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とりあえずそこに座りなさい 2
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食事も終わり、荷物の後片付けをする。
竈の灰をどこに捨てればと言う所でオリヴィエに裏の花壇に穴を掘って捨てるように指示をすれば二人そろって処分に出掛けて行った。
スコップの場所もオリヴィエが知っているし、処分した花壇は飯田さんよりもよく知っているので二人にお願いする事にしている間に
「アヤトおはようございます」
「エドガーもおはよう」
言いながら我が家にやって来たのは弁護士のエドガー・ベクレル。
俺にこの家を紹介した悪い弁護士だ。
「頼まれていた物一式用意出来ました」
ずらっと机に並べた物を見て
「ん、じゃあ……」
なんてすらすらとサインを記入。そして記された数字を見ながらスマホをポチポチ。それをしっかりと見とどけた所でエドガーとガツッと握手。
「悪いね、日本まで飛んでもらって」
「いや、久しぶりにサワムラにあえて懐かしかったよ」
「沢村さんにも随分と我がままに応えて貰えてありがたいです」
そんな何処か喜色の浮かぶ声にエドガーは鞄から恭しく鍵を取り出して
「これがこの城のマスターキーとなります」
「確かに。これだけの規模になると鍵の束もすごいな」
「それを預かる役目もあるぐらいなので」
なるほどと聞きながらコーヒーを淹れていれば
「それにしてもよく決断できましたね。年にそこそこも来れないとサワムラは言ってましたが?」
「まぁ、山の家を守るのが俺の使命だから。
冬は雪から守り、春は畑で走り回り、夏は山のお世話があって、秋になってやっと少し何かが出来る時間が出来るから。この時に全力で遊びにこようかと」
「贅沢な話しですね」
「まぁ、ここは俺が住むつもりじゃないので」
もちろんマスタールームは頂きますがと笑顔で言いながら
「ここをオリヴィエの拠点とします」
「天才バイオリニストですね」
そうだと言う様にコーヒーを一口すすって
「変える家もなければ待つ家族もいない。親になると言ってくれた人は来年も一緒に居てくれるとは限らず、代理の人もやっぱり代理なだけで、それならそれでオリヴィエに独り立ちしてもらうしかないのです。
少なくともそれだけの生活費は自分で稼げるだけの腕はあるので」
言えば羨ましいとエドガーはコーヒーを一口飲んで
「だが、彼一人じゃここでは住めないだろう」
窓から見える広大な裏庭を見れば俺も頷き
「そこでちょうど暇を持て余してる老人三人と出会いましてね、借金を抱えているのでそれと引き換えにオリヴィエとこの城の面倒を見てもらおうかと思いまして」
「上手くいきますか?」
何て安楽な考えだと窘められるも
「いきますよ」
自身を持って言う。
「このキッチン、そしてクラブハウスの方を見た事ありますか?」
聞けば空気の入れ替えにと言うエドガーに俺はニヤリと笑う。
「あそこ、目の前にサッカー場何てあるから小さく見えるけど普通の家ぐらいの大きさがあるんですよ。それこそ小さなレストランを開くぐらいに」
そんなにもあったのかとフラットな部屋に驚くエドガーに俺は満足げに頷き
「あそこにキッチンを置いてテーブル席を置く。家の外に置いても良いな。
サッカー場を潰すかどうかはまだ考えてないけど、庭を作ればそれこそ優雅なレストランになる」
「流行りますかねぇ」
「なに、年寄に合わせてディナーはやらずランチオンリーで、食事を楽しんで待ってる間はサッカーも出来る、サッカーじゃなくてもいいけどその程度の楽しみが出来る店でもいい」
「価格帯は?」
「カフェより高く一流より安く、何かのちょっとした記念日に足を運びたくなるそんな安すぎない価格帯。シェフが育てた畑の野菜を使ったレストランってそれだけで美味そうだ」
本当なら城のメインキッチンのあの竈が使えればいいのだがと思うも客とオリヴィエの居住空間を一緒にするのはトラブルの元でしかない。
「それに披露宴とかできるような場所ならなおの事望ましい」
「いろいろ夢が詰まってますねぇ」
もうちょっと絞りましょうと言いたいのだろうが
「基本俺はここにはいないので」
エドガーが黙ってしまった。
「恩人の飯田さんの師匠を助ける為になんて大きな事は言わないけど、親から受け継いできた店を手放さなくてはならないのは自業自得だとは思ってますが、それでもその腕を腐らせるのはもったいない。
わけのわからないレストランで腕をくすぶらせるぐらいなら、俺の監視の下できっちり働かせるのが正しい使い方だ」
それはどうかと言う様に冷静な視線が俺を射抜いているが
「これを期に借金問題を解消して泣く泣く別れた奥さんとまたよりを戻せばいいと思うのが目的だと言ったら、上手くいくか?」
聞けばとたんに俯いてくつくつと笑いだし
「そこは女性に悲しい思いをさせるなんて言語道断と言うべきか。思い切って手でも城でも差し出してやればいいと思うな」
「ここはくれてやらないが、あの年齢で位置から始めるにはここを改造して使いまわすのが一番いい。何より人が住む事が最上の管理だからな」
先生のゴミ屋敷と言う最悪な答えもあるが、それはとりあえずあれだけの綺麗好きが三人いれば最低限は守られるだろう。
「とりあえず、改めて城の購入おめでとうございます」
「ありがとう。わざわざ日本に飛んでもらったりしたかいがあったよ」
少し冷えたコーヒーカップをワイングラスのように重ねればポトリと何かものを落す音。俺とエドガーが振り向けば何言ってるのと言うような信じられないオリヴィエの顔と、落としたざるの横で両手着いて
「妙に大人しいと思ったら、ついにやりやがって……」
信じられんと言わんばかりに項垂れる飯田さん。
なに、話してなかったの?と言う様に驚きに見開く瞳のエドガーに
「それもこれも総てひっくるめて今から作戦が始まるんだよ」
なんとなくよくない事に巻きこまれたと言わんばかりに顔をこわばらせるエドガーを見て俺は満足げに笑みを浮かべて残り一口となったコーヒーを一気に煽るのだった。
竈の灰をどこに捨てればと言う所でオリヴィエに裏の花壇に穴を掘って捨てるように指示をすれば二人そろって処分に出掛けて行った。
スコップの場所もオリヴィエが知っているし、処分した花壇は飯田さんよりもよく知っているので二人にお願いする事にしている間に
「アヤトおはようございます」
「エドガーもおはよう」
言いながら我が家にやって来たのは弁護士のエドガー・ベクレル。
俺にこの家を紹介した悪い弁護士だ。
「頼まれていた物一式用意出来ました」
ずらっと机に並べた物を見て
「ん、じゃあ……」
なんてすらすらとサインを記入。そして記された数字を見ながらスマホをポチポチ。それをしっかりと見とどけた所でエドガーとガツッと握手。
「悪いね、日本まで飛んでもらって」
「いや、久しぶりにサワムラにあえて懐かしかったよ」
「沢村さんにも随分と我がままに応えて貰えてありがたいです」
そんな何処か喜色の浮かぶ声にエドガーは鞄から恭しく鍵を取り出して
「これがこの城のマスターキーとなります」
「確かに。これだけの規模になると鍵の束もすごいな」
「それを預かる役目もあるぐらいなので」
なるほどと聞きながらコーヒーを淹れていれば
「それにしてもよく決断できましたね。年にそこそこも来れないとサワムラは言ってましたが?」
「まぁ、山の家を守るのが俺の使命だから。
冬は雪から守り、春は畑で走り回り、夏は山のお世話があって、秋になってやっと少し何かが出来る時間が出来るから。この時に全力で遊びにこようかと」
「贅沢な話しですね」
「まぁ、ここは俺が住むつもりじゃないので」
もちろんマスタールームは頂きますがと笑顔で言いながら
「ここをオリヴィエの拠点とします」
「天才バイオリニストですね」
そうだと言う様にコーヒーを一口すすって
「変える家もなければ待つ家族もいない。親になると言ってくれた人は来年も一緒に居てくれるとは限らず、代理の人もやっぱり代理なだけで、それならそれでオリヴィエに独り立ちしてもらうしかないのです。
少なくともそれだけの生活費は自分で稼げるだけの腕はあるので」
言えば羨ましいとエドガーはコーヒーを一口飲んで
「だが、彼一人じゃここでは住めないだろう」
窓から見える広大な裏庭を見れば俺も頷き
「そこでちょうど暇を持て余してる老人三人と出会いましてね、借金を抱えているのでそれと引き換えにオリヴィエとこの城の面倒を見てもらおうかと思いまして」
「上手くいきますか?」
何て安楽な考えだと窘められるも
「いきますよ」
自身を持って言う。
「このキッチン、そしてクラブハウスの方を見た事ありますか?」
聞けば空気の入れ替えにと言うエドガーに俺はニヤリと笑う。
「あそこ、目の前にサッカー場何てあるから小さく見えるけど普通の家ぐらいの大きさがあるんですよ。それこそ小さなレストランを開くぐらいに」
そんなにもあったのかとフラットな部屋に驚くエドガーに俺は満足げに頷き
「あそこにキッチンを置いてテーブル席を置く。家の外に置いても良いな。
サッカー場を潰すかどうかはまだ考えてないけど、庭を作ればそれこそ優雅なレストランになる」
「流行りますかねぇ」
「なに、年寄に合わせてディナーはやらずランチオンリーで、食事を楽しんで待ってる間はサッカーも出来る、サッカーじゃなくてもいいけどその程度の楽しみが出来る店でもいい」
「価格帯は?」
「カフェより高く一流より安く、何かのちょっとした記念日に足を運びたくなるそんな安すぎない価格帯。シェフが育てた畑の野菜を使ったレストランってそれだけで美味そうだ」
本当なら城のメインキッチンのあの竈が使えればいいのだがと思うも客とオリヴィエの居住空間を一緒にするのはトラブルの元でしかない。
「それに披露宴とかできるような場所ならなおの事望ましい」
「いろいろ夢が詰まってますねぇ」
もうちょっと絞りましょうと言いたいのだろうが
「基本俺はここにはいないので」
エドガーが黙ってしまった。
「恩人の飯田さんの師匠を助ける為になんて大きな事は言わないけど、親から受け継いできた店を手放さなくてはならないのは自業自得だとは思ってますが、それでもその腕を腐らせるのはもったいない。
わけのわからないレストランで腕をくすぶらせるぐらいなら、俺の監視の下できっちり働かせるのが正しい使い方だ」
それはどうかと言う様に冷静な視線が俺を射抜いているが
「これを期に借金問題を解消して泣く泣く別れた奥さんとまたよりを戻せばいいと思うのが目的だと言ったら、上手くいくか?」
聞けばとたんに俯いてくつくつと笑いだし
「そこは女性に悲しい思いをさせるなんて言語道断と言うべきか。思い切って手でも城でも差し出してやればいいと思うな」
「ここはくれてやらないが、あの年齢で位置から始めるにはここを改造して使いまわすのが一番いい。何より人が住む事が最上の管理だからな」
先生のゴミ屋敷と言う最悪な答えもあるが、それはとりあえずあれだけの綺麗好きが三人いれば最低限は守られるだろう。
「とりあえず、改めて城の購入おめでとうございます」
「ありがとう。わざわざ日本に飛んでもらったりしたかいがあったよ」
少し冷えたコーヒーカップをワイングラスのように重ねればポトリと何かものを落す音。俺とエドガーが振り向けば何言ってるのと言うような信じられないオリヴィエの顔と、落としたざるの横で両手着いて
「妙に大人しいと思ったら、ついにやりやがって……」
信じられんと言わんばかりに項垂れる飯田さん。
なに、話してなかったの?と言う様に驚きに見開く瞳のエドガーに
「それもこれも総てひっくるめて今から作戦が始まるんだよ」
なんとなくよくない事に巻きこまれたと言わんばかりに顔をこわばらせるエドガーを見て俺は満足げに笑みを浮かべて残り一口となったコーヒーを一気に煽るのだった。
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