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第11章 解放する者

自分だって認めるだけ

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「大丈夫って思うならオレは反対しねぇけどさー。ジェイクには頼んなよ?」

「え……うん。もし、そういう……悪いことするとしたら、リージェイクに頼っても……どうにもならないだろうし……」

 かいの言葉の意図がハッキリわからず、しどろもどろに言った。

「頼るならオレにしろ」

 僕と凱の視線が絡む。

「ジェイクに気づかれんな」

「どうして……」

「また止められなかったって自分責めて苦しむじゃん? 悪いのはこっちなのにさ。だから、止めてほしくなっても助けがほしくても何でも。そん時は、オレにして」

「凱……」



 リージェイクは、凱のことで後悔していた。
 今も、彼を心配して救いたいと思っている。
 それを凱は知っていたのか。

 そして。
 これ以上リージェイクを苦しめたくないから、僕に彼を巻き込むなって……。



「うん。わかった」

「サンキュ」

「凱ってやさしいね」

 僕の言葉に、凱は呆れたように天を見やった。

「平気で人を壊す人間だって知ってるよな。しかもオレ、悪いことすんなら手を貸すって言ってんだぜ?」

「いいの。僕がそう思うんだから。それに、今の凱とは違うでしょ? 悪い人間と向き合う時は」

「そーね。キッチリ切り替えねぇとな。ここと学校と街中と、そん時と」

 凱がテーブルに置かれた薬のシートを1枚摘まみ上げる。

「特殊な状況でだけ、スイッチが入んの」

「あの男も……学校では全然違うの? 帰る時は、すごくマジメな優等生にしか見えなかった。凱を血だらけにして楽しんでた男とは別人みたいに」

「そー別人。マジメ過ぎてとっつきにくいけど。困ってるヤツ助けたり、人の気持ち考えて動く……思いやりある人間だぜ」

「うそ……」

「ほんと。今日、学校着いたらすぐオレんとこ来たよ。昨日はすまなかった。大丈夫かってさ。そーゆーヤツ」

「じゃあ、何であんな……」

「セックスん時だけ解放すんだろ。サディストの自分。スイッチ入ったらコントロール出来ねぇのかもな」



 解放……。


 あの男は、自分の中のサディスティックな部分を解放する。
 凱は、自分の中の負の部分を……。



「凱も? 人を壊す時、解放してるんでしょ? 怒りとか憎しみとか……負の部分を」

「負の部分……ね。悪いモノっつーよりマシに聞こえるな」

「どうやってコントロールしてるの?」

「しねぇよ。自分だって認めるだけ」

 問いを乗せて首を傾げる僕に、凱が続ける。

「猛獣使いはさー、食われねぇように猛獣をコントロールすんじゃん? ライオンとか。でも、ライオンは、猛獣使いを食うのもおとなしく言うこと聞くのも自分の意思。自由に出来んだろ。それと同じ」

 ライオン……猛獣は自分。

「負の部分は自分自身だから、コントロールする必要ないってこと?」

「そー。勝手に人殴ってました。この身体を動かしてたのは自分じゃありません。なんてのは……頭が病気か、通じねぇ言い訳するマヌケだろ」

「認めてても……コントロール出来なかったら?」

「やったことの責任取るしかねぇよなー。その覚悟がねぇなら、スイッチ入る前にやめるっつーかそんな状況作んなきゃいーの」

 凱は持っていた薬のシートを山に戻した。

「あの男、凱を傷つけた責任ちゃんと取ったの? もしかしてこれ?」

 テーブルの上を指差した。

「はじめのディールは、これ1枚とセックス1回」

 6錠入りの薬のシートは10枚ある。

「やる時はドSの変態になんだろーけどさ。普通の時のあいつは、潔く謝ってオレの身体も気遣える。悪いヤツじゃねぇよ。それでも、昨夜のことは利用させてもらったけどねー」

「引き換えの薬、10倍にしたんだ。お詫びのつもりかな」

「させたの。脅して」

 危険な男の顔で凱が微笑む。

「証拠見せて、学園内とネットに流すか薬54錠上乗せか……好きなほう選べってな」

「ネットにって……動画? 撮ってたの?」

「保険にねー。位置合わせる前に縛られて始まっちゃってたからアングル悪いけど、あいつの顔と変態プレイはわかるレベル。あと、やられたあとのオレの画像もあるからバッチリ」



 アレを動画に撮ってあるって。

 よく見返す気になるな……っていうか。
 残しておくの嫌じゃないのかな。
 もとは単にセックスの証拠のためで、サディストの性癖で脅すつもりじゃなかったんだとしても。

 凱は用意周到だ。
 悪い結果になった先のことは考えないのかもしれないけど、結果を出すまでの準備はしっかり整えておくんだろう。

 それよりも。
 あの男に知られずに動画を撮影したツールを、凱は持っている。
 僕の計画にそれを使えれば……。



「どうやって撮ったの? 防犯カメラみたいなもの? 今度それ借りられる?」

 突然の役立つアイテム発見に、つい考えなしに口を開いた。



 マズい……!

 何のためにそれが必要なのか、聞かれても答えられない。
 すぐに答えられる出まかせを考える暇もない。



 失言に気づいたことを僕が顔に出したのは、たぶんほんの一瞬。
 方眉を上げた凱が、探る瞳を僕に向けた。

「何に使うの?」

 黙ったまま、すがるように凱の瞳を見つめる。
 瞳の奥に暗い炎を探して。



 僕の内に棲む悪いモノと一緒に凱を見つめている……そんな感覚に陥った。



 凱がニヤリと笑った。

「いーよ。おまえに貸す。言いたくねぇなら理由も話さなくてオッケー」

「え……?」

「代わりにさー。いっこオレのお願い聞いて」

「な……に……?」


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