人生負け組のスローライフ

雪那 由多

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まずは一歩 6

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 日給一万のバイトは高校生には高すぎる気もするが、彼らの働きには十分なくらい報いる金額でもあった。最低賃金の自給八五十円にも届かないこの地域ではひたすらテンションを上げさせてくたくたになった顔が満面の笑顔に変えるくらいのパワーがあったようだ。
 実際それくらいの働きはしている。畑の作付けの部分だけかと思えばちゃんと刈った草も一か所に集めてくれていた。十代のパワーすげえと感心する中上島兄弟は切った枝をそろえて麻ひもでくくってくれていた。さすが農家…よくわかってらっしゃった。
「こうしておけば焚き火用にちょうどいいでしょう」
 細い枝はすぐ燃え尽きてしまうので火をおこす時に使う程度。あっという間になくたってしまうもあれば便利な奴なのでしばらく放置して乾燥させようとトラックに乗せてもらう。
 そして次の日も呼んでもないのにこいつらは黙々と草を刈るのだった。
 上島兄弟は既に大学と高校受験が受かる事を前提にバイトをして資金集めをして言うと言う。少しでも家の負担と言うか、家と連絡を取らなくても良い様にと言う本音は知らないふりをする物の水野も田舎ながらの風習にこの町には帰ってこないつもりで勉強をしている。
 因みにテスト勉強の代わりにITパスポートなる物を勉強させていた。
 専門学校行けばとるだろうIT系なら誰もが持ってるだろう国家資格。過去問丸暗記で合格できると言ういわくありげなライセンスはこいつなら取れるからとこれから先どんな資格を必要とするか判らないので今のうちに負担を減らしてあげたいおせっかいで、やればできる子の植田もそれを見て一緒になって勉強をしていた。
 ちなみに俺も勉強して一足早く資格を取ってみた。暗記は得意なので楽勝でした。
 これが国家資格かと難易度の低さにふーん何て思うも落ちる奴は落ちる。最悪は考えて置いて心をなだらかにして彼らの結果を待つ事にしよう。
 そんな奴らを眺めながら一日はあっという間に終わって水野の運転する車でバイト達が帰って行くのを先生と一緒に見送るのだった。
「先生も早くしないと暗くなるよ?」
「ん?今日は泊まって行くぞ」
「珍しい」
「帰って飯を準備する気にも食べに行く気にもならん」
 疲れたと言う先生の腕や足元には草の種がこびりついている。俺が見たわけじゃないが、どうやら法面は先生の仕事のようだ。
 草刈りとは言え面白い事に個性が出る。お屋敷に住む住人なのに草刈りは上島兄弟よりも上手なのだ。しかも難易度の高い迫りくる雑草の生い茂る法面をどこの公園だろうかと言うくらい美しく仕事を仕上げる謎のスキルにかっこいいと素直に言えないのはやっぱりあの家の汚れ具合を知るからで。
「バイト代はいらないから何か食べさせて?」
「ったく仕方がない先生だな」
 言いながら家に帰ればちょうど烏骨鶏を小屋に入れる頃合い。先生には先に風呂に入ってもらい、俺は烏骨鶏を小屋に入れて晩御飯の準備に取り掛かるのだった。

 十月の連休に改築のお祝いをする事にした。平日でも良かったが、みなさん他の仕事もあるので渋滞覚悟で来てくれると言ってくれた。飯田さんには真っ先に連絡して青山さんから許可をもらった。
「ちゃんとした依頼だから体が空いてれば断る事はしないよ。ただ俺がいけないのが残念かな」
 大型連休なので常連さんが来てくれるのでオーナーとしては是非とも挨拶をしなくてはならないからと、だったらまた別の日に是非と言う事で話はついた。
 そして、兄がご迷惑をと平謝り。どうやらいかに楽しかったかと言う電話が入ったようで飯田さんだけが楽しんでるのはけしからんとご立腹のようだった。
「何かまた遊びにいくような約束をさせられたらしくって、迷惑だったら断ってください」
「いえ、飯田さんに比べたらおとなしく楽しんでもらえているので迷惑じゃありませんよ」
「薫の方も申し訳ない。何かあったら言ってくださいね!」
 何故か凝縮する青山さんから想像できるのは相当飯田父が熱く語ったのだろうと想像。飯田さんのお父さんだ。意外によく似ている父子なのだ。苦労する弟兼叔父は案外二人に振り回されっぱなしなのだろうと苦笑。
「本当に気にしないでください。良かったら紅葉の綺麗な頃にでもどうぞ」
「ありがとう。その時は妻といかせてもらうよ」
 年に一度ぐらいで奥さんを連れてきては山々の紅葉を楽しんでいる。金融系のお仕事をしているので土日の休みを利用したい所だが、青山さんがそう言うわけにもいかず有給を取って金土で遊びにきてくれる。のんびりと過ごし、麓の街や近くの宿場町を散策したりして子供のいない夫婦は大切に時間を重ねてていた。
 青山さんのような夫婦が両親なら子供がいればさぞ幸せだろうと思ったこともあったが
「二人とも遅くまで仕事があるし、私は土日も仕事がある。妻もカレンダー通りに仕事があるのできっと寂しい子供時代を過ごさせてしまうでしょう」
 大人になった今の視点と親に甘えたい年頃の視点ではこんなにも捉え方が違うのかと思いながら小学生時代を思い出す。
 専業主婦の母は……
 掃除洗濯といった最低限の事だけをして一切俺の面倒を見なかったことを思い出したところでその記憶を奥へと押し込んだ。
 
 嫌な事を思い出してしまったが、日付が決まれば次々に参加希望のメッセージが届く。建築に参加してくれた方全員に声をかけてみた。宮下から西野夫妻にも声をかけたし、ちょうど知り合ったのでと飯田さんのご両親にも声をかけた。
 宮下商店にもご迷惑をおかけするからと電話を入れれば
「こっちこそ儲けさせてもらってありがたい」
 と言ってくれる。
 その親切には甘えさせてもらうも宮下に車の整備を頼むわけにいかないと悩んだところで
「それぐらい植田達にバイトさせれば良いだろう」
 先生はあっさりと問題解決というが
「それであいつらが納得してくれるか」
「シェフの弁当付きっていう事で手を打てば十分だろ。
 大体今回は大工を招いての祝いの場だ。飯を食べるしか脳のないあいつらの出る幕じゃない」
「先生みたいに割り切れないな」
 お祭り大好きな年頃がじっとしているかと問えば妙に人懐っこいあいつらが大人しくしているわけないだろうとの答え。悩むのは当然だ。
「元々内田の爺さんの作った家だから集まった連中だろ?それがどうなったか見せるための場なら、同じテーブルに着くのは勘違いだというのを教えるのも大人としての教育だ」
「厳しい」
「働くという事はそういう事だ」
 風呂から上がってきた先生は囲炉裏で虹鱒をじっくりと焼いてから焦げ付いた皮をパリパリと齧っては日本酒を呷っていた。唸りながら愛用のぐい呑みを置いて今度は囲炉裏で温められた猪の肉と野菜で作った豚汁を器によそって息を吹き付けながら食べる。俺も同じように食べればやっぱり味噌仕立てが良いなと、少しだけバアちゃんが作った豆味噌が恋しく思うもこの地方の味噌も俺は好きだ。
 なんて懐かしながらも着信音は止まらない。一泊しても良いかとか家族を連れてきても良いかとか、圭斗の家に泊まらせてもらうなどなど皆さんせっかくなので観光もするつもりらしい。
「こうなったら全員来い!受け止めてやろうじゃん!!!」
という俺の謎のやる気に
「綾人は男前だな」
 先生の呆れた視線に当日俺も手伝いに来るといってくれた言葉で少しだけ冷静になった頭がどんな状況か理解して頭を抱えるのだった。

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