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都の軍隊
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ガイツにもらった馬に乗りリリカは不眠不休で都を目指して走った。
「おい、おい、こんなとこで眠ったら、危ないぜえ」
ふいに声をかけられて、リリカははっと目覚めた。
都の近くまで来たものの、どうにも疲れて一休みした間に眠ったらしい。
リリカは大きくのびをしながら立ち上がった。
「起こしてくれてありがと」
「驚いたさ」
リリカを起こしたのは近くの村の農民らしい。くわを手に畑に出る途中なのだろう。
「あんた、どこの者かね? この近くじゃ見ない顔だね」
「あたしは旅人なの。都で働きたいと思ってさ。ようやくここまで来たのよ。村じゃろくに食べ物も口に入らないもの。都なら働き口があるんじゃないかと思って」
「そうかね。最近はそういう娘が増えたもんだね。たしかに、軍隊が手伝いの娘を欲しがってるからねえ。お城に行けばいくらでも働く口はあるだろうよ」
「軍隊?」
「そう……何でも、他所から兵隊さんが一杯はいってきたらしいからねえ。その世話をする女を探してるらしいがね」
「へえ、じゃ行ってみようかな」
「だけどねえ」
男は渋い顔をした。
「気をつけた方がいいよ。食事の支度やなんかだけじゃないらしいからねえ。随分と荒っぽい連中らしい。あんたも親を泣かせる事はやめた方がいい」
「そうね、気をつけるわ。ありがとう」
早速、手がかりがあった。スリーキングはすでに城に入っているのだ。
しかも手伝いの娘を募集しているとは幸運だった。
リリカは都に入ると、馬を売って金を作った。衣装や下着を揃え、田舎くさい娘になりすます。
元々が田舎の娘である。巨大な城やにぎやかな街を見るのは初めてで、少々面食らったが臆せずに城に出向いて行った。
リリカに情報をくれた農民の危惧は本当だった。リリカがにこっとほほ笑むと即採用された。連れていかれた城の中の軍隊専用の居住区は乱れに乱れていた。
手伝いの娘達はほとんどが兵隊達の慰み者として、住みついていた。娘とは言えないほどの年かさの女やいかにも酒場に巣くっているような妖しい雰囲気の女達、中には本当に手伝いだと信じて城に来た者もいたが、日数がたつにつれて彼女達は派手にけだるそうになっていった。
「たいしたもんね」
リリカはため息をついた。
リリカが城に来てから一月がたっている。毎日食事の支度や洗濯で忙しいし、身の危険を感じる。幸運にもリリカはまだ慰み者にはなっていない。初日にリリカに襲いかかった兵隊、といっても元は山賊で下品な男だが、を殴り倒してやったからだ。
それ以来、リリカはガイツにもらった剣を肌身離さず持っている。リリカの剣幕に兵隊達は面白がって、毎日のようにちょっかいを出すがそれに成功した者はいなかった。
そして、それが原因で追い出される事もなかった。人手が足りないのだ。女達の中で真面目に仕事をする者はそういなかったし、やる事は山のようにあったからだ。
「あーあ、もう少し、人手を増やして欲しいわよね」
リリカの言葉に最近仲良くなったサーラという娘が笑った。
「そうね。あの人達ったら、少しも手伝ってくれないものね」
リリカは振り返った。
台所で水仕事をしているリリカ達をしり目に、二、三人の女が煙草をふかして雑談しているのだ。
「サーラ、あんた、まだ無事なの?」
「え?」
「誰にもやられてないの?」
「ええ……まあ」
「そう。まったく、こんな危険な仕事ないわよねえ。油断すると貞操の危機だなんてさ」
サーラは頬を赤くしてうつむいた。年はリリカと同じで、どこかの村から出稼ぎに来ているという話だ。きれいなブロンドを腰の辺りまで伸ばし、三つ編みにしている。
「リリカは強いからいいわね」
サーラはリリカが腰にさしている剣を見ながら言った。
「強いってわけじゃないわよ。剣でも持ってないとねー。いつ襲われるか分からないじゃん」
「そうね」
「あんたも、何か用意した方がいいわよ。いつかやられるわよ」
「でも……剣なんて使った事ないし」
「うーん、剣じゃなくてもさ、ナイフでも何でもいいわ。とにかく、逆に相手を殺すくらいの気持ちを持ってないとさ」
「ええ」
サーラがほほ笑んだ。
リリカは心の中で、サーラの身は危ういと思っていた。
のんきに笑っているが、こんなのほほんとした娘をここにいる野獣が見逃すはずがない。
リリカはサーラが好きだったので、出来る限り助けてやりたいと思っていた。
「おい、おい、こんなとこで眠ったら、危ないぜえ」
ふいに声をかけられて、リリカははっと目覚めた。
都の近くまで来たものの、どうにも疲れて一休みした間に眠ったらしい。
リリカは大きくのびをしながら立ち上がった。
「起こしてくれてありがと」
「驚いたさ」
リリカを起こしたのは近くの村の農民らしい。くわを手に畑に出る途中なのだろう。
「あんた、どこの者かね? この近くじゃ見ない顔だね」
「あたしは旅人なの。都で働きたいと思ってさ。ようやくここまで来たのよ。村じゃろくに食べ物も口に入らないもの。都なら働き口があるんじゃないかと思って」
「そうかね。最近はそういう娘が増えたもんだね。たしかに、軍隊が手伝いの娘を欲しがってるからねえ。お城に行けばいくらでも働く口はあるだろうよ」
「軍隊?」
「そう……何でも、他所から兵隊さんが一杯はいってきたらしいからねえ。その世話をする女を探してるらしいがね」
「へえ、じゃ行ってみようかな」
「だけどねえ」
男は渋い顔をした。
「気をつけた方がいいよ。食事の支度やなんかだけじゃないらしいからねえ。随分と荒っぽい連中らしい。あんたも親を泣かせる事はやめた方がいい」
「そうね、気をつけるわ。ありがとう」
早速、手がかりがあった。スリーキングはすでに城に入っているのだ。
しかも手伝いの娘を募集しているとは幸運だった。
リリカは都に入ると、馬を売って金を作った。衣装や下着を揃え、田舎くさい娘になりすます。
元々が田舎の娘である。巨大な城やにぎやかな街を見るのは初めてで、少々面食らったが臆せずに城に出向いて行った。
リリカに情報をくれた農民の危惧は本当だった。リリカがにこっとほほ笑むと即採用された。連れていかれた城の中の軍隊専用の居住区は乱れに乱れていた。
手伝いの娘達はほとんどが兵隊達の慰み者として、住みついていた。娘とは言えないほどの年かさの女やいかにも酒場に巣くっているような妖しい雰囲気の女達、中には本当に手伝いだと信じて城に来た者もいたが、日数がたつにつれて彼女達は派手にけだるそうになっていった。
「たいしたもんね」
リリカはため息をついた。
リリカが城に来てから一月がたっている。毎日食事の支度や洗濯で忙しいし、身の危険を感じる。幸運にもリリカはまだ慰み者にはなっていない。初日にリリカに襲いかかった兵隊、といっても元は山賊で下品な男だが、を殴り倒してやったからだ。
それ以来、リリカはガイツにもらった剣を肌身離さず持っている。リリカの剣幕に兵隊達は面白がって、毎日のようにちょっかいを出すがそれに成功した者はいなかった。
そして、それが原因で追い出される事もなかった。人手が足りないのだ。女達の中で真面目に仕事をする者はそういなかったし、やる事は山のようにあったからだ。
「あーあ、もう少し、人手を増やして欲しいわよね」
リリカの言葉に最近仲良くなったサーラという娘が笑った。
「そうね。あの人達ったら、少しも手伝ってくれないものね」
リリカは振り返った。
台所で水仕事をしているリリカ達をしり目に、二、三人の女が煙草をふかして雑談しているのだ。
「サーラ、あんた、まだ無事なの?」
「え?」
「誰にもやられてないの?」
「ええ……まあ」
「そう。まったく、こんな危険な仕事ないわよねえ。油断すると貞操の危機だなんてさ」
サーラは頬を赤くしてうつむいた。年はリリカと同じで、どこかの村から出稼ぎに来ているという話だ。きれいなブロンドを腰の辺りまで伸ばし、三つ編みにしている。
「リリカは強いからいいわね」
サーラはリリカが腰にさしている剣を見ながら言った。
「強いってわけじゃないわよ。剣でも持ってないとねー。いつ襲われるか分からないじゃん」
「そうね」
「あんたも、何か用意した方がいいわよ。いつかやられるわよ」
「でも……剣なんて使った事ないし」
「うーん、剣じゃなくてもさ、ナイフでも何でもいいわ。とにかく、逆に相手を殺すくらいの気持ちを持ってないとさ」
「ええ」
サーラがほほ笑んだ。
リリカは心の中で、サーラの身は危ういと思っていた。
のんきに笑っているが、こんなのほほんとした娘をここにいる野獣が見逃すはずがない。
リリカはサーラが好きだったので、出来る限り助けてやりたいと思っていた。
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