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偏食男子とヴァンパイア/吸血表現、甘々
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しおりを挟むそして、首筋に咲いた所有印を愛おしそうに指先で撫で上げたアリスは『俺専用のディナーに決めた』とそう爆弾発言を落として颯爽と立ち去って行ったのだ。
誉也含め、その場にいた生徒たち全員が驚きに唖然とした。しかしそれは瞬く間に悲鳴へと変わり、一日も経たぬ間に噂は学校中に広まった。
偏食で有名なヴァンパイアことアリスに『おかわり』宣言されてしまった誉也は、その日からことあるごとに絡んでくるアリスをいなす日々を送っている。
ヴァンパイアは毎日『食事』しなくても良いのか、あの日からまだ『おかわり』はされていない。
いつか『おかわり』されるかもしれないというドキドキと独りぼっちじゃない時間を過ごすことの違和感に、誉也は悶々とした日々を過ごしていた。
最近アリスの付きまといに慣れつつある誉也は、左腕にご機嫌なアリスをくっつけたまま新しく出されたクリームとフルーツが盛沢山のパンケーキを食べるべく食堂に向かっていた。
これももう慣れてしまった周囲の視線を一身に浴びながら食券を買い、席について配膳されるのを今か今かと待つ。
十分ほどして誉也の目の前に大きなパンケーキが到着した。待ちわびていた甘味を目の前にしていつもは冷めている誉也の瞳がキラキラと輝いている。アリスは特に何も頼んだ様子もなかったが嬉しそうにニコニコしながら頬張る誉也をじっと楽し気に見つめていた。
細い身体のどこに入るのか、パンケーキでは物足りずパフェをおかわりした誉也を眺めていたアリスが突然妙なことを言い出した。
「誉也の血を飲んだらもう他の奴のなんて飲みたくなくなるくらい甘くて美味しいんだけど、もしかしてスイーツばっかり食べてるからだったりして?」
至極真面目な顔をしてそう言うアリスに、誉也はおかしくなって笑った。
すると、それが肯定だと思ったのか、はなから誉也に意見は求めていなかったのか『それならもっと甘い物食べてもらわないとな』と、そう甘ったるい笑顔で言ったアリスに誉也は目を丸くする。
今まで『やめなさい』と言われこそすれ、『もっと食べて』なんて言われたことのなかった誉也には、その言葉は酷く新鮮で、それでいて深く身体に染みるような言葉で。無意識に欲していたその言葉は誉也の身体にすっと入り込む。
共に過ごす時間も多くなり、偏食であることも許容してくれるアリスの隣がだんだんと心地良くなってきてしまっていることに誉也は気付かないままだったのだが。これを機に、初めは有り余るほどあったはずの警戒心だけが誉也の中から徐々に姿を消してしまっていた。
全寮制というのは便利なものだ。好きな物を好きなだけ食べても誰にも文句を言われず、自分のスケジュールを乱すものは何一つない。そして、その中にはアリスと過ごす時間も含まれており、『食事』をしないアリスと誉也はまるで友達のように楽しく過ごしていた。
こだわりの強い誉也にとって全寮制に入学できたことはいささかご褒美と言っても過言ではなくなってきている。そう誉也が自覚するほどになってきた頃、恐れていたことが起こった。
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