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兄様

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「リリアン様~~」
 ヤトの背に乗ってぐったりしたサラが戻ってきた。
「サラ! 無事でよかったわ!」
「はい、リリアン様、探しに来て下さったのですか?」
「そうよ! 心配したんだから!」
「すみません……」
「まあ、人間を食べるタイプの魔獣じゃないらしいから良かったわ」
「え、でも、盗賊の何人かはこに来てすぐ頭を囓られてましたけど」
「はあ?」
 私は天井を見上げた。
 蜘蛛のおばあさんはまだ魔法玉を抱えていたが、びくっとなって「えへら」と笑って、
「そ、それは、まあ、腹が減ってたし、主食じゃないんだけど、嗜好品みたいな?」
 と言った。
「あなたここで住んでいるの? ここが貴方のお屋敷?」
「そうさ! 見てな!」
 と言うと天井の蜘蛛のおばあさんはふわあっと回復した自分の魔力を放出した。
 途端に、ゴミクズだらけだった屋敷の中はさあっと綺麗に修復され、荒れ放題だった庭も樹木が生い茂り、薔薇が咲いた。
 何よりしわくちゃだったおばあさんの顔が素晴らしい美女になった。
 腹から下はやっぱり蜘蛛だけど腹の部分はつやつやで、赤い足もピカピカになり痛そうなトゲがたくさん生えていた。
「まあ、ずいぶんと若返って」
「あんたの魔力は上質だねぇ!」
 蜘蛛のおばあさん、いや、蜘蛛の美魔女はご満悦だ。
「あなた、ここが塒なんでしょう? でもここはウエールズ領だからここで人間を襲うの禁止よ」
「何だって! 人間ごときにあたしのやり方をどうこう言われる……」
「炎爆! 交渉が決裂なら、あなたを焼き払って、そろそろお暇するわ」
 小型の炎玉を投げつけると、蜘蛛の美魔女はささっと避けた。
「ちょ、熱いって、あんた聖魔法も使えるんだろ? 聖魔法を使う魔術師の攻撃魔法は普通の魔法使いより1.5倍効くんだから!」
「それなら理解した? ウエールズ領で人間を襲うの禁止」
「えーでも、あたしらだって食ってかないとさぁ。月に一度でもいいからあんたの魔力を食わせてくれたら、まあ、人間を喰うの我慢してやってもいいけど」
「いいわ。魔獣が人間を襲うのも仕方ないことかもしれないけど、あなたのように知性のある魔獣に理解してもらえて嬉しいわ。あなた、お名前は?」
「アラクネ」
「荒くれ? ぴったりなお名前ね」
「アラクネ!」
「みんな、さあ、帰りましょうか」
 ぞろぞろと部屋を出て、玄関を出るとふいと良い薔薇の匂いがした。
 ヤトの背にみんな乗り込んでいると、
「おいおい、ついてきてんで」
 とおっさんが言った。
「え?」
「リリちゃんの肩のとこ」
 左肩を見ると、ちっちゃな赤い蜘蛛が乗っていた。
「アラクネ?」
「そだよ」
「ついてくるの?」
「うん、ここでぼっちなの飽きた。あんたの側にいるだけで魔力が補充されて気持ちがいいいから。ちっちゃくなってるからいいでしょ」
「まあ、良いけど、絶対、人間は襲っちゃ駄目よ?」
「分かったよ」
 アラクネが魔力を解いたのか、屋敷はまた古ぼけた廃墟となった。
「ヤト、盗賊も運べる? ちょうどいいからアラクネに縛られたまま、官憲に連れて行きましょう」
「うん」
 私とサラが背中に乗って、おっさんたちはスカートの裾に隠れ、盗賊達は尻尾にくるっと巻かれて、そしてヤトは飛び立った。
「そういや、侯爵が戻ってるらしいで。兄様から連絡来た」 
 とおっさんが言った。
「兄様って?」
「兄様は兄様や」
「そう言えば……二人しかいないわね。もうひとりのおっさんが兄様?」
「そうや、兄様はダゴン・A・ウイン。妖精王ウインの直系の嫡男や、わしは次兄のドゴン。これは一番下の弟のデゴン」
 とおっさんが言い、その隣にいたもう一人のおっさんが手をあげて貴族っぽく応えた。
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