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空腹をかかえて

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「ふーん、ねえ、白爺」
 と辺りを見渡すと妖精達は姿を隠していたが、白爺だけがぱっと現れた。
「サンドラ様について教えてくれる?」
「……サンドラ様と呼ばれる人間はこの城の別棟住んでいる先代侯爵の末弟の娘と聞いております」
「従姉妹ってことか。はーん、子供の頃から住んでて、侯爵が大事に育ててきたお姫様だから、屋敷の人間はきっと侯爵とその姫が結婚するって思ってたのね。何歳?」
「二十歳は過ぎたと聞いてます」
 ちなみに私は十八歳という設定で侯爵は三十だ。
 私より年上かあ。
「それでサンドラ様は侯爵と結婚するつもりはあるの?」
「それは……」
 白爺は首を傾げた。
「サンドラ様は病弱」
 と白爺の後ろから声がして、最初に私の手の平へやってきた少年タイプの妖精が言った。
「病弱?」
「うん。いつもベッドで寝てる」
「ふーん、ま、いっかサンドラ様には興味ないけど、サラに生意気な口きいたあの料理人だけはちょっとお仕置きが必要ね。ありがと」
 白爺に魔法玉大と少年に魔法玉小をそれぞれ作ってあげると嬉しそうにそれを抱えて消えた。
 その夜は予想通り、夜食も出なかったし、結局、暖炉に火が入る事もなかった。
 うん、大丈夫。
 炎爆系の魔法使えるから。
「リリアン様、何を?」
 暖炉の前でかがみ込んで薪をくべて、それから着火しようとしたところでサラが入ってきた。
「うん、火をつけようと……さすがに寒いでしょ?」
「火を……では言いつけてまいります」
「いいから、いいから、私だって火くらいつけられるの。ここだけの話ね、炎爆系の魔法使えるのよ、私」
「え! リリアン様……ですが……」
「誰も知らない話だから、サラだけね」
「リリアン様」
 サラは酷く驚いたような顔で突っ立っている。
 魔法というのはこの世界ではそれほど偉大で素晴らしい才能なのだ。
 だから魔法使いを何人も出す家柄はもてはやされ、家系にもかかわらず魔力が発現しない者は酷く貶められるのだ。
「いつからですか?」
「ちょっと前かな」
「伯爵家の方はご存じないのですか?」
「うん、言ってないから」
「何故です? そうしたら望まぬ縁談など……」
「うん、でもそしたらあの家の為に死ぬまでこき使われて搾取される。才能があってもなくても愛してくれる両親ならともかく、あの人達の為にこの力は使わないわ。どうせ使うならもっと必要な人がいるでしょう? このさい、言っちゃうけど、私、侯爵様から離縁されたら行方をくらまして一般人に混じって生きていこうと思ってるの。冒険者って知ってる?」
「そ……れは存じてますが……冒険者は魔物や魔獣を討伐する危険な職業ですわ」
「まあ、ここだけの話にしてね。もう少し先の事だし、今はこの暖炉に火を入れなくちゃ、凍えちゃうわ……」
 私は意識を集中して小さい小さき魔力を指先に灯し、そして、「炎爆」と唱えた。
 ぼっと音がして、指先に火が灯った。
「ついたわ!」
 サラは目を丸くしてその火を見つめ、私はその火を暖炉に移した。
「暖かいわね。自分で着けた火だから尚更、暖かく感じるわ」
「そうですね、とても暖かいです」
 その夜は空腹を抱えて、サラと一晩中語り合った。 
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