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短期滞在の過ごしかた 5

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 飯田さんも満足するディナーを頂き、そして早朝出発の俺達を見送る様にロードがタクシーに乗り込む時足を運んでくれた。
「また遊びに来なさい」
「はい。また勉強させていただきます」
 この城で学ぶ事は山ほどある。庭の作り、そして城の居住性。歴史も年月の重ね方も見るべきところは山ほどあり、二回の宿泊を重ねてもまだ城を全部みる事は出来ていない。
 窓から手を振って「また来ます」なんて声を上げれば楽しそうな顔で手を振り返してくれた。
「次にお邪魔する時もアビーの家でケーキを強請らないとね」
「山に帰ったら俺が作るレモンドズリルケーキを食べてください」
「飯田流とアビー流の食べ比べ楽しみしかないね!」
 やがてついた駅から高速鉄道に乗り込みパリ経由でドイツへと向かった。
 そのパリで
「お待ちしてました」
「ああ、病人に無茶をさせる」
「奥様もご一緒で来て何よりです」
「一昨日は家に来いと言って今度はドイツに旅行に移行って貴方は一体何様のつもりなの」
 ご立腹の奥様だがそれでもジョルジュの体を心配してのもの。
「それより席に向いましょう。折角の電車の旅ですので楽しみましょう」
 うきうきと言う足取りで座席に向かう俺と奥様に代わってジョルジュの車いすを押す飯田さんに奥様は呆れかえっていたが、それでも乗り慣れているだろう一等席の席に座れば慣れた様に奥様はビストロの従業員に注文をして飲み物を運んでもらっていた。
 そこからはあまり会話は弾まない物の軽食を頂きながらこれから向かう先のドイツの予定を確認する。
 一度ホテルに向かってから今夜のコンサート会場に向かう予定をしていた。
 ホテルは駅近くで可能な限り休んでもらえるように広い部屋を用意した。
 もちろん俺達の方も同じフロアの部屋を用意してもらい二人を招待した側として可能な限り負担を感じないように気を配ったつもりだ。
 ホテルでこれから向かうコンサート会場に相応しくドレスアップと言っても飯田さんお薦めの店で買ったドレスコードを満たすスーツを着ると言う、成人式のような出で立ちの俺とは別に背格好の良い飯田さんはきちんとスーツを着てますと言う姿に理不尽だと嘆くのだった。
 そしてジョルジュたちも準備出来て現れた姿はそれこそ着慣れたと言うスーツと奥様は紺色のイブニングドレスを纏っていた。
 普通なら気後れしそうなドレスなのだろうが、かつては演奏者として舞台に立っていただけに堂々とした姿はジョルジュの妻としてふさわしい姿だった。
 大粒のアクアマリンだろうネックレスとイヤリングは存在感が半端なく、それを贈ったのは当然ジョルジュだろうからそれだけ成功者だったか一目でわかると言う物だろう。
「待たせたわね」
 なんて言う口調が少し柔らかくなっていたのは予約した部屋がそれなりに気に入ってくれた証拠だと思う事にして少しずつ壁をとりのぞいて行く。
 何せオリヴィエとの関係はこれからも続くのだろうから、オリヴィエの友人としての価値を俺はどんどん上げて行かなくてはこちらで会うたびに嫌味を言われたらたまらないと言う物。それが回り回ってオリヴィエに向わないようにするのも単なる小細工で。これぐらいでご機嫌が取れるならどれだけでもやってやろうと笑っておく。
 そしてタクシーに運ばれて今回の旅の目標でもある歴史を感じさせるコンサート会場の前に立てば沢山のファンだろか当日分のチケットを買い求める人波の横をすり抜けて一人の人物と再会する。
「やあデューリー、待たせたかな?」
「いいえ?時間通りです。
 エヴラール様、カーラ様もよくおいでくださいました」
 オリヴィエのマネージャーのデューリーと再会の握手をしながら
「BOX席でしたね。
 仰っていただければ私の方でご用意しましたのに」
「それをしたらオリヴィエに気付かれるかもしれないからこそだ。
 あと車椅子の人がいるから少しでもゆったりできる場所が良いからね」
「はい。ご案内します」
「あと頼んでおいたの用意出来た?」
「もちろんです。きっと驚かれますよ」
 言えば二人で笑ってしまった姿に
「ひょっとしてオリヴィエには言ってなかったのですか?」
「ささやかなサプライズだよ。
 折角ヨーロッパまできてバイオリンを弾いてるオリヴィエを見ずに帰れるものかってな」
 ご機嫌に歌う様に言えばジョルジュも奥様も呆れていたが
「俺、オリヴィエがステージの上で演奏するの初めて見るんです」
 凄い楽しみだと言えば驚く二人に飯田さんが補足する。
「まだ出会って一年もたってないですからね。
 東京の時は差入れをする位しか時間が取れなかったので俺も初めてなので楽しみです」
 飯田さんもにこにこと笑いながら楽しみだと初めての歴史的な建物にもテンションを上げながらデューリーに一階のBOX席に案内してもらうのだった。

 

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