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5章 決着

指輪と口付け

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 誓いの言葉を述べ終わると、今度は指輪の交換を行います。
 結婚式では、自らの瞳の色を使った指輪を贈るのが習わしです。そのため私は緑色の、翡翠の指輪を受け取ります。もちろんルークから直接つけてもらいました。触れ合った指先が、ほのかに熱を持った気がしました。
 この日の為に、指先まで磨き上げてもらったかいがあり、肌に翡翠が映えて輝いています。


 そして私も、ルークに指輪を贈りました。その指輪は、台座に澄んだアクアマリンをはめています。


 ずっとずっと、この容姿が好きではありませんでした。この瞳と髪が、全く別の色に変わってしまえばいい、そう願ったことは何度もありました。

 両親に少しも似ていない、不気味な色。生まれてきたせいで、虐げられるようになった色。生まれ損ないの色。

 けれど今は、断言できます。私が私であるために、この容姿も大切なものだと。祖母から受け継いだ、この空を映したような色彩が、私の誇りです。
 アクアマリンにめいいっぱいの気持ちを込めて、ルークの指にはめました。

 ふと後ろから盛大に鼻をかむ音が聞こえてきました。多分お父様ですね。入場の時から早くも涙ぐんでいましたから。


 式はつつがなく進み、残すは最後です。皆の前で誓いのキ、キスを、します。

 顔のヴェールが上げられました。青く澄み渡った空と、ルークの緑色の瞳が目に飛び込みます。
 ルークは戴冠式ともまた違う正装をまとっていました。髪型も普段見ない、凛々しくかきあげたもので、見慣れたはずの表情でもドキドキしてしまいます。ですが微かに頬が上気しているのが、また彼らしいなと思いました。

 ルークの右手が頬に触れます。春の優しい風が髪を撫で、それと同時にルークの顔が近づいてきます。心臓は今にも破裂しそうです。その瞬間は、全ての時間がゆっくり流れているかのように感じました。

 そして、唇と唇が触れ合いました。

 柔らかくて、あたたかい。目を開けると、翡翠の瞳に吸い込まれそうになります。愛しい人と、初めての口付け。幸せな気持ちで胸がいっぱいになりました。やっぱり、心臓はうるさく早く大きく鳴り響いています。

 唇を離すと周囲から拍手喝采が上がりました。一瞬、ルークが物惜しげな顔をしていたのは、私しか知りません。けれど、私も同じような顔をしていたのかもしれません。
 どちらにせよ、二人だけの秘密なのですよ。
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