氷の森で苺摘み〜女装して継母のおつかいに出た少年が王子に愛される話〜

おりたかほ

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第十五章 城にて

2 女子力※(領主視点)

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2 女子力※(領主視点)


 
「お医者様を呼んでくるよ。執事さんにも知らせなきゃ」
「うぅ……オト、頼むからそれだけはやめよう?」

 ここで執事なんか呼んだら全てが台無しだ。

「本当に大したことないんだから」

 小生は起きあがろうとするのだが、オトは首を振って、小生をベッドに押し付けた。

「だめだよ、ちゃんと寝てなくちゃ」

 オトは眉をひそめ、小さな手を首筋に当ててくれる。冷たくて気持ちがいい。

 オトは、氷を貰ってくると言って部屋を出ていこうとする。小生はオトの手をとり、桜色の可愛い指先に懇願する。

「行かないで。お願い」
「でも……」

 腕を引き寄せる。オトは小さく声を上げながら、小生の顔の横に手をついた。綺麗な金髪がさらと小生の頬に触れた。困惑したような青い瞳、長いまつげが至近距離にあった。

「オトが看病してくれたら治るから」

 オトはぱっと顔を背けてベッドから退き、水差しの置かれているテーブルに向かって走っていった。

 小生は大人しくクッションにもたれたまま、オトの一挙手一投足を見つめていた。オトが注ぐ水も、手渡されるグラスも、尊い。儀式のように、小生は恭しくグラスに口をつけた。

「ありがとう」

 飲み干したグラスを渡すと、オトはにっこりしてくれた。

「今日はもう、ゆっくり寝てね」
「いやだよ。勿体無い」
「もったいない?」
「オトを見てたい」

 オトは苦笑いしながら水差しを戻しにいった。スルーされてちょっとへこんだ。

 テーブルの上には、各地から献上されてくるお菓子が並んでいた。
 
「領主様、何か食べる?」
「いや僕は……」

 いらないと言いかけて、考えを変える。

「オトが美味しそうだと思うのを持ってきて」

 オトは小さな苺のタルトをお皿に載せて、ベッドまで運んできてくれた。

「食べさせて」

 冗談半分で口を開けると、オトは本当に食べさせてくれた。こんなに甘いものは、久々に口にした気がする。

「どう?」
「……美味しい」

 心からそう思ったのも、久々だった。

「オト、あーんして」

 残り半分はオトの口に入れてやった。オトは小鳥の雛のように反射的に口に含んでから、目を丸くした。

「おいしい?」

 オトはもぐもぐしながら頷いた。そんなに幸せそうに食べてくれるなら、小生は今すぐそのタルトになりたい。

「タルトが好きなんだね」
「うん。大好き。マフと一緒によく作るよ……」
「作るの?!」

 聞けばオトは、料理もお菓子作りも毎日やっていたのだそうだ。

「僕にも作ってほしいな」
「え、うん、いいけど……」
「本当に?!」
「いいけど、素敵なお菓子がこんなにあるのに、僕のなんか要る?」

 小生の部屋に菓子は不要だと、家令達には散々言ってきたけど。オトの作るお菓子だけは食べたい。すぐにでもオトを連れて、厨房に駆け込みたい気分だ。興奮する小生に、オトはまた苦笑した。

「オトは家事が得意なんだね」

 三つの贈り物とやらも、オトが妖精の家で上手に家事をやったことに対するご褒美だったらしいし。

「家事は好きだよ。やらざるをえなくて覚えただけなんだけどね」
「えっ……」
「新しいお母さんが厳しくてさ……僕は毎日大忙し」

 新しい母と聞いて、小生は身構えた。それはビョルンの後妻「ザクロ夫人」のことだろうか。だが、オトはそれ以上、母親のことは語らなかった。

「どうせなら上手になろうと思って頑張ったんだ。上手にできるようになったら、何でも楽しくなるでしょ?」

 小生はそっと彼の頭をなでた。健気なオトが愛しかった。オトは微笑んだ。

「他に僕にして欲しいことはない?」
「……なんでもしてくれる?」

 どうしても淫らなことしか思いつけない小生の返事を待たず、オトはベッドを降りてしまった。賢明な判断だ。

「そばに居てくれればそれでいいよ」
「そんな……」
「こっちおいで」

 オトは聞こえないフリをした。

「もし迷惑でなかったら、お片付けしててもいい?」

 諦めて小生が頷くと、オトは部屋をあちこち整理し始めた。小生の散らかした本や書類も、内容を尋ねてきちんと分類してくれる。

 小生は半ば夢見心地で、くるくると立ち働く可憐な姿をベッドから見守っていた。

 片付けが終わってしまうと、さらに掃除もしていいかという。小生は笑ってしまった。

 オトは小生が問うままに、埃を払うコツや、綺麗に窓を拭く方法を教えてくれた。

 しまいには、暖炉の中まで掃除してくれるという。部屋中灰だらけになるのでは?と内心焦ったが、手慣れた様子で済ませてしまう。チリひとつたたなかった。

「すごい」

 思わず小生が呟くと、オトは嬉しそうに振り返った。その顔に小生は吹き出してしまった。

 鼻の頭から頬にかけて、一筋煤がついていたのだ。無意識に手で擦ってしまったのだろう。自分では一切気付いていないのがキュートすぎた。

 小生はオトを呼び寄せて、顔を拭いてやった。

「そういえば、一つ目の贈り物は、女子力って言ってたけど……ずいぶん妙なものをくれる妖精だね」

 家事も上手で、顔も心もすでに天使みたいに可愛いオトに、「女子力」なんてものを与える意味がわからない。そもそも彼は男の子だ。なんだってそんなものを貰う羽目になったんだろう。

「女子力って、いわゆる家事とか、化粧とか、女装スキルのことだよね? でもそれって君には必要なかったんじゃない?」

 ずっと気になっていたことを尋ねると、オトは口ごもった。

「あ……いや、そういう力のことだけじゃないみたいなんだ。でも、えっと、ちょっと説明しづらい……」
 
 なぜかオトはもじもじしだした。

「贈り物は三つとも、僕は欲しいなんて思ったこともないものばかりなんだよ。妖精たちが勝手に決めてくれちゃったから……」

 オトは上目遣いでこちらを見た。目が合うと、目尻がほんのり赤く染まった。

「オト、どうかした?」

 なんだか様子が変だ。小生はオトをベッドに抱え上げた。オトは従順に小生の膝にまたがり、肩に腕を回してきた。

「一つ目の贈り物のことは、僕にもまだ、よくわからないんだ。そういえばジュンにも話してない……」

 オトは目を伏せたまま、小生の手を取った。その手は、ゆっくりとオトのシャツの中に導かれていった。

「えっ?! オ、オト……?!」
「さわってみて?」

 オトがご所望なら……と、小生は水を得た魚のようにその肌をまさぐる。

「ケイトのことを考えたり、触ってもらったりすると、体が痺れて、お腹の奥がきゅうってなるの。女子力っていうのは……多分、このことだと思うんだ」

 早鐘を打っているオトの心臓の上で、キュンと尖っていくものがある。

 オトは言葉もなく、濡れた瞳で小生をじっと見つめるだけだったが、感じていることはわかった。

 オトの肩からするりとシャツが落ちる。清らかな肌がまぶしくて、眩暈がする。小生はオトの首すじに、そっとくちびるを寄せた。オトは、うくっ……と息を呑む。

「大丈夫?」
「だ、だいじょうぶ……ただ震えちゃうだけ……」

 オトは、華奢な体を震わせながら小生に抱きついた。女の子みたいに、全身が敏感だった。

「君の体が敏感なのも、一つ目の贈り物のせい?」
「多分……」

 白い肌の上で、桃色の小さな蕾が尖っていた。少し触れるだけで、オトは身体をヒクヒクさせた。優しく口に含んだ。震えをなだめるように、ゆっくり肌を愛撫する。

 オトの温もりを感じ、静かな呼吸を聴き、スズランのような香りに包まれていると、身体の境界線が溶けていくような気がした。見つめ合い、深く口づける。

 優しく背中をなで、その下の、柔らかな双丘を掴む。なめらかで吸い付くような手触りを堪能し、くぼみに指を進める。つぷ……という微かな水音がした。

「あ……だめ……」

 オトの声に、小生ははっとして手を止めた。だが谷間を這っていた指は、すでに謎のぬかるみに触れて濡れていた。

 今の感触はなんだったんだろう……。息を切らしながら、小生とオトは見つめあった。オトも、今の感触がなんなのか、よく分かっていないようだった。

 だけど一つだけ、僕たちが確信していたことがあった。今、指先が触れたもの。これが一つ目の贈り物の正体に違いなかった。

 オトの身体は、少年らしくしなやかで、少女のように柔らかだった。

 オトの嫌がることは絶対しないと心に決めていた。でも、あと少し、その秘密を知りたくて仕方がなかった。

「も、もうだめ」
「オト……」

 吸い付くような肌の感触だけでも昇天しそうだったのに、その奥には、温かなぬかるみまであったのだ……。小生の身体は、芯まで熱くなっていた。これで終われる筈がない。

 小生の昂ぶりに気付いたオトは顔を背け、長いまつ毛を伏せた。だめだ、オトを抱きたい。メチャクチャに可愛がりたい……。


 
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