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うちの隊長は伴侶の話しを聞きながらとうとしだしているのは内緒です

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 ギルドに戻り、査定をしてもらえば〆て金貨600枚ほど。

「俺達四人なので四等分でお願いします」

 買い取り専門窓口のベッツは一昨日の仕分けがやっと終わったばかりなのにと涙を流しながら魔物の山を見上げ、呆然とたたずむユハとトゥロはただ立ち尽くすのだった……
 ユハとトゥロの十倍もの金貨を俺達が仕留めた数は大したものでもない為に本当にもらってもいいのかと頭を悩ませながらもいきなりの大金を手に入れて途方に暮れてしまっていた。

「ねえ、とりあえずどこかで食事しながら少しお話しないかしら?」

 辛うじてとりあえずこの場を離れようというマイアの提案にだが

「すみません。
 アパートの受け渡しの約束があり、これから家具の納品もあるので夜にでも仕切り直しませんか?」

 マイヤがヴォーグを見上げて言う物だから、ヴォーグはたじろぎながらもとりあえず帰ってもいい?と聞くも

「だったら何か買ってヴォーグの住処に行きましょう。
 引っ越しのお祝いに少し早いけど夕食をごちそうしてあげるわ」

 言いながらもマイヤはヴォーグに腕をからめてギルドから連れ出し、俺達も項垂れているユハとトゥロを引き連れてその後を追いかけるのだった。
 
 最初にアパートの大家の所へ向かって挨拶をして鍵を受けとり、マイヤに案内されてパン屋でパンとハムなどを買った。
 その間にテレサがワインなども見繕ってきてヴォーグの新居へとたどり着けば、既に家具屋が入って設置をしていた。

「ああ、悪いね。
 ちょうど大工さんがいたから入らせてもらったよ」
「いえ、間に合わずに申し訳ありません」
「なーに、待ちぼうけ喰らうより全然ましさ。
 それより部屋に置いてあった紙の通りに家具を設置したが問題なかったか?」

 それを聞いてヴォーグは家の中を一通り回ってきて

「ありがとうございます。
 問題ありません」
「はいよ。なら仕事完了のサインは……」
「では中でお願いします」

 そう言ってヴォーグはキッチンに置かれたテーブルで書類を呼んでサインを書き、そして何かの包みを手渡していた。

「先日仕留めた魔物の肉ですが、良ければ工房の皆さんと召し上がってください」
「おお、こんなにも悪いな」

 言いながらも一抱えはある肉の塊を抱えて去っていった後姿を見送れば大工達も無事引渡し完了のサインをもらって同じようにほくほく顔で肉を抱えて帰って行くのだった。
 ユハとトゥロは微妙な視線でその様子を見回り、テレサやマイヤはまだ物の少ない家を探検して

「なかなか住みやすそうな家じゃない?」
「うーん、テレサのお部屋はなかったか……」

 階段を下りて来ての言葉に誰もが苦笑。
 言いながら大工も帰った室内にヴォーグは食器などを収納スキルから出して片づけて行く。

「って言うかよぉ、さっきもビビったけど、一体それどれぐらい入るんだ?」

 儲け損ねてすっかり拗ねたユハだが、呆れたように食器や調理器具を片付ける様子を見て

「とりあえず、生活に必要なもの一式は入ってますよ?」

 もうどれだけ何て判らないという返答に誰もが沈黙をする中、魔導コンロを取り出して設置して魔石をセットしていた。
 
「あら、三口のコンロなのね?」
「やっぱり料理したり薬を作ったりするのに二口では足りないので。
 でも四口では奥の物がなかなか手を入れにくいので三口が機能的ですから」

 言いながらもお湯を沸かすつもりなのかケトルを取り出し、魔法で水を作りだしてケトルに注いでいた。
 すぐ横に水道だってあるのにと思うも、水道を開ければ赤く汚れた水が出て……

「しばらく人が住んでなかったと聞きまして。
 だけどこれだけ濁ってると洗い物にしか使えないなあ」

 流しっぱなしにして置けば少しは白く濁る程度だが

「これだけ濁ってるとなると配管を変えないと無理だぞ?」
「やっぱりそうなりますよね……
 飲み水の確保ぐらいなら魔法で何とかしますけど、風呂やシャワーは綺麗な水が欲しいからなあ」

 だけど魔法で水を作り出せるヴォーグはあまり困った風な顔を見せずに

「食事は温め直します?」
「そうね、それぐらいは私達がするからグラスとかをとりあえずテーブルに出してもらえる?
 トゥロ達も早く食べたかったら手伝って」
「はいよ」
「食器はとりあえず棚でいいんだな?」

 ふてくされていたトゥロとユハも食事の前にそんな顔は影を潜めさせてスープを追加で作っての食事へとなった。
 ヴォーグの草取りの話しから魔物の討伐の話しを唸りながらする間にワインを何本か明けた所で

「そう言えばホルガー、あなた私達に隠し事してたわよね?」

 その言葉と同時に一気に酔いが醒めたと言わんばかりにホルガーの血の気が引いて行くのを誰もが嫌な予感を抱いてしまえば

「実はな……」

 ホルガーは白状した。
 ヴォーグの稼ぎを見て欲を掻いた事を。
 金と野望を抱き合わせ、そして夢を見た事も。

「あの貴族の屋敷を買うなんて、どんなバカげた夢だ……」
「あの屋敷が金貨一億と三千枚だと……」
「しかもテレサたちに黙って【暁の大牙】名義で契約したとか……」
「十日以内に手付金金貨百三十枚で無理なら奴隷で売られるとか嘘でしょ……」
「とりあえず契約書見せてください。
    なんか嫌な予感がします」

 ヴォーグも他人事ながらも気にしてくれてかホルガーの鞄の底に大切に折りたたまれた契約書を読み始めて

「うわぁ、本当に奴隷契約になってる。
 しかもどんな奴隷になるか構わないって……」

 冗談だろ?!なんてまっさきに悲鳴をあげたのはホルガーだった。

「俺と話してた時は労働奴隷って……」
「よくある手口ですよ」

 ヴォーグは頭が痛そうにその書類を皆に見せるも全員がさっと視線を逸らせた。

「ひょっとして契約書を……」
「悪いな。俺達そんな立派な身分じゃないから文字何て読めるわけないだろ」
「まぁ、テレサは自分の名前ぐらい書けるよ?」
「数字ぐらいなら判るし、でも難しい計算はごめんだね」
「ギルドに行けば銀貨一枚で読み書き代理してくれるから覚える必要ないし?」
「ふふふ、貴族や商家やお金持ち以外が読み書きできるわけないでしょう」

 当然というように言う言葉にヴォーグは項垂れて乾いた笑い声を零す以外出来なかった。

「では確認しますが、この契約書には手付金の金貨千枚を五日以内に支払う事がまず約束されてますが?」
「……」

 目ん玉を向いてぽかんとしているホルガーに室内はもう沈黙状態だった。

「いや、だってよ。
 手付金って十日って、百三十枚って話ししか出なかったし……」
「奴隷契約でさえ誤魔化す相手に親切さを求める方が馬鹿です!」

 言いながらヴォーグは他に何か変な事が書いてないか目を皿のようにして何度も見直すも

「他にはまずい事は……
 一年以内に完済の約束もしてあります。
 ああ、しかも契約解除はしない旨も……後戻りも出来ません。
 一番最悪なのが既に皆さんの名前が書き込まれているという事でしょう。
 が、本人の筆跡ではないのですが、代表として【暁の大牙】のホルガーの名前を書いているのでどうしようもないかと……
 どう考えても最初から嵌めるつもりだったのでしょうね」

 ヴォーグは唸りながらどうすればと思って顔を上げれば五人分の今にも死にそうな視線にぶつかった。

「な、なぁ、俺達どうなるんだ?
 どうすればいいんだ?」
「ギルドでお金を借りるか……
 ですが、皆さんの実績で返済可能かどうかはギルド長の考える事なので何とも……」
「それよりも五日以内に金貨千枚だよ?
 既に三日目なんだよ?!
 テレサとマイヤは絶対変態に売られるよ?!
 休みなくヤり続けなくちゃいけないよ?!」
「それはやだ!そんなんだったら死んだ方がましよ!」

 どうしてくれるんだとテレサとマイヤはホルガーの肩を揺さぶりながらそれは嫌だと泣き叫ぶ横で

「俺達は良くって鉱山奴隷か……
 ユハは変態に売られる可能性もあるな?」
「鉱山奴隷か……
 いっその事闘技場でぽっくりやられるのもいいかもな……」

 既に視線が死んだ二人はワインのラッパ飲みを始めこれが最後の晩餐とやけになっていた。

 そんな光景をヴォーグは唇を噛んで必死になって頭を動かしていた。

「とりあえず、本日の上りが金貨六百枚と……」
「ヴォーグ、それは……」

 俺達のやり方に反しているとでも言いたいのだろう。
 だけど俺は首を横に振って

「貸すだけです。
 後でしっかり返してもらいますのでとりあえず皆さんの手持ちは後どれぐらいに?」

 聞けばユハとトゥロも本日の討伐代の金貨三十枚と全員が収納スキルと言うにはお粗末の空間から全財産をかき集めて金貨五十枚ほど。
 宵越しの金は持たないと言うように全然足りない数字にヴォーグも財布を取り出して

「昨日の分と今朝受け取った分です。
 家賃とかで少し使いましたが四百枚はあります。
 とりあえず今からその不動産屋に行って手付金を支払いましょう」

 俺も付いて行きますと言いえば俺達もと続くユハ達に

「マイヤとテレサは向こうに顔を見せない方が良いでしょう。
 既に顔を知られてるかも……と言う事も考えられますが、少しでも向こうに情報は与えない方が良いと思います。
 ええと、ユハも待っていてください。
 トゥロとホルガーと俺で話しをしてきます。
 三人は絶対この家から出ないで待っていてください」

 言って金貨千枚をかき集めて不動産屋へと向かうのだった。











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