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第四章・小さな偶像神
【第二節・羽鎧】
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集落と遺跡の距離はさほど離れておらず、やや傾斜のある坂を十分ほど登り、入り口へ辿り着いた。岩肌には本来そこに有ったであろう錆付いた鉄の扉の残骸が付着し、周囲にも鉄屑や拳ほどの岩が散乱している。足跡はかなり大きなものが複数、こちらは探索に入ったドワーフ達だろう。六・七人程か?
「うわぁ、派手に壊してくれたなぁあの魔物。扉を開けるって知能がないのかな。この辺りの遺跡は【トレハン】共にも荒らされてない、貴重な歴史的資料なのに……」
アラネアはぶつぶつと呟きながら散乱した扉の残骸を拾い集め、遺跡入り口の脇へと寄せていく。大斧を担いだ族長のジオと鉄鎧と盾、背中にトマホークを背負い武装したダグの二人は、天井に穴が空き、所々から日光が差し込む遺跡の中へと慎重に入って行った。音や動く気配はしないが、例の魔物やドワーフ達はまだ中にいるのだろうか?
入り口から少し入った地点でティアーソンは壁の模様を手でなぞり、興味深そうに周囲を見回す。
「岩山を削って作ったのかな。でも壁から蔦や木の根が生えてるし、ヒビまで入ってらぁ」
「恐らく五千年以上前の遺跡だからねぇ。当時は問題なかったかもだけど、経年劣化や木々の浸食で壁も床も天井までボロボロ。支柱もぐらついてたし、あと数回地震が起きたら崩れちゃうよ。そうなっちゃう前に、たまたま付近に住んでいたドワーフ族の皆さんに協力していただいて、この遺跡の調査をしたかったんだけど――」
「――それであの魔物達に襲われたのか?」
残骸を寄せ終わったアラネアは質問に頷き、砂埃の付いた手をはたきながら遺跡の中へと足を踏み入れる。この男、武器や遺跡調査の道具も持たず身一つ。魔物混じりがどれほど高い身体能力を持つか知らんが、いささか慢心し過ぎでは? そのためにドワーフ達を雇ったのかもしれないが。
「我が身一つで遺跡巡りとは感心しないな。こういった事態へ備え、武装や探索道具を一式携行するべきだろう。それとも、冒険家とは皆そういうものなのか?」
「いやぁ、手ぶらで一人だから身軽に逃げられるんだ。遺跡は何が死に繋がるかわかったもんじゃない。落とし穴は天井を這って進めばいいし、高い所に登ったり降りたりするなら【蜘蛛の糸】を使えばいいだけだしね。暗くても額の目は夜目が効くし。必要なのは動きやすいスーツとその内ポケットに入れた手帳とペン、歩き易い革靴と冒険心。他に何か必要かい?」
「……冒険家にとっては、遺跡の冒険も【散歩】にすぎないか」
「まさか。冒険家は過去を手繰り寄せて歴史を記録し、歴史的価値はないけど再利用できそうな物は信頼できる古物商へ売って、古代人が大切にしてたであろう物は然るべき場所へ運び弔う。俺だっていつもここに居られるワケじゃない。【トレハン】共は平気で遺跡を荒らすし、古代人の死体や歴史的価値のある遺物を壊すし売り払う。だから内部調査も兼ねて、近くに住んでいたドワーフ族に同行をお願いしたのさ。彼らが目を光らせていれば、【トレハン】共も寄り付かないしね。遺跡や秘境巡りは危険も伴うしワクワクもするけど、皆が命を懸けている職業を【散歩】と呼んで欲しくないかな」
俺とティアーソンの前を歩く奴は一切振り返らなかったが、至極まっとうで真っ直ぐな言葉を突き返す。その言葉に怒りや皮肉の感情は無く、飄々としながらも自分の芯を強く持つ、魔物混じりの冒険家が貫く生き方を感じた。遊び半分で俺の財産になるドワーフ共をこき使ったのだとしたら訴訟も辞さない考えだったが、それが彼らの仕事でドワーフ側も承諾したなら仕方あるまい。
アラネアは見た目こそ魔物に近いが、内面は知性も理性もある人間寄りの存在だとわかり、腰に携えた剣の柄から手を放して警戒を緩める。
「ツメイは心配性だなぁ。あいつはいい奴だよ」
「ふん。言葉巧みな詐欺師や賊など世にごまんといる。信用するべきかどうか推し量らなければ、お前のような間抜けは簡単に騙されるぞ」
隣を歩くティアーソンは最初から全て察していたのか、ニヤけながら俺の顔を見る。
魔物は魔物、躾のできない獣畜生と何が変わろうか。奴らは人間やドワーフなどの種族の括りはなく、世界を消費し続けるだけの生産性の無い【淀み】。労働力と使うとしては小賢しく、中途半端な知性と抑えの利かない本能で行動し、あらゆる存在へ牙をむく。
奴にも同じ血が流れている。どれだけ良心を持っていようとも、奴へ完全に気を許すつもりはない。ただ、今奴との関係をこじらせると、労働力となるドワーフ共にも影響が出る。強引な懐柔や不満は生産性を下げる要因にもなりうる悪手。業腹だが、この場はある程度奴へ合わせてやるべきか。
考えを巡らせながらアラネア、ティアーソンと共に薄暗い一本道の通路を進んでいると、陽光が降り注ぐ大きな空間に出る。天井が崩落したであろう瓦礫の傍にはドワーフ達が七・八人で固まっており、その輪の中には先行していた族長のジオとダグの姿もあった。軽武装のドワーフ達は皆すり傷と切り傷を身体に作っていたが、大事に至る者は見受けられない。
「おぉ、来たかぁ。オイラ達の出る幕は無かったみたいだぜ。あの妙な魔物はみんな瓦礫の下敷きだとよぉ。マヌケな奴らだなぁ」
ダグは瓦礫へ腰かけ、歩いて近付く俺達に手を振る。族長の様子をみる限り全員揃っているらしく、天井を指さして状況説明を行う団子頭の女ドワーフの話を興味深げに聞いていた。一先ず、俺の財産は魔物達の脅威から守られた。全く、手間をかけさせてくれる。
「……ん? 天井が落ちたってことは……あの【鉄の棺】もこの下に埋もれてるのかいっ!?」
ほっと安堵の表情を浮かべていたアラネアが、突如大声を上げ慌てて走り出し、族長へ説明を行っていた女ドワーフへと詰め寄る。
「あ? あぁ、あんたが中身を確認しようとしていた鉄の箱かい? あいつらはそいつを囲うようにして守ってたからねぇ。開けようとしたあんたと族長は狙われたみたいだが、周りさいたアタシらは引っ掻かれたりする程度で、すぐにみんな離れたら向こうから襲ってくるようなことはなかったのさぁ。さぁどうしたものかと考えてたら天井が崩れてまとめて下敷きだ。いったいなんなんだいこいつらは……」
「皆目見当つかんが……魔物達は棺を守るよう躾られてたんだろう。儂とアラネアが遺跡の扉を開ける要領で、強引にこじ開けようとしたのがマズかったのやもしれんなぁ」
「そんなぁ……歴史的資料がぁ……」
アラネアは報告を聞き、がっくりとその場へ膝をつく。ジオは瓦礫の下からはみ出た一本の錆びた脚を見つめながら、複雑な表情を浮かべている。
魔物が躾けられて物に固執する? 種を守る為、本能で親が子を守る話は珍しくないが、まさか【鉄の棺】が奴らの巣や卵ではあるまい。あれほどの速度で走る魔物だ、死を恐れ落石から逃れるなど造作もない事だろう。しかし、棺に手をかけた者だけを執拗に狙い、それ以外の者は威嚇程度に止める。普通であれば、その場にいた者を無差別に襲うのが道理ではなかろうか? ……何かがおかしい。
「……掘り返すぞ」
「え?」
俺の指示に、うなだれ涙目になっていたアラネアが顔を上げる。芯を持った冒険家が、何とも情けない顔だ。
「その【鉄の棺】とやらに興味が湧いた。お前達を襲ってきた魔物の正体につながる品が入っているかもしれん。これだけのドワーフの手があるのだ、瓦礫を掘り返すなどわけもないであろう?」
「それはそうだけど……この有様だと、中身が無事かどうかなんて……」
「ふん、冒険家よ。良い事を教えてやる。仕事は最後までやり遂げてこそ結果がわかるのだ。中途半端に仕事を投げ出してもらっては、雇用主としても評価し辛い。過程はどうあれ結果が曖昧である以上、道半ばで諦める事は許さんぞ。ましてや、その仕事を自身が誇りと思うのならな」
「……でも、いいのかい? 君はドワーフの皆が無事であればいいだけで、俺の冒険稼業とは全く別の目的だろう?」
「掘り返してくれと【今】依頼したのは俺だ。中身が無事かどうかわかれば俺はいい。あとの品はお前がどうとでもしろ、そこから先はお前の仕事だ。族長、申し訳ないが契約前に一仕事して貰ってもよろしいかな? 見合った報酬は渡す。無論、本題の契約とは別で出そう」
族長のジオはニイっと笑い親指を立て、ドワーフ達に瓦礫の撤去を指示し始める。短い腕で、身の丈と同じ大きさの岩や鉄の塊をほいほいと持ち上げ、近くの柱を中心として運び集めていく。魔物の死体も二人組で協力して運び、抱えきれない大きさは各々が携えている片手鎚で砕き削り、ペースを乱すことなく瓦礫は着々と撤去されいった。
腕を組み、その作業光景を見守る。女性も男性も怪力で、体力面にも差がないのはありがたい。男女全員が労働力としての価値があるということだ。族長は齢六・七十、ダグはこの面々の中では若い部類に入るだろう。ドワーフの年齢は外見上では非常に判別しづらい。まず若い者四・五人と玄人を一人、女性を二人と働く意欲がある者を一人か二人程度借り、街の工房を使わせてみるのがいいかもしれん。腕前を直接拝見し、人間の鍛冶や精錬技術との差を確かめる良い機会にもなる。
「……ありがとう。君はてっきり俺を嫌っているのかと思ったけど」
「はっ!! 魔物を信用はして無いことに変わりはない。ただお前に流れる人の血と、情けない姿に苛立っただけだ。人として、冒険家としてもっと野心を抱き、貪欲に生きるがいい」
「ツメイは魔物には優しくないしひねくれ者だけど、こう見えて意外といい奴だからどんどん集った方がいいよ」
「ティアーソン、余計なことは言わずお前も手伝ってこい」
「やだよ。俺はツメイの【刀】ではあるけど、【刀】は岩なんて持たないだろ?」
屁理屈で拒否するティアーソンとのやり取りを見てアラネアは小さく笑い、膝に付いた砂埃を払いながら立ち上がる。まったく、どいつもこいつも我儘で面倒な奴らだ。
「おおうぃっ!! 棺が見えて来たぞぉっ!!」
ダグが小さくなった岩山の隙間を覗きながら、こちらに手を振って伝えてくる。思ったより速いな。アラネアが報告を聞きつけ、意気揚々とドワーフ達の作業へ加わる。といっても、奴はドワーフ達のような怪力は持ち合わせていないので、人の頭ほどの石を両手で持ち上げて退かす、気休め程度の加勢だが。
「中には何が入ってるのかなぁ? 金銀財宝がぎっしりだったり?」
「さぁな。棺には死者でも入っていそうなものだが、古代人が考えることなど俺達に理解できんよ。ただ、魔物共が身を呈してまで守ろうとするものだ。無価値なものではあるまい」
「面白いもんだといいけどねぇ」
五分後。完全に【鉄の棺】が露出し、一同が周囲へ集まった。長方形の棺は魔物や瓦礫の下敷きになっていたのにもかかわらず、傷一つ付いてはいない。表面に文字が刻まれているが、我々の使う人語とは異なる造形文字。俺やドワーフ共にも解読は出来んだろうな。
「……脳……初期……神の――……ううん、やっぱり完全には読み取れない」
アラネアは手帳を見ながら刻まれた文字をなぞり翻訳を試みるが、部分的にしか読み取れないのか残念そうに首を左右へ振る。冒険家が解読困難ならば、その道に秀でた考古学者でもを呼ぶしかあるまい。
「棺に使われた素材は【鉄】……ではないのぅ。【隕石鋼】、【メテオライト】を加工して作られてもんじゃ」
「アタシ達の集落に、こんな綺麗に加工できる腕を持つ奴はいないよ。【隕石鋼】なんてまともに扱えるのは【竜人族】ぐらいさ」
「希少ではあるが、加工できなければ無価値も同然よの。じゃが、古代人に儂らの技術が負けるとは……悔しいのぅ」
「耐久性の高さ故よなぁ。あぁ……生きているうちに、こいつを使って鎧や武器を作りたいぞ」
「是非持ち出したい所じゃが、この大きさじゃ。【隕石鋼】の重量は純鉄や鉛よりも重い。集落の連中全員引っ張り出したとしても……引きずることすら難しいなぁ」
ドワーフ達は蓋や底の方をべたべたと手で直接触ったり、片手槌で軽く叩いて耐久性を確かめたりしている。【隕石鋼】か。なるほど、それならば鉄の魔物共や岩の下敷きになったとしても無傷のはずだ。
文字通り空から降り注ぐ【隕石】を加工した【希少金属】の一種であるが、これを加工素材として扱うのは【竜人族】の極一部。人間の【鍛冶屋】やドワーフ達の手に余る代物。俺の最先端技術を導入した工房へ持ち込めれば……いや、例え加工できたとしても、精巧に細部までこだわるのは困難か。
「そろそろいいかな? 俺が【魔術】で蓋をずらすから、みんな棺から離れてて。さっき魔物達に襲われる前に、棺の封印解錠は済ませてあるからね」
「ほう、【魔術】も扱えるとは以外だな」
「知り合いに胡散臭いけど頭だけはいい子がいるんだ。その子から教わったインチキ魔術を使えば、厳重な金庫も古代人が作った封印でも一発さ。さぁって――」
アラネアは棺の蓋と縁の境目を指でなぞり、ぐるりと一周回った所で蓋の上に右手をかざす。すると……境目が青く発光し、めりめりと重量感のある接着面を剥がす音と共に、蓋が少しずつ浮き上り始める。アラネアは汗を顔から垂らしながら歯を食いしばり、更に魔力を込め蓋を浮かせていく。
「ん、ぐぐっ……――ええぃっ!!」
完全に蓋が浮き上がったところで右腕を棺から払うようにずらし、蓋もそれに合わせて宙を動くと誰もいない空間へと飛び、石床を砕きながら落下した。
さて――棺の中身だが……これは……。
「子供、か?」
苦労して開けた棺の中では、金髪の小さな少年が清潔感のある白い上下の布服を身に着け、敷き詰められた白い花の上で眠るように横たわっていた。表情はとても安らかで生気のない肌の白さから、人形か防腐処理の施された死体だと推察する。足元には片手で持てるほどの大きさの黒い箱、腹の上で組んだ手には見たことのない鉄の道具が握られている。
「待って、こいつ……呼吸してないか?」
棺を覗き込んだティアーソンが身を乗り出して少年の顔の上へ手のひらをかざし、呼吸の有無を確かめる。
「……うん。こいつまだ生きてる」
「マジかっ!?」
アラネアの驚きの声にドワーフ達はざわつき、皆棺へ手をかけて覗き込む。……少年の腹部がかすかに上下に動いるのが見えた。確かに呼吸をしている。
「ありえん……」
俺の口からも衝撃のあまりに思考が漏れる。
ありえない。五千年以上も前の古代人だぞ? いくら長寿であったとしても、その間をどうやって生き永らえようか。神々が【地上界】を創生する前に生まれ、高度な文明を築きつつも神々の手によって上書きされ、根絶やしにされたと言われている古代人が。何故この【隕石鋼】で作られた棺の中で生きているのだ? これは大きな歴史的発見でもあるが、同時に一冒険家や貴族に扱えるものではないのではないかという考えが脳裏をよぎる。
「うん、ありえない。普通に考えたらね。でも、俺達の常識を覆す物が目の前にあるんだ、ツメイさん。けれど生きてるとは思わなかったなぁ。……てっきり遺体が埋葬されてるものかと」
「生きてる奴が棺に入ってたらどうすんだ?」
「……どうしようねぇ?」
ずれたシルクハットを定位置へ直しながら、アラネアはティアーソンの質問に疑問形で返す。それはそうだろう、前例のない【生きた古代人】の扱い方など……どうすればいいのだ?
「ん? ……なんじゃ、この音は?」
ジオの言葉に皆ざわつくのをやめ、耳を澄ます。『キーン』と甲高い音が、遠くから聴こえる。魔物の鳴き声にしては妙に無機質で、金属と金属をこすり合わせたような音が、徐々に近付いて来ている。もしや、また鉄の鎧を身に着けた魔物か? 棺を開放したことで、新たな魔物がこの古代人を守りに来たか。
「なんだかよくわからないけど、ここに居ちゃマズい気がする。……みんな、急いで遺跡から出よう。この子は……一旦置いていこうか」
「いいのかのぅ? 一応、【生きた人】であろう?」
「そうだね。でも、俺と族長さんが襲われたのはこの棺に直接手をかけたからさ。古代人である彼らの考えはよくわからないけど、この子を守るのが魔物達の使命なんだとしたら、迂闊に連れ出すと本当に地の果てまで追いかけられかねないよ。冒険家として、そこまでの責任を皆に押し付けるわけにはいかない。」
「う……それもそうじゃの。……流石に集落をあ奴らに荒らされてはかなわんし……」
アラネアの答えは的確だ。ジオが言葉を濁すのもわかるが、魔物達がこの古代人を守る為に危害を加える標的を徹底して狙うのならば、今はこれ以上関わらないのが正解であろう。
ティアーソンが棺で眠る少年の顔を見ながら、俺の服の裾を引っ張る。馬鹿者が、情に流されるな。
「駄目だ」
「なんでさ? だって生きてるんだよ? お供の魔物共はみんな死んだし、今来てる奴だって――」
遠くで聞こえていた金属音が一気に近付き、天井に空いた大きな穴から白い物体が一つ、俺達の傍に落下してきた。床へ直撃する寸前でふわりと浮き、足の裏から光を出し空中で静止する。ぱきぱきと音をたてて体を覆っていた六枚の翼を広げ、白い鎧を纏った人型が姿を現す。角のような物が二本、耳のあるべき部分から斜め上後ろへと伸び、目を覆う黒い装甲の下からは青く光る眼が二つ。胴が異様に細く、手足も人のそれより細い。
「――――――」
耳障りな音をどこからか出しながら、羽鎧の魔物はこちらへ【話しかける】。なにかを尋ねているようだが、人語のそれとは異なり、俺はその言語を理解できなかった。アラネアでさえ眉をひそめ、首をかしげている状態だ。皆警戒しながら出口の方へ退いていく……ティアーソンを除いて。
「おい、ティアーソン。勝手な真似をするな、退け」
「イヤだ。こいつからは殺気を感じる。何喋ってるかわからないけど……こいつは棺の中の奴を殺しに来たんだ」
ティアーソンは刀を鞘から引き抜き、羽鎧の魔物と棺の間へ立ち塞がるようにして構える。お前と言う奴は……どうしていつも主の命令を聞けぬのだ。
「――――――」
再び羽鎧の魔物は音を出し、明らかに立ち去るようティアーソンへ【警告】する。それでも馬鹿な従者は動かず、睨み続ける。動かないと判断したのか、羽鎧の眼が赤く輝き、籠手についていた筒状の物を取り外して底の方を叩く。すると拳二つ分の長さだった筒が伸び、剣のような形状へと変形した。
「――――――」
呟くと同時に飛翔し――ティアーソンを無視して棺の中の少年へ狙いを定め、剣を突き出す形で空中を蹴って突進する。自分が狙いでないと判断したティアーソンは棺を足場にして高く跳躍し、羽鎧を刀で床へと叩き落とそうとする――が、力が足りず、そのまま鎧に弾かれてしまった。
しかし、妨害によって僅かに軌道が逸れ、棺横の床へと進路が変わった。床へ剣が刺さる直前で籠手と足裏、翼から光を出して、羽鎧は再び宙へと舞い上がる。
柱の間を数回飛び抜け、羽鎧は再び棺の中の少年を狙うべく突進する。対してティアーソンも再び迎撃するために今度は跳躍を行わず、棺の縁に両足をかけて突進に備えた。突進してくる羽鎧の剣先を刀で打ち払い、更に追撃の一太刀を頭部へ当てるが効果は無く、ギリギリと嫌な音を出しながら羽鎧を横へと弾くだけに終わった。
「かったぁっ!? 鉄じゃねぇのかよぉっ!?」
あまりの衝撃で手が痺れたのか、ティアーソンは左手をプラプラとさせて感覚を戻そうとしていた。羽鎧は壁に激突する寸前に空中で静止し、天井ギリギリの高さまで上昇する。……これではきりがない。
羽鎧は棺の真上へと移動し剣先を下へ向け、そのまま少年を突き刺そうと落下する。ティアーソンも逸らせないと思ったのか、跳躍しながら目の装甲へ突きを繰り出した――が、力負けして弾かれ、魔物の剣は棺桶の中へと突き刺さった。
***
このままではティアーソンが押し負けると思った俺は瓦礫の山へと移動し、棺の中の少年へこっそりと糸を巻き付け、羽鎧が棺桶へと落下してくる三撃目に少年を引き寄せた。棺の縁に引っかかることなく俺の腕の中へ少年が来る――と同時に、羽鎧の剣は棺桶の中へと突き刺さる。
「ふぅ……危なかったぁ」
「アラネアっ!! 何をしているっ!? 魔物の狙いはそいつなのだぞっ!? 巻き込まれたくなければ――」
「この子へ危害を加えないなら、見逃すつもりだったさ。けどあの羽鎧は、歴史的価値のある古代人を壊そうとしてる。わかるかいツメイさん? 単純な破壊活動は、俺の【冒険家】としてのポリシーに大きく反することなんだよ。それに君は言っただろ? 最後まで仕事をやり遂げろってね」
「そういう意味では――」
ツメイが叫ぶと同時に、羽鎧は少年を抱えるこちらへと標的を変えたのか、棺から剣を引き抜いて再び飛翔する。まあ、そう来るよねぇ。俺はローグメルクやティルレットさんのように、まともに戦える術を持っちゃいない。精々できるとしたら、【蜘蛛の糸】で巣を張る程度さ。けれどね――
「――逃げ足だけは、誰よりも自信があるんだ」
空中を蹴るようにして、羽鎧が突っ込んできた。少年を小脇に抱えてるせいで右手は使えない。左手で糸を出し、天井へと付着させて跳ね上がり、突進突きを躱す。奴が上昇する前に背中の四本の足から更に糸を出し、逃げ回る為の【足場】を柱へ作っておく。
全て付着し終えると、下からものすごい速度で奴が上昇してきたので、【五本目の足】から出した糸を引き寄せて一気に前方の柱へと移動する。柱に両足と左手でしがみついて奴の方を確認すると、天井へ激突する寸前で再び空中で静止し、籠手や足裏、羽根から光を出し方向転換していた。
……原理はわからないけど、あの光が出ている部分が奴の飛行能力に関係しているらしいね。ひらひらパカパカしながら全身で方向転換しているのを見る限り、どれか一つでも欠けたらあいつまともに飛べないんじゃないかなぁ?
「……試してみる価値はあるよね」
シルクハットが飛ばないようしっかりと被り直し、正面の天井と床を利用して蜘蛛の巣を張る。動くタイミングに合わせ【三本目の足】の糸を引き、真横の柱へと移動する。進路予想や先読み等は行わないのか、羽鎧は素直に蜘蛛の巣を纏わりつかせながら柱の衝突直前で止まり、旋回運動を始めた。
「もう一・二回くらいかな?」
今度は正面へ二重に蜘蛛の巣を張り、相手が旋回を終えると同時に【六本目の足】の糸で柱に飛び移る準備をする。羽鎧が柱と柱の中間ぐらいの距離まで近付いたのを見定め、軌道修正され無いよう蜘蛛の巣を確実に絡ませながら糸を引き寄せ、回避をしていく。
柱に着地して羽鎧を確認する。奴は空中静止できずにそのまま柱へ突っ込み、更に奥の壁へ衝突する直前で両足先から出る光で辛うじて留まった。翼や籠手には糸が絡まり、ひらひらパカパカしていた部分は動かせなくなってしまったのだろう。だとすれば奴の推進力は足先のみ。完全に動きを封じたわけではないが、空中を自由に飛び回れない今がチャンスだ。
「ティアーソンっ!! 今だよっ!!」
「りょーかいっ!!」
崩れた柱を踏み台にして飛び、壁の突起を蹴って更に高く跳ね――ティアーソンは羽鎧のやや上から刀を振り下ろす。羽鎧も反応して剣で受け止めるが、空中が【足場】として利用できなくなったのは奴にとって致命的であり、踏ん張りがきかずにティアーソンに力負けして地面へ落下する。着地も上手くできなかったようで、羽鎧は床へそのまま叩きつけられた。
だが、羽鎧は衝撃や痛みなど意を介さぬかのようにそのまま立ち上がり、正面で剣を構えるティアーソンを無視してこちらに振り向き、滑るように走って来た。
「ぬぅううぅんっ!!」
その横から族長のジオが大斧で殴りかかり、胴体へ攻撃を受けた羽鎧は壁に激突する。ドワーフ達も奴へ攻撃できるチャンスをうかがっていたらしく、遺跡の出口方向から取り囲むようにして徐々に距離を詰めていた。空中へ軽やかに跳ねるような動きは無理だが、地上戦とならば力も数もあるドワーフ達の方が圧倒的に有利だ。
「囲め囲めっ!! 奴を逃がすなぁっ!!」
族長の指示がとび、包囲網を更に狭めながら埋まった右半身を壁から引き抜こうとともがく、羽鎧へ近付いていく。流石に勝負あったかな?
「――――――!!」
耳の鼓膜を突き破るような奇声を上げ、羽鎧の眼が赤から黄色へと変わる。そして――大きく開いた天井の穴から、まったく同じ姿の羽鎧が二人降りてくる。やっぱり複数いたのか、これはよくない。
「お、おいっ!? 上から別のが二匹降りて来たぞっ!? 早く迎撃しろっ!!」
「な、なんじゃとぉっ!?」
ツメイの悲鳴に近い叫びにドワーフ達が反応し、一斉に振り返って状況を視認する。
「――――――」
「――――――」
新たに来た羽鎧は壁に右半身を埋めた羽鎧と短い【会話】を交わし、二人の目の色が黄色から赤へと変わっていく。そして宙に浮いた二人は同時に籠手から棒状の部分を取り外し、一人目と同様にそれを剣の形へ変形させた。突進してくると先読みして目の前に二重の蜘蛛の巣を張り、動く瞬間を見計らって【四本目の足】から出した糸を付けた柱へ飛び移ろうと身構える。
だが――一人は俺が伸ばしておいた【四本目の足】の糸を剣で断ち、もう一人は地面すれすれの高さまで高度を落とて、その状態のまま蜘蛛の巣の下をくぐり抜けて来ようとしていた。マジか、こいつらただ同じ動作を繰り返す馬鹿じゃないぞ。
左手から蜘蛛の糸を巣の上の天井へと出し、接着と同時に引き寄せて突きを躱して、蜘蛛の巣を飛び越える形で背中の足を使い天井へ張り付く。とりあえずはこれで――
「――危ないっ!!」
もう一人の羽鎧が待ち伏せ、正面から迫っていたのをティアーソンが真下から飛び跳ね刀で迎撃する。その隙に天井から飛び降りて着地し、ドワーフ達が構えて固まっている場所へ逃げ込む。ティアーソンを弾き飛ばし、旋回をし終えた二人はドワーフ達の背後に隠れる俺と少年目掛けて突進する。しかし、近付いてきたところをダグのトマホークやジオの大斧、鋼鉄製の片手槌で一斉に攻撃され、床を跳ねながら柱へと激突した。
ツメイも慌ててドワーフ達の背後へ移動し隠れ、ティアーソンも隊列に加わり、皆固まって羽鎧達の出方を伺う。
「さぁてさて、これなら飛び込んで来れまいて」
「誰だか知らないが、こっちは生まれながらにして戦士で鍛冶屋。アタシら【ドワーフ族】を舐めんじゃないよぉっ!!」
二人の羽鎧は柱が崩れた瓦礫の山をガラガラと崩しながら抜け出し、周囲の砂埃を吹き飛ばしながら上昇を始める。逃げる気かな?
「――――――」
「――――――」
未だ抜け出せずにいる最初の羽鎧と短い【会話】を行い――上昇し続ける二人は、そのまま天井に空いた大穴から遺跡の外へと飛んで行ってしまった。
「に……逃げたのか?」
「そのようじゃな……じゃが――」
皆の視線は壁に半身が埋まり、見捨てられた羽鎧へ集中する。目の装甲下の光は青色に変わってもがくのを止め、俺達を見つめている。
「じゃがあいつはどうする? ロクに口もきけんし、儂らがどれだけ殴りかかろうと傷一つ与えられん頑丈さ。色こそ白いが、奴の鎧も【隕石鋼】じゃなぁ。……引き抜いて捕らえるのも難しいのぅ」
ジオが警戒しながら近付き、羽鎧の数歩手前で立ち止まって髭を撫でながら観察する。そもそも魔物なのか? 生き物のそれとはかけ離れた体型に【隕石鋼】の身体。痛みや衝撃をものともせず狙い澄ました攻撃を行い続け、翼によく似た羽で宙を舞う。それら全てを兼ね備えた魔物なんて聞いたことがないよ。
「――――――」
何かこちらに伝えようと羽鎧は話すが【古代語】なのか、高音のそれをこの場にいる者は理解することができない。俺も文字の翻訳は多少できるけど、【古代語】を音として聞くのは初めてだ。あるいは、俺に抱えられたこの子なら? ……【古代人】の少年は浅く呼吸をし、眠り続けている。
「魔物はこの場へ縫い付けておく方が賢明だろう。だがアラネア、その少年はどうする。恐らくあの羽鎧の魔物共は再び狙いに来るぞ。先に言っておくが、俺やドワーフの集落はあてにするな。これ以上、厄介事を抱え込むのは御免だからな」
「ちょっとツメイっ!? なんでさぁっ!?」
「当然だ。俺はドワーフ達を労働力として取引をしに来たのだ。危険にさらすわけにはいかない」
「なら家で引き取ればいいじゃんかっ!! 金だって沢山あるし王都にも近い、こいつを守るなら俺もいるし――」
「馬鹿がっ!! 犬猫を飼うのとは違うのだぞっ!? お前の刀でも斬れん奴ら相手に、俺の領地へ徒党を組んで攻め込まれたりしてみろっ!! 少年や俺の身も含め、全部をどうにかできるのかっ!?」
「ぬうううぅ……わからず屋めぇっ!!」
ティアーソンは子猿のようにツメイの頭へ飛びつき、取っ組み合いを始める。俺は少年を一旦ドワーフの婦人に預け、二人のケンカを仲裁に入る。仲がいいのは結構だけど、お互い困った従者と貴族様だ。
「まあまあ、二人とも落ち着いて。俺はどっちの意見も正しいと思うし、ドワーフの皆さんを巻き込みたくないって気持ちは同じだよ。少年に関してはこっちで引き取るから、安心してもらっていいよ。俺の隠れ家は安全なことが売りだからさっ!!」
どうにか二人を引きはがし、涙目になり鼻水を垂らして興奮するティアーソンをなだめる。この歳で貴族の従者となるくらいだ、何かしら【彼女】にも感情的になる理由があるのだろうね。似たような境遇とか。
「ちっ、山猿がっ!! 戻るぞ族長っ!! 取引の話をするとしようっ!!」
引っ掻き傷を頬や鼻の頭へ付けたツメイは背中が砂まみれのまま、一人で出口へと向かって歩き出す。ドワーフ達も困ったような表情を浮かべ、族長の指示を待っているようだった。うーん、これはしょうがないよねぇ。
「すみません、俺のせいで迷惑かけちゃったみたいで……」
「何を言うか、儂らも儂らで面白い物を見せてもらった。こっちはかすり傷に腹が減った程度じゃ、身を呈して幼い少年を守り抜いたお主らを咎める理由などあろうか」
「んだんだ。オイラ達は生まれながらの戦士で鍛冶屋。空飛ぶもんにゃ手も足もでねぇども、あんたら二人の飛んで跳ねる戦い方は大したもんだぁ。女子供を守る為に戦うのは戦士の誉れよなぁ? 誰も悪くねぇよぉ」
ジオとダグもにっかりと笑い、ドワーフの婦人に抱かれて眠る少年の頭を優しくなでる。ドワーフ族は情に厚い一面があることでも有名だが、ツメイの言う通り彼らに甘えたとしても、再び羽鎧達は古代人の少年を殺害するべく、何度でも集落を襲うだろう。今回は三人で頭打ちだったからよかったものの、これが十・二十となったらここのドワーフ族だけで迎撃は厳しい。
ティアーソンは鼻水と涙を服の袖で拭い、俺のスーツの端を引く。
「アラネア……あんたはそいつを、見捨てたりしないよな?」
彼女は不安げな声で尋ねる。やはり少年と自身をどこか重ねているのかもしれない。俺は笑って彼女の目線に合わせてしゃがみ、頭を撫でる。
「見捨てるもんか。冒険家としても、魔物混じりとしても、この子が死ぬのを俺は望んでないからね。ツメイさんもそうさ。口では厳しいことを言ってはいるけど、君やドワーフの皆を思っての苦渋の判断だろう。彼は確かに冷たいけど、彼にも彼なりの理由があるんだ。そこだけは胸に留めておいて欲しい。……今はまだわからないかもしれないけどさ」
「……うん。男同士の約束だな」
「君は女の子だろう?」
「女だけど男だよ」
「アッハッハッ、滅茶苦茶だなぁっ!!」
ドワーフの婦人から少年を受け取り、糸でおんぶ紐を作って背負う。これなら普通のおんぶや抱っこと違って、長距離の移動でも手が疲れない。少年の体重が軽くて良かったよ。
「じゃあ、落ち着いたらまた来ます。調査したいこともまだありますし」
「うむ、土産の一つでも渡せんで済まんな」
「まぁ、どうしようもなくなったらオイラ達を頼ってくんなぁ。【古代人】だろうが人の子一人ぐらい、オイラ達でも守れらぁ」
「ありがとうございます」
シルクハットを取り、ドワーフ達へ軽くお辞儀をしてティアーソンへ手を振る。そして……振り返って羽鎧へ近付き、目を合わせて別れの挨拶をする。
良かれという行為だが、所詮は俺達の感情論と価値観。理由があって少年を殺そうとする彼らとは違って、正当性がない身勝手な理由なんだ。彼らにも感情があるかどうかはわからないし、言葉もまともに通じないが、同じ【地上界】に生きる者として、彼らへ敬意を払って謝罪をしなければならない。
「すみません。あなた達の理由は俺達にはわかりませんが、目の前で誰かを殺されるのを見過ごせるほど、俺達は心を捨てきれませんでした。また今度会いに来ますので、その時までこの子を大切に預からせていただきます。身勝手なのはわかってますが……伝えておきます」
「――――――」
やはり聞き取れない言語だが、目は俺達に会話を試みた時の青いままで、怒っているわけではないようだ。一応、通じたのかな?
彼にも一礼をして、遺跡の出口へと歩いて向かう。日はまだ高いけど、スピカ嬢の領地へ行くにしては少し遠くて、日没には間に合わないか。野営も俺一人じゃないから危ないし……たまには【天使】の力でも貸していただこうかなぁ。
「うわぁ、派手に壊してくれたなぁあの魔物。扉を開けるって知能がないのかな。この辺りの遺跡は【トレハン】共にも荒らされてない、貴重な歴史的資料なのに……」
アラネアはぶつぶつと呟きながら散乱した扉の残骸を拾い集め、遺跡入り口の脇へと寄せていく。大斧を担いだ族長のジオと鉄鎧と盾、背中にトマホークを背負い武装したダグの二人は、天井に穴が空き、所々から日光が差し込む遺跡の中へと慎重に入って行った。音や動く気配はしないが、例の魔物やドワーフ達はまだ中にいるのだろうか?
入り口から少し入った地点でティアーソンは壁の模様を手でなぞり、興味深そうに周囲を見回す。
「岩山を削って作ったのかな。でも壁から蔦や木の根が生えてるし、ヒビまで入ってらぁ」
「恐らく五千年以上前の遺跡だからねぇ。当時は問題なかったかもだけど、経年劣化や木々の浸食で壁も床も天井までボロボロ。支柱もぐらついてたし、あと数回地震が起きたら崩れちゃうよ。そうなっちゃう前に、たまたま付近に住んでいたドワーフ族の皆さんに協力していただいて、この遺跡の調査をしたかったんだけど――」
「――それであの魔物達に襲われたのか?」
残骸を寄せ終わったアラネアは質問に頷き、砂埃の付いた手をはたきながら遺跡の中へと足を踏み入れる。この男、武器や遺跡調査の道具も持たず身一つ。魔物混じりがどれほど高い身体能力を持つか知らんが、いささか慢心し過ぎでは? そのためにドワーフ達を雇ったのかもしれないが。
「我が身一つで遺跡巡りとは感心しないな。こういった事態へ備え、武装や探索道具を一式携行するべきだろう。それとも、冒険家とは皆そういうものなのか?」
「いやぁ、手ぶらで一人だから身軽に逃げられるんだ。遺跡は何が死に繋がるかわかったもんじゃない。落とし穴は天井を這って進めばいいし、高い所に登ったり降りたりするなら【蜘蛛の糸】を使えばいいだけだしね。暗くても額の目は夜目が効くし。必要なのは動きやすいスーツとその内ポケットに入れた手帳とペン、歩き易い革靴と冒険心。他に何か必要かい?」
「……冒険家にとっては、遺跡の冒険も【散歩】にすぎないか」
「まさか。冒険家は過去を手繰り寄せて歴史を記録し、歴史的価値はないけど再利用できそうな物は信頼できる古物商へ売って、古代人が大切にしてたであろう物は然るべき場所へ運び弔う。俺だっていつもここに居られるワケじゃない。【トレハン】共は平気で遺跡を荒らすし、古代人の死体や歴史的価値のある遺物を壊すし売り払う。だから内部調査も兼ねて、近くに住んでいたドワーフ族に同行をお願いしたのさ。彼らが目を光らせていれば、【トレハン】共も寄り付かないしね。遺跡や秘境巡りは危険も伴うしワクワクもするけど、皆が命を懸けている職業を【散歩】と呼んで欲しくないかな」
俺とティアーソンの前を歩く奴は一切振り返らなかったが、至極まっとうで真っ直ぐな言葉を突き返す。その言葉に怒りや皮肉の感情は無く、飄々としながらも自分の芯を強く持つ、魔物混じりの冒険家が貫く生き方を感じた。遊び半分で俺の財産になるドワーフ共をこき使ったのだとしたら訴訟も辞さない考えだったが、それが彼らの仕事でドワーフ側も承諾したなら仕方あるまい。
アラネアは見た目こそ魔物に近いが、内面は知性も理性もある人間寄りの存在だとわかり、腰に携えた剣の柄から手を放して警戒を緩める。
「ツメイは心配性だなぁ。あいつはいい奴だよ」
「ふん。言葉巧みな詐欺師や賊など世にごまんといる。信用するべきかどうか推し量らなければ、お前のような間抜けは簡単に騙されるぞ」
隣を歩くティアーソンは最初から全て察していたのか、ニヤけながら俺の顔を見る。
魔物は魔物、躾のできない獣畜生と何が変わろうか。奴らは人間やドワーフなどの種族の括りはなく、世界を消費し続けるだけの生産性の無い【淀み】。労働力と使うとしては小賢しく、中途半端な知性と抑えの利かない本能で行動し、あらゆる存在へ牙をむく。
奴にも同じ血が流れている。どれだけ良心を持っていようとも、奴へ完全に気を許すつもりはない。ただ、今奴との関係をこじらせると、労働力となるドワーフ共にも影響が出る。強引な懐柔や不満は生産性を下げる要因にもなりうる悪手。業腹だが、この場はある程度奴へ合わせてやるべきか。
考えを巡らせながらアラネア、ティアーソンと共に薄暗い一本道の通路を進んでいると、陽光が降り注ぐ大きな空間に出る。天井が崩落したであろう瓦礫の傍にはドワーフ達が七・八人で固まっており、その輪の中には先行していた族長のジオとダグの姿もあった。軽武装のドワーフ達は皆すり傷と切り傷を身体に作っていたが、大事に至る者は見受けられない。
「おぉ、来たかぁ。オイラ達の出る幕は無かったみたいだぜ。あの妙な魔物はみんな瓦礫の下敷きだとよぉ。マヌケな奴らだなぁ」
ダグは瓦礫へ腰かけ、歩いて近付く俺達に手を振る。族長の様子をみる限り全員揃っているらしく、天井を指さして状況説明を行う団子頭の女ドワーフの話を興味深げに聞いていた。一先ず、俺の財産は魔物達の脅威から守られた。全く、手間をかけさせてくれる。
「……ん? 天井が落ちたってことは……あの【鉄の棺】もこの下に埋もれてるのかいっ!?」
ほっと安堵の表情を浮かべていたアラネアが、突如大声を上げ慌てて走り出し、族長へ説明を行っていた女ドワーフへと詰め寄る。
「あ? あぁ、あんたが中身を確認しようとしていた鉄の箱かい? あいつらはそいつを囲うようにして守ってたからねぇ。開けようとしたあんたと族長は狙われたみたいだが、周りさいたアタシらは引っ掻かれたりする程度で、すぐにみんな離れたら向こうから襲ってくるようなことはなかったのさぁ。さぁどうしたものかと考えてたら天井が崩れてまとめて下敷きだ。いったいなんなんだいこいつらは……」
「皆目見当つかんが……魔物達は棺を守るよう躾られてたんだろう。儂とアラネアが遺跡の扉を開ける要領で、強引にこじ開けようとしたのがマズかったのやもしれんなぁ」
「そんなぁ……歴史的資料がぁ……」
アラネアは報告を聞き、がっくりとその場へ膝をつく。ジオは瓦礫の下からはみ出た一本の錆びた脚を見つめながら、複雑な表情を浮かべている。
魔物が躾けられて物に固執する? 種を守る為、本能で親が子を守る話は珍しくないが、まさか【鉄の棺】が奴らの巣や卵ではあるまい。あれほどの速度で走る魔物だ、死を恐れ落石から逃れるなど造作もない事だろう。しかし、棺に手をかけた者だけを執拗に狙い、それ以外の者は威嚇程度に止める。普通であれば、その場にいた者を無差別に襲うのが道理ではなかろうか? ……何かがおかしい。
「……掘り返すぞ」
「え?」
俺の指示に、うなだれ涙目になっていたアラネアが顔を上げる。芯を持った冒険家が、何とも情けない顔だ。
「その【鉄の棺】とやらに興味が湧いた。お前達を襲ってきた魔物の正体につながる品が入っているかもしれん。これだけのドワーフの手があるのだ、瓦礫を掘り返すなどわけもないであろう?」
「それはそうだけど……この有様だと、中身が無事かどうかなんて……」
「ふん、冒険家よ。良い事を教えてやる。仕事は最後までやり遂げてこそ結果がわかるのだ。中途半端に仕事を投げ出してもらっては、雇用主としても評価し辛い。過程はどうあれ結果が曖昧である以上、道半ばで諦める事は許さんぞ。ましてや、その仕事を自身が誇りと思うのならな」
「……でも、いいのかい? 君はドワーフの皆が無事であればいいだけで、俺の冒険稼業とは全く別の目的だろう?」
「掘り返してくれと【今】依頼したのは俺だ。中身が無事かどうかわかれば俺はいい。あとの品はお前がどうとでもしろ、そこから先はお前の仕事だ。族長、申し訳ないが契約前に一仕事して貰ってもよろしいかな? 見合った報酬は渡す。無論、本題の契約とは別で出そう」
族長のジオはニイっと笑い親指を立て、ドワーフ達に瓦礫の撤去を指示し始める。短い腕で、身の丈と同じ大きさの岩や鉄の塊をほいほいと持ち上げ、近くの柱を中心として運び集めていく。魔物の死体も二人組で協力して運び、抱えきれない大きさは各々が携えている片手鎚で砕き削り、ペースを乱すことなく瓦礫は着々と撤去されいった。
腕を組み、その作業光景を見守る。女性も男性も怪力で、体力面にも差がないのはありがたい。男女全員が労働力としての価値があるということだ。族長は齢六・七十、ダグはこの面々の中では若い部類に入るだろう。ドワーフの年齢は外見上では非常に判別しづらい。まず若い者四・五人と玄人を一人、女性を二人と働く意欲がある者を一人か二人程度借り、街の工房を使わせてみるのがいいかもしれん。腕前を直接拝見し、人間の鍛冶や精錬技術との差を確かめる良い機会にもなる。
「……ありがとう。君はてっきり俺を嫌っているのかと思ったけど」
「はっ!! 魔物を信用はして無いことに変わりはない。ただお前に流れる人の血と、情けない姿に苛立っただけだ。人として、冒険家としてもっと野心を抱き、貪欲に生きるがいい」
「ツメイは魔物には優しくないしひねくれ者だけど、こう見えて意外といい奴だからどんどん集った方がいいよ」
「ティアーソン、余計なことは言わずお前も手伝ってこい」
「やだよ。俺はツメイの【刀】ではあるけど、【刀】は岩なんて持たないだろ?」
屁理屈で拒否するティアーソンとのやり取りを見てアラネアは小さく笑い、膝に付いた砂埃を払いながら立ち上がる。まったく、どいつもこいつも我儘で面倒な奴らだ。
「おおうぃっ!! 棺が見えて来たぞぉっ!!」
ダグが小さくなった岩山の隙間を覗きながら、こちらに手を振って伝えてくる。思ったより速いな。アラネアが報告を聞きつけ、意気揚々とドワーフ達の作業へ加わる。といっても、奴はドワーフ達のような怪力は持ち合わせていないので、人の頭ほどの石を両手で持ち上げて退かす、気休め程度の加勢だが。
「中には何が入ってるのかなぁ? 金銀財宝がぎっしりだったり?」
「さぁな。棺には死者でも入っていそうなものだが、古代人が考えることなど俺達に理解できんよ。ただ、魔物共が身を呈してまで守ろうとするものだ。無価値なものではあるまい」
「面白いもんだといいけどねぇ」
五分後。完全に【鉄の棺】が露出し、一同が周囲へ集まった。長方形の棺は魔物や瓦礫の下敷きになっていたのにもかかわらず、傷一つ付いてはいない。表面に文字が刻まれているが、我々の使う人語とは異なる造形文字。俺やドワーフ共にも解読は出来んだろうな。
「……脳……初期……神の――……ううん、やっぱり完全には読み取れない」
アラネアは手帳を見ながら刻まれた文字をなぞり翻訳を試みるが、部分的にしか読み取れないのか残念そうに首を左右へ振る。冒険家が解読困難ならば、その道に秀でた考古学者でもを呼ぶしかあるまい。
「棺に使われた素材は【鉄】……ではないのぅ。【隕石鋼】、【メテオライト】を加工して作られてもんじゃ」
「アタシ達の集落に、こんな綺麗に加工できる腕を持つ奴はいないよ。【隕石鋼】なんてまともに扱えるのは【竜人族】ぐらいさ」
「希少ではあるが、加工できなければ無価値も同然よの。じゃが、古代人に儂らの技術が負けるとは……悔しいのぅ」
「耐久性の高さ故よなぁ。あぁ……生きているうちに、こいつを使って鎧や武器を作りたいぞ」
「是非持ち出したい所じゃが、この大きさじゃ。【隕石鋼】の重量は純鉄や鉛よりも重い。集落の連中全員引っ張り出したとしても……引きずることすら難しいなぁ」
ドワーフ達は蓋や底の方をべたべたと手で直接触ったり、片手槌で軽く叩いて耐久性を確かめたりしている。【隕石鋼】か。なるほど、それならば鉄の魔物共や岩の下敷きになったとしても無傷のはずだ。
文字通り空から降り注ぐ【隕石】を加工した【希少金属】の一種であるが、これを加工素材として扱うのは【竜人族】の極一部。人間の【鍛冶屋】やドワーフ達の手に余る代物。俺の最先端技術を導入した工房へ持ち込めれば……いや、例え加工できたとしても、精巧に細部までこだわるのは困難か。
「そろそろいいかな? 俺が【魔術】で蓋をずらすから、みんな棺から離れてて。さっき魔物達に襲われる前に、棺の封印解錠は済ませてあるからね」
「ほう、【魔術】も扱えるとは以外だな」
「知り合いに胡散臭いけど頭だけはいい子がいるんだ。その子から教わったインチキ魔術を使えば、厳重な金庫も古代人が作った封印でも一発さ。さぁって――」
アラネアは棺の蓋と縁の境目を指でなぞり、ぐるりと一周回った所で蓋の上に右手をかざす。すると……境目が青く発光し、めりめりと重量感のある接着面を剥がす音と共に、蓋が少しずつ浮き上り始める。アラネアは汗を顔から垂らしながら歯を食いしばり、更に魔力を込め蓋を浮かせていく。
「ん、ぐぐっ……――ええぃっ!!」
完全に蓋が浮き上がったところで右腕を棺から払うようにずらし、蓋もそれに合わせて宙を動くと誰もいない空間へと飛び、石床を砕きながら落下した。
さて――棺の中身だが……これは……。
「子供、か?」
苦労して開けた棺の中では、金髪の小さな少年が清潔感のある白い上下の布服を身に着け、敷き詰められた白い花の上で眠るように横たわっていた。表情はとても安らかで生気のない肌の白さから、人形か防腐処理の施された死体だと推察する。足元には片手で持てるほどの大きさの黒い箱、腹の上で組んだ手には見たことのない鉄の道具が握られている。
「待って、こいつ……呼吸してないか?」
棺を覗き込んだティアーソンが身を乗り出して少年の顔の上へ手のひらをかざし、呼吸の有無を確かめる。
「……うん。こいつまだ生きてる」
「マジかっ!?」
アラネアの驚きの声にドワーフ達はざわつき、皆棺へ手をかけて覗き込む。……少年の腹部がかすかに上下に動いるのが見えた。確かに呼吸をしている。
「ありえん……」
俺の口からも衝撃のあまりに思考が漏れる。
ありえない。五千年以上も前の古代人だぞ? いくら長寿であったとしても、その間をどうやって生き永らえようか。神々が【地上界】を創生する前に生まれ、高度な文明を築きつつも神々の手によって上書きされ、根絶やしにされたと言われている古代人が。何故この【隕石鋼】で作られた棺の中で生きているのだ? これは大きな歴史的発見でもあるが、同時に一冒険家や貴族に扱えるものではないのではないかという考えが脳裏をよぎる。
「うん、ありえない。普通に考えたらね。でも、俺達の常識を覆す物が目の前にあるんだ、ツメイさん。けれど生きてるとは思わなかったなぁ。……てっきり遺体が埋葬されてるものかと」
「生きてる奴が棺に入ってたらどうすんだ?」
「……どうしようねぇ?」
ずれたシルクハットを定位置へ直しながら、アラネアはティアーソンの質問に疑問形で返す。それはそうだろう、前例のない【生きた古代人】の扱い方など……どうすればいいのだ?
「ん? ……なんじゃ、この音は?」
ジオの言葉に皆ざわつくのをやめ、耳を澄ます。『キーン』と甲高い音が、遠くから聴こえる。魔物の鳴き声にしては妙に無機質で、金属と金属をこすり合わせたような音が、徐々に近付いて来ている。もしや、また鉄の鎧を身に着けた魔物か? 棺を開放したことで、新たな魔物がこの古代人を守りに来たか。
「なんだかよくわからないけど、ここに居ちゃマズい気がする。……みんな、急いで遺跡から出よう。この子は……一旦置いていこうか」
「いいのかのぅ? 一応、【生きた人】であろう?」
「そうだね。でも、俺と族長さんが襲われたのはこの棺に直接手をかけたからさ。古代人である彼らの考えはよくわからないけど、この子を守るのが魔物達の使命なんだとしたら、迂闊に連れ出すと本当に地の果てまで追いかけられかねないよ。冒険家として、そこまでの責任を皆に押し付けるわけにはいかない。」
「う……それもそうじゃの。……流石に集落をあ奴らに荒らされてはかなわんし……」
アラネアの答えは的確だ。ジオが言葉を濁すのもわかるが、魔物達がこの古代人を守る為に危害を加える標的を徹底して狙うのならば、今はこれ以上関わらないのが正解であろう。
ティアーソンが棺で眠る少年の顔を見ながら、俺の服の裾を引っ張る。馬鹿者が、情に流されるな。
「駄目だ」
「なんでさ? だって生きてるんだよ? お供の魔物共はみんな死んだし、今来てる奴だって――」
遠くで聞こえていた金属音が一気に近付き、天井に空いた大きな穴から白い物体が一つ、俺達の傍に落下してきた。床へ直撃する寸前でふわりと浮き、足の裏から光を出し空中で静止する。ぱきぱきと音をたてて体を覆っていた六枚の翼を広げ、白い鎧を纏った人型が姿を現す。角のような物が二本、耳のあるべき部分から斜め上後ろへと伸び、目を覆う黒い装甲の下からは青く光る眼が二つ。胴が異様に細く、手足も人のそれより細い。
「――――――」
耳障りな音をどこからか出しながら、羽鎧の魔物はこちらへ【話しかける】。なにかを尋ねているようだが、人語のそれとは異なり、俺はその言語を理解できなかった。アラネアでさえ眉をひそめ、首をかしげている状態だ。皆警戒しながら出口の方へ退いていく……ティアーソンを除いて。
「おい、ティアーソン。勝手な真似をするな、退け」
「イヤだ。こいつからは殺気を感じる。何喋ってるかわからないけど……こいつは棺の中の奴を殺しに来たんだ」
ティアーソンは刀を鞘から引き抜き、羽鎧の魔物と棺の間へ立ち塞がるようにして構える。お前と言う奴は……どうしていつも主の命令を聞けぬのだ。
「――――――」
再び羽鎧の魔物は音を出し、明らかに立ち去るようティアーソンへ【警告】する。それでも馬鹿な従者は動かず、睨み続ける。動かないと判断したのか、羽鎧の眼が赤く輝き、籠手についていた筒状の物を取り外して底の方を叩く。すると拳二つ分の長さだった筒が伸び、剣のような形状へと変形した。
「――――――」
呟くと同時に飛翔し――ティアーソンを無視して棺の中の少年へ狙いを定め、剣を突き出す形で空中を蹴って突進する。自分が狙いでないと判断したティアーソンは棺を足場にして高く跳躍し、羽鎧を刀で床へと叩き落とそうとする――が、力が足りず、そのまま鎧に弾かれてしまった。
しかし、妨害によって僅かに軌道が逸れ、棺横の床へと進路が変わった。床へ剣が刺さる直前で籠手と足裏、翼から光を出して、羽鎧は再び宙へと舞い上がる。
柱の間を数回飛び抜け、羽鎧は再び棺の中の少年を狙うべく突進する。対してティアーソンも再び迎撃するために今度は跳躍を行わず、棺の縁に両足をかけて突進に備えた。突進してくる羽鎧の剣先を刀で打ち払い、更に追撃の一太刀を頭部へ当てるが効果は無く、ギリギリと嫌な音を出しながら羽鎧を横へと弾くだけに終わった。
「かったぁっ!? 鉄じゃねぇのかよぉっ!?」
あまりの衝撃で手が痺れたのか、ティアーソンは左手をプラプラとさせて感覚を戻そうとしていた。羽鎧は壁に激突する寸前に空中で静止し、天井ギリギリの高さまで上昇する。……これではきりがない。
羽鎧は棺の真上へと移動し剣先を下へ向け、そのまま少年を突き刺そうと落下する。ティアーソンも逸らせないと思ったのか、跳躍しながら目の装甲へ突きを繰り出した――が、力負けして弾かれ、魔物の剣は棺桶の中へと突き刺さった。
***
このままではティアーソンが押し負けると思った俺は瓦礫の山へと移動し、棺の中の少年へこっそりと糸を巻き付け、羽鎧が棺桶へと落下してくる三撃目に少年を引き寄せた。棺の縁に引っかかることなく俺の腕の中へ少年が来る――と同時に、羽鎧の剣は棺桶の中へと突き刺さる。
「ふぅ……危なかったぁ」
「アラネアっ!! 何をしているっ!? 魔物の狙いはそいつなのだぞっ!? 巻き込まれたくなければ――」
「この子へ危害を加えないなら、見逃すつもりだったさ。けどあの羽鎧は、歴史的価値のある古代人を壊そうとしてる。わかるかいツメイさん? 単純な破壊活動は、俺の【冒険家】としてのポリシーに大きく反することなんだよ。それに君は言っただろ? 最後まで仕事をやり遂げろってね」
「そういう意味では――」
ツメイが叫ぶと同時に、羽鎧は少年を抱えるこちらへと標的を変えたのか、棺から剣を引き抜いて再び飛翔する。まあ、そう来るよねぇ。俺はローグメルクやティルレットさんのように、まともに戦える術を持っちゃいない。精々できるとしたら、【蜘蛛の糸】で巣を張る程度さ。けれどね――
「――逃げ足だけは、誰よりも自信があるんだ」
空中を蹴るようにして、羽鎧が突っ込んできた。少年を小脇に抱えてるせいで右手は使えない。左手で糸を出し、天井へと付着させて跳ね上がり、突進突きを躱す。奴が上昇する前に背中の四本の足から更に糸を出し、逃げ回る為の【足場】を柱へ作っておく。
全て付着し終えると、下からものすごい速度で奴が上昇してきたので、【五本目の足】から出した糸を引き寄せて一気に前方の柱へと移動する。柱に両足と左手でしがみついて奴の方を確認すると、天井へ激突する寸前で再び空中で静止し、籠手や足裏、羽根から光を出し方向転換していた。
……原理はわからないけど、あの光が出ている部分が奴の飛行能力に関係しているらしいね。ひらひらパカパカしながら全身で方向転換しているのを見る限り、どれか一つでも欠けたらあいつまともに飛べないんじゃないかなぁ?
「……試してみる価値はあるよね」
シルクハットが飛ばないようしっかりと被り直し、正面の天井と床を利用して蜘蛛の巣を張る。動くタイミングに合わせ【三本目の足】の糸を引き、真横の柱へと移動する。進路予想や先読み等は行わないのか、羽鎧は素直に蜘蛛の巣を纏わりつかせながら柱の衝突直前で止まり、旋回運動を始めた。
「もう一・二回くらいかな?」
今度は正面へ二重に蜘蛛の巣を張り、相手が旋回を終えると同時に【六本目の足】の糸で柱に飛び移る準備をする。羽鎧が柱と柱の中間ぐらいの距離まで近付いたのを見定め、軌道修正され無いよう蜘蛛の巣を確実に絡ませながら糸を引き寄せ、回避をしていく。
柱に着地して羽鎧を確認する。奴は空中静止できずにそのまま柱へ突っ込み、更に奥の壁へ衝突する直前で両足先から出る光で辛うじて留まった。翼や籠手には糸が絡まり、ひらひらパカパカしていた部分は動かせなくなってしまったのだろう。だとすれば奴の推進力は足先のみ。完全に動きを封じたわけではないが、空中を自由に飛び回れない今がチャンスだ。
「ティアーソンっ!! 今だよっ!!」
「りょーかいっ!!」
崩れた柱を踏み台にして飛び、壁の突起を蹴って更に高く跳ね――ティアーソンは羽鎧のやや上から刀を振り下ろす。羽鎧も反応して剣で受け止めるが、空中が【足場】として利用できなくなったのは奴にとって致命的であり、踏ん張りがきかずにティアーソンに力負けして地面へ落下する。着地も上手くできなかったようで、羽鎧は床へそのまま叩きつけられた。
だが、羽鎧は衝撃や痛みなど意を介さぬかのようにそのまま立ち上がり、正面で剣を構えるティアーソンを無視してこちらに振り向き、滑るように走って来た。
「ぬぅううぅんっ!!」
その横から族長のジオが大斧で殴りかかり、胴体へ攻撃を受けた羽鎧は壁に激突する。ドワーフ達も奴へ攻撃できるチャンスをうかがっていたらしく、遺跡の出口方向から取り囲むようにして徐々に距離を詰めていた。空中へ軽やかに跳ねるような動きは無理だが、地上戦とならば力も数もあるドワーフ達の方が圧倒的に有利だ。
「囲め囲めっ!! 奴を逃がすなぁっ!!」
族長の指示がとび、包囲網を更に狭めながら埋まった右半身を壁から引き抜こうとともがく、羽鎧へ近付いていく。流石に勝負あったかな?
「――――――!!」
耳の鼓膜を突き破るような奇声を上げ、羽鎧の眼が赤から黄色へと変わる。そして――大きく開いた天井の穴から、まったく同じ姿の羽鎧が二人降りてくる。やっぱり複数いたのか、これはよくない。
「お、おいっ!? 上から別のが二匹降りて来たぞっ!? 早く迎撃しろっ!!」
「な、なんじゃとぉっ!?」
ツメイの悲鳴に近い叫びにドワーフ達が反応し、一斉に振り返って状況を視認する。
「――――――」
「――――――」
新たに来た羽鎧は壁に右半身を埋めた羽鎧と短い【会話】を交わし、二人の目の色が黄色から赤へと変わっていく。そして宙に浮いた二人は同時に籠手から棒状の部分を取り外し、一人目と同様にそれを剣の形へ変形させた。突進してくると先読みして目の前に二重の蜘蛛の巣を張り、動く瞬間を見計らって【四本目の足】から出した糸を付けた柱へ飛び移ろうと身構える。
だが――一人は俺が伸ばしておいた【四本目の足】の糸を剣で断ち、もう一人は地面すれすれの高さまで高度を落とて、その状態のまま蜘蛛の巣の下をくぐり抜けて来ようとしていた。マジか、こいつらただ同じ動作を繰り返す馬鹿じゃないぞ。
左手から蜘蛛の糸を巣の上の天井へと出し、接着と同時に引き寄せて突きを躱して、蜘蛛の巣を飛び越える形で背中の足を使い天井へ張り付く。とりあえずはこれで――
「――危ないっ!!」
もう一人の羽鎧が待ち伏せ、正面から迫っていたのをティアーソンが真下から飛び跳ね刀で迎撃する。その隙に天井から飛び降りて着地し、ドワーフ達が構えて固まっている場所へ逃げ込む。ティアーソンを弾き飛ばし、旋回をし終えた二人はドワーフ達の背後に隠れる俺と少年目掛けて突進する。しかし、近付いてきたところをダグのトマホークやジオの大斧、鋼鉄製の片手槌で一斉に攻撃され、床を跳ねながら柱へと激突した。
ツメイも慌ててドワーフ達の背後へ移動し隠れ、ティアーソンも隊列に加わり、皆固まって羽鎧達の出方を伺う。
「さぁてさて、これなら飛び込んで来れまいて」
「誰だか知らないが、こっちは生まれながらにして戦士で鍛冶屋。アタシら【ドワーフ族】を舐めんじゃないよぉっ!!」
二人の羽鎧は柱が崩れた瓦礫の山をガラガラと崩しながら抜け出し、周囲の砂埃を吹き飛ばしながら上昇を始める。逃げる気かな?
「――――――」
「――――――」
未だ抜け出せずにいる最初の羽鎧と短い【会話】を行い――上昇し続ける二人は、そのまま天井に空いた大穴から遺跡の外へと飛んで行ってしまった。
「に……逃げたのか?」
「そのようじゃな……じゃが――」
皆の視線は壁に半身が埋まり、見捨てられた羽鎧へ集中する。目の装甲下の光は青色に変わってもがくのを止め、俺達を見つめている。
「じゃがあいつはどうする? ロクに口もきけんし、儂らがどれだけ殴りかかろうと傷一つ与えられん頑丈さ。色こそ白いが、奴の鎧も【隕石鋼】じゃなぁ。……引き抜いて捕らえるのも難しいのぅ」
ジオが警戒しながら近付き、羽鎧の数歩手前で立ち止まって髭を撫でながら観察する。そもそも魔物なのか? 生き物のそれとはかけ離れた体型に【隕石鋼】の身体。痛みや衝撃をものともせず狙い澄ました攻撃を行い続け、翼によく似た羽で宙を舞う。それら全てを兼ね備えた魔物なんて聞いたことがないよ。
「――――――」
何かこちらに伝えようと羽鎧は話すが【古代語】なのか、高音のそれをこの場にいる者は理解することができない。俺も文字の翻訳は多少できるけど、【古代語】を音として聞くのは初めてだ。あるいは、俺に抱えられたこの子なら? ……【古代人】の少年は浅く呼吸をし、眠り続けている。
「魔物はこの場へ縫い付けておく方が賢明だろう。だがアラネア、その少年はどうする。恐らくあの羽鎧の魔物共は再び狙いに来るぞ。先に言っておくが、俺やドワーフの集落はあてにするな。これ以上、厄介事を抱え込むのは御免だからな」
「ちょっとツメイっ!? なんでさぁっ!?」
「当然だ。俺はドワーフ達を労働力として取引をしに来たのだ。危険にさらすわけにはいかない」
「なら家で引き取ればいいじゃんかっ!! 金だって沢山あるし王都にも近い、こいつを守るなら俺もいるし――」
「馬鹿がっ!! 犬猫を飼うのとは違うのだぞっ!? お前の刀でも斬れん奴ら相手に、俺の領地へ徒党を組んで攻め込まれたりしてみろっ!! 少年や俺の身も含め、全部をどうにかできるのかっ!?」
「ぬうううぅ……わからず屋めぇっ!!」
ティアーソンは子猿のようにツメイの頭へ飛びつき、取っ組み合いを始める。俺は少年を一旦ドワーフの婦人に預け、二人のケンカを仲裁に入る。仲がいいのは結構だけど、お互い困った従者と貴族様だ。
「まあまあ、二人とも落ち着いて。俺はどっちの意見も正しいと思うし、ドワーフの皆さんを巻き込みたくないって気持ちは同じだよ。少年に関してはこっちで引き取るから、安心してもらっていいよ。俺の隠れ家は安全なことが売りだからさっ!!」
どうにか二人を引きはがし、涙目になり鼻水を垂らして興奮するティアーソンをなだめる。この歳で貴族の従者となるくらいだ、何かしら【彼女】にも感情的になる理由があるのだろうね。似たような境遇とか。
「ちっ、山猿がっ!! 戻るぞ族長っ!! 取引の話をするとしようっ!!」
引っ掻き傷を頬や鼻の頭へ付けたツメイは背中が砂まみれのまま、一人で出口へと向かって歩き出す。ドワーフ達も困ったような表情を浮かべ、族長の指示を待っているようだった。うーん、これはしょうがないよねぇ。
「すみません、俺のせいで迷惑かけちゃったみたいで……」
「何を言うか、儂らも儂らで面白い物を見せてもらった。こっちはかすり傷に腹が減った程度じゃ、身を呈して幼い少年を守り抜いたお主らを咎める理由などあろうか」
「んだんだ。オイラ達は生まれながらの戦士で鍛冶屋。空飛ぶもんにゃ手も足もでねぇども、あんたら二人の飛んで跳ねる戦い方は大したもんだぁ。女子供を守る為に戦うのは戦士の誉れよなぁ? 誰も悪くねぇよぉ」
ジオとダグもにっかりと笑い、ドワーフの婦人に抱かれて眠る少年の頭を優しくなでる。ドワーフ族は情に厚い一面があることでも有名だが、ツメイの言う通り彼らに甘えたとしても、再び羽鎧達は古代人の少年を殺害するべく、何度でも集落を襲うだろう。今回は三人で頭打ちだったからよかったものの、これが十・二十となったらここのドワーフ族だけで迎撃は厳しい。
ティアーソンは鼻水と涙を服の袖で拭い、俺のスーツの端を引く。
「アラネア……あんたはそいつを、見捨てたりしないよな?」
彼女は不安げな声で尋ねる。やはり少年と自身をどこか重ねているのかもしれない。俺は笑って彼女の目線に合わせてしゃがみ、頭を撫でる。
「見捨てるもんか。冒険家としても、魔物混じりとしても、この子が死ぬのを俺は望んでないからね。ツメイさんもそうさ。口では厳しいことを言ってはいるけど、君やドワーフの皆を思っての苦渋の判断だろう。彼は確かに冷たいけど、彼にも彼なりの理由があるんだ。そこだけは胸に留めておいて欲しい。……今はまだわからないかもしれないけどさ」
「……うん。男同士の約束だな」
「君は女の子だろう?」
「女だけど男だよ」
「アッハッハッ、滅茶苦茶だなぁっ!!」
ドワーフの婦人から少年を受け取り、糸でおんぶ紐を作って背負う。これなら普通のおんぶや抱っこと違って、長距離の移動でも手が疲れない。少年の体重が軽くて良かったよ。
「じゃあ、落ち着いたらまた来ます。調査したいこともまだありますし」
「うむ、土産の一つでも渡せんで済まんな」
「まぁ、どうしようもなくなったらオイラ達を頼ってくんなぁ。【古代人】だろうが人の子一人ぐらい、オイラ達でも守れらぁ」
「ありがとうございます」
シルクハットを取り、ドワーフ達へ軽くお辞儀をしてティアーソンへ手を振る。そして……振り返って羽鎧へ近付き、目を合わせて別れの挨拶をする。
良かれという行為だが、所詮は俺達の感情論と価値観。理由があって少年を殺そうとする彼らとは違って、正当性がない身勝手な理由なんだ。彼らにも感情があるかどうかはわからないし、言葉もまともに通じないが、同じ【地上界】に生きる者として、彼らへ敬意を払って謝罪をしなければならない。
「すみません。あなた達の理由は俺達にはわかりませんが、目の前で誰かを殺されるのを見過ごせるほど、俺達は心を捨てきれませんでした。また今度会いに来ますので、その時までこの子を大切に預からせていただきます。身勝手なのはわかってますが……伝えておきます」
「――――――」
やはり聞き取れない言語だが、目は俺達に会話を試みた時の青いままで、怒っているわけではないようだ。一応、通じたのかな?
彼にも一礼をして、遺跡の出口へと歩いて向かう。日はまだ高いけど、スピカ嬢の領地へ行くにしては少し遠くて、日没には間に合わないか。野営も俺一人じゃないから危ないし……たまには【天使】の力でも貸していただこうかなぁ。
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