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これでも教師です 2

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 一か月と僅か。たったそんな短い期間離れただけなのに懐かしいと住んでいた家を見上げながら初めて隣の家へと上がればこちらも立派なあばらハウスだった。ただ柱や床材が見事な事に目を引いた挙句に
「土間?」
 何でこうなったんだと床を切り取られた様子にこんな家だったのか……わけないよなと悩んでしまえば
「綾人の壮大な計画だ。
将来的にしょーちゃんが帰ってきた時にここで仕事をさせると言う計画もかねている」
「宮下の自由はどこだ」
「ない!
 挙句にテラコッタの床材を敷き詰めるらしく、残りでうちの納屋の作業部屋に使いまわそうとしている」
「なぜそうなった……」
「広島旅行の旅館がかなり衝撃的だったみたいで」
 それは圭斗もだった。
 スマホに残る写真はどれもこれも建物の写真ばかりだった。しかも人が映る写真はほとんどない。わずかに宮下が送ってきた写真が残る程度で
「圭斗よ、さすがにこれはひどいな」
「うん。陸斗にも言われた。
 しょーちゃんや綾人さんの写真は?って……」
 スマホを持ち出した陸斗は小さなことでも写真を撮っていて、今までの思い出を埋めるように細やかにアルバムにして仕分けている。お前は女子かと思ったが、こんな兄が相手では陸斗がしっかりしていて良かったと言うべきか。
 悩みながらも二階へと向かえば
「縁側がない」
「綾人が離れの吹き抜けを気に入っててこんなふうになった」
 言いながら下の部屋を覗き、それからそのまま開かれることはないだろう窓の景色を見ると意外な事に町の全てを展望できない事に気がついた。
「窓が遠いからか?」
 あまり景色が良くないなと興味をなくし、下に降りればふと違和感。
 部屋をぐるりと見回しながら
「ここ、まだ電気通ってないよな?」
「まだ工事待ちだよ。先生の家はあのまま名義変えて使えた状態を維持しているから不便はないけど。
 ああ、そうか。この家の一階明るいから電気でも付けてたかと思ったんだ?」
「うん。まあ、そんな所」
 言いながらてんじょうをぐるりとみまわせば、二階の縁側を抜いた部分に目が止まった。
「明るい理由か」
「んー、そうだな。俺はなんかもう慣れたけど……
 最初はそう思ったな」
 山間の薄暗い朝のはずなのに明かりが部屋の奥までかなり入ってきているのでほぼ同じ条件下の家に住んでいたから薄暗さには慣れていたつもりだったが
「朝から眩しいだろうな」
「先生の家はまた薄暗いから」
「いいんだよ。どうせ昼間はいないし」
「ゴミで窓が半分閉ざされてるって言いたいんだよ」
「まあ、綾人もだけどお前もよくうちに泊まれたな」
「背に腹は変えられないって言う言葉知ってるだろ?」
「せんせー文系じゃないしー?」
 どんなイミー?わっかんなーい何て口笛吹きながらそっぽを向く教師にため息が溢れてしまうも、昨日見せた姿が何だったのかと思うくらいのいつもの調子にため息はやがて笑みに変わってしまう。
「あの納戸も綾人が妙にこだわって改造するぞ」
「ふむ、烏骨鶏の小屋にされるのだろうか」
 神妙な顔で言うからそれもあり得るなと声を立てて笑いながら檜風呂の場所へと向かう。
 まだ納屋の状態だが、タブレットを掲げながら
「ここがこんな感じになる。この家の住人のもと花畑の庭に向かって真度を開ける。で、こっちの窓ははめ殺しのすりガラスで明かり取りの役目になる」
「ふーん」
 言いながらタブレットを掲げながら踏むと頷き
「なあ圭斗。これってまだ変更可能か?」
 一瞬言葉を失った。
 あんた何を言ってると思う間に
「山の景色なんざ五右衛門風呂以上の景色なんてそうそうないだろ?なのに何を考えて山の景色にこだわる。しかもパーテーションで目隠しするなら景色にこだわる必要ないだろ」
「あー、そこのドアからマッパで外でクールダウンな?」
「なにそれ。北欧のサウナの後に湖飛び込む的な?風呂の後に雪の中にダイブってどれだけ愉快な爺さんになるつもり?!」
 一瞬で心筋梗塞起こすわと大笑いするが急に真面目な顔をして
「だったら尚のことさ……」
「せんせ、あんたさ、この家の工賃は綾人が出すんだけど?」
「だーいじょうぶだって。
 涙と鼻水流しながら土下座して頭地面に擦り付けて謝るだけで許してくれるんだから」
「プライドはないのかよ」
「プライドを引き換えに許してくれるなら安いものじゃないか」
 顔を引き攣らせてしまう。こんな大人だとは知っていたがここまで堂々言われると情けなくて腹が立つ。
 呆れから怒りに拳が震えるが
「それに綾人もまだまだガキだ。
 初めてのお友達との旅行に行った先の思い出をここで作って残そうなんて可愛いと思わないか?」
「意外と単純って言うのは納得」
 普段は何考えてるかはわからないが、わかる時はダダ漏れなぐらい、せめてもうちょっと隠せよと突っ込みたいけど面白いから放置していた結果面白い具合に成長したなと笑えてしまう。
「だったら綾人に思い出に一票だな」
「だーかーらーさー。
 初めての温泉にどっぷりハマってるけど温泉って何もそこだけじゃないわけじゃん?
 むしろ俺みたいな温泉マニアに任せるべきじゃないか?」
 何を言ってるんだか。
 わけわからん御託を述べる相手は無視するに限る。
「俺らは依頼主の意向にそうのが仕事で一銭も金を出さずに口を出す奴に耳を傾けるわけないだろ」
「え?ちょっ!」
 このどーしようもないせんせーからタブレットを取り上げて電源を消した。
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