孤独の魔女と独りの少女

徒然ナルモ

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六章 探求の魔女アンタレス

112.孤独の魔女と集いの運命

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「エリスちゃーん!久し振りぃー!」

「わっとと、デティ …久し振りです」

皆が授業に勤しむ静謐な学園の、その中庭に 四人揃って集まるエリス達、いきなり抱きついていたデティに思わずバランスを崩しそうになりつつも彼女を抱きしめ頭を撫でる…

そうだ、デティだ …いやデティだけじゃ無い、ラグナもメルクさんもいる エリスが旅の中で別れてきた友にして仲間、親友たる三人がいきなり現れ エリスをピエールから救ってくれたんだ

なんで彼らがここにいるのかわからない、みんな自分の祖国にいるはずだし、みんなにはそれぞれ役目がある…なのに、いや そんな疑問さえどうでもよくなるほどに、エリスは今嬉しかった

だって、会えると思ってなかったから この三人に…

「本当に久し振りだなエリス、君の顔が見られて私達も嬉しいよ…、君がこの学園にいるとデティに聞いた時には久しく滾ったものだ」

「本当本当、まさか四人揃って同じタイミングで学園に入ることができるなんて、偶然というべきか運命というべきか…、でも一瞬エリスに忘れられたのかと焦ったよ」

「すみませんラグナ、記憶にあるラグナと少し違ったので…反応が遅れました」

「いや俺も人間だからね、成長もするさ」

こうやってみると、ラグナはあれからかなり大きくなっている 、あどけなさは消え失せもう一介の戦士と言った感じだ、でも…顔はラクレスさんやベオセルクさんに似てとても綺麗だ、こうやって顔を見ていると 仄かに体が熱を持つ程に

メルクリウスさんは…あんまり変わっているように見えないが、それでもやはり背が高くなっている、以前も美しかったが 今はもう凛々しいといったほうがいいかもしれない、制服姿がアンバランスに感じるほどだ

みんな大きくなった、エリスは今13歳だから…デティも同じ13歳ですよね、ラグナが2歳上だから15歳 メルクさんは4歳上だからもう17か、みんなもう子供とは言えないな


「二人とも成長しましたね、って 年下のエリスが言うのもあれですね」

「私も成長期に入ったし 髪も伸びた、あれからもう二年か?たった二年でも人間は変わるもんさ」

「まぁな、ここ数年で俺もめちゃくちゃ背が伸びたしな、エリスも…うん 綺麗になった」

「なっ…!?」

ラグナに綺麗と言われると な なんだこれは、呪いとは違う 体が熱くなる、ほっぺが熱い 耳まで赤くなる、な なんなんだこれは…!、あう ラグナの顔見れない…

「エリスちゃん!私は私は!」

と言いながらデティもくるりと回転しながら全身を見せてくれる、…うん 大きくなった…けど

「…あんまり大きくなってませんね、デティ」

小さい、エリスと同じくらいの年齢のはずなのに あまりに小さい、まだ幼児のようだ 本当に背伸びたの?、メルクリウスさんと違って逆の意味で制服が様にならない、子供が大人の真似して制服着てるみたいだ、ほら 袖余ってるし

「むきー!、大きくなったの!これでも!、毎日牛乳も飲んでるの!」

「あわわ、すみませんデティ」

「むぅ、狡いエリスちゃんばっかり…背も伸びてここも大きくなって、私まだペタンコなのに」

「ひゃわ!?」

突如としてデティに胸を揉まれ変な声が出てしまった、お 大きくなったってまぁそりゃ体も大きくなりましたしそれに伴って胸も大きくなりますけど、お 女同士だからって急に揉むのは少し

「ヴッ!?…ぐっ…」

「ん?、どうしたラグナ?急に小鼻を押さえてそっぽ向いて」

「いやいい、気にしないでくれメルクさん」

デティに胸を揉みしだかれるエリスを見てラグナは何故かそっぽ向いてしまう、な なんだろう、はしたないと思われたのかな…

「と ともあれ、ラグナ デティ メルクさん、皆さんなんで学園にいるんですか?皆さん国で仕事がありますよね、なのになんで学園に」

そうだ、ラグナもデティもメルクリウスさんも、みんな魔女の弟子 そして国を治める立場にある、それが揃って国を出て学園に揃うなんて…それに制服を着てるってことは入学したのか?

「ああ、その件について話さないとな…と言っても理由は単純、俺もデティもメルクさんも、みんな師範 魔女様達に言われてこの学園で学ぶように命じられたのさ」

「魔女様達に?」

「そのとおーり!、ここにいるみんな幼い頃から大国を統べる立場になった人達だけど、そんな人達が学歴無しってのは箔がつかない!そこで私達はみんな先生達の母校であるこの学園への留学を命じられたんだぁ!」

「とはいえ、我々もみんな示しを合わせたわけじゃ無い 本当に偶然…同じタイミングで命じられたんだ、マスター達も特段話し合っていたわけじゃなさそうだしな」

「ま、公務の都合で入学は少し遅れたけどね」

つまり エリス達は偶然この学園に集ったと言うことか?、なんて偶然だ…奇跡と言ってもいい、でも エリスが師匠に社会勉強の一環としてここに入学させられたのと理由は殆ど一緒か

…なんだか嬉しいな、みんなと一緒に学園に通えるなんて、さっきまであんなに陰鬱だった学園が明るく見える

「でも大丈夫なんですか?、王たる皆さんが国を空けて」

「まぁ、その辺は安心だろ、俺がいない間はベオセルク兄様や師範が代わりに公務やってくれるみたいだし」

「デルセクトも殆ど一緒だ、私がいない間はマスターが一時的に同盟首長に戻ることになった、私なんかより余程頼りになるだろう」

「あ!、うちは違うよ!魔術導皇の仕事は魔術導皇にしか出来ないから、この学園でも引き続き仕事をするつもり!、私は私が居れば場所は選ばないからね」

なるほど、皆さんの国は皆さんがいない間魔女が統べると…まぁ、魔女は殆ど王より上の特権を持つし、公務の方は差し障りなく行えるだろう

「デティは大変ですね」

「もう慣れたよ!、エリスちゃんがいない間私も頑張ってたんだから」

「ふふふ、それは知ってますよ 手紙で散々聞かされましたから」

「じゃあ、俺たちの方は話したんだから…エリスの方も聞かせてもらえるか?あの状況」

ラグナの目つきが険しくなる、メルクさんもだ…怒ってるわけではない ただ危機感を感じてくれている、エリスの状況に…エリスに頭をくりくり撫でられてニマニマ微笑んでるデティもきっと内心はそうだろう

でも、…話すのは憚られる、あの地獄の日々をみんなに話すのは…

「…その…」

「あの状況ははっきり言って異常だ、俺達が助けに入らなければ何されていたかわからない程にな」

「ああ、私の目から見ても…あれはただ偶発的に起こった事態には見えん、何があったか 出来る限りでいい、我々に話してはくれまいか?エリス」

「……分かりました、その…どこから話したものか」

ラグナとメルクさんの目に押され、エリスは口を開く…この学園で何があったか

ノーブルズの件 バーバラさんの件 ピエールの件 虐めの件、そしてアマルトの事やエリスが抵抗出来ない理由、話は長くなったが みんな姿勢を崩さずじっと聞いてくれた

そして、話が終わり最初に口を開いたのはメルクさんだ

「ふむ、そんなことがあったのか、やはりあのピエールという男が…エリスが抵抗出来ないことをいいことにそんな悪辣な」

「ひどーい!、なんて酷い奴!私一発殴ってくるね!あと蹴りも入れてくる!」

「い いいですよデティ、そんなことしたらデティまで目をつけられますよ」

「そんな怯えなくていいじゃん!…いや、エリスちゃんがこんなに怯えるまであいつは…!、許せん!殺す!」

「殺さないでください」

そんなデティとメルクさんの言葉の中ラグナは目を閉じて熟考する…そして、沈黙を破るようにゆっくり口を開き

「…エリス、まず 怒りに任せて暴力に出たのは間違いだったな」

そう、言うのだ いや何も間違ってない あそこでエリスが一旦落ち着いて手を考えればこうはならなかった、至極真っ当な意見

「その通りですね…」

「ちょっとラグナ!エリスちゃん傷ついてるんだよ!」

「分かってる、だが 悪手を打ったのは間違いない、荒事に出れば事が悪化する それはエリスだって理解していたはずだ」

「はい、分かっていました…でも」

「うん、友達を傷つけられたんだよな …俺はその場に居なかったから偉そうなことは言えないけれど、結果としてエリスが酷い目にあったと知ったらその女の子も責任を感じると思う、自棄になるのは良くない 君ならもっと良い手が考えられた」

「ラグナの言う通りではある、あの手の貴族や王族相手に力で訴えるのは逆効果だ、ああいうのは自己に降り掛かる危機に対して鈍感だ、刃を突きつけられても懲りはしないだろう」

「…エリスも、それは分かってたんですが…頭に血が上って…どうしても許せなくて」

結果としてあそこで落ち着く それは出来なかった、そしてエリスはバーバラさんが受けた以上の虐めを受けることになった、エリスのためにバーバラさんが傷ついたのをエリスが許せないように、バーバラさんもまた 責任を感じるだろうな

彼らのいうことは正しい、そうして客観的に見れば自業自得とも取れる…、エリスの短絡的な行動が 結果としてピエールに付け入る隙を与えた

「二人とも酷いよ!」

「ああ、酷いことを言った…偉そうなことを言ったがきっと俺も友達を傷つけられたら 同じことをする、事実 今俺は俺を押さえていなければピエールやエリスの虐めに加担した連中の頭を叩き割りに行きそうなくらいだ」

見れば ラグナの手には血管が浮き出ている、力で己の足を押さえているんだ そうしなければエリスがしたようにピエール達に襲撃をかけそうだから、だが彼はそれが何の解決にもならないことを理解している だからしない

…エリスとラグナの違いだろう ラグナはここで冷静になれる、何故なら彼は王だから エリス以上に責任ある立場だから

「ああ、…憤っているのは私も同じだ、…如何にエリスが隙を見せたからと やっていいことと悪い事がある、これは悪い事だ それも最悪に極悪だ」

「俺の朋友にあんな屈辱的なことをするとはいい度胸だ、…許せん」

「そうそう!許せん許せん!、消し飛ばそう!」

「だが実力行使には出ない、それではエリスの尊厳は傷つけられたままだ」

「ほえ?」

デティが何を言っているの?と、首をかしげる だが…そうだな、ここで実力行使に出るのは間違いなく悪手、最悪な状況をさらに悪くする

「もしここで実力行使に出て 俺たちでこの学園を制圧するのははっきり言ってた容易い、俺一人でも十分なくらいだ、だがそうすればどうなる?デティ」

「えーっと…スカッとする?」

「違う、生徒たちは見るだろう…私達が暴力で解決すれば、『ほらやっぱり、アイツらは野蛮な奴らで間違いなかった』とな、デティ?君はエリスを野蛮な乱暴者として見られたままでいいのか?」

「うう、良くない、エリスちゃん本当は優しいもん」

ラグナやメルクさんの言う通り、エリス達は乱暴者のレッテルを貼られ 結局白い目で見られるだろう、エリスの為にみんながそんな目で見られるのは余計耐えられない

「じゃあじゃあどうするの!、このまま泣き寝入りするの!」

「落ち着け、何もこのまま放置するとは言ってない…俺たちで見せつけてやるのさ、その評価は間違っていると、真面目なところ見せつけて 周りの生徒の悪評を取っ払うのさ」

「ああ、そしてエリスに降り掛かる火の粉は私達で払おうじゃないか、どんな魔の手が迫ろうとも私やラグナ デティの手があればエリスを守れる 、違うか?」

ラグナ達で エリスを守りながら真面目に授業を受け続ける…、前まではエリス一人だから 何も出来なかったが、それなら 行けるのか、エリスが真面目に授業を受け続ければ いつかこの悪評も消え去り、みんなの虐めも止む…のか?分からない

「おおー!、そうだね!それならいけるね!うん!」

「でもいいんですか?、そんな…ラグナ達にも損が」

「損得の話じゃない、…エリス 君は俺と一緒にアルクカースで戦ってくれた」

「ああ、私とはデルセクトで共に戦ってくれた」

「アジメクでは私を助けるためにレオナヒルドと戦ってくれたよね!自分の命も顧みず、だから私達にも助けさせてよ 助けられっぱなしは嫌だよ、私達」

みんな…そうだ、エリスは…みんなのために みんなを助けるためにそれぞれの国で戦った、その恩を返して貰おうなんて考えたことは全くない、エリスもみんなにたくさん助けられた、でも それでもみんなは一緒にエリスと戦ってくれるというんだ

バーバラさんがいなくなり、味方のいなかったこの学園生活で 久しく感じる友の優しさ、…友達の言葉というのは こんなにも心強く 嬉しいものか

「この学園には味方がいない?上等じゃないか、アルクカースじゃ 全く味方がいないところから始まったよな、それで継承戦に勝ったんだ 今回も同じさ」

「ふふふ、そう言えばデルセクトも今のようなどん底からのスタートだったな、結果として 我等は問題を打ち破り、こうして君とまた相見えることが出来た」

そうだ、思い出す それぞれの国での戦いを 懐かしいな、あの時は苦しかったけど 今としてはいい思い出だ、もしかしたら みんなとなら、この学園もそんな思い出に出来るかもしれない

「その上でもし…俺達に手を出してこようとしたら、そん時は遠慮なくやっちまおう 正当防衛だ、ククク」

ラグナが怪しく笑う…まるで悪魔みたいだ、というか

「なんかラグナ ベオセルクさんに似てきましたね」

「ゔぇっ!?ま…マジ?」

「はい、マジです」

「…気をつけよう、あの人は尊敬してるけど あの人みたいに見られるのはなんかやだ」

ベオセルクさんか…懐かしいなぁ、今は元気に…してるだろうな、元気にしてないあの人を想像できない

「それより、目下のところ問題になるのはノーブルズじゃないのか?、聞けば各地の有力者やこの国の大臣達の子息達が集まってると聞く、その権威はこの学園内では教師さえも上回る…奴等が動けば誰も抵抗出来ないだろう」

メルクリウスさんがそんな会話を遮り 声を発する、メルクさんは権威渦巻くデルセクトで今も戦う身だからこそノーブルズの面倒さは理解しているのだろう、事実彼らの力は強力だ この学園では

「確かに…それにその、アマルト?って奴か?、魔女の弟子のようだが…本当なのか?エリス」

「はい、この目で見ました アマルトは間違いなく、探求の魔女アンタレス様の弟子です、エリス達と同じ魔女の弟子…その一人です、エリスが抵抗出来なかったのも 彼の呪術のせいなんです」

「そうか、…手強そうだ」

アマルトの呪術は強力だ こうやってみんなに助けられたでも 問題として残り続ける、今もノーブルズに命令されればエリスは逆らえない

「逆らえなくなる呪術か、それでエリスは…」

「はい、今もこの身を縛って…」

「あ、それなら解除しといたよ、なんかエリスちゃんの体の中に突き刺さってる変な魔力あったから 切り外しておいた」

「え?、デティ?一体いつ」

解除したと言うのだ、エリスを散々痛めつけ苦しめたあの枷の呪術を、エリスがどうやっても解除の取っ掛かりさえ掴めなかったのに、デティはそんな…容易く?いや本当にいつの間に

「さっき抱きついた時異常を感じたからちょちょいとね、あの程度の魔術の解除なら詠唱無しでも解除できるよ」

「凄いですねデティ!、エリスには全然出来なかったのに」

「ふふーん、私を誰だと思ってるのさ 治癒魔術の神 スピカ先生の弟子だよ?、どんな魔術でもお茶の子さいさーい!」

「おお、魔術の解除は俺たちには心得がないからな、助かったよデティ」

「今までただのちびっ子だと思っていてすまなかった」

「どんどん褒めてよどんどん…ってメルクさーん!私のことちびっ子だと思ってたの!?」

ひぃーんと泣きながらメルクさんの腹をポカポカ叩くテディを見て、なんだかスッと胸が晴れる そうか…もう呪いはないのか、確かに体の内側に目を向けても 呪いのような魔力の異常を感じない、デティはエリスから呪いの話を聞くよりも前に呪いに気がついて人知れず解除したのか

…凄まじいのはその魔力感知能力、以前会った時はエリスの魔力の質を確かめる程度だったが、エリスにかけられた魔術を察知し解除できてしまうほどにまで強化されているとは

やっぱり、デティも魔蝕の子…なんだよね、これはもう 間違いないだろう、エリスの記憶能力が強くなるのと同じようにデティの感知能力も上がっているんだ

「さて、…これからどうする?ラグナが勝手に我々も欠席にしてしまったから、今日は一日フリーだが?」

「わ 悪かったよ、けどこんな衰弱したエリスを放って置けないだろう?」

「え?、エリスそんなに衰弱してます?、まぁ弱ってるのは確かですが」

「見る影もないくらい衰弱しているよ、私の目から見ても デルセクトにいた頃感じた活力も魔力も感じない、まるで地下暮らしをしていた頃の私のようだ」

そんなにか…、食事も睡眠もロクに取らせてもらえなかったからな…弱って当然か、まぁちゃんとご飯食べてちゃんと寝れば戻ると思うが

「…食事も睡眠もうまく取れない状態にあったので」

「ああ、確か寮の方にまで手が伸びてるんだったな、しかし参ったな 寮となると…、俺は勿論近づけないし デティやメルクさんも同じ部屋になるわけには行かないし、何より外出している時に部屋に手を加えられる可能性が高い」

「確かに~、部屋にずっと見張りおくわけにはいかないしねぇ…私も部屋に私物とか魔術導皇の仕事道具とか置いてあるから、イタズラされたらちょっとマズイかな 魔術界が軽く揺らいじゃうし」

そりゃマズイ、もしデティ達にまで手が及ぶとして 彼らの私物は言ってみれば国王達の私物になる、それに手を加えられると取り返しがつかない、特にデティは魔術導皇だ 仕事の書類一つ紛失するだけで魔術界全域が麻痺する可能性さえある

するとメルクさんが軽く手を挙げ

「なら、私の家を使うと言うのはどうだ?」

「家?メルクさんコルスコルピに家持ってるんですか?」

「ああ、同盟首長たる人間が寮生活をすれば何が起こるか分からないとグロリアーナ総司令に怒られたのでな、軽く一軒家を買った、みんな寮に住んで私だけ家 というのは寂しいしな、手狭でなければ四人でそこに住むのはどうだろう」

軽く家を買ったって…、いやまぁ魔女大国を統べる人間ならそれくらいするか、でも家か…あの寮にいるよりは何倍もマシかな、エリスの呪いも解けたしその家に住むのは悪くないかもしれない

「家か…いいな、それ」

「みんなと住むの!楽しそう!やろう!それ!」

「確かに楽しそうですね、でもいいんですか?」

「構わんさ、また君のシチューが食べられると言うのならなんでもいい、私も楽しみだよ…なら、ここでウダウダしているのもあれだ、今日は休みだ 早速家に向かう」

皆それで決まりみたいだ、メルクさんが立ち上がりデティが飛び跳ねラグナが膝を叩く、あ あ それなら行く前に寮の荷物をまとめないと、殆ど荒らされめちゃくちゃだけど置いていくわけにはいかない

でもそう言う手続きとかってしたほうがいいのかな、まぁいいや どうせエリスがいなくなっても誰も気がつかないだろう

「じゃあエリス荷物まとめてきますね!校門で待っててください!」

「おう、待ってるよ」

「やったー!みんなと一緒ー!」

「あんまり期待するなよ、普通の家だからな」

そんなみんなの声を背中にエリスは駆け出す、気がつけば 体の衰弱など気にならない 弱った心も再び活力を得て躍動する、みんながいる ただそれだけで世界が輝いて見える

みんなと一緒なら この学園生活も悪くないかもしれない、エリスの中からこの学園から逃げ出したい なんて考えは消え失せていた……

…………………………………………………………


「ここが、メルクさんの家」

エリスはあれから寮でパパっと荷物をまとめてそのまま校門のみんなと合流、久々に街に出て しばらく歩く、街の大通りから少し外れた路地の住宅街 その一角にメルクさんが用意した家はある

寮に住むわけにはいかないから 軽く家を用意した、本来メルクさん一人で住む予定だったその家を見て エリスは愕然とする、いや…家 というか…これは

「屋敷では」

「凄いなこれは」

「え?この屋敷?この屋敷に住むの?実は隣の家でしたとかそう言うオチではなく?ここ?マジで?」

屋敷だ、住宅街にデンと構えられていた豪勢な屋敷 庭広…窓多…屋根デッカぁ…、だが新しく用意したにしては些か古いな やや年季が入っているようにも見える、がしかしコルスコルピ全体に言えることだが 古臭くはない、寧ろ 味を感じる

「この街に住んでいた貴族の方から買い付けたんだ、話をしたところ もう使わないからと金銭と引き換えに譲ってもらえた、なかなかに綺麗だろう?住むには支障はない筈だ」

「これ買ったんですか?」

「ああ、買った」

買ったって、安くはないだろうに…、いや メルクさんはもう同盟首長だ あの頃のメルクさんではない、デルセクトのトップ それつまり世界で最も金を持つ国の中で更に1番のお金持ちということ、世界一の大富豪と言ってもいい

あの地下で暮らしていた頃とは違うんだなぁ

「…メルクさん、変わってしまいましたね エリスのシチューを喜んでいた頃のメルクさんはもういないんですね」

「なっ!?どど どう言う意味だ!?」

「金銭感覚が違うって意味じゃあないかな、これは流石にこれ俺でも度肝抜くと言うか…スケールが違うと言うか」

「そ そんな、ち 違うんだエリス!別に私の金銭感覚はおかしくなってないぞ!、いやまぁこの屋敷を見た時少し小さいかなと思いもしたが…いやそれがおかしいのか、くそっ!気がつかない間に私もあの金塗れの生活に毒されていたか!」

「ねぇー!、庭先で話ししてないでさー!入ろうよー!」

おっと、この屋敷の大きさに驚いてしまったが 確かに往来で話し込むのは少し迷惑か、いやでもこれは凄いぞ これなら一人一部屋でも何の問題もなく暮らしていける、寧ろ持て余すくらいだ 

急かすデティにつられてみんなも玄関へと向かう、エリスもまた両手に抱えた箱…私物を持って屋敷に向かおうとすると

「ところでエリス、その…荷物の中にある布って」

「え?これですか?」

ふと、ラグナがエリスの荷物の…破かれたコートを見て 指を指す、これか…うん まぁもう着れないけれど捨てるのも忍びないし持ってきてしまった、どうしても愛着というのは捨てられない

「ええ、エリスが着ていたコートですよ …まぁ、他の生徒に切り刻まれてダメにされてしまいましたがね」

「………………そうか、分かった」

とだけ言うとラグナはエリスの頭を力強く撫でて

「悪かった、もう少し俺たちが早く来ていれば…」

「ラグナ……」

「行こう、君にもう寂しい思いはさせない、絶対に」

そう言いながらラグナはエリスの手を引いて、屋敷へ連れて行ってくれる その手は…ゴツゴツしていて柔らかくて 暖かくて…ラグナ、本当に頼もしくなりましたね


……………………………………………………

屋敷の外でも驚いたが 中でもまた驚く、中古のを買ったとは言うが 流石は貴族の住んでいた屋敷、内装も豪華だ 埃もなく綺麗に掃除されている、凄い いや凄いしか出てこない、これから三年間この家で暮らすのか…

メルクさんは手狭と言ったが、全然そんなことないぞ …ムルク村のエドヴィンさんの屋敷よりも豪華だ

「うはぁー!すごー!広ー!」

「テーブルもタンスも一通り揃っているな、これなら直ぐに生活出来そうだ…ありがとうメルクさん」

「いやいいさ、ここで一人は流石に寂しかっただろうからな、賑やかになって私も嬉しい」

みんなリビングやダイニングを見てはしゃいでいる、そんな中エリスは一人お台所へ向かう、キッチンだ…うん ここも道具は一通り揃ってるな、料理も直ぐにできる筈だ

うんうん、お皿もカップも人数分以上ある コーヒー豆もいいものが常備してるし、塩も胡椒も砂糖もある 豪華だ、そう戸棚を開けながら…ふと気がつく

「メルクさーん!、食材が何もないですよ?これじゃあ今日のご飯を作れません」

「何?いやそうか…最近立ち退いてもらったとはいえ食材までは置いていかないか」

「おーい!、こっちも部屋を一通り見て回ったがベッドが一つしかないぞ?」

「むむ、そうか 向こうには一人で暮らすと伝えてあったからベッドは一つしか用意してないのか、困ったな それじゃあ今日はみんな一緒のベッドで寝るしかないか」

「えぇっ!?」

部屋を一通り見て回ったラグナの方向を受けメルクさんはそう言うのだ、みんな一緒のベッドで寝るしかないと、いや デティとはいい あの体ならいい抱き枕になりそうだしメルクさんとは一緒に寝たこともある

け けけ けど、ラグナと?ラグナと一緒に?い 嫌じゃない寧ろ嬉しいけれど、けど 

…朝起きた時 ラグナの寝顔が目の前にある…

そんな妄想をしただけで心臓が爆発しそうになる

「だ!ダメですよ!そんなの!破廉恥です!」

「そそ そうだよ!、流石に四人揃っては な?、一応俺も男だしさ!」

どうやらラグナも心は同じようだ、そうか ラグナも男だ そんな彼が女三人に揉まれながら寝る、不純だ…

「流石に冗談だ、仕方ない 今から買いに行くか」

「買いに行くって…何を?」

「食材とベッド人数分だ」

そんな軽く…いやそうだった、今の彼女は世界最高の大富豪なんだ、昔の貧乏生活が印象に残りすぎてこのギャップに慣れないな

「メルクさーん?、そう言うところじゃありませんの~?」

「え?どう言うところだ?デティ?」

「ベッドはお高いんですよ~?」

「それなら百でも二百でもオーダーメイドで軽く揃えられるくらい金は…ああこう言うところか、すまん 善処する」

「いや別に悪いことではありませんし…、それよりベッド人数分となると 大作業ですね」

「ベッドならいくらでも俺持てるぞ」

「ラグナも大概ですね」

今日はまぁ色々あって授業もないから丸一日フリーだ、なら怠けず今日中に居住出来る状態にしてしまおう、学園生活が始まればみんな学業でそれどころじゃ無くなってしまうから




そう言うわけでエリス達は屋敷に着いたのも束の間 荷物を置いて再び外へと繰り出すことになった、一応足りないのは食材とベッドだけ それ以外は前住んでいた人間が好意で置いて行ってくれたらしい、どれも新しく そのまま使うには申し分なかったので これらはそのまま利用させてもらうことにする

今必要なのは食材とベッドだけ 、他にも足りないものはまた出てくるだろうがこれはその時その時で買い足していく、一応お金はメルクさんが払ってれくるそうだが 金銭の貸し借りは友人相手には作りっぱなしにしたくないので これはちゃんと借金という形で記憶しておく

「それにしてもこの街なんか、いいねぇ~ 落ち着いてて、アジメクを思い出すなあ」

「そうだな、牧歌的?いや違うな 古風と言うのか?、アルクカースとはまた違った良さがある」

四人並んであちこちで買い物を済ませる、食材はエリスが以前利用したお店で一気に大量に買い込んだ、メルクさんもデティもエリスみんな両手は紙袋で一杯だ、そして、ラグナは…

「あの…ラグナ、本当にいいんですか?それ」

「ん?、それって?」

この中で一人の男手であるラグナは 唯一食材の袋を持っていない、…とはいえ手ぶらと言うわけではないんだ、その両手 いや背中には、デンデンデンと三つ重なったベッドが乗っかっている、…さっき買ったベッドを持っているんだ

四人で暮らすには必然ベッドが四つ必要になる、エリスはともかく魔術導皇様や大王様を床やソファで寝かせるわけにはいかないしね、だからまず街一番の歴史を誇る大家具屋に赴き ベッドを三つ購入…

メルクさんが店に乗り込み『メルクリウスだが…』と名乗るなり店の奥からオーナーが飛び出してきて揉み手擦り手で媚を売ってきた、メルクさんの名前は特に商業関連では絶対な影響力を持つらしく お代はいいから今後ともご贔屓にとベッドを人数分用意してくれたんだ、一応それでもお代は払ったけどね

しかし…驚いたのはその後だ、てっきり業者か何かに運んでもらうものと思っていたが 徐にラグナがベッドを三つ持ち上げ、そのまま持って帰ると言い出したのだ、初めて見たよ ベッド買ってそのまま持ち上げて持って帰るの

「重くないですか?ラグナ」

「これか、いやいい鍛錬になるよ 寧ろ軽いくらいだ、もっと重りが欲しい 他には何か買わないのか?タンスとか」

「タンスはもういいでしょう」

「なぁエリス、天蓋付きのベッドじゃなくてもいいのか?」

「いいですよ、というかメルクさん本当に普段どんな生活してるんですか」

メルクさんもラグナも、見ない間に結構めちゃくちゃな人間になっていた、いやまぁいいんだけどさ 元々いい意味でも悪い意味でも型破りな人達だったし

「ねぇ、エリスちゃん お菓子は買わないの?」

「デティ…デティはいつまでも可愛いままですね」

「な なんでそうなるの!?」

よしよし、かわいいデティには後でお菓子を買ってあげよう、なんか 想像していたよりもちっこいからつい甘やかしてしまう

なんて談笑をしながらも買い物は終わる 、とはいえ落ち着く暇はない今日は大仕事の連続だ エリス達は屋敷に帰るなりそれぞれ役割分担をして屋敷の中を己達の居住空間へと仕立て上げていく

ラグナは持って帰ってきたベッドを部屋に運び込んでもらい

その間にメルクさんは部屋の割り振りを行う、ここが誰の部屋で あそこがなんの部屋でと、図式を引いて割り振りを行い

それに従ってデティがみんなの部屋にそれぞれの私物を運び込んで行く、仕事柄 デティは一番私物が多いから、そこは彼女に任せることにした

そしてエリスはみんなが仕事をしている間に食材を管理する、幸いこの屋敷には地下室もあるらしく、食材の保管には事欠かない、一応キッチンの点検を行い 試しに昼食を作る

…その後は、みんなで軽く屋敷を掃除して 庭の手入れをして、椅子を並べて机を並べて…、なんてしている間に 日は傾いていき、仕事がひと段落する頃にはすっかり夕暮れになっていた

「はぁー!終わった!終わったよね!もう仕事ないよね!」

「ああ、それぞれの部屋の分配も終わったし、取り急いでしなければならない仕事はもうないはずだ、こんな肉体労働は久しぶりだからな…私も疲れたよ」

「皆さん、お疲れ様です」

一日の仕事が終わる頃には、みんなクタクタだ デティは椅子に座り込みベターっとしてるし、軍人生活で鍛えられていたメルクさんも ハンカチで額の汗を拭っている、エリスもヘトヘトだ

「はははは、いい汗かいたな みんなで動くのはやはり楽しい」

ラグナだけはピンピンしてるけど、流石アルクカース 流石アルクトゥルス様の弟子 流石ラグナだ、一番動いていたはずなのに一番元気だ

「それじゃあエリス コーヒー淹れますね、ラグナ コーヒーにミルクと砂糖入れますか?」

「ん?ああ、よろしく頼むよ」

「エリス、私はいつもので頼む」

「はい、メルクさん」

そう言いながらコーヒーの支度をする、ラグナはともかく メルクさんとは一緒に暮らしていたこともあるから、彼女の好みは把握している、ミルクと砂糖の適切な分量は今もエリスは覚えてますよ

するとデティはゆっくり親指を立てながら

「エリスちゃん!私はデティスペシャルで」

「はいはい、デティスペシャルですね」

「なんじゃそら、デティスペシャル?」

ラグナが目を丸くする、そうだよな 初見じゃ分からないよな、エリスはデティとの文通で内容を理解してるから驚きはしないが…、デティスペシャルとは デティが公務の合間の休憩に飲むコーヒーを、独自のレシピでアレンジしたものになる

欲しがると思ってちゃんと材料は買ってある、台所へ行きコーヒーを用意する傍ら棚から材料を取り出す

コーヒーの材料に追加で用意するのはオレンジリキュールとクリーム そして色取り取りのキャンディだ

底にオレンジリキュールを注ぎ コーヒーを入れる、ミルクと砂糖はドカドカ入れて 上からクリームを山のように乗せて、そこからさらに砕いたキャンディを振りかけて…完成 デティスペシャル、元々甘いもの好きのメロウリースさんの協力の下で作られた甘味の極致みたいなコーヒーだ

「はい、皆さんのコーヒー出来ましたよ、これはラグナでこれはメルクさんで、これがデティスペシャルです」

「むふふー」

みんなが休んでいるテーブルに、それぞれコーヒーを乗せれば、いやでも目立つ クリーム山脈、それを見てラグナもメルクさんも辟易していて

「これがデティスペシャル…」

「見ているだけで胸焼けしそうだ…」

「えぇ!?、飲んだら美味しいよ?、公務は頭使うし これ飲むと集中できるんだー」

「ちゃんと歯磨きはしてくださいね」

「はーい」

そう言いながら皆それぞれのコーヒーに口をつける、エリスは当然ブラックコーヒーだ、この国のコーヒー豆はどれも良質なものばかり、比べるわけじゃないがマレウスのものよりはエリスの口にあっている

「ん、エリスのコーヒーだ…懐かしいな」

「エリスコーヒーも上手いのか、アルクカースでは終ぞ君のコーヒーを飲むことはなかったからな」

「んまー、仕事の後の一杯~」

「デティ、口の上にクリームが付いてますよ…しかし、好評なようで良かったです、まぁ 豆がいいというのもあるのでしょうがね」

「良いものを良いまま出すというのも ある程度のスキルがないとできないものだ」

みんなでコーヒーを囲んで飲む、団欒…とでも言おうか とても落ち着く、コルスコルピに来てから落ち込みっぱなしだったエリスの心が癒される、みんなとまた過ごせるなんて夢みたいだ 夢じゃないよな…

「さて、そろそろ晩御飯ですし エリスはご飯の準備をしてきますね」

「ああ、待ってくれエリス…その事について俺から一つ、みんなに意見がある」

「ん?何だ?」

「何々?意見って?」

「重要な話だ、エリスも席について」

ラグナが手を挙げ意見があるというのだ、ご飯を作るために立ち上がったエリスも思わずすぐに着席する、何だろう

「…エリスの料理が上手いのは知っている というか、この中でエリス以外に料理が出来る者は?」

「私は出来ないな、いつもシェフに作らせてるし その前はパン屋でパンをかじっていた」

「私も~、というかキッチンには立たせてもらえないから…」

「だろうな、俺もだ」

急にどうした、というかみんなは作れなくていいんだ だって王様だもん、エリスは師匠と二人旅で必然的にそういうものが作れなければ生きていけないし なんだかんだ料理は好きだから別にいいけれど

「だが、これから俺たちは三年間ここで共同生活をする事になる、そこでエリスに三年間負担をかけ続けるというのは如何なものだろうか」

「別にエリスはいいですよ、今更苦でもないですし」

「そうは言うが、例えばエリスが風邪で倒れたり 用事でここを離れたりした時、みんなは何を食べるんだ?柱でも齧るか?」

「それは…」

「ううむ…、確かに 一人に頼りきりになると その一人がいなくなった途端生活が瓦解しかねないしな」

エリスが例えばここを一日離れる日があったとする、そうなったら…確かにここに料理や家事が出来る人間がいないのははっきり言ってエリスも不安だ、みんなは大丈夫だろうかと心配してしまう

「だからこそ、これからは家事を当番制にして 料理も日替わりで当番を変えてみないか?、今日は悪いがエリスに作ってもらうけれど…明日からはみんなが順番で料理を作るんだ」

「えぇ!、私料理できないよ!」

「最初のうちはエリスも教えますよ、それにその手の本を買ってくれば その通りに作りさえすれば簡単です」

「料理か…いつまでもシェフに作ってもらって私は何も出来ません、じゃ格好がつかないしな よし!、それで行こう」

メルクさんが豪快に頷き デティもエリスちゃんが教えてくれるならと渋々頭を下げる、料理は結局食べれさえすればいいんだ そんなに気負わなくてもいい、それに なんだかエリスも楽しみだ、みんなの料理が食べられるならね

「なら決まりだな、メルクさん 後で当番制度を整えるのを手伝ってくれ」

「分かった、じゃあエリスが料理を作っている間に話をまとめてしまうか」

「それではエリス、簡単に作ってしまいますね」

「やったー!ご飯だー!」

ラグナとメルクさんが紙に筆を走らせ始め 料理以外の当番制をどうするか考え始めたのを見てエリスは席を立ち台所へ向かう、さぁ 今日はみんながいる 腕によりをかけるぞ!


…エリスが台所で料理をしている間、ラグナとメルクさんは当番を決めていく 流石は両大国の大主達 話し合いは理路整然と淡々と進んでいく、順番はどうするかとか デティは魔術導皇の仕事があるから当番の回数は少なく とか

その間デティは自室から書類を持ってきてそれに目を通し始め、何やら書き込んだり 判を押したりと魔術導皇の仕事に勤しみ始める

そんな音を台所で楽しみながらエリスは鼻歌交じりに一人料理をする、こんな楽しいのはいつ以来だろうか、鼻歌なんていつ以来だろうか 孤独を感じないのなんていつ以来だろうか

やっぱり みんながいると、楽しいなぁ…



……その日は、久しくちゃんとしたご飯を食べることが出来た みんなと一緒にテーブルを囲んでご飯を食べれた、この間まで何を食べても味がしなかったのに みんなほ顔を見ながら食べるだけでこんなにも世界は美しいものなのか

「エリスちゃんご飯うまー!」

「うん、やっぱりエリスのシチューは絶品だ」

「アルクカースじゃむぐむぐ、魔獣の肉しか捌かなかったからもぐもぐ、こう言うちゃんとした料理をがつがつ、作ってもらうのは初めてだな」

「ラグナ、もっと落ち着いて食べてください」

みんなエリスの料理を美味しい美味しいと食べてくれる、普段もっといいものを食べてるだろうに…

デティはパクパクとパンを食べるが 一口があまりに小さい…かわいい

メルクさんはいつぞやの様に感極まりながらシチューを食べている、懐かしい この感じ

そしてラグナは物凄い勢いで皿を空にしている、張り切って作り過ぎたかと思ったが、まぁラグナが食べる食べる 食べ盛りなんて言葉で誤魔化せないほど食べる、終いにゃシチュー鍋ごとゴクゴク飲み始める始末 …こんなに食べる人だったか?

まぁいい、ともあれ飯を食べれば皆 今まで何があったのかを暖炉の前で話て 夜が更けてきた辺りでこの日は幕を閉じる、また明日から学園生活 互いに頑張ろうと言葉を掛け合い それぞれが部屋に戻る

エリスもまた部屋に戻る…、他の生徒達に荒らされていない 片付いた部屋、前までは眠るのがあんなにも苦痛だったのに 朝が来るのが苦痛だったのに、今日ばかりは 落ち着いて、布団に潜り眠ることが出来た

…ありがとう…みんな、みんなのおかげでエリスは、エリスは…救われました


閉じる瞼、安らぐ心…響く寝息、こうして エリス達魔女の弟子四人による共同生活と学園での戦いが、幕を開けていくのだった
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