孤独の魔女と独りの少女

徒然ナルモ

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五章 魔女亡き国マレウス

94.孤独の魔女と珍妙な拾い物

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賭博街アルフェラッツ 、街の中心部には眠らない賭博区画があるが、何も街全体で夜通し大騒ぎしているわけじゃない

街の外側に向かって歩けば 居住区画に近づくし、居住区画に近づけば あの喧騒が嘘のように静まり返る、もう街人達は皆眠りについているらしい 月ももう頭の上に来てるし、エリス達も早く宿に戻らないと…

カジノからの帰り道でエリスと師匠は足早に人気のない道を歩く

「この街の後はどこに行くんですか?師匠」

「ん?、そうだな…一度この国の王都に行ってみるか、観光ついでだ せめて一度くらい見ておいて、それからこの国を出よう」

「え?、もう師匠の言う用事は済んだのですか?」

「ああ、もう済んだ」

エリスと師匠は並んで歩きながら言葉を交わす、師匠はこの国に用事があると言っていたが…それはもう終わったのか?、何か特別な事をした覚えなどないのだが

と言うか用事が済んだら教えてくれると言ったのに、教えてくれないのか…それともまだ完全にその『用事』とやらが終わってないのか、まぁなんでもいいか 

王都を抜けたら そのままコルスコルピへ行こう、修行も第二段階へ移った以上 この国で得られるものはもうないしね 

そう師匠と手を繋ぎながら歩いていると、ふと 宵闇の中から影が現れ…エリス達の前に立つ

「……?、なんでしょうか」

目の前に立った人影に反応してエリスと師匠は道を譲るため脇に逸れたのだが、人影は動き出す事なくエリス達をジッと見つめている…なんだ

「……流浪の暁風…孤独の弟子 エリスだな」

「え?、なんですか?」

人影がそう呟きながら エリスの名を呼ぶ、エリスを知っている?いや、エリスが孤独の魔女の弟子だと知っている?、冒険者のエリスではなく 弟子としてのエリスに用があるのか?この男は

影はゆらゆら揺れるように歩きながらこちらに近づいてくる

「ふふふ…探したぞ、エリス…私に見つかったのが運のツキだな」

「どちら様ですか?、エリス 貴方のような人は知らないのですが」

嗄れた声と 顔をすっぽり覆うフードとダボついたローブ姿の男は、ゆっくりとこちらに近づいてくる、その姿にも声にも覚えがない、ただまぁ口調からして 友人ってわけじゃないな…

「呑気なものだな、このベートを前にして 呆けているとは」

「ベート?…誰ですか?」

ベート…ベートベート…知らない名前だ、そう首を傾げていると男…いやベートはくつくつと笑い

「知らぬと?…この 魔術師のベートを?」

「エリスも魔術師のエリスです」

「そうじゃない!、魔術師のベートとは私のコードネーム!、知っているはずだろう!大いなるアルカナ!No.1!魔術師のベートだ!」

「大いなるアルカナ!?マレウス・マレフィカルムですか!?」

魔術師のベート、その名前に覚えはない だがその組織マレウス・マレフィカルムの名に覚えはある、大いなるアルカナの名は聞いた事がある

…魔女排斥機関マレウス・マレフィカルム、魔女を消すために動いていると言う機関であり、エリスはその実働組織の大いなるアルカナと一度戦った事がある

No.7 戦車のヘット…奴とは激戦を繰り広げた仲だ、全てを克明に記憶するエリスの記憶の中でもより鮮明にその姿を残している

なるほど、戦車のヘット 魔術師のベート…これは奴らのコードネームなのか!

「なぜあなた達がここに!」

「知れた事!、ヘットを倒されたお陰で我らの計画に大きく支障が出たのでな、そのお礼に来たのだよ」

「…?、どういたしまして」

「本当にお礼を言いに来たわけではない!、…ここで貴様に死んでもらうのだ」

そういうと魔術師のベートは両手を前にかざし構えを取る、いきなり現れいきなり死んでくれなんてめちゃくちゃな奴だ、だが…ちょうどいい エリスもこのマレウスでマレフィカルムの影がないかと気になっていたところだ

ここでぶっ潰して また何か企んでないか、問いただしてやる!

「待て」

今にもぶつかり合いそうなベートとエリスを制止するように師匠が声を上げる、な なんだ…?今敵の前なんですけど 師匠

「なんだそのマレウス・マレフィカルムって」

「へ?、何言って?」

あれ?師匠にマレウス・マレフィカルムの説明してなかったかな、いやデルセクトで戦ったことは伝えたけど マレフィカルムそのものの詳しい説明はしていなかったな…

「なんだ女、関係がないならどいておいた方が良いぞ、今からここは戦場と化すのだからな、ククク」

コイツ…!魔女排斥機関の人間の癖して師匠の…魔女の顔を知らないのか!?いや知らないか、国を統べる魔女ならいざ知れず 師匠はついこの間姿を現し、そして今なお流浪の身なのだから…いやそれでも察しくらいつきそうだけどなぁ

「師匠、コイツらマレウス・マレフィカルムです…魔女を殺しこの世を魔女から解放しようとする組織の人間です」

「魔女排斥機関?ゴルゴネイオンみたいなものか?」

その組織が何かは知らないが、多分そうだ と言うか師匠、自分たちを消そうとする組織を前にしてえらく呑気だな、怒ったり 警戒したりしないのかな

「我らをゴルゴネイオンのような古いだけの間抜けと一緒にするな!我らは大いなるアルカナの……師匠?師匠って…エリスの師匠?つまり…」

「ああ、孤独の魔女 レグルス、貴様らが抹消したい 排斥したい存在だ、文句なら弟子ではなく私に言え」

「まままままま魔女!?しまった!このベートの目を持ってしても魔女の到来は予見できていなかった!、いや考えてみれば師弟なんだから行動を共にして然るべきか!、くそっ!エリスに気を取られすぎたか!不覚!」

バカじゃないのかコイツ

「バカじゃないのかお前」

「うるさい!、こうなっては仕方ない…どの道魔女も殺すつもりだったんだ、ここで師弟諸共あの世へ送ってやろう!囲め!」

ベートの掛け声と共に路地裏からズラリと同じようなローブを羽織った人間が十人…いや二十人程現れエリス達を円形に囲む…こんなに隠れていたか

「諦めよ、私が手ずから揃えた精鋭ベート魔術師団に囲まれては命はない」

「精鋭ですか?…そうは見えませんが」

ギロリと周囲を囲む人間を見る、弱い…これはエリスの驕りではなく、本当に弱い ヘットが右腕として連れていたメルカバの足元にも及ばない奴らだ、…むしろ彼の連れていた一般的な構成員とあまり変わらない魔力量、ヘットは弱い彼等に銃という武器を配り 戦力面を補助しようとしていたが、こいつはそれすらしていない

「エリス、助けはいるか?」

「いりません、こいつは元々エリスに用があるみたいなので…」

「ふんっ、勇猛だな…だが 我等の前ではそれを蛮勇と呼ぶのだ!かかれ!ベート魔術師団!」

「はっ!」

来る…!、と思う頃には既に師匠は翔び立ち 戦闘の邪魔にならぬように家屋の屋根へと降り立つ、よし これなら師匠を巻き込まない、いやまぁ師匠なら巻き込まれても問題なさそうだけれど

「行くぞ!『アイスインパクト』!!」

二十人 同じ格好をしたローブの者共が一糸乱れぬ動きと詠唱で全く同時に氷塊を作り出し打ち出す、全方位からの掃射 やけに慣れている、恐らく奴等にとってこれがお決まりの戦法なのだろう、数にものを言わせた質量攻撃、並大抵の相手ならただ数で押されるだけで気持ちで負ける

だが…

(エリスは多人数戦はもう慣れに慣れています、この程度の数 なんてことは!)

刹那 極限集中を開眼し氷塊の弾道を見切る、速度はあまり速くない…一斉揃ってに見えるが 個々人によって実力差があるようで 弾幕の薄い部分は容易に見つかった

「ここ!」

咄嗟に飛び込むように 左斜め前に飛ぶ、あそこだけ氷塊形成後遅れたせいで他の氷塊との間に隙間がある!、転がり 地面を滑り氷塊の間をくぐりぬければ 先程までエリスの立っていた場所で幾多の氷塊がぶつかり合い弾け飛ぶ

「なっ!?抜けた!?」

「当たり前です!」

あんな弾幕、ヘットの綿密な攻撃に比べればザルに通した水のように容易く避けられる、そのままさらに飛び込み エリスの周りを囲むローブの者 そのうちの一人に組みつき

「意味を持ち形を現し影を這い意義を為せ『蛇鞭戒鎖』!」

「な 縄ッ!?動けん…!」

組み付いた男を魔術で作った縄で縛り巻き 一瞬で簀巻きにする、何も無力化したわけではない…これに加えてさらに…!

「颶風よ この声を聞き届け給う、その加護 纏て具足となり、大空へ羽撃く風を 力を 大翼を、そしてこの身に神速を  『旋風圏跳』!」

加速させる 風で、エリスをじゃない この縄で縛った男を!、風に吹かれ吹き飛ばされた男は容易く宙へ浮かび上がる、いつものような旋風圏跳投げだ 

だが一味違うのはこの男が縄で縛られ エリスに掴まれているという点、縄で縛られた空中で男は制止する、これをそのまま引っ張り 振り回し縦横無尽に飛ばし回る

「ぬぅぉぁぁあああああああ!?!?」

「合体魔術!大旋風 万魔投げ!です!」

まるで分銅鎖の如く男の体を振り回し、その勢いで周囲を囲む魔術師達をなぎ倒し うち飛ばし 壁に叩きつける、魔術の縄はエリスが魔術を送り続ける限り無限に伸び 途中で切れたりすることはない、それを利用した広範囲打撃法 、体を鍛え 成長した今のエリスだからこそ使える合体魔術だ、いや 力技だ

「どぉぉぉっっせぇぇえい!」

「ぐぉぉぁぁっっ!?」

縄で敵を巻き込んでまとめて彼方へ吹き飛ばし、ローブの者達は悲鳴をあげながら闇の彼方まで消えていく…、やがて壁にでも激突したのか 何かが砕ける音と共に悲鳴は断たれる、他愛なし

「な なんと、我がベート魔術師団が…一瞬で」

「あとはあなただけですよ、痛い目を見たくなければいろいろ話してもらいますよ…例えば、この国とマレウス・マレフィカルムの関係とか…貴方達の本部の場所とか…色々ね」

「ヒッ、こ…この ガキがッ!私をなめるな!」

む、魔力が隆起する コイツ思ったより雑魚じゃない、まぁ当然か アルカナの幹部の一人なんだ、とはいえヘットと比べるとかなり見劣りするな、こいつのナンバーは1でヘットのナンバーが7…恐らくナンバーが大きい方が強いのだろう

「消えろ…!『ストーンストライク』!」

「むむ…」

ベートが力任せに地面を叩けば 彼の意思に呼応して綺麗に整えられた石畳が捻れ 伸び、槍のような形を成し槍衾となってエリスに撃ち出される、鋭く尖った槍が煌めきエリスへの敵意を隠そうともせず襲い来る それを…

「大いなる四大の一端よ、我が手の先に風の険しさを与えよ『風刻槍』」

吹き荒ぶ風は 形を作り、槍となる エリスに向かってくる物と同じ一条の槍、意思を持った竜巻 敵意を持った嵐はエリスの手から打ち出されると共に、迫る岩の槍を野菜のようにバラバラに切り裂き風によって辺りに吹き飛ばす

「そんな!?岩が風に…!?」

岩さえ穿つ風 自然界ではあり得ぬ現象、されど自然界の法則さえ捻じ曲げてしまうほどに奴とエリスの間には決定的な差があるのだ

ベートは自分の打ち出した槍の群れが細切れにされたのを見るなり大慌てで地面に蹲り風刻槍を避ける

「く くそが…、魔女の弟子め…忌々し…いっ!?」

「大人しく吐いた方が身のためかと思われますよ」

ベートが大慌てで顔を上げる頃には 既に彼の目と鼻の先にエリスの姿がある、あの程度の距離なら旋風圏跳を使うこともなく接近出来る、怯えるベートを前に 目を細める

「エリスは、口を割らせる魔術というのを まだ使えないので、こういう場合暴力に訴えかける事になります、エリスも好きで人を殴るわけではありません…しかし、仕方がないのなら躊躇はしませんよ」

「ヒッ…わ 私を、バカにするな!『ヒート…こぶふっ!?」

エリスに向けて手をかざすベート、その魔術が発動するよりも前に この鉄拳が彼の顔を穿つ、躊躇はしないといったはずです

「オススメしませんよ…抵抗を続けるのは」

「…ヒィ…ヒィッ!」

エリスの姿を見て怯えきった様子で 蹲るベート、ううん…脅しをかけるのは苦手だ、こう怯えきっては聞ける話も聞き切れない、きっと師匠ならもっと上手くやった…ダメだなエリス

仕方ない、ここは師匠に頼んで口を割らせる魔術をつかってもらおうか

「…すみません師匠」

そう…師匠に声をかけるため上を見上げた瞬間

「エリス!、余所見をするな!」

「えっ……」

師匠の怒号が聞こえる、でもおかしいエリスより上にいるはずの師匠の声が 下に聞こえる、というか エリスは上を見上げていたはずなのになんで上に地面があるんだ?

というかエリスの足 地面についてなくないか?、というよりエリス!?飛んでる…いや飛ばされている!

「ひゃわぁぁぁぁあっっ!?!?」

な なんだこれ!?気がついたら宙に浮かんで…というか全然受け身が取れない!いくら体を動かしてもエリスの思うように体の向きが変わらない、まるで見えない何かに掴まれているようだ!

「チッ!」

咄嗟に支障がエリスを抱きとめてくれたおかげで地面に叩きつけられるという最悪の事態は防げたが、な なんだったんだ…

「師匠、ありがとうございます…」

「油断しすぎだ、相手がいくら格下でも戦闘である以上気を抜くな」

怒られてしまった、でもあのベートが何かをしたようには見えなかった、とすると一体何が…そう思うながらエリスがさっきまでいた場所 ベートのいた場所に目を移すと…

「や やめろぉっ!、私を始末しに来たかぁっ!」

「うるさいなぁ、命を助けてあげたのに その言い草はないだろう」

ベートの顔が歪むほどの握力で掴み上げる 一人の男性がいた

闇の中でも映える紺色の髪、憂げな目と どことなく優しそうな印象を受ける男性、それが ベートを 成人した男を片手で持ち上げているんだ

「コフ!、なぜ貴様がここにぃっ!ぐがぁぁぁ!!」

「あまりベタベタ喋らないでくれるかな、君を連れ戻しに来たのさ 悪いが君は審判にかけさせてもらう…」

「何者だ、貴様ら…そのフードの男の仲間か?」

エリスを抱きしめたまま 師匠は下へ飛び降り ベートを掴む男を…コフ と呼ばれた男を睨みつける

「まぁ…ね、彼の上司…或いは目付役…とでも言おうかな」

「貴方も大いなるアルカナの一員なんですね!」

「…君がエリスかい?、ヘットがお世話になったみたいだね、まさか君みたいな小さな子にヘットがやられるなんて びっくりだよ」

あはは と困ったように笑う、あれも大いなるアルカナの一人なのか?マレウス・マレフィカルムなのか?、こう…見た感じ的には犯罪者っぽくないな、むしろ優しそうな部類に入る

いやそうか、エリスが一番最初に出会ったマレフィカルムが生粋の犯罪者のヘットだった ってだけで、何も反魔女を掲げているだけでマレウス・マレフィカルムそのものは犯罪者集団じゃないんだ

「名前を聞かせてもらっても?」

「…まぁそのくらいならいいか、どの道全部知ってるみたいだし今更隠し立てする意味はないか、僕はコフ 大いなるアルカナ No.10…運命のコフ、以後お見知り置きを」

No.10…エリスの推察が正しければコイツはヘットより強い可能性がある、そりゃNo.が無造作に割り振られている可能性があるにはあるが

コイツから漂う魔力はベートはもちろん…ヘットの物を遥かに上回る、コイツ自身がヘット以上であることはまず間違い無い

「それで、その運命のコフが 我々に何の用だ?貴様も我が弟子を狙うか?」

「まぁ、反魔女を掲げる僕達にとって、その弟子の存在は厄介極まりない 事実僕達もその子には少なからぬ被害をさ 受けているわけだしね…だとしても、今日は別に何もする気は無いよ 魔女の弟子を魔女の目の前で襲うなんてことするわけないだろう?」

「今日は…か」

「うん、今日はね」

師匠とコフが睨み合う、その間もベートはコフの手から逃れようともがくが コフがその手に力を込めればさらにベートの顔が歪み 痛み悶えて悲鳴をあげる、あんな温厚そうな顔して かなりキレているようだ

「ベートの無礼は僕が代わりにお詫びします なので今日のところは見逃してもらえませんか?」

「貴様は私の敵だろう?、それを見逃す理由があると思えないが、ましてや弟子を狙っているのなら なおの事な」

「そうなると僕も誠に不本意ですが 応戦しなくちゃいけません、街に被害が出てしまうかもしれませんよ、…僕としては一般人を巻き込むなんてこと したくないんですけどね、だから できればここでは戦いたくありません」

恐らくだが 彼の言っていることは本心だろう、彼はヘットとは違う ただ魔女が嫌いなだけ、その感情に周りの人間を巻き込みたくない、だからこそああやって嫌いな魔女相手に頭を下げているんだ

「……どうやら本心からの言葉らしい、私とて民間人は巻き込みたくない、今日のところはその真摯な態度に免じて見逃そう、だが次 仕掛けてくるときは…場所を選べよ、今度は見逃さんからな」

「ああ、ありがとう 魔女にお礼なんか言いたくないけれど助かったよ、それじゃあ…魔女レグルス、今日のところは さようなら、大丈夫 次会うときは きっちり君達を殺せるよう支度してくるから」

コフは優雅に一礼すると ベートの顔を掴んだままズルズルと引きずって闇の中へと消える

…エリスとしては、ここで奴らに口を割らせたかったが、師匠が見逃すと言った以上 見逃さざるを得ない、しかし 運命のコフか…また強敵が現れたな

さっきエリスが空中へ飛ばされた技、エリスは未だ何をされたのか分からない、恐ろしい相手だ …強くなったエリスでも 楽な戦いはできないだろう

「行ったか…、魔女排斥機関…やはりというかなんというか、我らの前に立ち塞がるか」

「すみません師匠、助けられました…」

「…エリス、いやいい…だがこれからは油断するなよ、どうやら奴ら マレウス・マレフィカルムとか言う奴らの狙いは、既に魔女だけではなく その弟子のお前も含まれているようだからな」

それは知っている、ヘットがそうだった…奴らにとって抹殺の対象は既に魔女だけでなく、その弟子のエリスも抹殺の対象になっているんだ、襲われることは想定していたし これからも奴らと戦う事になるのは理解している

「明確な敵か、…フッ 面白くなってきたな、そう来なくては」

「面白いですか?、エリスは面白くありません アイツらは魔女を否定しますから」

「するさ否定くらい、私達魔女はどこまでいっても人間だ、人間である以上同じ人間から恨まれもするし疎まれもする、そんな悪感情くらい 飲み込む甲斐性を持ち合わせなければ やっていけん」

…そっか、マレフィカルムの存在にここまで怒っているのは もしかしたらエリスだけなのかもしれないな、だとしても やっぱりエリスは奴らの事が嫌いだ 魔女を否定する奴らが…

「さてと、じゃあ帰るか…」

「…はい師匠」

唐突な襲撃というハプニングはあったものの、エリス達は無事 宿へと帰還することができた、宿に戻ったら再び襲撃 なんてことはなく、エリス達は平和に朝を迎えることが出来たしなんてことなく朝食を食べ 旅と準備に取り掛かることになる…

…だけど、エリスの心持ちは この夜から変わった、そうだ この国にもマレフィカルムが…アルカナが居るんだ、きっとこの国でも奴らは何かを企んでいるに違いない、出来るなら この国を出る前にコフと決着をつけたいな…

なんて、戦いの予感を密かに感じながら アルカナの存在を脳裏の片隅に、常に置いておく事にした、きっとまた 現れるだろうからね

…………………………………………………

翌日、師匠が選んだ宿で一泊したエリス達は 再び馬車に乗り込み 中央都市を目指す、宿のおじさんに事前に大まかな情報を聞いておいたおかげで 方向や道は分かっている

中央都市サイディリアル それがこのマレウスの中央都市にして、最大の都市 

魔女の加護もなく 繁栄を続けるまさしく人の力の具現にして至高、非魔女国家達の希望の星でもある、魔女なんていなくても 人は繁栄できる、この街はその証左に他ならない

国を統べる王家の名はネビュラマキュラ家、マレウスという国が出来てより800年間 ずーっと統治を続けている王家、千年単位の絶対王政を敷くなら 魔女と変わらないという意見も出るが それで非魔女国家最大の繁栄を維持し続けているのだから、文句を言う奴はいない

そんな中央都市 サイディリアルを目指しエリス達はアルフェラッツを出て、馬車で移動を続ける

「…んん、どういう仕組みになってるんでしょうか これ」

「じっくり考えろ」

その道中 エリスはずっと例の魔響櫃と睨めっこだ、これを開ける作業…というか これについて考える時間が増えたおかげで、いつもの魔力制御の時間が減った

まぁ、最近はもう魔力制御をやっても上達することはなかったし、師匠も日課程度に抑えても問題ないと言っていた、

魔力制御は頭打ち、これ以上上達するには やはり第二段階の修行をクリアする必要があるらしい、故にこちらに時間を割くのは当たり前のことだろう

「開ける…開ける、もう開いていると定義し実はもう開いているとかいうオチ?」

「訳がわからん、ちゃんと開けろ」

「はい……ん?」

ふと、外に目が行く マレウスは比較的牧歌的な国だ、刺して育ってない茂みと なだらかな地形が特徴的で、馬車があれば大体の場所に行ける そんな温厚な地形のこの国の街道に…

「…………」


なんかが倒れてる、人だ …見たことのない衣装を着込んだ …変な奴が道端で倒れている

「師匠…あれ」

「見るなエリス、行き倒れだ…いや せめてもの情けだ、埋葬してやろう」

行き倒れ、旅の途中だ力尽き 倒れた人間だろう、血とかは見えないから魔獣に襲われたわけではないだろうが、病か 毒か 或いは餓死か、こんな牧歌的な国でも街の外は危険でいっぱいだ こんなこともあるだろう

見かけたなら、土に埋めてやるのがせめてもの報いと言えるか、そう思い 師匠と共に馬車を降りると

「……ぅ……」

「し 師匠!今これ動きましたよ!」

「…驚いた、生きているか コイツ」

道端で力尽きたそれがピクリと呻き声をあげ動いたのだ、あまりのことに声を上げて驚いてしまうが…いやだってしょうがないじゃん、どう見ても死んでるんだもんこの人…

するとそれ…いや 死にかけた男はボサボサの髪を揺らしながらこちらを見て…安堵の息を吐く

「こ…これはこれは…、彼の世の御使が現れた様子、いや この国では天使と呼ぶか…このような美人な天使に連れて行かれるならば…本望」

「おい、何生を諦めている、我々は生きた人間だ 無論お前もな、望むなら助けてやるが?」

「おお、天使ではなく救いの女神であったか…、で では拙者…水と…食料を…」

「わかった、おいエリス 水と飯を用意しろ 私はこいつを担いで馬車に連れて行く」

「は はい!」

ピクピク動くそれはエリス達に縋るように手を伸ばす、どうやら飢えて倒れていたようだ 、水とご飯で生き返るなら安いもの、慌てて馬車に戻り 真水とオートミールを用意する

エリスが食べ物を用意し終わる頃には既に師匠がその人を抱えて馬車に戻ってきていた、いや 倒れていた時にはわからなかったが…この人、変な衣装を着ている、なんだかこう ビラビラと垂れたような変な服で、少なくとも今まで見た服とは構造から異なっているように見えた

「おい、飯を用意しやったぞ…ほら食え」

「おお、有難い…有難い!、では !」

すると男は師匠の背中から転げるように落ちると そのまま縋るように水とオートミールを掻っ込むように食べ始める

「あ あの、そんなに慌てて食べると胃が受け付けませんよ…」

「心配無用、拙者お腹は強いので…んくんく、ぷはぁ  三日ぶりに食らうまともな飯はかくも美味か!白米に勝る馳走なしと思うておったが、やはり空きっ腹に食らう飯程美味いものはないでござるな」

男はあっという間に水用意された飯を食べ終わり パンパンと腹を叩く、凄いな 三日ぶりの飯なのにこんなにも美味しそうに食べるなんて、というかなんだそのござるって 変な喋り方だな

「ご馳走様!、おかげでこのヤゴロウ…九死に一生を得たでござる、感謝する!」

「ん、何よりだ」

手を合わせ 礼儀正しくヤゴロウと名乗る彼はエリス達に頭を下げる、本当に行き倒れていたんだな…

「それで、お前は何者だ?見たところ この辺の人間ではないな…、何故ここにいて 行き倒れている、そのくらいのこと 聞いても構わんよな」

「お二人は拙者の命の恩人、話せというなら拙者覚えている限りの全てを話すでござる」

そういうと彼は姿勢を正し 足を折り畳むように座ると深く頭を下げ

「拙者 ヤゴロウと申す者、この大陸の外より参った流浪の剣客、訳あって大陸を渡り 剣の修行に明け暮れていたところ、つい 寝食を忘れ修行に明け暮れてしまい、気が尽きた頃には刀すら持てぬ程に衰弱し、この通り まともに動くことも出来ず死にかけていたところでござる」

「そ 外の大陸から来たんですか!?」

外大陸、ディオスクロア文明圏にある双大陸とは別の外にあるという場所から来たらしいのだ

その存在はエリスも知っていたが、こうして交流するのは初めて…というより、外の文明とこの大陸はあまり繋がりがなく、船はもちろん 貿易すらあまり盛んに行われていないと言われており、その文化や文明をエリスは何も知らないのだ

「左様、遥か彼方にあるされるディオスクロア文明圏、ここには数多くの強者が存在し まだ見ぬ文化も多数あると聞き及んでおったので、態々言語を学び 修行の旅をと旅立ち、ここに着いたのは彼此1ヶ月ほど前でござったかな?」

「なるほどな、その衣装 ここらでは見ないと思っていたが、それはキモノだな」

「おお!、黒髪の麗人よ!我が国を存じておられるか!いやぁ、ここの大陸の者は皆拙者の格好を珍妙珍妙と笑い物にして…」

「麗人と呼ぶな 私はレグルスだ、…お前の島国には…少し前に赴いたことがあるのでな、そこで見知っただけだ」

そういえば師匠、一千年ほど前に外の文明を見歩いたことがあると言ってたな、いいなぁ エリスも行ってみたいなぁ

「だからこそ不思議だ、外の文明とこの大陸を繋ぐ船など出ていないだろう、どうやって来た…まさか貨物船にでも乗って密入国したか?」

「心外でござる!、このヤゴロウ!誓って悪事になどでは染めておらぬでござる、ちゃんと泳いで参った」

お 泳いできたの!?船も出てないようなところから!?よく辿り着けたな!、あと泳いで来ても密入国には変わりないとエリス思います!

「泳いで来たのか…」

「大変でござった…間違えていろんな大陸に転がり込んでしまい、やっとの思いで辿り着いたでござるよ、まさかこんなに遠いとは…それに、この大陸には 妙な妖まで出る始末、魔獣?でござったか? …あんな変な物が跋扈するとは、この大陸は大変でござるなぁ」

「え?、外の世界って魔獣が出ないんですか?」

「む?、其方は…」

「あ、エリスはエリスです 、レグルス師匠の弟子です」

「おお、この方のお弟子さんでござったか…うむ、少なくとも拙者の故郷にはあのような魑魅魍魎が出た試しはないでござる」

魔獣…てっきり世界共通で現れる物だと思ってたけど、この大陸にしか現れないのか、益々変な存在だな…魔獣って

「魔獣はこの大陸にしか出ないからな、大変だったろう」

「いえ、良い修行相手になって 拙者としてはむしろ有難いでござる、斬っても斬っても居なくならない、正にここは修行の天国でござるな、強者が多いのも頷けるでござる」

「そんなもんかなぁ…」

危険なことに変わりはないと思うが、しかし 変な拾い物をしてしまった…外文明の人間か、珍しいといえば珍しいが…変であることに変わりはないと思う

「しかし我が故郷を知る人間と出会えるなどなんという僥倖…一飯の恩、このヤゴロウ 剣の腕にだけは自信がある故、どうか少しの間だけでも同行させては貰えぬか」

「構わん、むしろお前をここで放り出したら また行き倒れになりそうだからな、丁度この国の都に向かうところだ、そこまで送ってやる」

「かたじけない!」

確かにこの人 外文明の人云々以前にそもそも変わった人っぽいし、ここで放り出したらまたどこかで行き倒れになりそうだ、ちゃんと街まで送ってあげなければ エリス達も心配で寝覚めが悪い

街に送ったなら、この人も安心安全だろうしね、そのあとどこで何するかはこの人次第だし…と 言うことで、エリス達の短い旅路に 流浪の剣客ヤゴロウさんが同行することとなった、幸い食料には困らないし 人一人増えても問題ない

「では、いくか」

………………………………………………

そうして、ヤゴロウさんを加えたエリス達の旅は 再び再開することとなった

ヤゴロウさんはエリスの隣に大人しく座り、外を見たり 馬車の中を見たり、いろいろ忙しく視線を動かしている…

そしてどうやらその興味はエリスに移ったらしく ジッとこちらを見ている

「エリス殿は何をされているので?」

「え?」

魔響櫃と睨めっこをしているエリスを不思議そうに見つめるヤゴロウさんは首を傾げながら声をかけてくる、まぁ 見ただけじゃ何をしてるかわからないか、エリスも何をしてるかよくわかってないんだもん

「エリスはこの箱を開ける修行を師匠から授かって、今 悪戦苦闘しているところなんです」

「箱を開ける?、また珍妙な修行でござるな、この大陸ではそうやって鍛錬を積むのでござるか?」

「いえ、多分この大陸でも この修行は珍妙な部類に入るかと」

「なるほど、しかし それが修行とあらば拙者は手を貸すわけには行かぬでござるな、師より授かった修行には全て意味がある、それに全霊で取り組み 意義を考えるのが弟子の務めでござる」

うんうんと腕を組みながら何やら納得するヤゴロウさん、そう言えばこの人も修行とか言っていたし、武の道を進むに当たって 師匠の下で修行をしていたりしたのかもしれない

「しかし、…簡単に開けられそうなものでござるが、そんなに難しいのでござるか?」

「内側から鍵がかけられてるみたいで、どうにかこうにか開けたいのですが…、力尽くでも知恵を凝らしても どうにもこうにも」

「ふむ…力も知恵もダメならば、後は心の問題でござろうな」

「心?」

「然り、エリス殿が何の修行をしているかは存ぜぬが、この世の万事は心技体によって成る、体…即ち力を得ても 技…即ち知恵を得ても、心が伴わなければ 真なる領域には辿り着けぬのでござる」

なんだか、ヤゴロウさんの話は 今エリスに欠けているものをピタリと言い当てるような、そんな奇妙な感覚が得られた、答えなんて分からない 何が正しいか分からない、けれど…不思議と 『それだ』と思えた

「心が伴わなければ…」

「エリス殿の心は今 その箱に囚われているようにも見えるでござる、目の前の事柄にばかり気を取られず、箱の中ではなく 己の中に目を向けるでござるよ、さすれば…」

「ヤゴロウ…」

ふと、ヤゴロウさんの言葉を遮って師匠の声が飛ぶ、見れば馬車を引く師匠が視線だけこちらに向けていて…

「喋り過ぎだ」

「あいや失敬、手出しはせぬと言ったそばから口出しを、これはエリス殿が自らで考える事が重要でござったな、失敬失敬」

「構わん、少しくらいのヒントならな」

今のヒントだったのか、エリスの内面?魔術の腕でも 知識でもなく、エリス自身の心…か…、とはいえ だからどうすれば良いというのは分からないままなのだが、とっかかりは掴めたような気がする

心かぁ…思えば自分の心のことなんか考えたことはなかったな


エリスはこのマレウスに来てから、いやそれよりも前からか…心かき乱される事ばかりだった、師匠は落ち着き払って エリスだけ怒り続ける、そんなことも多くあった、それが良くないのかな …分からない

これが確たる形で掴めるまで、この箱は開けられないのかな…

難しい修行だなぁ……


「エリス」

ふと、茫然とするエリスの思考を遮り 再び師匠の声が鳴る

「は はい!」

「魔獣が出た、相手をしてやりなさい」

外を見れば巨大なトカゲ型の魔獣がチロチロ舌を出してこちらを見ている、厄介な…今はこの箱に集中したいのに、でも仕方ない 放置できる相手でもなし、軽く倒して修行の続きを…

「いや、ここは拙者がいくでござる」

「え?、ヤゴロウさん?」

どっこいしょと声を上げて立ち上がるのはヤゴロウさん、既に腰にぶら下げた刀に手を当てており、エリスの代わりに戦うというのだ

「お前がいくのか?」

「拙者 剣の腕しか持つものがないでござる、こう言った荒事でしか恩は返せませぬのでな、よっと」

するとヤゴロウさんは制止の声をかける暇もなくヒョイと馬車を出てトカゲの前へと躍り出る

「死ぬなよ」

「この程度のトカゲ、造作もないでござる」

刀を未だ鞘に収めたまま悠然と歩くヤゴロウ、まるで街中を行くかのようなのったりとした足取りと動き、見ているだけで脱力してしまいそうになる程呑気で鈍気なその振る舞いは とても魔獣を前にした人間の物とは思えない

気を抜いていると言ってもいい 油断していると言ってもいい、力をまるで入れていない 意識がまるで戦いに向いていない、剣も抜かずヘラヘラとトカゲをただ見つめている

「コロロロロ…」

「おやまあ、近くで見れば益々大きな蜥蜴で 鎧武者の如き鱗の数々、これは硬そうだ…」

トカゲが 目の前のヤゴロウを捉えた、敵…否 捕食対象として

チロリと滲む蜥蜴の舌、それは攻撃のサインか あるいは舌なめずりか…ギョロリギョロリと四方を忙しなく向く双眸が、刹那…ヤゴロウに向けられる

来るっ!!


「…………」


蜥蜴の捕食、それは目の前の獲物を逃さぬため 刹那のうちに行われる、それは魔獣として巨大化しても変わらない、否 それは著しくなる

その蜥蜴の首が一瞬ブレる、速い あまりに速い 奴を倒すなら、あの捕食行動をさせないよう立ち回るのが正解だろう、エリスといえど あれを真っ向から食らっては抵抗する間もなくぱくりとひとくちでたべられてしまうか

だから それをさせないようエリスなら飛び回り撹乱する、だがどうだ ヤゴロウの隙だらけの立ち姿を、避けるそぶりなど見せない 故に避けられない

食われる!そう直感で理解するエリスは気がつかない 、ヤゴロウさんはハナっから避けるつもりなど 微塵もなかった事に

「……逸刀……」

…刹那舞い散る流血、蜥蜴の口内に着いた鋸のような牙が煌めいた瞬間飛び散る赤に エリスは一瞬上半身を喰い千切られるヤゴロウさんの姿を幻視するが

現実は違った…牙を剥いた蜥蜴の口は いつまでたってもヤゴロウに届かない、剰え その口は 頭はだんだんヤゴロウから離れていくではないか、…いや違う 奴の頭がヤゴロウから離れているんじゃない、奴の頭が 胴体から離れているのだ

「…『鋏叉断骨』…」

エリスが気がついた頃には既にヤゴロウさんは刀を鞘に収めていた、いや 収めただけじゃない 目の前の蜥蜴の首が 叩き斬られ、グルグルと宙を舞っていたのだ

斬ったのか…いつだ、見えなかった 斬った瞬間は剰え 抜いた瞬間も納めた瞬間も、なにもかも 感知すら出来なかった

いや何より恐ろしいのが、斬ったはずの刃に血が付いていない…血がつくよりも速く 振り抜いたんだ

「い 一撃で…」

「違う、二撃だ…恐ろしい程のスピードで 二度剣を振るい、鋏のように首を切り落としたのだ」

ほうと、師匠が息を漏らす…いや 鋏のようにって 一本の剣で鋏みたいに切るって…物理的に不可能じゃないか、何かの魔術…いやヤゴロウさんから魔力は感じない、本当に剣一本で 挟み斬ったんだ

「ほう、レグルス殿 今のが見えたのでござるか、拙者の剣を視ることが出来たのはレグルス殿が初めてでござるよ、相当な使い手とお見受けする」

「いやそれはこちらのセリフだ、お前レベルの剣の使い手など この私でも二人しか知らない、まさしく絶世の名剣 …この私からでよければその妙技に賛辞を送ろう」

絶賛だ、師匠が他人の技を見てここまで褒めるのは初めてだ、エリスからすれば すごい剣技というくらいしかわからない、クレアさんの剣もラクレスさんの剣も同じく凄い という部類、しかし師匠がここまで舌を巻くなら…きっと今まで出逢った誰よりもこの人は…

「ありがたき幸せ、レグルス殿のような乙女に褒めてもらえるなら 拙者も腕を磨いた甲斐があるというもの」

「お 乙女!?何を言い出す アホか貴様」

「師匠、ヤゴロウさんって 凄い人なんですか?」

「ん?、…ああ そうだな、ちょうどいい人間だ」

「ちょうどいい?」

丁度いいって 褒めてるのか?エリス的には貶しているようにか見えないが、そう言いながら師匠は流れる風のように優雅に歩くヤゴロウさんを見て

「エリス、丁度いいから見て学べ ヤゴロウはその魔響櫃を開けられる人間だ、奴から何かを掴めるなら 掴んでみろ」

「あ 開けられる!?どうして、これは魔術の修行でしょう?なんで魔術師でもないヤゴロウさんが…」

「まだ気がつかんか?第二段階の修行とは 修行の第二段階ではない、人間としての第二段階 つまり…『魔力覚醒取得の為の修行』だ」

魔力覚醒…グロリアーナさんが用いた 絶対なる力、魔力を扱う者の更に上の段階

そこに至る為の修行、それがこれだったのか…という待ってほしい

それじゃあこのヤゴロウさんは、既に第二段階に居るということじゃないか?、魔女大国最高戦力級の実力を既に保有して…

「あぅああ~、やはり麦粥だけでは力が出ぬでござるぅ…エリス殿 レグルス殿…、お恵みをぉ」

本当に、何者なんだ この人は
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