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白薔薇

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 薔薇の間を無言で歩き、二人のコツコツという足音だけが響く。
 薔薇園は広く、色とりどりの薔薇が咲いている。
 あの真っ赤でデカい薔薇が薔薇だと思っていたあたしはこんなにたくさんの種類の薔薇があるなんて知らなかった。
「これがマリアという種の薔薇だ。母上がたいそう大事にしていた」
 と皇子が指した先には蛍光色っぽい濃いピンク色の大輪の薔薇がたくさん咲いていた。
「まあ、マリアという名の薔薇もあるんですか。なんて美しい」

「君も薔薇に負けず美しいよ」
 とヴィンセント皇子が言った。

 かあーーーっと顔が赤くなるのが自分の体温の上昇で分かった。
 夜でよかったぁ。こんな小っ恥ずかしい顔見られたたくないし。
 
「君のような美しく賢い娘にはローレンスのような男が似合いかもしれないな」

 はぁ?

「どういう意味でしょうか」
「ローレンスはやはり君の事を愛しているようだ。アミィがローレンスとの婚約を見合わせたいと言ってきた」

 あんのあまぁ~~~~~!                            

「それはローレンス様と私がどうこうではなく、ただ、白薔薇の興味がどなたかに移ったせいでは? それでローレンス様と私をまたくっつけようなんて……やっすい手だわ」

 そうだ、白薔薇はやはりヴィセント皇子に目をつけたに違うない。
 まるで国王妃のように学修をさせられているあたしを見て、焦ったのだろう。
 お気楽なローレンス皇子は学修や皇太子妃教育に何の興味もなさそうだし。

「そうだろうか、ローレンスは君の事を愛しているようだと、アミィが泣きながら」

 あたしはつないでいたヴィンセント皇子の左手を離した。
  一歩前に踏み出して、皇子背を向ける。

「ああ、そうですか。白薔薇の君が泣きながらヴィセント皇子に相談なさったんんですね。それはさぞかし心配ですね。よろしいわ。それなら私との婚約を破棄して、ヴィンセント皇子が白薔薇と婚約なさればよろしいのではないですか。泣いている白薔薇の君を優しく慰めてやればいいんですわ……どれだけ財源を浪費する贅沢好き女だろうが、ワガママ女だろうが百年ぶりに咲いた白薔薇ですものね。その可憐さは何によりも勝りますわよね。それなら私は退場させていただきますわ」
「マリア! 私はそんなつもりは。ただ君の」

 ああ嫌だ。馬鹿にしやがって、何の為に、誰の為に、あたしが嫌々でも勉強してるんだと思ってんだ。

「そういうのは相談女つって!! めっちゃくちゃずるい女の手段なんだよ! 馬鹿皇子!! そんなのもわかんないのか! ローレンスがあたしを好きだったら何だよ! あたしはあんたの何だったんだよ! 弟が欲しがりゃ譲れる程度の女か! ふざけんな! 結局、皇太子妃なんて誰でもいいんだろ! そんなら田んぼのかかしでも隣に置いとけよ!!」

 叫ぶだけ叫んで、あたしは石畳を元の方向へと走った。
 あーもう、足はグリグリ挫けそうになるし、飛び出した薔薇の葉で切り傷になるわ。
 アーチを抜けて中間廊下に入った時は、頭は痛いし、足首も痛いし、なんたって心が痛くてどうしようもなかった。
 あたしは足と心を引き摺りながら、とぼとぼと自分の部屋まで行くしなかった。
 こんな時に果梨奈先輩はどこかへ行って姿を見せない。
 でも今は顔を合わせたくないからいいや。
 もうどうだっていいや。知るもんか。
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