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偏食男子とヴァンパイア/吸血表現、甘々
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ヴァンパイアの存在が正式に発表され種として国家に保守されるようになってから、早二年。素性を隠し人間として生きていた彼等に自由が与えられた。その先駆としてヴァンパイアも入学できる男子校が誕生することとなり当時はかなりの話題となる。
万が一の為、監視や管理が容易となる全寮制が採用され、人間の生徒は衣食住を保障する代わりに代償として学内での『食事』を許諾することが入学の条件に出された。それでもかなりの入学希望があり、その殆どが生徒ではなく親からのものだった。
そんな学校に入学した第一期の生徒たちは訳ありであることが多く、周防誉也もそのうちの一人であった。
両親を事故でなくした誉也を仕方なしに引き取った遠い親戚は、手に余る可愛げのない誉也を嬉々としてこの監獄にぶち込んだのだ。だが誉也は対して気にするでも無く、逆にここに閉じ込めてくれたことに感謝すらしていた。
それはひとえに誉也の困ったこだわりにあり、周囲にもドン引かれ心配されあわや病院に連れていかれそうになったこともあるほどやっかいなもの。
誉也は酷い偏食家なのだ。それも甘いものしか食べないという筋金入りのスイーツ男子だった。
その割に誉也は百八十を超える高身長とモデルのように美しい容姿とスタイルを持っていた。それゆえ、周囲には勝手に人が集まるのだが、偏食と知ると頼んでもないのに世話を焼き説教たれ、それでも誉也が変わらないと知るや否やまた勝手に去っていくというのがお約束だった。
入学してからもお約束通りのことが起こり、そしていつものように独りぼっちの誉也が居た――、はずだった。
「ついてくんな、この変態ヴァンパイア!」
「そんな怒んなよー。綺麗な顔が台無しだぜ?」
「っ、うるさい!」
べったりと左腕に絡みついてくる男を振り払いながら、心底嫌そうに誉也が顔を歪め唸る。
振り払われた腕を大袈裟に擦る男は、その甘いルックスを引き立てるような人好きする笑みを浮かべ軽口をたたいた。
飄々とした男の態度に誉也は思わず頭を抱える。
――どうしてこんなことに。
誉也の脳裏に初めて男と遭遇した、あの日のことが過った。
『ねぇ、俺お腹すいちゃったんだけどなー』
『…………』
『無視するなんて悪い子だね。ま、お前の許可なんて必要ないけど』
そう言って、突然声を掛けてきた男は場所も憚らず廊下の真ん中で誉也の首に突然噛みついた。男は一度食べた人間は二度と吸血しないことで学内では有名なヴァンパイアであるアリスという男で、周囲の注目を集めつつ誉也は一度限りの『食事』が早く終わるのを静かに目を閉じ待つ。
何秒、何分経っただろうか。漸く牙の抜ける感覚に閉ざしていた目蓋を開けた誉也は、未だ首筋に顔を埋めるアリスを見て首を傾げた。
――早くどいてくれないかな。新しく季節限定フルーツパフェが出る日なのに……。
振り払ってトラブルが起きては面倒なのでじっと待つことにした誉也に不躾な視線が刺さる。苛立つ気持ちを落ち着かせて、動かなくなったアリスに誉也は声を掛けた。
『あのー……大丈夫、すか? 大丈夫ならそろそろ離してもらえると――』
『離してもらえると助かります』そう誉也が言い切る前に、首筋にぬめっとした生温かい感触が襲った。ひぃ、と小さく声を漏らした誉也が流石に両腕を突っ張り抵抗をみせると痛いくらいの力で手首を掴まれ両手を拘束されてしまう。
アリスは舌全体で首筋を舐め上げると、ちゅぅっと一点を集中的に吸いあげた。そして――――。
万が一の為、監視や管理が容易となる全寮制が採用され、人間の生徒は衣食住を保障する代わりに代償として学内での『食事』を許諾することが入学の条件に出された。それでもかなりの入学希望があり、その殆どが生徒ではなく親からのものだった。
そんな学校に入学した第一期の生徒たちは訳ありであることが多く、周防誉也もそのうちの一人であった。
両親を事故でなくした誉也を仕方なしに引き取った遠い親戚は、手に余る可愛げのない誉也を嬉々としてこの監獄にぶち込んだのだ。だが誉也は対して気にするでも無く、逆にここに閉じ込めてくれたことに感謝すらしていた。
それはひとえに誉也の困ったこだわりにあり、周囲にもドン引かれ心配されあわや病院に連れていかれそうになったこともあるほどやっかいなもの。
誉也は酷い偏食家なのだ。それも甘いものしか食べないという筋金入りのスイーツ男子だった。
その割に誉也は百八十を超える高身長とモデルのように美しい容姿とスタイルを持っていた。それゆえ、周囲には勝手に人が集まるのだが、偏食と知ると頼んでもないのに世話を焼き説教たれ、それでも誉也が変わらないと知るや否やまた勝手に去っていくというのがお約束だった。
入学してからもお約束通りのことが起こり、そしていつものように独りぼっちの誉也が居た――、はずだった。
「ついてくんな、この変態ヴァンパイア!」
「そんな怒んなよー。綺麗な顔が台無しだぜ?」
「っ、うるさい!」
べったりと左腕に絡みついてくる男を振り払いながら、心底嫌そうに誉也が顔を歪め唸る。
振り払われた腕を大袈裟に擦る男は、その甘いルックスを引き立てるような人好きする笑みを浮かべ軽口をたたいた。
飄々とした男の態度に誉也は思わず頭を抱える。
――どうしてこんなことに。
誉也の脳裏に初めて男と遭遇した、あの日のことが過った。
『ねぇ、俺お腹すいちゃったんだけどなー』
『…………』
『無視するなんて悪い子だね。ま、お前の許可なんて必要ないけど』
そう言って、突然声を掛けてきた男は場所も憚らず廊下の真ん中で誉也の首に突然噛みついた。男は一度食べた人間は二度と吸血しないことで学内では有名なヴァンパイアであるアリスという男で、周囲の注目を集めつつ誉也は一度限りの『食事』が早く終わるのを静かに目を閉じ待つ。
何秒、何分経っただろうか。漸く牙の抜ける感覚に閉ざしていた目蓋を開けた誉也は、未だ首筋に顔を埋めるアリスを見て首を傾げた。
――早くどいてくれないかな。新しく季節限定フルーツパフェが出る日なのに……。
振り払ってトラブルが起きては面倒なのでじっと待つことにした誉也に不躾な視線が刺さる。苛立つ気持ちを落ち着かせて、動かなくなったアリスに誉也は声を掛けた。
『あのー……大丈夫、すか? 大丈夫ならそろそろ離してもらえると――』
『離してもらえると助かります』そう誉也が言い切る前に、首筋にぬめっとした生温かい感触が襲った。ひぃ、と小さく声を漏らした誉也が流石に両腕を突っ張り抵抗をみせると痛いくらいの力で手首を掴まれ両手を拘束されてしまう。
アリスは舌全体で首筋を舐め上げると、ちゅぅっと一点を集中的に吸いあげた。そして――――。
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