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5章 決着

処分

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(クレア視点)








 コツ、コツ、と石畳を打ち鳴らして行くと、それらは壁に吸い込まれていきます。静まり返った地下はひんやりとしていて、音すらも薄闇の中に消えていきます。

 ここは、地下牢。
 私は、ランプの小さな灯りと看守の案内を頼りに、最奥へと向かっていました。

「こちらになります。王太子妃殿下。」

 看守に軽く一礼し、私は薄暗い牢の中をランプで照らします。中の人は眩しそうに目を細めますが、私を認識すると途端に目を見開きました。

「クレ……王太子妃、殿下。」

 中の人ことカイザー・レガムは、酷く弱々しく私を呼びます。その姿は、以前と変わり果てていました。痩せこけた身体、落窪んだ瞳、白髪の混った髪。四十路前のはずですが、老人のような風体となっていたのです。

 ですが無理もありません。
 反逆を犯して約半年、この地下牢に閉じ込められていたのですから。

「お久しぶりです。」
「判決が、出たのですか?」
「はい。」

 彼の口調は丁寧なものになっていました。王太子妃への敬意なのか、こちらが素なのか。


 半年前、父と慕っていた人に殺されかけ、酷くショックを受けました。当時はレイ様らがハルティアに帰った後、夜な夜な訳も分からず涙が流れてきました。しかしレオ様を初めとする皆様に支えられ、彼と向き合う時間が取れるほどになりました。

 教皇が国に与えた影響は大きく、彼の判決は難解なものとなりました。反逆は重罪、本来ならば公開処刑が課せられます。グレシアナの法律上、最も思い刑罰です。しかし、民から見ると教皇は恩人。そんな人物が突然反逆罪で死刑となれば混乱は免れません。

 現在、シアン教の教皇は彼の息がかかっていない司祭から選ばれました。しばらくは監視がつき続けるでしょうが、真面目な方なので直にそれも終わります。教皇交代の理由について、民たちには「オルロス・ティアード教皇が急病に伏せっているため」と説明されています。
 教皇が交代しても、未だ先代の威光は大きく、「オルロス・ティアード教皇」の存在は生きています。想定内とはいえ、頭が痛い事実です。

 反逆者とはいえ、国の発展に尽くした人間を斬首刑に処するのは問題が山積み。しかし例外を出すのははばかられます。そうして協議に協議を重ねた結果、彼には自死が命じられました。
 私とレイ様しか知らないことですが、これでレガム辺境伯家の血筋は絶えることになります。

「オルロス・ティアード。反逆罪は本来斬首刑となるところですが、聖女の養育とこれまでの功績を鑑み、貴方には自死を命じます。」
「……わかり、ました。」

 震え声で返事をすると、彼は牢屋の奥に戻ろうとしました。
「待ってください。」
それを、私は引き止めます。
 私は、処分を伝えると同時に、最後の会話をするためにここにきたのです。
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