孤独の魔女と独りの少女

徒然ナルモ

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六章 探求の魔女アンタレス

153.孤独の魔女とイジメとイジメラレ

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収穫祭が終わる、それは一年の学園生活が終盤に差し掛かることを意味する、木枯らしが吹き始め 景色を彩る木々は徐々に痩せ細り 一抹の寂寥感を漂わせ始める、四季の存在するこの国は窓の外を見るだけで時間の流れを感じることが出来る

…もうすぐ冬だ、エリス達はあの収穫祭でのパーティでイオと和解し一つの条約を交わした

『ノーブルズを解体し、新たなる組織を成立する…その手伝いをしてもらいたい』

つまり、新たなる学園を作り出すこと 学園全体の変革だ、エリス達とノーブルズの対立のせいで 学園は二つに割れて崩壊に向かって走り出している、それがアマルトの狙いである事に気がついた時には既に遅く 何も手を出せずただ時だけが過ぎていた 

そんな時にもたらされたイオの提案 、彼も今の学園を憂いていたんだ…、だがさしものイオだけでは学園の変革など出来ようはずもない

故に頭を下げた、エリス達に…敵対していたエリス達に対して 頭を下げた、故にエリス達も頭を下げた 謝罪をした、そして和解した…

これで全部解決みんな仲良し とはいかないが、少なくともエリス達は和解したんだ、もうノーブルズ達と反目する理由は無くなった、後はイオの提案通り学園変革に向かって動くだけだ

イオはノーブルズに対して働きかけ始めている、国王としてノーブルズメンバーに話をしているのだ、そりゃ彼がいくらノーブルズのリーダーだからって 彼一人の一存では決められない、一筋縄ではいかないだろうが 彼ならやるだろう

ならそれを信じてエリス達はエリス達の仕事をする

それはノーブルズに反抗する抵抗勢力達の牽制だ、ノーブルズはこれからどんどんその動きを縮小していく、その好きに乗じて抵抗勢力が台頭し 新たな支配基盤を整えてしまうと面倒だからね

空いたノーブルズの席に座るのは反ノーブルズ派ではなく イオが今構想している生徒会なのだから、その邪魔はさせない

それに元々、そんな抵抗勢力を生み出してしまったのは、エリス達がノーブルズの力を削いでしまったからですからね、その始末はつけないと

「と、言うわけなんだ クライス、頼めるか?」

そんなわけでエリス達は今 放課後の教室にて、授業が終わり帰り仕度をしている同じ魔術科の生徒 クライスさんを取り囲んで話をしている、ノーブルズ解体はトップシークレット なのでそこは伏せて反ノーブルズ派とお話がしたいと彼に頼み込んでいる

クライスさんは最古の反ノーブルズ派組織 アコンプリスのリーダーだ、一応他の反ノーブルズ派の組織とも繋がりがある、故に彼を通して反ノーブルズ派と接触する方が楽なのだ 色々と

「いきなりだな、今まで不干渉を保っていた君達が反ノーブルズ派の組織達と接触したいとは、どう言う風の吹きまわしかな?、いよいよ反ノーブルズ派を統一してこの学園でも獲る気になったか?」

「んなわけあるか、ただ最近の反ノーブルズ派の活動は目に余る、そろそろ灸を据えたい」

反ノーブルズ派の活動…とはまぁ多岐にわたるが、基本的には不真面目なものが多い、いつぞやエリスが見た 授業中に机の上で足を組み授業を聞いているそぶりさえ見せなかった彼、あれも反ノーブルズ派の一員だ

所謂不良とでも言おうか、抑圧された支配から脱却する為 みんなとは違う行動をとる、…今まではそれが許されなかったがノーブルズの力が弱まり、彼らは思う存分不良活動ができるようになったのだ

今じゃかつてのノーブルズと変わらない乱暴や悪行を働く人間もいる、…イオの悪即退学はやり過ぎ感もあったが それでもこの学園の秩序維持に貢献していたんだな、と改めて感じさせられる

「そうか…まぁそうだな、我らアコンプリスは君達の支援をする組織…だが他の反ノーブルズ派達は違う、ただただ上に反抗したいだけのお子ちゃま組織さ 若気の至りというやつだね」

「お前も対して年は変わらんだろうが」

「精神的な年齢が違うのさ、反骨にロマンを感じるのは子供だけだ、そういう意味では 他の反ノーブルズ派の横暴な活動には此方としても辟易していた、君達が灸を据えるというなら 喜んで手伝おう」

「ありがとよクライス、相変わらず頼りになるな」

「当然 エリート故、だがねラグナ?…気をつけたほうがいいよ、少し前までは標的はノーブルズだけだったが、今は君達も反抗の標的になりつつある」

くい とメガネをあげながらクライスさんは言う、エリス達も標的であると…

「俺たちもか?、なんで」

「以前の課題の時 ガニメデと組んだのが尾を引いている、反ノーブルズ派達の中では 君達が裏でノーブルズ達と繋がっている、と実しやかに囁かれているらしい」

あらまぁ、ガニメデさんの時のやつか…しかも 裏で繋がってるって意味じゃあ今は事実だからタチが悪い、それは偽りです!なんて嘘をついてもどうせその後バレたら元の木阿弥だしな

…どうしましょう

「そうか、敵意を持ってるならちょうどいい クライス、そいつら集められるか?」

「…集められると思うぞ、私はエリートだからな…だがいいのか?、今反ノーブルズ派の組織は十以上 メンバー単位で数えれば五百はいる、それに襲われれば…」

「襲われれば?どうなる?」

「…はぁ、心配無用か、わかった では今日の放課後に反ノーブルズ派を魔術修練場に集めさせる、要件は変に濁さずお前らが話があると伝えるぞ?その方が集まるがいいだろうからな」

「サンキュークライス、お前ほんと頼りになるぜ」

「当然だ、エリートだからな …では早速動こう」

話はついた、クライスさんにお願いして反ノーブルズ派の人達を一箇所に集めてもらう、一つ一つエリス達が彼らを訪ねるより纏めてお話しした方が楽だしね

しかし今日の放課後か、…長くなるかな お夕飯の材料足りるかちょっと不安だし、買い足しておきたかったんだが …

なんて思っているとクライスさんは立ち上がると共に…

「…ノーブルズ達と和解するんだな」

なんて仰いますのだ、これには流石にエリスも驚いて…

「気がついていたんですか?」

なんて答え合せをしてしまう、行ってから気づく 正直すぎたと…、しかしクライスさんはそんなエリスを鼻で笑い

「時勢を見れば当然だ、ノーブルズ側もこれ以上メンツを潰されれば後がないからね…ここら辺で手打ちにしようと大方先日の収穫祭の時に言われたんだろう?、君達揃ってパーティに招待されていたようだしね」

「流石だな、その通りだ」

「まぁ、和解するならすればいいさ ノーブルズはさんざ打ちのめした、もう溜飲の下がったものが大半だ、これ以上を望むものは少ないだろう…、始めたのが君達なら 終わらせる権利も君達にある、後は君達の好きなようにやりなさい」

と クライスさんは後を任せてくれる、彼は徹底してエリス達の補佐をしてくれるようだ 本当に頼りになる人だ、最初会った時はそうも思わなかったが

いや、例の火災で彼も変わったんだ、あの経験がなければ彼はエリス達に味方してくれなかったし、してくれたとしてもああも献身的に誰かのために動かなかっただろう

それも偏にラグナが命をかけてクライスさんを助けたから、その経験があったからクライスさんは変わった、…人は いつだって変われるのだろうな

教室を出て行くかクライスさんを見送り…さてと と一息つく

「今から反ノーブルズ派を集めて 其奴らを牽制する…か、ラグナ 何か手はあるのか?」

ふとメルクさんが問う、牽制するって言っても やめてと言われてやめられるほど彼らも子供ではない、説得するにせよ ぶっ潰すにせよ、彼らを大人しくさせる手を考えておかねばならないが…

「ん?手はない まぁなんとかなるだろう」

ラグナはお気楽にも答える、お気楽気ままにだ…いやまぁ彼のことならなんとかしてくれるとは思うが、にしても と思う

ラグナ…やっぱり国にいる時よりも学園にいる時の方が若干あれですね、気楽です
アルクカースで執政を取り仕切ってる時の彼はもう少し冴えてたと思うのですが、…まぁ エリス達を信頼してくれているのだろう

「大丈夫なのぉー?ラグナぁー」

「放課後までになんとか考えとくよ」

「まぁ急な話だったしな、仕方ないか…」

なんで四人で話し合っていると 教室を出たクライスさんと入れ替わりで別の人物が教室に入ってくる…、あれは魔術科の生徒じゃない 確か剣術科の生徒

別科目の人間が別科目の教室に用なんてないはず…そう訝しんでいると、剣術科の生徒はキョロキョロと見回し、目当てのものを見つけたのかちょいちょいと手招きする

こちら…いやエリスに向けて

「え?、エリスですか?」

「なんかお呼びみたいだな…、行くのか?」

「まぁ、呼ばれてますし…ちょっと行ってきますね」

「おう、気をつけてな、俺たちは先に行ってるぜ?」

「分かりました」

ラグナ達と一旦別れ 手招きする剣術科生徒に駆け寄ると、彼は何やら言いづらそうに口をモゴモゴさせ…

「ピエール様が呼んでる」

とだけ伝える、ピエールが呼んでる…か 

何の用と聞くまでもない、昨日イオさんが言ってた件…話をさせるという件だ、早速動いてくれるとは イオさんも動きが速いな

「分かりました、どちらで待ってますか?」

「ノーブルズの聖域…ピエール様の部屋だ」

何処だよ 知らないよそんな場所、いや あそこか…エリスがピエールを襲撃した現場、あそこピエールの為の部屋だったのか、まぁいい 早速向かうか

どうやら剣術科の生徒は案内してくれないらしくそそくさと帰っていく、と言うよりあまりエリスに関わりたくない感じだ、まぁそうだよな だってエリス覚えてますもの

彼ピエールの取り巻きの一人で、あの襲撃現場に居合わせた人間の一人だから…

……いいや、とにかくピエールに会いに行こう 

………………………………………………………

やや早足で向かうは学園の一角 本来ならノーブルズしか立ち入れない領域の一つ、数多あるノーブルズ専用のお部屋の一つ 以前ピエールがサロンを開いていたあの部屋へとエリスは向かう

…普通の教室とは違い、豪奢な飾りに金の取っ手 見るからにお高そうで目の前にしているだけで萎縮してしまう、きっと 自室の扉がこんな風に豪華だったなら エリスももう少し己に自信が持てるのだろうな、欲しくはないが

ここに来るのは二度目だ、つまりあれから一度も来ていない…ピエールを襲撃し アマルトに敗れたあの人から一度も…

「………………」

今日はあの時のように見張りはいない、止めてくるやつもいない…それどころか廊下には誰もいないし、なんなら人の気配も感じない…、この部屋の中にピエールはいるんだろうか

いるんだろうな、でなければ呼ばない…、ピエール …いるのかぁ

やはり 苦手意識はある、どれだけ言ってもやっぱりあの日々の記憶はエリスの中に色濃く残ってる、昔の事だ はエリスには言えない

がしかし、逃げてばかりもいられないのもまた事実、…よし!

「お邪魔します」

軽くノックを二、三度、その後取っ手を掴み扉を開く…以前のように蹴破ったりはしない

「お、エリスじゃん」

「バーバラさん?貴方もここに」

「おう、ピエールに呼ばれてさ」

いの一番に目に入ったのは正面のソファでくつろぐバーバラさんだった、彼女も呼ばれて…いや呼ばれてるか、当事者だものね

そして次に目に入るのは バーバラさんと向かい合う形で座るピエールだ、俯き やや沈痛な出で立ち、昔みたいな謎の自信にあふれた姿はなく、雨に濡れた犬みたいだ

「ピエール…」

「ようやく…来たか、座れよ」

「ええ、もう二人で話を?」

「いやまだだよ、エリスが来るの待ってた 二人っきりでね」

バーバラさんなあっけらかんというが、さぞ地獄みたいな空気だったんだろうな、というかバーバラさん…やけに明るいような、ソワソワしているような どうしたのか

まぁ今はそんな事どうでもいいか、座れと言われたなら座ろう、ソファは二つしかないし 座るならバーバラさんの隣かな

「……で、エリス来たけど?」

「ああ……」

ため息のような返事だけが木霊する、こちらにピエールは目を向けない 恐れているか?、いやあの後もピエールには何度か会ってるし 恐れるような素振りはなかった

怖がってるというより、単純に凹んでる感じだ

「…昨日、イオ兄さんから言われたよ…、お前のしでかした事のけりをつけて来いとね」

「そうですか」

「いつでも優しくて いつでも僕の味方をしてくれる兄さんが言うんだから、僕がした事の大きさを ようやく理解できた」

兄に言われるまでなんとも思ってなかったのか、まぁ思ってたら途中で引き返すわな

バーバラさんもエリスも、ピエールには酷い目にあわされた 尊厳を踏みにじりれ大切なものを奪われ、剰えその様さえ笑われた…バーバラさんは分からないがエリスは覚えている

受けた屈辱の数々、今ここで挙げ連ねればきっとキリがない

「…すまなかった、君たちに…酷いことをして」

ピエールは深く頭を下げる、悪いことをした ごめん


たったそれだけだ、謝ってほしいわけじゃないが じゃあ何をしてほしいってわけでもない、同じ目に合わせるかと言われれば絶対にしない、けど 釈然としないのは何故か

ピエールの態度か?真摯ではないな、それとも兄に言われたから謝りますってスタンスか?、兄に言われなきゃ有耶無耶で済ませようとしたのはまぁ頂けない、けど…違う

でも謝られちゃった、許すか許さないかの酌量を委ねられてしまった、どうしますか?バーバラさん とエリスは不誠実にも彼女の方を見てしまう

「すまなかったか、ねぇ…ピエール あんた自分としたこと覚えてるかい?」

「…あんまり」

正直だな、やる方はその場の思いつきかもしれないが やられた方は一生だぞ、ピエールの謝罪からイマイチ許す気が湧いてこないのは 彼が形だけの謝罪をしているからか

…別に、このまま済ませてもいい、エリスも彼に対して勘違いから襲撃をかけている、その点を考慮すればトントンにはならないがそれでも悪い点はお互いにあるし、エリスとしてはもうこの一件を長く引きずりたくないというのもある

けどなぁ、エリス個人の話ならそれでいいけど ピエールはバーバラさんにも虐めをしていた、そう言う意味じゃ 分かりました許しますって言葉は簡単には言えない

「あんまりか、…そっか あんた自分がクズだって理解してる?」

「…ッ、面を向かってそれを言うかい」

「誰も言わないからアタシが言うのさ、あんたはクズだ 人の痛みも理解出来ない苦しみも見やしない、甘やかされて自分本位に育った正真正銘のクズだ、それとも異論があるのかい?」

「…………」

「オマケに自分に力がある時は強気に振る舞うくせして、兄やノーブルズが弱まった途端これだ、生き方からしてせせこましいんだよあんたは」

そ そこまで言うのか、でも 悪いが異論は挟めない、ピエールはいい人間ではない どっちかっていうとやな人間、クズって呼べるようなタイプの

「ほんとっ、勘弁してほしいね アタシやエリスが受けた仕打ちを あんたにも味わってほしいよ」

「それなら…もう受けてる」

「ふぅん?」

「…僕のせいで エリス達を敵に回し、ノーブルズの大きな敵を作った 結果としてノーブルズは衰退し、力を失った…元を辿れば僕のせいだからね、ノーブルズ内でも 外でも…僕は村八分さ」

思えば、ピエールの周りに群がる取り巻きは時を重ねるごとに数を減らしていったようにも思える、今なんか一人もいない さっき案内してくれた生徒も義理で伝えに来ただけで、後は関わりたくないと言わんばかりにそそくさと帰った

ノーブルズ側からノーブルズ衰退の犯人探しをするなら 犯人はピエールだ、彼のせいでエリスは完全に敵に回り 結果としてラグナ達も敵に回り、ノーブルズは衰退していった

ピエールが余計なことをしなければ、ラグナ達は普通にノーブルズに入り その地位は盤石なものになっていたのに、余計なことを …そう言われたのか、或いはそう言うようなことをされたのか

なんて事はない、ピエールもまた ノーブルズの中で迫害され虐められているのだ、だから こんなにも弱っているんだろう、以前エリスを襲撃したのも 或いはそれを取り戻す為か…

「知ってる、あんたがノーブルズの中で虐められてるのはね」

「なら…、ならそんな酷い事言う事ないじゃないか!同じ痛みを知るなら …多少は味方してくれたって」

「甘ったれんな!!!」

地面が轟音と共に揺れる、バーバラさんが地面を蹴り飛ばしたのだ その轟音にピエールは目を丸くし エリスもまた丸くする、やばい バーバラさんの威圧にエリス何も言えない

「同じ痛み?痛みに同じもんなんか一つもないんだよ!あんたの与えられた傷とあんたの与えた傷を混同するな!、アタシやエリスが どんな気持ちで学園に通っていたか!あんた本当に分かってるのか!」

「……それは、…少しは 分かるつもりで…」

「ならその態度は違うんじゃないのか!、すまなかった?軽く頭下げて?、自分のした事を理解もせず形だけ謝って…、あんた 自分と同じだって言うのなら、あんたを虐めた奴らが同じように謝って それであんたは許せるのか!」

「っ…!」

「許せないだろ…そこはアタシ達も同じなんだよ」

バーバラさんの言葉にピエールはたと顔を上げる、ピエールも虐められたと言うのなら  同じ痛みだと言うのなら、分かるはずだ 虐められた側の気持ちが

ピエールはバーバラさんの顔を見て 続けてエリスの顔を見る、思い出したか 或いは再認識したか、彼の顔つきが変わる…

「あんたを虐めた奴らに あんたはなんていってほしい」

「……僕は…」

「それをアタシとエリスに言えば良いだけさ、…ほら」

「…わかった」

立ち上がり 両手を揃えるピエールは、深く息を吸い 同じくらい深く、深く深く頭を下げて

「すまなかった、許してくれることとは思えない…僕は君達の気持ちを考えず 深く傷つけた…、この償いはきっと直ぐには出来ない、けれど…けれど必ず、償いはする 今は言葉と形だけになってしまうが どうか、どうか頭を下げることだけは 許してほしい」

「うん、反省は?」

「した」

「同じ事は?」

「絶対にしません!」

「そっか…なぁエリス」

「はい?」

ふと、バーバラさんが隣のエリスの肩に手をかけて

「アンタもさ、コイツに酷い目に遭わされたのは知ってる…けどさ、こうして反省してるし …許してやってくれないかな」

「許すって…バーバラさんは大丈夫なんですか?」

「アタシはねぇ…」

バーバラさんは ピエールを見つめる、優しげに…いや 彼の中のものを見透かすような、透明な視線で頭を下げるピエールを見つめ続ける

「こいつはさ、クズだよ?そりゃあクズだ こんなクズ他に見た事ないくらい立派なクズだ、けどさ…アタシが襲われて 大怪我した事件あったじゃん?」

「はい、ありましたね…学園ではピエールがやったと言われている」

と言うか この間までエリスもそう思ってた、けどどうやら違うみたいだ ピエールにはアリバイがある、何よりピエールはあそこまで恐ろしいことが出来るほど 大胆な男でもない、だが周りはそうは思わない

ノーブルズ内では衰退の責任を問われ、外ではバーバラ襲撃の極悪人としてピエールは扱われている…

「あの事件の犯人はきっとこいつじゃない、あそこまで酷い事できる奴なら この場でも大胆不敵に笑ってるだろうからね」

「ですね、そこは同じ意見です」

「でさ、…アタシが怪我して もう今までみたいに拳を振るえないと思ってた時に、高価なポーションが山ほどアタシに送られたって話、したよね」

「はい、でも誰が送ったかは分からない…ですよね?」

「…ううん、実はさ アタシ知ってんだよね」

え?でもあの時は知らないって…いや 嘘をついたのか、エリスには言えない人間が送ってきた、…きっと送り主ははっきりとはバーバラさんにも伝えられていない、けど バーバラさんはなんとなく 分かっていたんだ

誰が、ポーションを送ったか

「あのポーションさ、…誰が送ったかははっきりと分からないけど、アタシ思うんだ…コイツが 送ってくれたものだって」

「こいつって…ポーションを送ったの ピエールなんですか?」

その声に反応して ピエールがブルリと震え、おずおずと頭をあげる…やや 言いにくそうに目を逸らしながら

「で?、どうなの?」

「う…あれは…」

「あれは?」

「…最初、お前が怪我したって聞いて…僕の取り巻きが早まったことをしたと勘違いしたんだ、それで…もう元のように動けないくらいの怪我をしたって聞いて、…その…もし僕のせいなら 取り返しのつかないことをしたって思って…悪く…思って」

「まったく、小心者だねぇ~…自分がやったと思ったから 助けようとしたってこと?」

「あう…、はい…僕のせいでお前がとんでもない怪我をしたなら…、なんとかしないとって」

そりゃあ結局保身のためか?、いや 保身の為ならもっと恩着せがましくしてくるか、それをしてないって事は 単純に善意か、或いは…

「全く、せせこましい理由だなぁ…でも、感謝してるんだ アタシは、アンタのおかげでアタシは今もこうして動けてる、何だかんだ言っても その恩は変わらない、助けてもらった事実は変わらないんだ」

「…………」

「だからアタシ アンタがこうして謝ってくれるの ずっと待ってたんだ、その時改めてお礼を言おうって…なのにねぇ~」

「うう…すみません、謝るに謝れませんでした…ごめんなさい」

「良いんだよ、さっきの謝罪でアタシもアンタを許したからさ、もう許したから 眠たいの言いっこなし、それで良いだろ?」

な! と!エリスの肩を叩き ピエールの肩も叩く、クズはクズだけど 外道じゃない、悪人でもない、ほんのひとつまみだけど善意もある 反省する心だって持ち合わせてる

ピエールは反省した 思い知った、ならそれで良い…きっとそれで良いんだろう、今からどうのこうの言ったっても 何にもならんしね

「エリス…君にはもっと酷いことを」

「ええ、とっても酷いことをされました けど、その痛みが少しでもわかってもらえたなら、それで良いですよ」

「…ありがとう」

彼は謝った、なら エリスも謝らないといけないな…、一応勘違いとはいえ 彼を襲撃したのだから

「ピエールさん、エリスも貴方を勘違いで襲ってしまいました…、エリスの早とちりで危うく取り返しのつかない事をするところでした、… 本当に申し訳ありませんでした」

「いや、あれは僕が悪い…、寧ろ 襲撃される正当な理由は山ほどある」

「でもエリスがしたことに変わりは…」

「だけど…」

「ええい!この謝り下手共め!謝ったなら許す!それで終わりでいいだろ!」

「は…はい!」

轟く怒号 飛んでくる喝に思わず背筋が伸びる、ピエールは謝った ならそれで良し、エリスは謝った ならそれでよし、謝罪一つで解決するほど現実は甘くない、だとしてもこちらが謝り相手が許すという工程は何を置いても重要なもの

エリスは 口先でな例の虐めの件を乗り越えたと宣っていたが、こうして謝られ 謝って、…真の意味で乗り越えることが出来た そんな気がする、実際のところは 分かんないけどさ

「さて、これでアタシ達は名実共にダチだ!」

「え?ダチなんですか?ピエールと?」

「何故そうなる!、第1僕とお前達じゃ友達として釣り合わな…」

「だけどさピエール、アンタ今一人なんでしょ?」

「う……」

そう言えばピエールは今一人ぼっちだ、ノーブルズに味方はいない かと言って外にも味方はいない、そう言う意味では今ピエールは勝手のエリスと同じ状況にあるのかもしれない

…ザマァ見ろエリスの苦しみを理解しろ!と、言える程エリスも器の狭い人間じゃない あの苦しみが分かるからこそ、何とかしてあげたいと思う

「だったら丁度いいでしょ?、アタシもアンタにゃ恩義を感じてんだ、ダチくらい軽くなってやらあ」

「そ…そうは言うけどぉ…僕…」

「ええーい!男がウジウジするな!答えだけ簡潔に言え!」

「よ…よろしくお願いします!」 

「よし!」

…なんか、これはこれでいい関係な気がしてきたぞ…、バーバラさんもそれでいいっぽいし エリスがどうのこうの言うところじゃないなこれ

「アタシはダチをいじめるやつは絶対許さない、ピエール アンタのこともアタシが守ってやるよ」

「ほ…本当に?」

「もちろん、アタシが義理深いのはアンタも知ってるでしょ?」

「うん…うん!、よーし!なら僕の護衛につく事をゆるーす!」

「…じゃなくて?」

「あ…一緒にいてくれると嬉しいです、ありがとうございます」

「よろしい!、…エリス アタシは暫くこのボンボンを守るよ、こんなでもアタシを救ってくれた恩人だしね」

「はい、それでいいと思います 少なくとも事件の被害者だったバーバラさんがピエールの側にいれば、ピエールの誤解も解けるでしょうし、誤解が解けたら 後はピエールの問題ですしね」

誤解が解けてもピエールが横暴な態度を取れば やっぱりこいつ悪いやつじゃんとなって元の木阿弥だろうが、側にバーバラさんが付いてるなら 多分大丈夫だ、ピエールの良くないところを指摘し間違いを正すことのできる彼女は、ピエールの取り巻きと違ってピエールを良い方向へと導いてくれる筈だ

それでまた何か悪いことが起きるようなら、今度こそエリスがバーバラさんを助ける、それでいいんだ

「優しいですね、バーバラさんは」

「そう?、あんまりそんな感じはしないけど…でも、アタシが優しくなれたのはきっとエリスのおかげだよ」

「何でもエリスのおかげにしないでください」

エリスはそんなに優しくないですよ、みみっちい女です…

これでピエールの一件は完全にカタがついた、というよりバーバラさんがつけた エリス個人の問題はもうこれで終わりだ、となれば 後はエリス達の目的を叶えるだけ

アマルト 彼と話す、必要ならば打倒する 和解する、そのためにまず 当初の目的であったノーブルズという盾を彼の前から消し去るのだ

「ではバーバラさん、ピエールのこと頼みました」

「任せてよ、エリスは?」

「エリスはまだやらなきゃいけないことがあるので」

「そっか、じゃ 頑張ってね」

ぐっ!と上に挙げられる親指 …サムズアップ、頑張れよ そうエリスに鼓舞するように、バーバラさんは エリスの友達は笑いかける

…頑張りますよ、頑張りますとも 任せてください!、そんな言葉を乗せてエリスもまた親指を立てる、よっし…んじゃあ!気合い入れますか!


………………………………………………………………

ピエールとの話を終えたエリスが次に向かうのは魔術修練場 クライスさんがそこに反ノーブルズ派を集めてくれているというので エリスもまた向かう、あそこは広く 人が集まるるのにうってつけですからね

…ラグナ達はもう魔術修練場に向かってるみたいですし、案外もう話が終わっていたりして、なんて淡い希望を抱きながらスキップしながら修練場へと向かう

いやぁ、気持ちが軽い ずっと引きずってた重荷を下ろしたからか体に羽が生えたみたいだ、今なら空でも飛べそうだ いや別に今じゃなくてもいつでも飛べるんですがね、エリスは

「ラグナー、すみません遅れましたー」

「おう、いや意外と早かったな」

「お話の方はどう…です……か……っていうまでもないですね」

ルンルン気分で修練場へと駆け込むなり、ドッと降り掛かる重圧にため息をつく

…魔術修練場、かなり広大な筈の修練場 そこを埋め尽くさんばかりの生徒の大群がずらりとエリスの前に並んでいる、彼らは何者か など今更疑問に思うものなどいまい

件の反ノーブルズ派だ、この学園に支配体制を築く貴族階級によって構成された生徒組織 ノーブルズ、その横暴に憤り 或いは対抗心を抱き、『反』の一文字を掲げる者達

ガラの悪い者 素行の良い者、プライドの高そうな者 特に何も考えていなさそうな者、取り敢えずノーブルズが気に入らないだけの者、それぞれがそれぞれで寄り集まり 自分たちの組織を形作っている

組織の数 約十、集まった人間 数にして五百、結構な人数だ 継承戦が出来るぞ、そんな大人数が つい先程呼びかけを行ったというのに 揃って顔を見せてくれる、みんなエリス達に会いたかったからだ

当然、ネガティブな意味合いで

「話し合いは進んでますか?」

「まだ挨拶もできてねぇよ」

ラグナもやや困ったように目の前で陣取る反ノーブルズ派を見つめる、そりゃそうだ 彼らの目を見ろ、敵意に満ちている 此処こそ決戦の場、そんな覚悟さえ感じる

思っていた以上にエリス達に対する敵対心が大きい、課題の時ガニメデと組んだのは 相当まずかったらしい、彼らからすれば反ノーブルズの急先鋒たるエリス達がノーブルズとの癒着を垣間見せたんだ

エリス達に対する信頼はそっくりそのまま裏返り敵意に変わる、その結果がこれか

…エリスがガニメデさんを誘ったばかりに…、いや ガニメデさんを誘ったこと自体は間違いじゃない、あれはあれで大正解で大成功だったと思っている

こうなるのも折り合いでやったんだろ?じゃあ何とかしろよエリス!

「…取り敢えず 話をしないことには始まりません、エリスちょっと言ってきます」

「あ、おい!」

ラグナの答えを待たず ズカズカと前へ出て反ノーブルズ派の前に立つ、腕を組み 睨みつけるその目をさらに強い眼光で睨み返す

「こんにちわ!!!」

「何がこんにちわだこの裏切り者!!」

挨拶に罵倒で返された…と思う間も無く周りの生徒達も口々に吼えたてる

「ノーブルズと裏で繋がってたなんてな!、所詮あの戦いもお前らのマッチポンプだったのか!」

「俺たちはもう踏みつけられるのは真っ平なんだ!、俺たちを従わせたいなら力尽くでやれ!」

「私達は覚悟出来てるわ!!、いくらあんた達が強いからって ビビリないわよ!!」

そうだそうだ 失せろ失せろ、喧々とした声と共になんかゴミとかも投げつけられる…この間までエリス達をワイワイ持ち上げてたくせに、調子のいい連中だな

だが、彼らからすればエリス達もノーブルズと変わらない 自分達の上にいる存在と思われてるってことだ、それが敵と繋がってるなら なおのこと排他的になるか

…なんて客観的に捉えるも、これはあれだな 聞く耳持ってないな、会話どころじゃない 会話できなきゃ説得もクソもない

仕方ない、ここはすごすご尻尾を巻こう

「ダメでした」

「だろ?、…下手に刺激すると戦闘になりそうだったからな…」

なるほど、ラグナがやや難儀しているのは 下手を打った時戦闘になってしまうからか…というか向こうはその気っぽいぞ、ここでエリス達を打ち褒めして反逆の狼煙にするつもりだ

だって武器持ってるもん、…だがなぁ 戦って解決する話でもないだろうしな

「結局のところ 反ノーブルズ派の活動を縮小させられるのが一番なのだが、こうも敵対心むき出しだとな」

「もう面倒くさいし全部倒しちゃおうよ」

メルクさんは困ったようにため息を吐き、デティは辟易と腕を組む

…そうだな、結局のところエリス達の目的は彼らとの和解じゃない、ノーブルズが解体され 後継の生徒会が結成されるまでの間彼らを大人しくさせればいいんだ、なら戦って全滅させるのもありか

「あんた達はもう俺たちの敵なんだよ!」

「正義の味方ヅラして!卑怯者!」

「というか美女ばっか侍らせて羨ましいぞハーレム野郎!」

「このクソモテ男!非モテの敵め!」

…なんかよく分からん罵倒も混じってますねラグナ、まぁ何にせよ敵意があることに変わりはない

さて、どうするか…


降り注ぐ罵声の中ゆっくりと目を閉じて考える、目的はこいつらを大人しくさせること、この熱量だ ノーブルズがなくなった瞬間一気に勢い付いてノーブルズに取って代わる可能性がある、そうなると後継の生徒会の邪魔になる

だから生徒会が出来るまでの間 彼らには大人しくしていてもらいたい

目を閉じると、いくつかの道が見える 分岐点とでも言おうか、つまり エリス達がここで取れる選択肢はいつもよりもかなり多い、どんな風にしたってもいいんだ

まず第一の道 戦闘だ

戦って彼らを黙らせる力を削ぐ、数は多いが エリス達の敵じゃない このルートはある意味最も簡単な手段、だが同時に最終手段でもある
そりゃぶちのめすのは簡単だけど何の解決にもなってない、エリス達に負けた彼らが大人しくなるわけがない、下手をすると反ノーブルズ派から反生徒会派にそのまま鞍替えする可能性もある この方法は無しだ

第二の手段 対話だ

根気強く彼らと話し 理解してもらう、敵意は強いがゆっくりと解いていけば和解できないこともない、このルートは最も理想的な手段だ、だが同時に多大な危険性も孕む
彼らが憤っているのは 信じてきたエリス達がノーブルズと繋がってきたことに対して 裏切られた気持ちを抱いているから

少し前なら繋がってません!と言えたが今は言えない、イオと繋がってるから 、上手く丸め込んでも そこがバレたらさらに不満爆発、今度こそ手がつけられない、この方法も今は難しいな

第三の手段 放置だ

もう面倒臭いから帰って四人で美味しいご飯食べに行きましょうよ、こいつらほっといてさ 今日はエリスの奢りです、パァーッと食べましょう…、このルートは最もエリスの欲望に忠実な手段だ、だが同時に論外…論外過ぎる

流石にイオに任せてと言ったのにやっぱ無理でしたってのは義理が通らない、最悪折角和解したのにまたイオと敵対するかもしれない、そうなるとアマルトに辿り着くのはさらに困難になる

この機を逃すわけにはいかない…

「どうするラグナ、お前ちょっとカリスマでなんとかしてこい」

「流石に俺にこの場を収めるだけのカリスマはないかなぁ」

「じゃあ全員ぶっ飛ばす?」

「滅多なことを言うなデティ」

ラグナ達も妙案の浮かぶ様子はない、……エリスもない あれもダメこれもダメ、ちょっと難しいな…デティの言う通り全員ぶっ飛ばすか?

「何だ!やる気か!上等だ!答えてやるよ!」

「あんまり私たちをなめないでよね!裏切り者!」

「ノーブルズと裏で繋がって 俺達を騙してたなんて、とんだクズだな!お前ら!」

過熱する反ノーブルズ派の罵声 このままでは否が応でも戦闘になる…、どうすれば…そう深く考え込むエリスの耳は ちゃんと捉えていた

…ノーブルズと裏で繋がって俺たちを騙してた?…、その言葉が引っかかる、違和感を感じる、まるで戦闘の最中 逆転の一手を閃いた時のような感覚…

そうか…そうかそうか、ノーブルズと裏で繋がって騙してたのか エリス達は、そっかそっか 

見えたぞ?勝機が

「いい手を思いつきました」

「お!、来たか!エリスの逆転の一手!」

「戦闘以外でも発揮されるのか…それ」

「すごいエリスちゃん!で?どうするの?」

待ってましたと沸き立つラグナとメルクさん、どうするの問いかけるデティ…簡単なことだ

「ノーブルズと裏で繋がって彼らを騙します」

「は?、どう言うことだ?」

こっそりと 囁くように口にする、簡単なことだ 最初からこうすれば丸っと全部収まるじゃないか、あとはエリスに任せてくれと ラグナ達を置いて再度反ノーブルズ派に歩み寄る

「何だ?やる気か?」

「いいえ、…皆さんに!聞いて欲しいことがあります!!!」

地を揺らす エリスの咆哮、他を圧倒する絶叫は 周囲の罵声をかき消し 黙らせる、こう言う場では声が大きいやつが得をするのだ

エリスの一言で黙りこくる彼ら、シンとした静寂が訪れる…今だ!

「皆さんがエリス達を信じられない気持ちはわかります!、ですが!エリス達は今ここに宣言しましょう!」

高く 仰々しく腕を振り上げ、天を指さす…そして、こう言ってやるのだ これこそが、逆転の一手!

「エリス達は!近いうちにノーブルズを跡形もなく消し飛ばすことを約束しましょう!!!」

「なっ!?」

「はぁっ!?」

目を丸くする生徒達 いきなりのことに驚愕するラグナ達、ノーブルズを消し飛ばす そう約束するのだ

「そ そんなの信じられるわけないだろ」

「信じてくれずとも良いです!、事実 エリス達のノーブルズを裏側から崩す計画は順調に進んでいます!、みんなに内緒でノーブルズに接触した甲斐あってね!」

「ノーブルズを裏側から!?じゃあまさかノーブルズと繋がってたのって、俺達を裏切ったんじゃなくて…」

「逆に裏切らせようとしてた…ってこと!?」

その通り!と頷きながら内心ほくそ笑む、半分嘘だ エリス達は別にそんな計画実行してないしそんなつもりもなかった、だが半分は事実だ エリス達はイオという協力者を得てノーブルズを裏側から解体している、つまり エリスの言った通りになる

中身が違うだけで結果は同じ、ならこれは嘘ではない 四捨五入すれば真実だ!、まぁノーブルズ解体はトップシークレットだが この際手は選べない、ごめんねイオさん

「エリス達はノーブルズの無い学園を作ります…ただ、その前に貴方達に問いたい!、ノーブルズが無くなったら 貴方達はどうしますか?もう逆らう対象がいなくなってしまうわけですよ?、その後の展望はあるんですか?」

「俺たちはただ…ノーブルズが気に入らなくて…」

「その後のことは特に…、でも 確かに統治者がいなくなった国は滅びる、それと同じように学園も…」

「お 俺たちは違うぞ!、ノーブルズに取って代わってこの学園を支配するんだ!」

皆が困惑する中声を上げる一団がいる、何とも柄の悪そうなポンパドールヘアーのイキのいいのが前へ出る、ほう 支配するとな

「どのように支配するんですか?」

「俺たちは作るんだ!生まれも育ちも関係ない ただ純粋な優秀さで構成された組織を!、公平かつ 生徒の目線に立てる組織をな!」

見た目の割に結構ちゃんとしてんなこいつ、そうか 生徒の目線に立った…か

ニタリと心の中のエリスが笑う、その答え 貴方達の中から出るのを待っていましたよ

「素晴らしい、エリス達と同じ考えを持っているんですね!」

「え?、同じ?…」

「ええ、エリス達はノーブルズを潰した後 立場の優劣ではなく、より立場の弱い生徒にも寄り添える組織 生徒会を設立するつもりです!」

「せ生徒会!?」

エリスのアイデアではないが、あたかもエリスが考えたかのように振る舞う まぁエリスが考えたとは一言も言ってないしね

エリスの一手とは即ちこれだ、虚実入り混ぜて彼らをその気にさせる事、彼らが気に入らないのは結局のところノーブルズだ そしてそのノーブルズはもう直ぐなくなる

そしてノーブルズなき後自分達が態々学園の頂点を取らずとも 自分達の望む世を別の人間が作ってくれる、となれば生徒会が出来るまでの間大人しくしていてくれるはず

寧ろ彼らさえも味方に出来る

「ただ、ノーブルズが無くなり 生徒会が出来るまでの間 学園は一時的に無秩序になります、その間にノーブルズに取って代わろうと暴れる人達がいては生徒会設立もままなりません、せっかく苦労してノーブルズを解体したのに 今までの苦労が水の泡です!」

「う……」

「なので エリスは今日ここに皆さんに協力を願いに来ました、生徒会の設立に皆さんの力を貸してくれませんか?、ノーブルズから生徒会に移る その間だけでもいいんです、学園の平和を守って欲しいんです!」

結局彼らも 何だかんだ学園の為生徒の為を思って集まり活動している人間が大多数だ、そしてその大多数を味方に引き込めば 学園にただ混沌を齎そうとする少数派を押し潰せる

生徒会が出来てからの事は生徒会に任せる、もし本当のことがバレても 取り繕う事は簡単だ

「どうでしょうか、力を…貸してはくれませんか?」

「っ…うぉぉぉぉぉ!!!!」

静寂を破るように猿叫が轟く、いや泣き声か 先程のポンパドールの生徒だ、彼が涙を流しながらこちらに寄ってくるのだ、な 何事!?

「俺…俺たち、ただ反抗する事でしか 俺達を示せなかった…ただ暴れることだけが意思表明だった、だってのにあんた達はそこまで考えて こんな少ない人数で活動してたんだな!」

「え…、ええ」

「それなのに俺達ぁ汚い言葉使ってよぉ、なんてバカだったんだ こんなんじゃノーブルズのことなんか悪く言えねぇよな…!」

ボロボロ泣きながらエリスの手を取りながらウンウンと頷く彼を見て…なんか、騙して悪いなぁと思うが、別に全部嘘ってわけじゃないし…

「なぁ!、お前ら!もう八つ当たりじみた子供の駄々はやめにしねぇか!、…俺たちは元々平和な学園を求めてたんじゃねぇのか…!、だったら もう一度この人達のことを信じて この人達の思想を俺たちで支えないか!、この人達の願う学園の形こそ!俺たちの願った学園の姿じゃないのか!ええ!?」

ポンパドールをグワングワン揺らしながら泣き叫ぶ彼の言葉に、一人 また一人と武器を下げていく、心目指す先は同じ だが迷走していたのも同じ、ならばここで道を正し 本当に誰もが望んだ目的へと歩む時が来たのだと

「手伝って…くれますか?」

「ああ、俺達も元はノーブルズに虐げられる人間を捨て置けなかったからこうして立ち上がってたんだ!、その先へと連れて行ってくれるなら!喜んで力を貸すぜ!」

「裏切り者なんて言って悪かったよ、あんた達は誰よりもみんなのことを考えて危ない橋を渡ってたってのに!」

「そうよ!、私達…もっと深く考えるべきだった!」

相変わらず調子がいいとも思わないでもないけど、向こうに手のひら返すのが早いなら こちらに返すのも早いってことか

いや、そんなひねた考え方はやめよう…みんなエリス達に味方してくれる、それでいいんだ 

「よーし!エリスさんを胴上げするぞ!」

「何故ッ!?」

それは何故!何故に!など言うまでもなくエリスは群がる生徒達に囲まれて持ち上げられひょいひょい上へ投げられる、ここまで効果があるとは思ってなかったけど、それでも大成功!万々歳だばんばんざーい!

どうですかラグナ!丸く収めましたよ!、なんですかその顔!人を詐欺師みたいな目でみて!嘘は言ってないんですよエリスは!、そこんとこ理解してくださいよ!

「わーしょい!わーしょい!」

「ちょ!ちょっと!高いです!、と言うか胴上げは普通全部終わった後にやるものでは?聞いてます?聞いてますか!聞いてください!」





その後、胴上げをするメンバーの体力が尽きるまで何故胴上げされた、こう言う体育会系のノリは苦手ですね…、一応 彼等にはある程度の説明はしておいた

『エリス達のノーブルズ解体はトップシークレットですので他言無用でお願いします、バレたら全部おじゃんですから、知らないふりをしておいてください』

『一応ノーブルズを解体し生徒会を作るのはイオさんと言うことになってます、エリス達は称えられませんが 学園の為ならそんなもの瑣末な問題ですよね』

『生徒会設立まで問題は起こさず真面目に勉学に励んでください、これからは実力の時代が来ますから』

『後ノーブルズ解体の乗じて動こうとする奴らいたら、止めるのを手伝ってください』

エリスの言葉を彼らは水のように飲み込み理解してくれた、ある程度怪しいところはあったものの なんとなく都合のいいように解釈してくれたようだ

これで、反ノーブルズ派は生徒会設立まで大人しくなる、イオがノーブルズを解体してくれれば 丸く収まる、その辺は信じるしかないが 一度信じると決めたなら最後まで信じよう

もし嘘をついたらこの反ノーブルズ派を使って今度こそ本当に学園攻め落とすつもりだ

そう言うわけでみんなを説得し終わり皆三々五々、散り散りにを別れみんな帰っていった、魔術修練場にはエリス達四人だけ

いや、もう一人いるな…今回の一件の裏の立役者 クライスさんだ、彼はやや呆れたように近づき

「上手く丸め込んだね」

「丸め込んだって人聞きの悪い…、一応本当ですよ?」

「分かってるよ、…ノーブルズを解体する 生徒会を作る、全部本当なんだろう?…まぁ 君達なら学園を良い方向に持っていってくれるって信じてるからね、任せるよ」

「任せてください」

クライスさんはやや 可笑しそうに笑い、それじゃ 私も帰るよと軽く手を振り学園を後にする、彼には世話になりっぱなしだ またいつか恩を返さないとな

「…まさか全部終わるとはな、エリスにあそこまでの話術があるとは思わなかったよ」

「心外ですねラグナ、これでもエリス 師匠からはハッタリや駆け引きの法を教わってるんですから」

「でもよかったの?生徒会とか解体とか 内緒なんでしょ?」

「う…その辺はまたイオと話をしておきます」

うん、流石に無許可で全バラしはマズかったかな マズイよな、うん また明日頭を下げておこう…怒られるかな

「でも演説は素晴らしかった、聴衆の耳を傾けさせる技術は流石魔女の弟子というわけだな」

そんな演説が素晴らしかったなんて あれはラグナの真似を…………

待て、今誰が言った?メルクさん?いや男の声だ でもラグナじゃない 、と言うかみんなエリスの後ろを見て…、あ

「イオ!?」

「やぁ」

エリスの背後にはイオの姿があった、ニッコリと微笑みながら…お 怒ってる?

「いつから?」

「演説の時からだと言ったろう?、武装した生徒が魔術修練場を占拠していると通報を受けてね…嫌な予感がして私自ら見に来てよかったよ」

「怒ってます?」

「何故?、君達は私との約束を守るため迅速に動き 働いた、寧ろ身が締まる思いだ、やはり君達は敵に回すより味方でいてもらった方が心強いね」

よかった怒ってないか、…イオは怒ると怖いからな 、せっかく仲直りしたのにまた仲違いは嫌だしね、今後はエリスも行動に気をつけよう

「はえ~、イオと和解したって本当なんだ」

「ラグナとエリスから話には聞いていたが、こうして会話しているところを見ると…ううむ、なんとも違和感が」

対するメルクさんとデティは敵意のないイオにやや面食らってるようだ、そういえば和解してから会うのは初めてか、と言っても昨日の今日なんだけどね

「…デティフローア導皇 メルクリウス首長、ラグナ陛下達から話は伺っていると思われますが今一度、私はこの学園に変革をもたらしたい…その活動に貴方達の力をお借りすることになる、…ご助力願えるだろうか」

「エリスちゃんとラグナと話し合って決めたんでしょ?だったら私達も異論はないよ 気持ち的には同じだしね」

「ああ、アマルトの狙いが学園の崩壊だとするなら それを凌駕するには変革し学園を再興するしかない、寧ろこちらから頭を下げてお願いしたいくらいだ」

「それはありがたい…、ラグナ陛下も やはり貴方は誠実な方だ」

「よせやい、やったのはエリスだ」

…こうして、話してるラグナ達とイオを見てふと思う

これ結構やばい絵面じゃないか?、カストリア大陸に存在する魔女大国のトップ達が一堂に会し話をしている、この四人がその気になれば この大陸丸々一つ好きにできるんだ、エリスが何年もかけて旅してきた広大な大陸を全部

この中にエリスが混じっているのは 本当に何かの間違いな気がしてならない

「…エリス」

「はい?、なんですか?イオさん」

「ピエールの件 礼を言う、先程弟の顔を見てきたが 前より少し、気楽そうな顔をしていた、君達に許してもらえたのが嬉しいのだろう」

「いえ、エリスは何も バーバラさんが上手くまとめたんですよ」

「そう言ってくれるな、私も兄として不甲斐なさを感じていた…そこを解決してくれたのは、バーバラと君なんだから」

しかし、イオさんは出来た人だ こう言っちゃなんだが、ピエールと似ているのは顔だけだ、中身は似ても似つかない

「で?、イオ お前それを言うためだけにこっち来たのか?」

「いや、違う 昨日の約束を果たそうと思ってな」

「約束?」

「アマルトの過去の件だ、今からいいか?」

アマルトの過去 …昨日聞き損ねたやつだ、いやもっと先になると思ってましたよ もう話してくれるんですね、昨日はもう夜も遅いからという理由でやめたが今日はどうだ

空は赤らむ黄昏時、…ううーん 怪しい…遅いっちゃ遅い気もするが、でも聞いておきたい 

アマルトと相対するなら 彼の過去を知り、彼をよく理解して 寄り添う必要がある、なら なるべく早く話してくれるのは 願ったり叶ったりだ


「エリスは今からでも大丈夫です、皆さんは…」

「俺も構わん」

「私もー!」

「アマルトの過去か、…確かに気になるな 聞いておこうか」

「決まりだな、私の部屋で話そう…少し 長くなるからな」

踵返すイオに続くようにエリス達も続く、アマルト…探求の魔女たる男 学園理事長として生まれながらこの学園の滅びを願う者

そんな彼の 原点を知らねばエリス達は前へは進めない 


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