人生負け組のスローライフ

雪那 由多

文字の大きさ
68 / 976

過密状態にご注意を 7

しおりを挟む
「俺は一度母屋に戻って罠の道具を持ってくる」
 ちなみに俺がやっているのは括り罠と言う物。本来ならワイヤーを使うのだが昔ながらの縄を使っております。なので鋏でちょんと切れるのです。猪や鹿なんてあっという間に引きちぎって逃げて行きます。時折小さな動物や烏骨鶏がかかる程度です。むしろ罠に引っかかってる状態で別の獣に掴まらなくってよかったとほっとしております。
 以上これを見れば捕まえる気がないのはもろわかりだろうし、目印の大きな赤い布を縛り付けているのも十分警戒される理由だしねとトラップだらけの裏山は植田達には腹を抱えて笑うほどの遊び場となっています。
 なんせほとんどが脱出されて壊れた括り罠ばかりだからな!
 それでも警戒してくれるので存在だけでもありがたくたまに生き残ってる罠で捕まってしまった動物がいないかチェックをする日々です。
「まぁ、罠の設置し直ししてくれるとこからなら良いけど」
 役に立ってない罠と目印を持って来てくれるのは水野。こいつの祖父の家も猟友会の仲間と言うのは前に勉強会してた時にシカを拾ったからとおすそ分けに来てくれた時に知った事実。広い村なのに意外と狭いのなと感心するしかない。
「じゃあ、そこからだ。折角だからこの夏の体験にどうだ?」
 目指せ狩猟免許か?
「年齢制限で引っかかります。そういやそろそろ講習の期間だっけ?」
「街で受け付けが始まるってうちのじいさんが言ってたな」
 どうやら水野に資格を取らせたいようだ。
「えー?水野受けるの?」
 植田が意外だと言う様に驚くも
「まぁ、受かるか判んないし記念受験?綾っち先輩として教えてください」
「う、羨ましくないんだからね!」
 と言う様に植田は冬の生まれだ。つまりまだ十七歳で年齢制限にひっかかってしまうのだ。
「まぁ、来年だってとれるんだし?進学すれば夏休みに戻って来た時に取ればいいんだし?」
「でもイベントがー!それだけが楽しみなんだー!」
「こうやって資格取る日は失われる。みんなこんな先輩みたいになるなよー」
 はーいと言う良い返事に植田は泣きながらも母屋へと帰って行くのを見て俺達も下へと降りるのだった。
「すみません。罠にかかったキツネがいて遅くなりました」
 頭を下げながら井戸端会議ならぬ縁側に座って並ぶ奥様方に頭を下げれば思考停止。二人のマダムだったはずがいつの間にか四人のマダムとなっていて……
「園田やっと見つけた。先生も先輩もこんちわー。綾っちお世話になりやーす」
「こら健吾、勉強教えてもらうのにちゃんとあいさつしなさい」
 母親にしかられた健吾は真剣な顔をして
「綾人さん、よろしくお願いします」
 改めての挨拶は胡散臭さだけが爆発した。
「綾人さんお世話になります」
 もう一人の川上も健吾を見習い頭を下げるも
「先輩と園田も昨日振りー?お?先輩弟も来たか!
 それより先に行くなら教えてくれてもいいじゃないですかー」
 成績底辺のゆるゆるな奴らばかりが集まってしまった……
 つまり水野植田コンビがいるから俺もきた!そんな奴らが集合したわけだ。人の家をなんだと思ってるんだか。
「おう、山中も川上もよく来た。新入りの一年が居るから先に紹介しておく。とりあえず中に入ろうぜ」
 そう言って台所方面に向かう一団を見送れば先生を見上げる。どう言う事?と……
 もうね、さっと反らされた視線だけですべて悟ったよ。
 俺の居ぬ間にこいつらを召喚したんだって。言いだしたのは水野植田コンビだろう。理由は言わずとも陸斗。大体想像はつくが一晩で陸斗の可愛さにメロメロになったのだろう。良く判るよ。愛玩的なまでの素直さと少し苛めたくなるようなびくついた仕種。だけどその背後には圭斗と香奈ちゃんと言う二大守護神がいる。そこも水野植田コンビはちゃんとしてくれるのだろうと信じて置くけどね。
「それじゃあお母さんたち帰るね」
「そう言えば昨日拾った鹿の足を冷凍庫に入れて置いたから。しっかり凍らせてから食べてくれ」 
「おばさんの所はマスカット持って来たから食後のデザートに食べてね」
 ワイワイと賑やかに帰る一団を見送って途方に暮れる。
 年々もち込みん食材が豪華になって行く。だけどこいつら全部食べつくすんだろうなと十代の胃袋を少しだけ尊敬してしまう俺はこいつらから見たら立派なおじさんなんだろう。せめてお兄さんって思って欲しいと少しだけ心にダメージを負うのだった。
 しくしくと心の中で涙を流していれば
「まだ一年が合流してないが今夜は初日恒例のカレーを作るぞ」
 先生と一緒に台所でLIMEの交換をしている理科部に言うも
「いきなりカレーって予定より早くない?」
「予定よりもまず陸斗の紹介でしょう」
 俺のツッコミを大人のくせに順番間違えてますと植田がばっさりと切り捨ててくれた。
 もうちょっと優しくて欲しいな……
 うん……
 植田から改めて始まった自己紹介を心の中が大雨状態で見守るのだった。
しおりを挟む
感想 93

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

ここは異世界一丁目

雪那 由多
ライト文芸
ある日ふと気づいてしまった虚しい日々に思い浮かぶは楽しかったあの青春。 思い出にもう一度触れたくて飛び込むも待っているのはいつもの日常。 なんてぼやく友人の想像つかない行動に頭を抱えるも気持ちは分からないでもない謎の行動力に仕方がないと付き合うのが親友としての役目。 悪魔に魂を売るのも当然な俺達のそんな友情にみんな巻き込まれてくれ! ※この作品は人生負け組のスローライフの811話・山の日常、これぞ日常あたりの頃の話になります。  人生負け組を読んでなくても問題ないように、そして読んでいただければより一層楽しめるようになってます。たぶん。   ************************************ 第8回ライト文芸大賞・読者賞をいただきました! 投票をしていただいた皆様、そして立ち止まっていただきました皆様ありがとうございました!

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...