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過密状態にご注意を 7

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「俺は一度母屋に戻って罠の道具を持ってくる」
 ちなみに俺がやっているのは括り罠と言う物。本来ならワイヤーを使うのだが昔ながらの縄を使っております。なので鋏でちょんと切れるのです。猪や鹿なんてあっという間に引きちぎって逃げて行きます。時折小さな動物や烏骨鶏がかかる程度です。むしろ罠に引っかかってる状態で別の獣に掴まらなくってよかったとほっとしております。
 以上これを見れば捕まえる気がないのはもろわかりだろうし、目印の大きな赤い布を縛り付けているのも十分警戒される理由だしねとトラップだらけの裏山は植田達には腹を抱えて笑うほどの遊び場となっています。
 なんせほとんどが脱出されて壊れた括り罠ばかりだからな!
 それでも警戒してくれるので存在だけでもありがたくたまに生き残ってる罠で捕まってしまった動物がいないかチェックをする日々です。
「まぁ、罠の設置し直ししてくれるとこからなら良いけど」
 役に立ってない罠と目印を持って来てくれるのは水野。こいつの祖父の家も猟友会の仲間と言うのは前に勉強会してた時にシカを拾ったからとおすそ分けに来てくれた時に知った事実。広い村なのに意外と狭いのなと感心するしかない。
「じゃあ、そこからだ。折角だからこの夏の体験にどうだ?」
 目指せ狩猟免許か?
「年齢制限で引っかかります。そういやそろそろ講習の期間だっけ?」
「街で受け付けが始まるってうちのじいさんが言ってたな」
 どうやら水野に資格を取らせたいようだ。
「えー?水野受けるの?」
 植田が意外だと言う様に驚くも
「まぁ、受かるか判んないし記念受験?綾っち先輩として教えてください」
「う、羨ましくないんだからね!」
 と言う様に植田は冬の生まれだ。つまりまだ十七歳で年齢制限にひっかかってしまうのだ。
「まぁ、来年だってとれるんだし?進学すれば夏休みに戻って来た時に取ればいいんだし?」
「でもイベントがー!それだけが楽しみなんだー!」
「こうやって資格取る日は失われる。みんなこんな先輩みたいになるなよー」
 はーいと言う良い返事に植田は泣きながらも母屋へと帰って行くのを見て俺達も下へと降りるのだった。
「すみません。罠にかかったキツネがいて遅くなりました」
 頭を下げながら井戸端会議ならぬ縁側に座って並ぶ奥様方に頭を下げれば思考停止。二人のマダムだったはずがいつの間にか四人のマダムとなっていて……
「園田やっと見つけた。先生も先輩もこんちわー。綾っちお世話になりやーす」
「こら健吾、勉強教えてもらうのにちゃんとあいさつしなさい」
 母親にしかられた健吾は真剣な顔をして
「綾人さん、よろしくお願いします」
 改めての挨拶は胡散臭さだけが爆発した。
「綾人さんお世話になります」
 もう一人の川上も健吾を見習い頭を下げるも
「先輩と園田も昨日振りー?お?先輩弟も来たか!
 それより先に行くなら教えてくれてもいいじゃないですかー」
 成績底辺のゆるゆるな奴らばかりが集まってしまった……
 つまり水野植田コンビがいるから俺もきた!そんな奴らが集合したわけだ。人の家をなんだと思ってるんだか。
「おう、山中も川上もよく来た。新入りの一年が居るから先に紹介しておく。とりあえず中に入ろうぜ」
 そう言って台所方面に向かう一団を見送れば先生を見上げる。どう言う事?と……
 もうね、さっと反らされた視線だけですべて悟ったよ。
 俺の居ぬ間にこいつらを召喚したんだって。言いだしたのは水野植田コンビだろう。理由は言わずとも陸斗。大体想像はつくが一晩で陸斗の可愛さにメロメロになったのだろう。良く判るよ。愛玩的なまでの素直さと少し苛めたくなるようなびくついた仕種。だけどその背後には圭斗と香奈ちゃんと言う二大守護神がいる。そこも水野植田コンビはちゃんとしてくれるのだろうと信じて置くけどね。
「それじゃあお母さんたち帰るね」
「そう言えば昨日拾った鹿の足を冷凍庫に入れて置いたから。しっかり凍らせてから食べてくれ」 
「おばさんの所はマスカット持って来たから食後のデザートに食べてね」
 ワイワイと賑やかに帰る一団を見送って途方に暮れる。
 年々もち込みん食材が豪華になって行く。だけどこいつら全部食べつくすんだろうなと十代の胃袋を少しだけ尊敬してしまう俺はこいつらから見たら立派なおじさんなんだろう。せめてお兄さんって思って欲しいと少しだけ心にダメージを負うのだった。
 しくしくと心の中で涙を流していれば
「まだ一年が合流してないが今夜は初日恒例のカレーを作るぞ」
 先生と一緒に台所でLIMEの交換をしている理科部に言うも
「いきなりカレーって予定より早くない?」
「予定よりもまず陸斗の紹介でしょう」
 俺のツッコミを大人のくせに順番間違えてますと植田がばっさりと切り捨ててくれた。
 もうちょっと優しくて欲しいな……
 うん……
 植田から改めて始まった自己紹介を心の中が大雨状態で見守るのだった。
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