人生負け組のスローライフ

雪那 由多

文字の大きさ
690 / 976

本と嵐と 7

しおりを挟む
 五日間の怒涛の荒稼ぎの日々は終わった。
 バイオリン購入費の為に頑張ったあの日々よりは期間が短かっただけに楽だったと思う。
 だけど短期決戦、一日五時間の戦場でどこまで出来るかが勝負どころ。ちなみにそれ以上は俺の体が持たない。身体と言うか頭だけど。終わるたびにグロッキーになるのは今も変わらない。それを連続五日間。世のサラリーマンは八時間労働に残業と毎日よく頑張るとニート生活でたるんだ生活リズムからは復帰できなさそうだ。

「お前はなんで一週間分の仕事を一日に詰め込む。五日に分散すれば灰にならずに済むだろう」

 なんか最近先生の小言を思い出す気がするが、そう言えばこう言う時はいつも先生がどこからか現れていつまでも転がってないで働けと風呂の準備とメシの準備をさせられたな。留学してからそう言う事が無くなったから先生の来襲を忘れかけていたけど。毎週のように習慣づけられた先生の来襲はこう言ったタイミングでふと思い出す恐ろしい教育だといつの間にか躾けられた恐怖に身を震わすのだった。
 とは言えここはフランス。簡単に先生が出没しない地域なのでお仕事が終わったらオリオールにたくさんご飯を食べさせてもらい、オリヴィエに疲れて大変だったねと癒しのバイオリンを弾いてもらう至上の楽園。復活した所でオリヴィエの勉強を見ながらケリーに投資を教えるのだった。
「将来ファイナンシャルプランナーも良いな」
 つい先日俺も仲間に入りたーいとべそをかいていたお子様は水を得た魚の如く数字の海を泳いで投資への理解を深めていた。しかも乱数計算とか予測計算とかが意外にも得意なようで面白い素材に経済の事も少しかじらせてみた。直ぐに寝てしまったけど朝になってもう一度読ませてみたりと根気強く読ませて何とかぼんやりとだけど理解をさせる事に成功した。ほら、教科書開いたらおやすみなさいな奴らばかり面倒見てきたからその程度で俺が動じる事もないからな。
 そして俺がPCに向かってる間に庭仕事と畑仕事をさせ、オリオールがリヴェット達に教育させて店のレジの仕事を手伝わせるのだった。もう一度来て貰う為の最後の印象を与える場所に置いても良いのかと思うも隣でリヴェットかオラスが付き添っての仕事。心配はないなとその判断はもうオリオールに任せているので俺は口出しはしない。
「まあ、そうやってお前の未来は沢山選べるくらい夢が広がってるって事だから何も急がなくていい」
 オリヴィエの高校卒業の資格を取る為にコツコツ通信制の学校の教科書を広げて進めながらドイツ語やイタリア語も勉強させている。語学はマイヤーに頼んで任せているが、それでも覚える文法は音楽の解釈を広げる為にやる気に満ちているからついつい興味深そうな本を買って与えればマイヤーが持って行っちゃったと泣きついてきたのが微笑ましい。俺としてはやっと探し当てた古書を持って行かれて全く笑えないが。
 そうやって五日間を乗り越えてのんびりとしていたが二人が俺の周囲をちょろちょろしてる理由は俺の本気の頑張り具合だと言うのは言うまでもない。
 一日、二日目かまだよかった。
 三日目以降から眼精疲労や腰痛、そしてやっぱり頭を酷使しすぎて吐き気を伴うようになった。
 それでも予定金額の為にオリオールに頼んで軽食を大量に用意してもらっていても回復にはつながらなく、そうなると待ち受けるのは体が受け付けなくなると言う惨事。側で俺のフォローをしていたエドガーに見られてしまい、情けない。と言うか久しぶりにこのレベルまで来たなととっさにゴミ箱をひっくり返して顔を突っ込んでげろれた俺さすがとこんな事のレベルは上げたくなかったと心の中で涙を流しておく。ほら、今お口からとおまけに鼻からも色んな汁でまくってるからね。慌てるエドガーのせいでオリヴィエとケリー、そしてオリオールまでやってくる始末。お願いだからカッコイイ綾人君で居させてよ。お願いだから見に来ないでと恥ずかしがって言えばオリオールに叱られてしまった。
「私達は綾人に返しきれない恩をたくさんもらって来た。
 そこには綾人がトレーダーとして優秀でお金を生み出す才能に溢れているからこんなにも簡単に赤の他人の為に投資と言う事が出来るのだろうと勘違いしていた。
 こんなにも、身体を壊すくらい綾人が戦ってるなんて誰が想像していた!
 一人でこんな孤独な戦いをしてるのに我々はただその結果だけを甘んじて受けていたなんて、何も知らなかったなんて悲しすぎるだろう」
 ゲロってお口の中酸っぱくさくて、ゾンビの如く涎を垂らしていた俺の顔をティッシュで拭って綺麗にしてくれる代わりにオリオールは泣きながらそう言ってくれた。
「我々だけでは戦力にはならない。
 だけどここまで身体を壊しながら尽していたら本当に綾人が駄目になってしまう。
 するなとは言わない。頼むからこうなる前にちゃんと休んでくれ」
 料理に情熱を注いだ人だけあって止めろとは言わない。それが嬉しくてそのふくよかな腹に倒れ込む様に抱きしめて
「ありがとう。凄く頑張れる力になった」
 止まるつもりのない俺に少し寂しそうな声とともに何度も頭を撫でてくれた。それが温かくて今日はもう休むと言って成果を出せなかった三日目。そして代わりによっけめは気合を入れてエドガーに言い付ける。
「またゲロっても騒がない事。昨日一日で大幅に遅れたから今日取り戻す為に無理をするから、落ち着いて行こう」
 その為に机の片隅にはビニール袋をクシュクシュにしてすぐ使えれるように準備をして置いた。ゴミ箱も昨日の名残がない様に綺麗にしたし食べた物をのどに詰まらせないようにスムーズに吐き出す為の水分も十分に用意した。
 完璧じゃんと昨日は早く寝たので冴えわたる頭脳にムチ打つかのように昨日途中で強制終了させられた分の挽回に励むのだった。




しおりを挟む
感想 93

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...