孤独の魔女と独りの少女

徒然ナルモ

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六章 探求の魔女アンタレス

152.孤独の魔女と二人だけの世界

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イオとの対談を終えエリス達は展望テラスから降りる、イオはこれから学園を作り変える為行動を開始すると言う、本格的な指導は冬季休暇あたりになる もしかしたらノーブルズ解体の発表は来年にまで伸びるかもしれないが、その辺は彼に任せる エリス達に出来るのは所詮手伝いだけだから

イオはこれから仕事があると言い途中でエリス達と別れ、エリスとラグナは二人だけでパーティ会場のダンスホールに戻ってくる

結構な時間話し込んでいたこともあり、既にパーティは始まり 盛り上がりの真っ盛りといったところ、優美なバイオリンの曲に合わせ 紳士淑女が舞踏を披露している

そんな中 なるべく盛り上がりを邪魔しないようにエリスとラグナはダンスホールの扉を開ける…すると

「あ、お帰り」

お皿の上に山盛りのケーキを乗せたデティが出迎える、どうやらエリスがイオと話をつけにいってから ここで待っていてくれたようだ

「ただいま、もう舞踏は始まってるみたいだな」

「うん、で?イオはどうだった?二人がかりでボコボコにしてきた?」

「別に戦ったわけじゃないよ、ただまぁ 他の耳があるところでは話せないようなことを話してきた、内容は帰ってから話すよ」

「んー、分かったー モチャモチャ」

デティはさしたる興味もなさそうにケーキを頬張る、さて 用事も済んだしエリス的には途中離席でパーティから帰ってもいいのだが…、どうなんだろ パーティの途中離席って

「どうします?ラグナ、帰ります?」

「ううーん、もう帰ってもいいが 一番盛り上がってるところで魔女大国の盟主達が抜けるのは流石にまずいからな、このダンスが終わったらお暇しようか」

「分かりました、では待機しましょうか…ところでメルクさんは?」

「さぁ?」

クリッと首を傾げるデティ、あれから別れたのか…メルクさんどこに行ったのかな 、そういえばなんか商談みたいなことしてたし、それが長引いてるのかもしれないな

だとすると探し出して声をかけるのはやめておいたほうがいいな、終わったら向こうもエリス達を見つけてくれるだろうし、今は大人しくしていよう…

「ではエリスも料理をいくつか拝借しましょうか…」

正直この瞬間を待っていた、パーティで楽しみなものなんて エリスには食事くらいしかない、あれだけ食ってまだ食うかと思われるかもしれないが、今日はこれが晩御飯なんだ もう少し食べておきたい

目の前には机が並べられ その上に数々の料理が並べられている、誰のものということはない その料理を小皿に分けて食べる立食バイキングスタイルなのだ、食事はあくまでサブということだろう

まぁエリスにはメインですが、どれどれ 美味しそうなお魚の料理がありますね、これはどういう料理なのでしょう 、白身魚の焼き身に見たことのないソースがかかった物です、初めて見ますね さてお味は…

「ん?エリス飯食ってんのか?、美味いか?」

ふと、ラグナが背中越しに声をかけてくる、美味しいか?美味しいかって言えば美味しいが、んんー?

「んくっ、美味しいですよ」

「まぁ、料理大国のコルスコルピ、そこの王宮料理人達が作った料理だ そりゃ美味いか」

「でも、なんていうんでしょうか…物足りないというか」

「物足りない?舌でも肥えたか?」

ある意味ではそうなのでしょう、エリスはこの国にてタリアデッサンの料理を食べてしまった、あれに勝るものはこの世にはない そんなことわかってる、だからあれと比べるつもりはない

だが、それでもイマイチに感じてしまうのは…

「アマルトの作った料理の方が美味しいです」

アマルトがエリスを嵌めるために用意したいくつかの小料理、あれの方が数倍は美味しかった、いやぁ 美味しい美味しいと思っていたが、まさかコルスコルピの王宮料理人以上の料理の腕を持つとは 意外だ…

「は?、アマルト?あいつ料理できるの?というか、いつ食ったんだ?」

「さっきです、まぁ色々あって食べる機会がありまして…、彼 凄く料理上手いですよ」

「エリスよりも?」

「比べ物になりませんよ」

エリスのは旅の中培った生きる術、アマルトのは厨房の中で培った本物の調理術、そりゃ平野のど真ん中で材料集めから始める 所謂サバイバル料理対決すれば分かりませんが、少なくとも 道具も材料も揃ったキッチンに立った時の腕前は アマルトの方が数段は上です

「ふぅーん…、エリスは料理できる男が好きなのか?」

「え?、いえ 別に…、料理の腕の有無で人を判断することはありませんが」

「そっか、そっかそっか ならよし」

何がいいんだ?まぁいいか…、しかしアマルトの料理美味しかったなぁ また食べたいなぁ、出来るなら料理とか教えてもらいたいけれど、今行っても教えてもらえなさそうだなぁ

むぐむぐ、ん?…ふと 何気なしに小皿に取り分け 頬張った料理に衝撃を受ける、なんだ?このチーズ 他のに比べてやけに美味しいぞ?、というかあれもこれもそれも チーズだけが美味しく感じる

気がつけばエリスはチーズを皿の上に山盛りに持っており、それを一心不乱に食らっていた

「意外だな、エリスチーズ好きだったのか?」

「そ そういうわけでは…、ただなんだか今はチーズが食べたい気分で…見ないでくださいラグナ」

両手にいっぱい 頬袋いっぱいにチーズを食べるエリスを彼に見て欲しく無い、なんで…なんでこんなにチーズが美味しいんだよー!ちゅー!

「あ あの、ラグナ様?」

「おん?」

「ん?」

ふと、料理を食べるエリスとそれを眺めるラグナに声がかかる、いや声がかかったのはラグナの方か

声の主はドレスを着込んだ女性だ、メルクさんと同じか あるいはそれより年上か、下手したらホリンさんくらいの年齢の女性が おずおずとラグナに擦り寄ってくる

「あの、ダンスのお相手は決まっていますか?」

「ダンス?…ああ、ダンスね 悪い俺は…」

「よ よろしければ私とダンスを踊っていただけませんか?」

ダンス?、ああ あの中央で優雅に踊るあれか、男女が抱き合うようにくるりくるりと水面の葉の如く舞う優美なダンス、名前はなんていうんだ?ワルツ?フォークダンス?

まぁ、名前はなんでもいいか ラグナはそのお誘いを受けたのだ、目の前の女性に

感じ的に知り合いではない、ならなんでラグナか?ラグナがかっこいいから?、まぁそれもあるだろうが 一番の理由は玉の輿か

「今宵、このパーティにラグナ大王が出席すると聞いて以来 私、ラグナ大王と踊るために身を磨いてまいりました、どうか…一夜の夢を私に」

「とは言ってもな…俺」

「でしたらラグナ大王!私と!」

「なっ!?抜け駆けは許しません!」

「私が最初に目をつけていて…」

寄ってくる、最初の女性を皮切りに次々とラグナの周りにドレスを着込んだ淑女達が、ラグナと同じくらいの人から 厚化粧で年齢をごまかした結構な年の人、若いところを見ればまだ年端もいかないような子も目をギラギラ輝かせてラグナにダンスのお誘いをしている

そりゃそうだ、こういう場は 穿った見方をすれば求婚の場でもある、ダンスを通じて心を交わし やがて恋仲へ、なんて話もよく聞く…つまり彼女達はラグナの正妻の座を狙っている

何せあのアルクカースの大王 しかも歴代でも屈指の若さと強さを持つと言われるラグナだ、将来有望どころの騒ぎじゃない もし彼の伴侶となれれば…凄まじい権力が手に入ると見ているのだ

まぁ、エリスからしてみればあんな物騒な国の女王様になりたいものかと思うが…みんなは違うんだろうな

「ラグナ大王!」

「どうか私と!」

「こんなおばさん達よりも私の方が若いし綺麗だよ!」

「この!クソガキ!」


「いやだから俺は…って聞いてねぇなこりゃ」

そんな様をエリスは横でチーズを頬張りモチャモチャ音を立てながら眺める ラグナ困ってるな…受ける気は無いのかな

ふと、フロアの真ん中で踊る男女を見る…互いに腰を握り 見つめ合いながら踊る、激しくはない だがそれで来て優美に見えるのは、そのダンスそのものがたった二人だけの世界を作り出しているからだろう

もし、ラグナがこの中の誰かの呼びかけに応えたら、ラグナがあれをするのか…息の触れ合うような距離で、腰を握り…見つめ合い

(面白くないな…)

それを思い浮かべるだけでやや不機嫌になる、なんかムカムカする ここにいる人たちはラグナのことなんか知らないくせに、彼がどれだけすごい人なのか 知っているのはこの場でエリスだけだ

………面白くない、やっぱり

「ちょっと!ラグナ様は私と踊るの!」

「ラグナ様?こんな小娘は置いておいてわたくしと向こうへ…」

「いや、だから…」

「…ごくん、ラグナ!」

チーズを食べ終え 強引にそれを飲み込むと共にラグナの名を叫ぶ、お皿をテーブルに叩きつけながら

「え エリス?」

「行きますよ!」

「へ?どこに…おい!」

ラグナの手を掴み 引っ張って向かう、何処へ?決まっている ダンスホールの中央…、踊りの舞台 その真ん中へ

「え エリスさん?」

「ラグナ…エリスと踊ってください」

「エリスと!?」

「嫌ですか?」

「……、いや 寧ろ喜ばしい、お前とならな」

ラグナと手を繋いだまま見つめ合う、エリスとラグナの乱入に 演奏は止まり周りのダンスも止まる、…つい カッとなって誘ってしまったが、エリス大変なことをしたのではないか?

「あの…いや ほんとすみません、誘っておいてなんですが 、実はエリス踊れません、ラグナ踊れますか?」

「マジか…、エリスも知ってるだろ?うちの国の舞踏会がどんなもんか、踊れないから断ってたんだ」

「それは…悪いことをしました」

ややしょんぼりしながらも、ラグナはもう片方の手を取ってくれる、エリスは踊れない ラグナも踊れない、それでも エリスの強引な誘いに乗ってくれるというのだ

やはり彼は優しいな…

「どうしましょう…」

「誘っておいてそれか?、大丈夫 なるようになるさ、その為にもやれるようにやろう」

「やれるように…そうですね」

エリスの手がラグナと結ばれる ラグナの手がエリスの腰に回される、姿勢が整ったのを見計らい 楽団が音楽を奏で始める それに伴い、周囲もまた音楽に合わせ踊り始める がしかし、エリス達の周りに寄ってくる者はいない

いつしかエリス達は中心に追いやられる、いや違うな エリス達を立ててくれているんだ、場の空気を読んで エリス達を主役にする為に、ラグナ大王と その相手が映えるように

「では…」

「ああ」

ステップを踏む、激しいものとは違う ゆっくりと 体を円状に回転させるように、ラグナと共にゆったりと舞うように、エリスにダンスの経験はない 

だから、周りのダンスを見て学ぶ この時はこうステップを踏み、この後はこう体を動かす、そう記憶して

「エリス」

「はい?」

「周りを見るな、俺を見ろ」

「へ…」

ラグナに呼びかけられ 彼の目を見る、見つめ合う 周りと同じように、いくら形だけ真似ても意味がない この場のダンスとは、二人が二人だけの世界を作るところにある…

「……あの」

「ん?」

「怒ってますか?、いきなり誘って」

「怒ってない、俺も一瞬君を誘おうかと思ってた けど、君に迷惑がかかるかと思ってさ」

「…エリスは今絶賛それを考えています」

「気があうな、でも迷惑なんてことはない、さ!踊るぞ?周りに俺たちのやり方を見せてやろう!」

「へ?あ ちょっ!」

突如ラグナはエリスの腰を強く掴み、振るうようにエリスの体を回転させる、は 激しい、テンポも何もあったもんじゃない!こんな振り回すような踊り方 他の人間でやったら怪我させるんじゃないか!?

あ、でもこれ…エリスなら 合わせられる

「ラグナ いきなり過ぎますよ!」

「だけどエリスはいつだって俺に合わせてくれる、戦いだって 普段だって、いつも俺を助けてくれる 、だろ?」

まぁ、そうだな…振り回すようなラグナの踊りに合わせる…、彼が力でエリスを振るうなら、エリスはそれを風のように受け止め 風に舞う葉のように優雅にクルリと納める、これならダンスに見えなくもないだろう

「いいぞエリス、その調子だ」

「もう…ふふ、こんなダンス エリスと以外じゃ踊れませんね」

「お前と以外踊る気ないよ!」

合わせる ラグナの動きにエリスが合わせる、エリスの反応にラグナも合わせる、めちゃくちゃな踊りだ、スローテンポなバラードのど真ん中で エリスとラグナは掴みあうような組んず解れずの掴み投げ合いを演じる

めちゃくちゃだ、めちゃくちゃだがラグナらしい、気がつけば 周りの目も周りの動きも目に入らない 、彼だけが目に映る 彼の目にエリスだけが映る

それがたまらなく嬉しくて…

「ラグナ!」

「なんだよ!」

「エリスも ラグナ以外とは踊りません!」

「はははは、そっか!」

笑い合い微笑み合い、周りを気にせず二人だけで踊る 周りとは違う二人だけの踊り、二人だけの世界、はしゃぎ合うような 楽しむような、周りから言えば踊りとも言えないようなそれを エリス達は踊りと呼ぶ、二人だけの踊りと



そして、時間も忘れる二人の時間に、終わりの時が訪れる…音楽が 終わったのだ

「ありゃ?」

「あれ?」

まだ音楽が続くものと思っていたから、急に止まった音楽に面食らい 二人して静止する、ちなみに今の姿勢はラグナがエリスの体を持ち上げている、多分この後思い切りエリスのことをなぜ飛ばそうとしていたのだろう、まぁエリスならそれも踊りっぽくできるのだが…

音楽が止まったという事はダンスは終わり?

その疑問に答えるように万雷の拍手が鳴り響く、エリス達のダンスの美しさを称えて…ってわけじゃないんだろうな、あれダンスというよりサーカスって感じだったし 

なんか、冷静になったらすげー恥ずかしくなってきた、さっきラグナを誘ってた女の子達はなんかハンカチ噛んでるし…、居たたまれなくなり 逃げるようにその場を後にする…、ラグナと手を繋いで

「エリス」

「はい?」

「楽しかったな」

ニッ と笑う彼の顔が見える、…この胸の熱の正体その答え、なんとなくわかった気がするな

「はいっ!」

そっか、そうなんだ エリスはきっと いや やっぱりと言ったほうがいいのかな、エリスはラグナが…




「二人ともおかえりー」

エリス達が戻る先は先ほどと同じ場所、デティの座る場所

さっきからずっとケーキ食べてるけど…なんかさっきよりもケーキの量が増えている気がする

「二人とも凄かったね、ダンスではなかったけど」

「やっぱり?」

「あれをダンスって呼んだならいろんな人が怒りそうなぐらいだよ、見ていて面白かったけどね」

「あはは、エリスも薄々感じてましたけど…まぁ楽しかったですけどね」

「堅苦しいダンスなんか 俺とエリスには似合わないさ、まぁ二度と周りからダンスに誘ってもらえそうにないけどな」

「いいじゃないですか、あんなの他の人にやったら怪我させちゃいますよ」

「だよな、俺についてこれるのはエリスくらいだ」

「ほんと息ぴったりだよねぇ二人とも」

そりゃ 継承戦の時から二人で戦い、この一年でエリスはずっとラグナと一緒にいましたかね、師匠の次くらいにラグナの動きは理解できますから

「ところでデティはダンスに誘われなかったんですか?」

「誘われたよ、クソガキにね、何が『同じくらいの身長の相手探してたんだぁ』だよ」

「クソとか言っちゃいけませんよ」

プリプリ頬を膨らませるデティ…ですけど、デティの身長は一般的に見てもかなり低い、彼女と踊るのは別の意味で大変そうだな…

「さてと、そろそろパーティもお開きのはずだし 、メルクさんを探して退散しようぜ」

「そうですね、とはいえ…ざっと見た感じメルクさんは見当たりませんね」

そろそろメルクさんを回収して、と思ったが見当たらない…あの人のことならエリスとラグナのダンスを見れば直ぐに『ラブコメだ…』とか言いながら寄ってきそうなのに

…エリスが首を回しメルクさんを探し始めた瞬間、ダンスホールの入り口が勢いよく開かれる

「エリス!ラグナ!デティ!」

「あれ?メルクさん?今までどこに…」

入り口を蹴り開けるが如く勢いで突っ込んできたのはメルクさんだ、その表情は鬼気迫り…手には銃、様子がおかしいぞ

「来い、話がある」

「尋常じゃないな…、ちょうど用事も終わった、俺たちも話したいことがある、エリデティ、行くぞ」

「はい、分かりました」

「えぇ!!まだケーキ…ううん、分かった 今行くね!」

メルクさんの目はギラついている、あの人があんな目をするという事は尋常ならざる何事かがあったに違いない、ちょうどダンスも終わりパーティもお開きムードだ 四人揃って抜けても問題あるまい

ラグナの号令でエリス達は揃って城を後にする、月が空を照らす宵刻 外に出ればもう外を出歩く人間は少なく、これなら帰路につきながら話をしても問題ないだろう

「で?、どうした 銃なんか持ち込んで」

帰りは馬車ではなく歩きだ、御者にも聞かれたく無い話らしく エリス達は徒歩で夜の街を歩きながら メルクさんに問いかける、何があったかと

「ああ、実はさっき城の中をうろついていたらな…黒服に会った」

「黒服?黒い服を着た人?」

「違いますデティ、黒服とは即ち…居たんですね、大いなるアルカナが」

「ああ、あの城でテロを起こそうとしていたところで戦闘になった」

…思ったよりもヘビーな話だ いや当然か、彼女がわざわざ銃まで持ち出して出歩いてたんだ、戦闘になったなら もうパーティムードでは居られまい

しかし、アルカナが?あの城に忍び込んできた?

「大いなるアルカナか…」

「奴ら、アインの名を口にしていた …恐らくアインの命で動いていたのだろう、狙いまではわからん、聞き出すよりも前に口封じをされてしまった」

メルクさんその時の状況を確認するように説明する、人気の無い廊下の奥で5、6人の黒服に出会い 一時は制圧したものの、突如とし現れたゴーレムにより黒服達はみんな殺されてしまったらしい

一応その後城の人間には伝えたらしく それで帰りが遅くなったのだ

しかしアインか、No.15 悪魔のアイン…全部で20人ちょっといるアルカナ幹部の中でも上位の実力を持つ存在にしてこのコルスコルピでの計画の責任者、そして未だその全容を見せない奴 それが今になって尻尾を見せた

つまり行動し始めたのだ、今回は防げたが…想定以上に危険な状態なのかもしれない

「アルカナがこの町に…そりゃいるよね、だってこの街には魔女の弟子が五人もいてついでに探求の魔女様がいるんだもの」

「そうですね…、そり奴等も狙うならこの街を狙いますよね、思えばあの城にはアマルトもいました、あそこをぶっ飛ばせば 魔女の弟子五人を叩けますもん、メルクさん 助かりました」

「それはいい、偶然だからな…まだ奴等が本当に動き出したとは言い切れんが、この町で活動していたなら 早いうちに見つけておきたい、明日 シオに連絡しておくよ」

「ありがとうございます」

しかし、タイミングでアルカナも被さってくるか、ただでさえノーブルズで忙しいのに…

「それでラグナ 話とは?イオとの決着はどうなった?」

「ああ、つけてきたんで色々あってノーブルズ無くなる事になった」

「は!?」

「色々ォ!?」

ラグナはしょり過ぎぃ!、そんな勢い余ってノーブルズまで消しとばしたみたいな…ええい!詳しい説明はエリスがします!

何したんだラグナ と青ざめるメルクさん達にイオと和解した事 イオが反ノーブルズ派の拳を収めさせる為 ノーブルズを無くし新たな組織を作り再スタートを切ることを決めたと、その活動にエリス達も関わり 荒廃した学園を立て直す手伝いをすることになったと

「じゃあこれからノーブルズは敵じゃ無いってこと?」

「ちょっと違うな、トップであるイオが俺たちの味方になり 俺達がイオの味方になっただけだ、いくらトップが和解を表明したからって下まで同じように意識が変わるわけじゃ無い、俺たちのことが気に入らない奴は引き続き敵対行動を取ってくるだろう、だがまぁ 今までみたいにあからさまに叩いてくる事はないだろ」

「なるほど、信用のなくなった組織を解体し 新しい組織で治世を望むか、ノーブルズが無くなれば貴族の横暴も抑えられるから反ノーブルズ派も少しは大人しくなるだろう、そして 新しい組織で荒れた学園を正す…悪くは無いが、ややリスキーだな」

「だからエリス達も手伝うのです、少しでも新組織の発足が上手くいくように、学園が荒れたのには エリス達も関わってるわけですし」

ノーブルズとエリス達の戦いのせいで学園はめちゃくちゃになってしまった、壊すのに手を貸したのなら 直すのにも手を貸すのは当たり前の話だ

「ともあれ承知した、我々も出来る限りのことをしよう…イオは今頃ノーブルズ達と話をしているだろうし、我等は反ノーブルズ派に干渉するか」

「ああ、ノーブルズ解体に乗じて自分達がトップに成り代わってやろうとする奴らもいるかもしれない、だから俺達はそちらに牽制を仕掛ける それでいいよな?」

「いいと思うよ、まぁ 私達は反ノーブルズ派を率いて無いから 抑えるのはちょっと面倒だけどね」

「それでもやるぞ、俺たちの学園での戦いももう大詰めなんだ、ノーブルズを抑えれば アマルトに後はない、あとはアマルトと決着をつけるだけだ、頑張るぞー!」

「おー!」

目の前のことを片付ける そうしていくことで遥か先に在り手の届かないと思われた場所にさえたどり着ける、エリス達はこの一年それを実直に続けることにより 遂にノーブルズを乗り越え、アマルトの目の前までたどり着いた

だが、慌ててはいけない ここで横着をして何もかも崩して仕舞えば取り返しがつかない、だから 例えどれだけ目的が近づこうともエリス達のやることに変わりはない

先ずすべきは反ノーブルズ派の牽制だ、イオがノーブルズを纏めるから 代わりにエリス達が反ノーブルズ派を纏めるのだ、イオは早速明日から動くというし エリス達も怠けてられない

行動は早速明日から!そう話を整えエリス達は屋敷への帰路を急ぐ、とりあえず明日も学園だからね パーティの後でも早寝早起きは欠かせない

…………………………………………………………

「それじゃー!おやすみー!」

「ではエリスも寝ますね、おやすみなさい」

「私も床に着く、ラグナも早く寝ろよ」

「分かってるよ、おやすみさん」

とりあえず重要な話は終わったと屋敷に着くなりみんな寝巻きに着替え自室に戻る、デティやエリスあたりはもうヘトヘトだろう、メルクさんは流石に慣れているようだったが それでも疲れてることに変わりはない

事実ラグナも…俺も、ちょっと疲れてる 体がじゃなく気が

「はぁ…」

自室に戻り ベッドに腰をかけるラグナ、疲れたが楽しかった…この手のパーティという奴は一応アルクカースでも開かれているし 他国の物にもよく出席するから 俺だって慣れてはいるが

今日のパーティは一段と楽しかった、みんなと一緒に出れたからか、或いは大王としての重責がいつもに比べて軽かったからか、いつも部下を大勢連れての出席だしな そう考えると今日のは幾分気楽だった

「しかし…ねぇ」

そのままベッドの上に倒れ込み 天井を見る、イオから聞かされた話…バーバラを襲ったと思われる真犯人、イオからは他言無用の約束で聞かせてもらった以上エリス達には話せない

…イオはまだ怪しんでいるだけの段階だったが、ラグナは確信している アイツは間違いなく犯人だ、ラグナが持つ情報から照らし合わせても 色々合点が行く要素が多すぎる

しかし奴が犯人だとすると、アイツとアイツも共犯者ってことになるが、ううーん それじゃあ人数が合わない 、一人足りない

まだあの学園には俺たちの把握していない何かがいるのか、…エリス達にもイオに内緒で相談しようか、…いや  今はいい、奴等は後回しでいいな

今この忙しい時に別の問題を持ち込んでみんなを混乱させたく無い、それに エリスも少なからぬショックを受けるはずだし、いや或いはやっぱりと納得するか

「…エリスか」

ふと、エリスの事を考えると 手のひらが熱くなるのを感じる、俺は今日この手でエリスの手を取り踊った、こちらの手でエリスの手を こちらの手でエリスの腰を取った、握ったのだ 恋い慕う少女の体を

その時感じた感情は何か?ドギマギしたか?緊張したか?、まぁ多少はしたけどさそんなものすぐ別の感情かき消され

(細かった…軽かった…)

エリスの手は華奢で 握れば折れそうで、エリスの体は綿のように軽かった、あんな細く軽い体であの子は戦ってるのか?、旅をしているのか…寧ろ心配になった、いつか花のように何者かの手によってに手折れてしまうのでは無いかと

何者か…アルカナか バシレウスか、彼女の前には乗り越えなきゃいけない敵は数多だ、心配でたまらなくなった

出来るなら旅をやめさせて俺の城に閉じこめたい、けどそれはバシレウスのやろうとしていることと変わりはない だからしない、けど…くそったれが

守りたい エリスを、何者からも 彼女を狙う全てから守りたい、その気持ちは師範に弟子入りした時から変わらない いやむしろ強くなる一方だ

世界が彼女を敵とみなしたら、俺はもしかしたら世界を滅ぼしてしまうかもしれない…そう思えるほどに


「なんて、彼女が望まないなら そんなことしないんだけどな」

そんなことしたらデティに怒られそうだ、なんとなくそんな気がする…そう息を吐きながら寝返りを打つ

…しかし、しかし…!今…今!今にして思うと俺すげーことしたな!エリスとダンスだって!、やべー!今になってすげー心踊ってきたぞ!?

俺の腕の中で踊るエリスめっちゃ可愛かったなぁ!、もう一回踊りてー 来年もパーティに出席しようかな、また踊ってくれるかなぁ

来年かぁ…

「来年の今頃には 全部終わりにしておきたいな」

いい加減、何にも気にしない学園生活が送りたい、アマルトともイオみたいに和解してさ…なーんにも気にしない時間を過ごしたいよ

……………………………………………………

「……イオ」

「珍しいな、こんなところで会うなど」

真夜中の学園、灯りも灯らぬ廊下のど真ん中で早退する人影、イオ・コペルニクス とアマルト・アリスタルコス この国の二大巨頭たる国王と理事長の血を引く二人が見つめ合う いつもならノーブルズの聖域たる学園祭頂上でしか顔を合わせないのだが

彼がこんなところを歩くなど珍しい、いやそもそも夜の学園にずっと居着いているアマルトの方が少しおかしいのだが

対するイオは、ノーブルズ解体の為の資料を軽く取りに来ただけなんだが…意外な人物に会ってしまった、ちょっと気まずい

「夜の学園は危ないぜ、何が潜んでるか分からない」

「そういうお前はどうなんだ?アマルト、お前 家帰ってないんだろう?」

「帰っても 帰らなくても、変わらねぇなら 帰らない方が気が楽だろ、あんな家」

「まぁ、そうだな…」

アリスタルコス家は厳格な家だ、周りにはそう伝わっているが その全容を知るのはこの国の王家 コペルニクス 家だけだ、あそことは代々家単位での付き合いがあるからな 血の繋がらない親戚くらい

私とアマルトにしてみれば、血の繋がりない兄弟くらいの感覚だ

「で?、何しにきたんだよ こんな時間まで仕事か?手伝おうか?」

「珍しいなお前が私の仕事を手伝うなど」

「…別に、気まぐれだよ でも今気が変わった 絶対手伝ってやんねぇ」

…変わったな いや 戻ったかアマルト、この一年で取り返しがつかないまでに腐っていたお前は今徐々に立ち上がろうとしている

それは エリスやラグナ達を見ているからか?、あの怖いもの知らずの無鉄砲さは 昔のお前そっくりだものな、何もなければ きっとお前はあの四人の中に居ただろう、そう思えるほどに

私ではどうにも出来なかったのに、…そんな嫉妬を抱いていたが 違う、私には私にしか出来ないことがある、エリス達がアマルトの手を前へ引くなら 私はその背を押してやれる

お前は逃げずに進むべきなんだ、君が最初に言っていた 夢に向かって…

「…なんだよ、じっと見つめて」

「お前は 相変わらずこの学園が好きだな」

「何言ってんだよ、んなわけねぇだろこんなボロ校舎 埃臭いし固定観念で凝り固まってるし、誇りだ伝統だなんて言っちゃいるが 根っこが腐ってんだ、ないほうがいいだろ」

「随分学園のことを見ているな、本当に無関心なら、そこまで罵倒の言葉な出てこない…お前はやはり まだこの学園に夢を見ている、そうだろ?」

「…今日は随分意地悪だな?」

そりゃそうだ、もうお前に遠慮して悩むのはやめたんだ、お前を見つめ直し 私は今お前のために危ない橋を渡ろうとしている、安定と秩序の為多くの生徒を切り捨てた私が、友の為にその安定と秩序さえ切り捨てようとしている

都合のいい話かもしれないが、それこそが 学園の未来に繋がると信じているから

「こんな時間まで学園に残り 廊下を歩いていたのは、校舎を見て回っていたから…そんなところを他人に見られたくないから、夜に一人で見て回ってる、違うか?」

「……残念、違うな」

「いいや違わない その通りだ、昔からお前はこの学園が大好きだった 毎日のように学園を眺めて目を輝かせて、いつかあの学園を導く理事長になってみせる…子供の頃はよく言っていたな」

「昔の話だ、そんな夢…糞の山に打ち立てられたものだって事に気がついたからな…クソぶっかけられてよ」

「口が悪いな、そういう汚い事いうのは良くないぞ」

「うるせえやい、で?…お前 何企んでる」

…企んでるか、私がお前の心が分かるように、お前も分かるよな 私の考えていることが、何せ私達は 親友だから…、でも

「何も、ただ 今日はパーティに出席していたからな、あまり仕事に手が付いてないんだ その残務を片付けにきた」

嘘をつく、彼には言わない…結果 私は彼を裏切る、彼はきっとショックを受けるだろう 唯一の救いの手である私さえも失えばは逃げ場を失う、心苦しいさ 私の半身たる君にそんな目を合わせるのは

だが、逃げ場も言い訳も無くした君じゃないと意味がないんだ

「まぁいいか、お前は違うだろうし」

「違う?何がだ」

「この学園に忍び込んでるくそったれさ、生徒のフリして入り込んでる奴がいる…何人かは分からねぇが、俺とエリス達の対立を煽って その影で動いてる奴がいる」

初耳だ、いや或いはラグナ陛下あたりは知っているかもしれない、私がバーバラ襲撃事件の犯人を口にした時 なんとなく合点がいった顔をしていたから

多分、その忍び込んでる奴とは 私の言った犯人と同じ…

「誰だ、分かるのか?」

「なんとなくだがな、でも尻尾を出さない …いや睨みつけて出させてないって言ったほうが正しいか、まぁ どうでもいいけどよ、んなことさ」

「いいのか?気にしてるみたいだが」

「気に入らないだけだよ 人の目盗むその根性が、でも気に入らない度合いじゃエリスの方が上だ、アイツは 絶対ぶちのめす、人のこと見透かしたようなこと言いやがって」

「エリスと話したのか」

「ああ、…今のお前と同じ目をしてたよ、ほんと やな奴」

今の私と同じ目か、…なら エリス達もまたアマルトのことを気にかけてくれているのだろう、本当に 恵まれた男だよ君は

「そっか、わかった では私は仕事を回収して帰るよ」

「おう、…なぁイオ」

「ん?なんだ」

「お前…俺を見捨てないよな」

見捨てるか…裏切るではなく、なら それならば大丈夫だ

「私はお前を見捨てない…なんて上っ面だけで言うのは好きじゃないだろ?、安心しろ 行動で示してみせる、私を信頼しろ」

「お おう、えらく真摯に答えてくれたな…別に聞いてみただけだから気にすんな」

「私も、本心を言ってみただけだ」

「今日のお前なんか変だぞ…、まぁいいや じゃあな、気ぃつけて帰れよ」

「ああ」

とだけアマルトに言い残し背を向ける、…私はアマルトの為ならば 友の為ならば幾らでもどんなことでもしてみせる

あの時 アマルトに何もしてやれなかった、その責任を果たす為に 今度こそ嫌われてでも彼を救う…救ってみせる!
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