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決意は口に出さずに原動力に変えて 4
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昼過ぎになって飯田親子は帰って来た。満足げなお母様は色々なお土産と俺にも色々と買ってくれたのだった。ありがたく頂戴してお茶を出せば早速と言う様にお菓子の封を開ける。
干し柿とバターのミルフィーユはなんでこんなに小さなお菓子なのにこのお値段?!と言うびっくり価格だが干し柿自体お高いお菓子なのだ。それにお高い材料のバターが重なり
「飲み物はお茶じゃなかったな」
「ドライフルーツとバターのミルフィーユなんてイケますね」
飯田さんの頭の中には既に色々な果物でのバターとのミルフィーユが出来上がっているのだろう。
「チーズでもいけるか?いや、バターだからこの濃厚さが美味いんだよな」
ゆっくりと味わいながら食べる様子に
「イチジクなら合うだろう。向こうでも定番だろうし」
「アンズも良いですね。プルーンもイケるかもしれませんが、ミックスベリーみたいなものでもいけるか挑戦ですね」
デザートを食べると言う顔ではないくらい真剣な睨みつけるような食事光景にひいてしまえば奥さんがもう少し切る?お茶も淹れ直しましょうねと眉間に皺を寄せて味わう二人を無視してほっこりと俺とお茶の時間に徹するのだった。
「あの二人はもっと純粋に味わって食べるって言うのが出来ないのかしら。似た者同士なのにねぇ」
そっと溜息を吐く飯田さんのお母さんは呆れながらも味わうように、バターが溶けるのを堪能しながら食べていた。
そうだ。この羊羹半竿にも満たないお菓子で四ケタを請求する高級菓子は時間をかけて味わうにふさわしいと言うのにとたった一切れを大切に食べる二人を他所に俺は飯田母と二人で残りを全部堪能してしまった。
いや、だって本当においしいし。干し柿の部分はゼリーだし、バターのこくがもう止めてくれなくって、そんないいわけをしながらの完食。大変おいしゅうございました。
その間もまだ難しい顔で食べ続ける二人を放っておいて俺は飯田母に山に行ってきますと言付けを頼んで裏山に続く階段を上り始めれば慌てた足音が聞こえてきた。
「栗拾いならついて行きます!」
しっかりとこの家に置いてある皮の厚手のブーツを履いてナイロンのジャケットを着こんで飯田さんがついて来た。
「お父さんは良いの?」
「なんかお酒屋さんで麹を買ったので晩御飯は任せろと追い出されました」
どこか悔しそうな顔に何があったかは知らないがここでの料理を諦めるくらいだから何かあったんだろうなと思うも
「俺のとっておきの猪の骨付きスペアリブを見付けられてしまいました」
くうっ!と男泣きをする辺り何かとっておきの時にととってあったのだろうと思うも何か特別な日でもあったかと考えながら山へと入った所で長い鉄の棒を飯田さんに渡す。俺は鉄のハサミを持って籠を背負い
「では、よろしくお願いします」
十分ほどの所に在る栗の木を見上げていた。
先生が作ってくれた石と丸太を置いただけで出来た階段を上りながら辿り着いた場所は栗の木が育つ森林限界地。そこまで大木にならずに広げる枝を飯田さんはヘルメットをかぶって枝をバシバシと鉄の棒でたたく。
まだ何処か青々しいいがぐりがぼとぼとと落ちてくるのを悲鳴を上げながら逃げる様子は腹を抱えて笑いたいけど予測不可能な落下があるので俺もおちおち笑ってなんていられない。
飯田さん同様悲鳴を上げながら逃げまくりながら落ちたばかりの栗を拾いかごに入れる。その合間も飯田さんは悲鳴を上げながら栗を叩き落とし、いい大人が何をやっていると言うツッコミはきっと先生なら入れるだろう。でないと栗の木にかけた縄梯子の意味なんて判るわけもなく、まさか効率よく木に登って枝に足をかけながら取ってるんじゃないよなと疑いは増えるばかり。飯田さんも難しい顔をして縄梯子を眺めているが
「俺達は安全第一でいきましょう」
「ですね。親父が腕をやったばかりで俺までも何て言ってられません」
そうして長身の飯田さんの手が届く範囲の枝から栗を貰えば俺達は股に十分ほど歩いた場所の栗の木へと向かうのだった。
先生が作った道をたどって山を登る。一本道の山道は色々な木を寄り道するようにできている。例えばこの栗の木。他には自然では生えないだろう白樺や山桜も経由する。立派なモミの木もあったり、一枝貰って根っこを出して鉢植えで育てようかと思うも直ぐに大きくなりすぎてどこかに植えなくてはならないだろう未来に止めて置く事にする。クリスマスツリー何て歳じゃないしと歩き続ければいつの間にか岩場までたどり着いていた。
全身汗だくになり、息を切らしてペットボトルの残り少ない水を飲む。登山を楽しむにはちょうどいい気候なのだが、直射日光の中はまだ真夏と変わらない容赦ない日差しに無意識に日陰へと逃げ込んでしまう。
ハア、ハア、息を切らして薄い酸素を懸命に取り込みながら岩にへばりついていれば、さすがの飯田さんも岩に背を預けて息を切らしていた。
「大丈夫ですか?」
息絶え絶えに聞けば
「登山の早歩きは堪えました」
「筋肉マッチョの癖に」
「この程度はマッチョとは言いませんよ。鍋を持ったり樽を持って走ってればそのうち身につきます」
「どんなシチュエーション?!」
「向こうではワインの樽をよく運ばされましたので。せいぜい六十リットルです」
「成人男性一人分!」
「せっかくついた筋肉なので維持はしてますが、実際はこれでもだいぶ落ちましたよ」
「だよねー。最初会った時はクマみたいって思ったけど」
その後すぐワンコになったとは言わないが
「それよりもあれから随分とお元気になられてよかったです」
「ええと、その節は大変ご迷惑おかけしました」
「大林夫妻も心配されてて、連絡できるようになったら連絡下さいって、今なら言っても大丈夫そうなので伝えさせてもらいましたよ」
「重ね重ねありがとうございます。さすがにチョリチョリさん達の事まで頭回ってなかったなぁ」
「今は目の前の事を一つ一つこなしていきましょう」
「うん。でも連絡だけは入れておくよ」
」
挨拶は最低限のマナーだ。挨拶もできないような孫だなんてとバアちゃんを悲しませることはできない。一つ一つというのなら真っ先に取り組む問題だとスマホの電波の届かない山奥では無理だなと木々の間から覗く山と空だけの絶景を眺めていれば
「顔つきが変わりましたが何かいいことでもありましたか?」
俺の隣に座って同じようにこの青と緑のコントラストを眺めながら
「まあね」
口元が緩やかな笑みを描いていることには気づいている。何浮かれてるんだろうと思いながら
「まだ漠然としすぎていて何から始めればいいかわからないけど、何かしたい。そんな衝動がね、今止まんないんだ」
会話どころか言葉もなく一人一人が役目をこなす。情熱を持って、誠実に、ただ真摯に向き合う眼差しが羨ましくて……
「俺もみんなみたいな、あんな何かに夢中になれる人間になりたいって思ったんだ」
たとえ食べていく為と言おうが、家族を養うためと言おうが、それでも言葉のいらない世界でそれを築ける仲間と出会うのは眩しくもあり、羨ましくもあって。
「本当に手探りで何も方向も決まってないけど、何かしたい。衝動が止まらないんだ」
ぎゅっとシャツの胸元を握りしめて今ならこの空さえ飛べれるような錯覚を覚えるほどに行動にでたい。
「きっと今ならクマにも素手で勝てる気がする!」
「それは錯覚です。
でも行動に出たいというのなら家へと帰りましょう。
まずは拠点に戻り綾人さんらしく作戦を練りましょう」
飯田さんの笑顔に頷いて、帰り道は何をしたいかただ頭に浮かぶ言葉を呪文のように次々に繰り出していく。飯田さんは一つ一つうなづいてくれて俺の邪魔をしないように聞き役に徹してくれた。
気がつけば陽が傾き始めて薄暗さを感じる頃カゴいっぱいという表現は判らないが、イガイガが付いたままの状態の栗をカゴいっぱい、汗を拭きだしながら俺達は家へと帰って来た。熊対策の鉈は飯田さんに取り上げられたままだけど、何とか家に帰れば台所から良い匂いが漂ってきた。
ひどく幸せな匂いで、俺は元気に帰宅の挨拶をするのだった。
「ただいまー!」
干し柿とバターのミルフィーユはなんでこんなに小さなお菓子なのにこのお値段?!と言うびっくり価格だが干し柿自体お高いお菓子なのだ。それにお高い材料のバターが重なり
「飲み物はお茶じゃなかったな」
「ドライフルーツとバターのミルフィーユなんてイケますね」
飯田さんの頭の中には既に色々な果物でのバターとのミルフィーユが出来上がっているのだろう。
「チーズでもいけるか?いや、バターだからこの濃厚さが美味いんだよな」
ゆっくりと味わいながら食べる様子に
「イチジクなら合うだろう。向こうでも定番だろうし」
「アンズも良いですね。プルーンもイケるかもしれませんが、ミックスベリーみたいなものでもいけるか挑戦ですね」
デザートを食べると言う顔ではないくらい真剣な睨みつけるような食事光景にひいてしまえば奥さんがもう少し切る?お茶も淹れ直しましょうねと眉間に皺を寄せて味わう二人を無視してほっこりと俺とお茶の時間に徹するのだった。
「あの二人はもっと純粋に味わって食べるって言うのが出来ないのかしら。似た者同士なのにねぇ」
そっと溜息を吐く飯田さんのお母さんは呆れながらも味わうように、バターが溶けるのを堪能しながら食べていた。
そうだ。この羊羹半竿にも満たないお菓子で四ケタを請求する高級菓子は時間をかけて味わうにふさわしいと言うのにとたった一切れを大切に食べる二人を他所に俺は飯田母と二人で残りを全部堪能してしまった。
いや、だって本当においしいし。干し柿の部分はゼリーだし、バターのこくがもう止めてくれなくって、そんないいわけをしながらの完食。大変おいしゅうございました。
その間もまだ難しい顔で食べ続ける二人を放っておいて俺は飯田母に山に行ってきますと言付けを頼んで裏山に続く階段を上り始めれば慌てた足音が聞こえてきた。
「栗拾いならついて行きます!」
しっかりとこの家に置いてある皮の厚手のブーツを履いてナイロンのジャケットを着こんで飯田さんがついて来た。
「お父さんは良いの?」
「なんかお酒屋さんで麹を買ったので晩御飯は任せろと追い出されました」
どこか悔しそうな顔に何があったかは知らないがここでの料理を諦めるくらいだから何かあったんだろうなと思うも
「俺のとっておきの猪の骨付きスペアリブを見付けられてしまいました」
くうっ!と男泣きをする辺り何かとっておきの時にととってあったのだろうと思うも何か特別な日でもあったかと考えながら山へと入った所で長い鉄の棒を飯田さんに渡す。俺は鉄のハサミを持って籠を背負い
「では、よろしくお願いします」
十分ほどの所に在る栗の木を見上げていた。
先生が作ってくれた石と丸太を置いただけで出来た階段を上りながら辿り着いた場所は栗の木が育つ森林限界地。そこまで大木にならずに広げる枝を飯田さんはヘルメットをかぶって枝をバシバシと鉄の棒でたたく。
まだ何処か青々しいいがぐりがぼとぼとと落ちてくるのを悲鳴を上げながら逃げる様子は腹を抱えて笑いたいけど予測不可能な落下があるので俺もおちおち笑ってなんていられない。
飯田さん同様悲鳴を上げながら逃げまくりながら落ちたばかりの栗を拾いかごに入れる。その合間も飯田さんは悲鳴を上げながら栗を叩き落とし、いい大人が何をやっていると言うツッコミはきっと先生なら入れるだろう。でないと栗の木にかけた縄梯子の意味なんて判るわけもなく、まさか効率よく木に登って枝に足をかけながら取ってるんじゃないよなと疑いは増えるばかり。飯田さんも難しい顔をして縄梯子を眺めているが
「俺達は安全第一でいきましょう」
「ですね。親父が腕をやったばかりで俺までも何て言ってられません」
そうして長身の飯田さんの手が届く範囲の枝から栗を貰えば俺達は股に十分ほど歩いた場所の栗の木へと向かうのだった。
先生が作った道をたどって山を登る。一本道の山道は色々な木を寄り道するようにできている。例えばこの栗の木。他には自然では生えないだろう白樺や山桜も経由する。立派なモミの木もあったり、一枝貰って根っこを出して鉢植えで育てようかと思うも直ぐに大きくなりすぎてどこかに植えなくてはならないだろう未来に止めて置く事にする。クリスマスツリー何て歳じゃないしと歩き続ければいつの間にか岩場までたどり着いていた。
全身汗だくになり、息を切らしてペットボトルの残り少ない水を飲む。登山を楽しむにはちょうどいい気候なのだが、直射日光の中はまだ真夏と変わらない容赦ない日差しに無意識に日陰へと逃げ込んでしまう。
ハア、ハア、息を切らして薄い酸素を懸命に取り込みながら岩にへばりついていれば、さすがの飯田さんも岩に背を預けて息を切らしていた。
「大丈夫ですか?」
息絶え絶えに聞けば
「登山の早歩きは堪えました」
「筋肉マッチョの癖に」
「この程度はマッチョとは言いませんよ。鍋を持ったり樽を持って走ってればそのうち身につきます」
「どんなシチュエーション?!」
「向こうではワインの樽をよく運ばされましたので。せいぜい六十リットルです」
「成人男性一人分!」
「せっかくついた筋肉なので維持はしてますが、実際はこれでもだいぶ落ちましたよ」
「だよねー。最初会った時はクマみたいって思ったけど」
その後すぐワンコになったとは言わないが
「それよりもあれから随分とお元気になられてよかったです」
「ええと、その節は大変ご迷惑おかけしました」
「大林夫妻も心配されてて、連絡できるようになったら連絡下さいって、今なら言っても大丈夫そうなので伝えさせてもらいましたよ」
「重ね重ねありがとうございます。さすがにチョリチョリさん達の事まで頭回ってなかったなぁ」
「今は目の前の事を一つ一つこなしていきましょう」
「うん。でも連絡だけは入れておくよ」
」
挨拶は最低限のマナーだ。挨拶もできないような孫だなんてとバアちゃんを悲しませることはできない。一つ一つというのなら真っ先に取り組む問題だとスマホの電波の届かない山奥では無理だなと木々の間から覗く山と空だけの絶景を眺めていれば
「顔つきが変わりましたが何かいいことでもありましたか?」
俺の隣に座って同じようにこの青と緑のコントラストを眺めながら
「まあね」
口元が緩やかな笑みを描いていることには気づいている。何浮かれてるんだろうと思いながら
「まだ漠然としすぎていて何から始めればいいかわからないけど、何かしたい。そんな衝動がね、今止まんないんだ」
会話どころか言葉もなく一人一人が役目をこなす。情熱を持って、誠実に、ただ真摯に向き合う眼差しが羨ましくて……
「俺もみんなみたいな、あんな何かに夢中になれる人間になりたいって思ったんだ」
たとえ食べていく為と言おうが、家族を養うためと言おうが、それでも言葉のいらない世界でそれを築ける仲間と出会うのは眩しくもあり、羨ましくもあって。
「本当に手探りで何も方向も決まってないけど、何かしたい。衝動が止まらないんだ」
ぎゅっとシャツの胸元を握りしめて今ならこの空さえ飛べれるような錯覚を覚えるほどに行動にでたい。
「きっと今ならクマにも素手で勝てる気がする!」
「それは錯覚です。
でも行動に出たいというのなら家へと帰りましょう。
まずは拠点に戻り綾人さんらしく作戦を練りましょう」
飯田さんの笑顔に頷いて、帰り道は何をしたいかただ頭に浮かぶ言葉を呪文のように次々に繰り出していく。飯田さんは一つ一つうなづいてくれて俺の邪魔をしないように聞き役に徹してくれた。
気がつけば陽が傾き始めて薄暗さを感じる頃カゴいっぱいという表現は判らないが、イガイガが付いたままの状態の栗をカゴいっぱい、汗を拭きだしながら俺達は家へと帰って来た。熊対策の鉈は飯田さんに取り上げられたままだけど、何とか家に帰れば台所から良い匂いが漂ってきた。
ひどく幸せな匂いで、俺は元気に帰宅の挨拶をするのだった。
「ただいまー!」
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