ったりなどしない、我が混成隊アマルガムには元探偵や元調査官と言った人材も多く揃っている、瞬く間に彼が殺し屋を雇う為に大量の金を用意した事実と殺し屋と接触していた証拠を突きつけ この翡翠の塔に連行した

たとえ王族といえど同盟に牙を剥く行為は許されない、同盟の取り決めにより 彼らオレイカルコス家には罰則を与えることとなった

勿論、五大王族任命なんかあり得ない スティーブンはその事実を聞いて、膝から崩れ落ちたらしい、折角盛り直したオレイカルコス家もまた衰退の側に逆戻りだろう、何せ 後継が同盟首長に牙を剥いたのだからな、この同盟内での立場は最悪のものとなる


一応 ユージンを尋問したところ、動機は …これだったらしい

「占いの本…?」

「はい、彼曰く この本に書かれている通りのことをしたまでだ…と、後 手ひどくフラれた仕返しも含んでいるようです」

占いの本 彼が後生大事に持ち合わせていた本だ、それに書かれている事が彼の手酷くフラれて傷つけられたプライドに火をつけ 今回の凶行を起こさせたらしい

しかし、こんな本に書かれている事とはいえ、普通殺し屋なんて雇うか?

「一体なんなんだ?この本は」

「アマルガムの調査によると、どうやらこの本はアジメク中に出回っている予言の書なのだとか、この本に書かれている通りに動けば持ち主に幸運が訪れると…」

「胡乱だな」

「はい、ですが 見てください…ここ」

そう言って報告に来たアマルガム隊員は占いの本を開き その内側を私に見せる、するとそのページには

『貴方を拒絶した者 この本を拒絶した者…メルクリウス・ヒュドラルギュルムをこの世から消しなさい、さすれば 貴方に至上の幸運が訪れるでしょう』

そう書かれていたのだ…私の名前が、名指しだ 抽象的なことではなく、完全に私個人への攻撃を指示する内容が書かれていたのだ

「な なんだこれは!」

「分かりません、でも彼曰く メルクリウス様にフラれた後、この本を読んでいたら…こんな文がお告げとしていきなり現れたと」

「現れた?なんらかの魔術か…?」

どういう事だそれは…そう訝しんだ瞬間、目の前の本が淡く輝き熱を持ち……

「うぉっ!?な なんだこれ!本が急に燃えて…!?」

「チッ、消化しろ!早く!恐らく証拠を隠滅したいのだろう!」

いきなり燃え上がり焼け始めた本、それに水をぶっかけ慌てて鎮火するも、もはや本は読める状態ではなくなっていた…

間違いない、この本…確実に何かしらの魔術が何者かによって仕込まれている、恐らく 占いに傾倒した者達を思うがままに操れるような魔術が仕組まれているんだ

「……アマルガム、いや軍部全体に報告してこの本と同じものを全て回収しろ、これを取り扱う商家がいたらどこから仕入れたか聞いておけ、そして この本そのものの取り扱いをデルセクト中で禁止する、いいな」

「は はい!、了解しました!」

炭と消えた本を見ながら隊員に命じる、誰かが私の命…いや デルセクトそのものを狙っている

恐らく、ユージンの言っていたこの本の作者 ユースティティア・クレスケンスルーナという人物が…何者かは分からん、だが同盟の敵であることは分かる、今回の一件に幕引くにはそいつと決着をつける必要があるが

何者だ、もう少し調べてみんことにはなんとも言えんな

「失礼します、メルクリウス様」

ふと、考え込んでいると出て行った隊員と入れ替わるように書類を抱えた別の隊員が部屋に入って切る…

「ん?、ああどうした?」

「いえ、地下の落魔窟改革計画の件で問題が」

「ん?、地下の?どうした」

「実は地下の人間の地上復帰の為に用意した雇用先なのですが、それに文句をつけてくる貴族がいまして…」

「何?また何か言ってくるやつがいるのか…!!」

「はい、薄汚い地下の人間を外に出すなと抗議を……」

ああ、少なくとも 今現在の忙しさではこれが限界だろう、片手間にはなるが ユースティティアについて調べていくしかあるまい、今は少しでもこの同盟の繁栄のため 頑張らねばなるまいな



しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

彼女を悪役だと宣うのなら、彼女に何をされたか言ってみろ!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7,909pt お気に入り:107

【完結】私に触れない貴方は、もう要らない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:291pt お気に入り:7,695

街角のパン屋さん

SF / 完結 24h.ポイント:404pt お気に入り:2

捨てられ令嬢は屋台を使って町おこしをする。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,370pt お気に入り:625

婚約者から愛妾になりました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:433pt お気に入り:931

私達は結婚したのでもう手遅れです!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:1,344

憧れの陛下との新婚初夜に、王弟がやってきた!?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:1,851

偽りの恋人達

恋愛 / 完結 24h.ポイント:71pt お気に入り:38

処理中です...