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瞬く星は近く暖かく 2
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一人の子供が祖父母の家に預けられた。
母親はそんなに祖父母の家に行きたいのなら行きなさいとあっさりと承諾。すんなりと住民票を移動させ、学校の変更手続きをさっさと終わらせるのだった。
それに対応する事務員は淡々に、隣の職員室ではどんな母親かと興味津々で手続きを覗いていた。
可もなく不可もなく、華美のないスーツを身に纏い、子供が母親を捨てたと言うのに明るい声と表情を隠さない好印象の髪型とメイクは服装や髪形など既定のある銀行員らしく、とても不倫をして家族を追い出すような人物には見えなかった。というよりこの状況で日常と変わらないコンディションでやってくる方が不気味で、とても借金を抱えている様子すらないのは不気味を通り越して異常だ。だから子供も逃げ出したのだろうが、それなりに学費のかかる私学に入学をするのなら両親ともに銀行員なら支払いに問題があるようには思えないしと思った所で付き合っている男の借金の話を思い出すのだった。
最後に挨拶をしたのだが苦笑紛れの挨拶は息子の悠司同様かなり顔色は悪く疲れを隠しきれてない。
まぁ、子供が出て行くわ金銭トラブルがあったり、そもそも不倫で奪い取った居場所だ。いくら愛を主張しようがこの国は法治国家な限りペラペラの紙一枚に書いた署名の方が絶対だ。泣き喚こうが勝ち取ることのできない偽りの場所だった為に必死なのだろうと想像は容易い。そして話し合いは上手く進んでいるようには見えなくて、去って行く後姿はふらついているようにも見えた。
この学校ではこれと言った特徴のない、どこか人懐っこい子であったが、模範生のような子供の背景がそうと判れば必死に新しい父親に気に入られるように頑張っていたのかもしれないと思えばやりきれない。そしてそれを受け入れなければならないその前の暮し。貧困ではないだろう。ただ母親だけと言う状況と銀行員ならではのお金の数字に対する敏感すぎる環境が、学校の教師以上に貰ってても足りないと言う心理が依存し執着してしまったのだろうかとの想像は他人の事なので幾らでもできる。
ただ願うのは新しい環境に早く馴染んでもらえればと、それだけだ。
そして新しい環境になれた子供はすくすくと育ち立派な大人となって今日も今日とてぼんやりと庭を見ながら烏骨鶏の止まり木になっていた。
目も当てられない。
今日もすぐ脇で卵を産んだ布団は処分しないとな。いや、鳥糞まみれのシーツだけ処分すれば良いかと思いながらもこんなんでいいのかと浩太は思うが
「心って言うのは結局の所頭が司る場所だ。
今の対処としてはたっぷりと寝させてとにかく休ませる事が薬を使わずに済ませる方法だ。薬漬けにしたくないからこうやって監視しながらただ何かをしたくなるのを待つしかないんだよ。
それに烏骨鶏はアニマルセラピーだ。最初こそ烏骨鶏のしたい放題させたい放題だったが見て見ろ。烏骨鶏の卵をもって自分で調理を始めやがった。クソ、今日は雑炊を一人で食べるつもりか?!」
「そう言えば最近はよく食べますね」
「頭って言うのは結構カロリーを消費する燃費の悪い部分だ。
何も考えないでいる状況を作るのもまたカロリーを消費する問題で、あ、何も考えないのとは違うから勘違いしないでくださいよ?」
考える事を拒否するには考えるのと同じぐらいのエネルギーを消費すると説明。
「結局休まってないって事ですね」
「この治療法が長引く理由の一つです」
「マジですか?」
「あー、大ウソなので信じないでください」
「……」
「こいつの場合これが初めてじゃないから。
前回、弥生さんが亡くなった時こうやって時間はかかったけど自分の中で折り合いをつけてちゃんと立ち直ったんで。
まぁ、心の中はこんなにも納得してない部分がアホほどあったって言うのはこいつの問題だけど。
今回は言いたい事は言えたから一歩前進と言うべきか何というか」
言ってる間に縁側で一人雑炊を食べだした。
「ちょっと綾人~先生にも分けてよ」
暗くなりだした山の夜はだんだんと早くなってきている。とっくに秋を迎えたこの山ではあとひと月を過ぎれば冬を迎えるだろう。
台所から茶碗とレンゲを持って来て雑炊を奪い合う様に食べる光景は、それでも前のような明るさはない。
ひたすら黙々とただ食べるだけの光景は……シュールだと思う。
先生が一方的に話しかけ、綾人はただ黙って黙々と食べるだけ。そして食べ終わればそのまま横になってまたウトウトし始めた。本当にこんなので良いのかと思うも食器を洗う先生が言うには
「俺が話しかけているだろ?人の話を聞くのもしんどいだろうけど、リハビリならここからゆっくりと話しをすればいい。ガキじゃないんだから物語を読む必要はないし、もともと口数は少ない奴だったんだ。一日会話しなくても平気な奴だからこんな所に住める」
言いながら烏骨鶏を縁側から追い出して綾人をずるずると部屋の中に新たに敷いた烏骨鶏に汚染されていない布団へと足首を持って移動させる。これもまたすごい光景だなと黙って眺めてしまえばさすがに目を覚ましてベットに行こうとする。真夏でもここでは夜でも十分布団をかぶりたくなるほどの気温。少し前までここで朝まで寝たりしていた事を思えば進歩していると言うべきか。だけど部屋に行く前に綾人を捕まえて
「寝る前に。
今度の水曜日、明後日ですね。台所のキッチン機材が入ります。こちらの営業所に準備はしてあるそうなので八時出発十時着。遅れても一時間以内と見ています。
水回り、火の回りを一気に進めて台所を終わらせたいので左官の山川さんと森下さんが応援に入ります。あと長沢さんもこちらに来て他の建具を取りに来るそうです。少し賑やかになりますから……」
何と言えばいいのか。頑張りましょうとこういう時には言ってはいけない事ぐらい知っている。今だって限界位頑張っているのだ。これ以上どう頑張ると言う所だろうと悩んでいれば
「じゃあその日は朝からちゃんと起きような。
先生がシェフに連絡入れて置くから。あいつのおもちゃなら手前で管理しろって、メッセージだしておいたから。ひょっとしたらシェフ仲間も連れて来てもらって手伝わせればいいだろ。シェフ仲間の爺さんとかその奥さまもいたな。
気分転換に来てもらうと良い」
いきなりそんな大人数に来てもらうのはダメですよ!!!と浩太は心の中で突っ込むも先生の手で口を覆われしまう。
「お前が爺さんと婆さんが残した家に手を入れると決めたんだ。
最後まできっちり面倒を見ろ」
そう言って俺の口を何故か塞いだまま外へと出て行くのだった。
母親はそんなに祖父母の家に行きたいのなら行きなさいとあっさりと承諾。すんなりと住民票を移動させ、学校の変更手続きをさっさと終わらせるのだった。
それに対応する事務員は淡々に、隣の職員室ではどんな母親かと興味津々で手続きを覗いていた。
可もなく不可もなく、華美のないスーツを身に纏い、子供が母親を捨てたと言うのに明るい声と表情を隠さない好印象の髪型とメイクは服装や髪形など既定のある銀行員らしく、とても不倫をして家族を追い出すような人物には見えなかった。というよりこの状況で日常と変わらないコンディションでやってくる方が不気味で、とても借金を抱えている様子すらないのは不気味を通り越して異常だ。だから子供も逃げ出したのだろうが、それなりに学費のかかる私学に入学をするのなら両親ともに銀行員なら支払いに問題があるようには思えないしと思った所で付き合っている男の借金の話を思い出すのだった。
最後に挨拶をしたのだが苦笑紛れの挨拶は息子の悠司同様かなり顔色は悪く疲れを隠しきれてない。
まぁ、子供が出て行くわ金銭トラブルがあったり、そもそも不倫で奪い取った居場所だ。いくら愛を主張しようがこの国は法治国家な限りペラペラの紙一枚に書いた署名の方が絶対だ。泣き喚こうが勝ち取ることのできない偽りの場所だった為に必死なのだろうと想像は容易い。そして話し合いは上手く進んでいるようには見えなくて、去って行く後姿はふらついているようにも見えた。
この学校ではこれと言った特徴のない、どこか人懐っこい子であったが、模範生のような子供の背景がそうと判れば必死に新しい父親に気に入られるように頑張っていたのかもしれないと思えばやりきれない。そしてそれを受け入れなければならないその前の暮し。貧困ではないだろう。ただ母親だけと言う状況と銀行員ならではのお金の数字に対する敏感すぎる環境が、学校の教師以上に貰ってても足りないと言う心理が依存し執着してしまったのだろうかとの想像は他人の事なので幾らでもできる。
ただ願うのは新しい環境に早く馴染んでもらえればと、それだけだ。
そして新しい環境になれた子供はすくすくと育ち立派な大人となって今日も今日とてぼんやりと庭を見ながら烏骨鶏の止まり木になっていた。
目も当てられない。
今日もすぐ脇で卵を産んだ布団は処分しないとな。いや、鳥糞まみれのシーツだけ処分すれば良いかと思いながらもこんなんでいいのかと浩太は思うが
「心って言うのは結局の所頭が司る場所だ。
今の対処としてはたっぷりと寝させてとにかく休ませる事が薬を使わずに済ませる方法だ。薬漬けにしたくないからこうやって監視しながらただ何かをしたくなるのを待つしかないんだよ。
それに烏骨鶏はアニマルセラピーだ。最初こそ烏骨鶏のしたい放題させたい放題だったが見て見ろ。烏骨鶏の卵をもって自分で調理を始めやがった。クソ、今日は雑炊を一人で食べるつもりか?!」
「そう言えば最近はよく食べますね」
「頭って言うのは結構カロリーを消費する燃費の悪い部分だ。
何も考えないでいる状況を作るのもまたカロリーを消費する問題で、あ、何も考えないのとは違うから勘違いしないでくださいよ?」
考える事を拒否するには考えるのと同じぐらいのエネルギーを消費すると説明。
「結局休まってないって事ですね」
「この治療法が長引く理由の一つです」
「マジですか?」
「あー、大ウソなので信じないでください」
「……」
「こいつの場合これが初めてじゃないから。
前回、弥生さんが亡くなった時こうやって時間はかかったけど自分の中で折り合いをつけてちゃんと立ち直ったんで。
まぁ、心の中はこんなにも納得してない部分がアホほどあったって言うのはこいつの問題だけど。
今回は言いたい事は言えたから一歩前進と言うべきか何というか」
言ってる間に縁側で一人雑炊を食べだした。
「ちょっと綾人~先生にも分けてよ」
暗くなりだした山の夜はだんだんと早くなってきている。とっくに秋を迎えたこの山ではあとひと月を過ぎれば冬を迎えるだろう。
台所から茶碗とレンゲを持って来て雑炊を奪い合う様に食べる光景は、それでも前のような明るさはない。
ひたすら黙々とただ食べるだけの光景は……シュールだと思う。
先生が一方的に話しかけ、綾人はただ黙って黙々と食べるだけ。そして食べ終わればそのまま横になってまたウトウトし始めた。本当にこんなので良いのかと思うも食器を洗う先生が言うには
「俺が話しかけているだろ?人の話を聞くのもしんどいだろうけど、リハビリならここからゆっくりと話しをすればいい。ガキじゃないんだから物語を読む必要はないし、もともと口数は少ない奴だったんだ。一日会話しなくても平気な奴だからこんな所に住める」
言いながら烏骨鶏を縁側から追い出して綾人をずるずると部屋の中に新たに敷いた烏骨鶏に汚染されていない布団へと足首を持って移動させる。これもまたすごい光景だなと黙って眺めてしまえばさすがに目を覚ましてベットに行こうとする。真夏でもここでは夜でも十分布団をかぶりたくなるほどの気温。少し前までここで朝まで寝たりしていた事を思えば進歩していると言うべきか。だけど部屋に行く前に綾人を捕まえて
「寝る前に。
今度の水曜日、明後日ですね。台所のキッチン機材が入ります。こちらの営業所に準備はしてあるそうなので八時出発十時着。遅れても一時間以内と見ています。
水回り、火の回りを一気に進めて台所を終わらせたいので左官の山川さんと森下さんが応援に入ります。あと長沢さんもこちらに来て他の建具を取りに来るそうです。少し賑やかになりますから……」
何と言えばいいのか。頑張りましょうとこういう時には言ってはいけない事ぐらい知っている。今だって限界位頑張っているのだ。これ以上どう頑張ると言う所だろうと悩んでいれば
「じゃあその日は朝からちゃんと起きような。
先生がシェフに連絡入れて置くから。あいつのおもちゃなら手前で管理しろって、メッセージだしておいたから。ひょっとしたらシェフ仲間も連れて来てもらって手伝わせればいいだろ。シェフ仲間の爺さんとかその奥さまもいたな。
気分転換に来てもらうと良い」
いきなりそんな大人数に来てもらうのはダメですよ!!!と浩太は心の中で突っ込むも先生の手で口を覆われしまう。
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