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第五話
しおりを挟む「どうですか? まだ痛む場所はございませんか?」
冒険者であるリックと彼の仲間3人の怪我の治療を終えた私は彼らに声をかけます。
それにしても運良く冒険者のパーティーに出会えるなんてラッキーでした。しかもボルメルンではなく、隣国のメーリンガム王国の……。
彼らに案内を頼めば、少なくとも隣国まで迷わずに行くことが出来ると思い……それをお願いすると快く了承していただけましたので、とりあえず一安心です。
「完璧、完璧! すげーな、あんた。俺ら全員動けなかったのに、こんなに早く治しちまうなんて」
「しかも、治療費は調味料だけでいいって。あなた、聖母か何かなのかしら?」
パーティーの中にいた女性の魔法使いのミランダという方が調味料一式と鍋を持っていたので、私はデビルベア肉で――いわゆる熊肉料理を作っています。
解体して血抜きをして、そこから更に私のオリジナル術式によって温度と湿度をコントロールして熟成させることで、肉としての旨味は跳ね上がり、調理し甲斐のあるモノへと変化しました。
それを下茹でして、さらに火入れまでしたところで、貸してもらえた調味料とスパイスの登場です。
「お口に合うか分かりませんが召し上がってみてください」
熊鍋を完成させた私はリックたちにそれを食べるようにおすすめしました。
もう少し食材が豊富ならより美味なるメニューを作ることが出来たのですが……。急ごしらえにしてはまずまずでしょう。
「うわぁ! 美味しそうな香り……。これって、あのデビルベアの肉なんでしょ?」
「はむ……、うっま~~い! あの魔物の肉をこんなに柔らかく、それでいて旨味を凝縮させて調理するなんて」
「はふっ、はふっ……、しかも回復魔法の片手間で……、驚いたよ」
「むしゃ……、むしゃ……」
皆さんは実に美味しそうに私の手料理を召し上がってくれました。
やはり、誰かのために作った料理を美味しく食べてもらえるのは嬉しいです。
「何か悪いっすね~、エミリアさん。ご飯までご馳走になっちゃって」
リックと同じく男性の剣士のブライアンは人懐こい笑顔を向けて食事の礼を言われます。
別に簡単なモノしか作ってませんし、どうせ一人では食べきれませんのでどうってことありません。
「何がすごいって、料理も回復魔法も片手間にやっちゃうことよね。あたし、魔法使いながら料理なんて絶対に無理」
「さっきなんて、更に攻撃魔法使ってたよ。器用にも程がある……」
クラリス様の我儘に付き合うためには、一つのことに時間をかけていたら時間がいくらあっても足りません。
ですから、私はいつの間にか色んなことを同時に行うようになっていて、それに慣れてしまってました。
傍から見ると忙しなく動くような人間に見えているのでしょうが、癖になってますので仕方ありません。
「とにかく、メーリンガム王国に行きたいんだろ? 案内するぜ」
「あーあ、結局……『紫龍石』見つからなかったね」
「ミランダ、命が無事だったんだ。そう、ボヤくなよ」
どうやら彼等は『紫龍石』という魔法鉱石を手に入れるためにデルナストロ山脈に来ていたみたいです。
そういえば、ここに来る冒険者の大半は魔法鉱石目当てでしたね……。
――これって、その『紫龍石』で合ってましたっけ? 私はポケットから紫色に鈍く輝く石を幾つか取り出しました。
すると――。
「「あーっ!!」」
紫色の石を見た途端、リックたちは声を揃えて叫びだします。
どうやら、これが紫龍石で合ってるみたいです。
「よろしければ、差し上げますよ」
「「えーーっ!!」」
私は行きがけの駄賃として紫龍石を彼等に手渡しました。
どうせ持っていても換金方法も分かりませんし、使い道もありません。でしたら、欲しがっている方に差し上げたほうがよほど良いでしょう……。
「いやいや、こんなに貰えませんよ。換金方法ならお教えしますので。エミリアさんも訳ありみたいですし……」
「……では半分だけ私が。本当に感謝してるのですよ。行く宛がありませんでしたから……」
「エミリアさん……」
こうして私はリックたち冒険者パーティーと共にデルナストロ山脈を進み――ボルメルン王国の隣国であるメーリンガム王国に辿り着くことが出来ました――。
この国で人生が大きく変わることをまだ私はまったく知る由もありませんでした――。
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