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第五章・死にたがりの【天使】
【第六節・【悪魔】の恋愛問答】
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午後二十時三十三分。午後に起床したアポロも【お告げ】の業務へと復帰し、本日の業務は四人で無事終えることができた。懺悔室へ訪れた狩人の話によると、サリーとミーアは午前中に狩猟会の者達と会談を行い、午後からは魔物の狩猟へ同行し、その実力を披露してくれたそうだ。
相手は街から少し離れた石切り場に隠れ住む鳥の頭と小さな翼、蜥蜴の身体に蛇の頭の尻尾を持つ一頭の若い【コカトリス】。周辺の植物を身体から分泌する毒で枯らし、果樹園への土壌汚染も懸念されて討伐対象とされていた。気性は荒いが深手を負うと毒霧を撒いて逃げ、逃走防止に仕掛けた罠や包囲網も空を飛んで躱すなど、その狡猾さに狩人達も手を焼いていたのは知っている。
先日、アレウスがコカトリスの脚を一本切り落とし、背の翼を切断するも小さな洞窟へ逃げ込まれてしまった。流石の彼も不用意に閉所へ飛び込むのは避けたかったらしく、日を改め洞窟から炙り出すと言っていたが、その実行日が本日であった。
「目鼻へ刺激性のある植物を焼いた煙で炙り出したコカトリスを、サリーさんは正面から斬り込み、アレウスさんは裏から挟み込む形で洞窟への退路を塞いだそうです。ミーアさんは周辺へ毒霧が広まらないよう【風の魔術】で抑えつつ、弓矢による援護を狩人さん達と連携して行い、見事首を落として討伐したと」
「はぁー……いやぁ、凄いですねぇ……。俺も見たかったなぁ」
「馬鹿を言うな。【天使】の業務がお前の最優先事項だ。応援要請が直接来たのならまだしも、冷静な判断ができないほど飲み明かして酔い潰れた男が、あれもこれもと下手に首を突っ込むんじゃない」
「それは俺のせいじゃなくて、サリーさんがやたら酒を注いできたせいですっ!! 俺もそこそこ飲めますけど、あの人は水でも飲んでるのかってくらいスルスル飲み進めていくんですもん。調子合わせて飲んでたら、胃も頭も大変なことになりますよ……」
調理場に置かれたテーブルを囲んで報告書をまとめる二人へそのことを話すと、アポロは終始羨ましそうに聞き入っていたが、隣に座るアダムは酔い潰れていた彼を諌める。逆にサリーはその量を飲みながらもそのまま会談へ赴き、午後には最前線で活躍していたのか。彼女にとって不眠不休の生活循環も慣れたものなのかもしれないが、僕らがそれに合わせ翌日の日常業務も行うのは無理がある。いや、それとも厳しい生活循環にも順応しろという、彼女からの無言の圧力か?
そんなことを考えながら手元の報告書へペンを走らせていると、扉を軽く叩く音がした。来客――――……サリーか。「どうぞ」と僕が答えると、扉を開けていつもの黒装束姿の彼女と、続いてペントラも入って来た。
「ドーモ、先輩方。昨日の約束通り、しごきに来ましたよ」
「お疲れ様です、サリーさん。コカトリスを街の狩人達と共に討伐してくださったそうで。聞いた限りは目立った被害も無く、街の皆さんも感謝していましたよ。ペントラさんもお疲れ様です」
「ん。教会に来る最中ばったり会ってね。こいつも【天使】なんだって? それで昨日はよそよそしかったワケか」
「初対面の【悪魔】相手にまで尻尾振るほど、アタイも落ちぶれてない。危険な奴かどうか、なるべく遠回しに見極めたかったのさ。……で、先輩。こちらの【悪魔】とのご関係は?」
「友人です」
「……あ、そう。友人……ね。では、彼女が【悪魔】だというのはとうにご存じで?」
「はい。五年ほど前に向こうから話しかけてきて、正体も明かされました」
「経歴や契約主に関しても把握してます?」
【悪魔】であるペントラを疑っているのだろうか、深入りしないとサリーは言っていたものの追及してくる。後ろに立つペントラも人差し指で頬を掻き、肩身狭そうに足元へ視線を落としていた。偏見……とはまた違う。【悪魔】である事実より彼女自身が危険な存在かどうか、何処まで手の内を明かしているか見定めている雰囲気だ。
「僕が一番彼女自身がどんな人物であるか把握してます。具体的な契約主を持たない、その日暮らしの【簡易契約】の【悪魔】であることも。十五年前に終えた戦争へ参加し、この街へ流れ着いたことも」
「……大っぴらに正体は明かしていないようですが、部外者へアタイらの正体を知られるってのは相当危ない事なんですよねぇ。いわゆる弱みを握られている状態って奴です。彼女一人の言動で、【天使】の存在が民衆へ露見しかねない。そうでもなったら【堕天】待ったなし。アタイらにも響きますし、当然王都への打撃も免れない」
洗い流したのだろうが、詰め寄るサリーの身体からは血の臭いが微かにした。どうやって弁明したものか。
「サリーさんの言いたいことは分かります。ですが、ペントラさん自身もこの街で穏やかに生きることを望んでいますし、僕らも彼女と敵対する理由がありません。証明……することは難しいですが、彼女と知り合ったのは五年以上前。その間も幾度となく交流してきましたが、未だ街の住民へ【天使】の存在が露見していないのは事実です」
「監視を継続していたのは認めましょう。んでも、頃合いを見て……とか、一切想定もしないのは悪手です。親し気に話しかけて来たとしても、アタイら【天使】と【悪魔】じゃ、住んでる世界も人間への価値観も違う。まぁ、どっちも食い物として見てんのには変わんないんですが」
「………………」
「ミーアに昨晩何を吹き込んだか知らないですけどもね、先輩は何かと他人へ距離を詰め過ぎる。そういうの、ふと気を抜いた時に足元すくわれやすいんで、アタイは【天使】として反対ですねぇ」
話し方こそまだ穏やかであるが、的確に指摘してくるのは警告の意味も込めているのだろう。
僕らはペントラやローグメルク、ティルレットなど良心と分別のある【悪魔】しか知らないが、かつてのザガム公のように魔力を有する者を襲う【はぐれ悪魔】、人間と契約を結び裏で動く【契約悪魔】など……王都内やその周辺では、魔物以外の脅威として存在しても不思議ではない。
信用・信頼は時間や交渉・契約、相手の価値観や過去を知り、受け入れることで得られるものだと思っているが、他者の視点ではそういった苦楽を共にした過程など知り得もせず、ただ漫然とした関係に見えてしまう。それを言葉でなく、揺るぎない照明を示せと言われてしまうと……なかなか難しい。
「先輩方の重視するものが相手の個や性格、思想だってのはなんとなーく昨日知り合っただけのアタイにもわかる。だが、内側に引き入れて、そこで山を越えたと勘違いしちゃいけない。人間も【天使】も【悪魔】も、裏切る時は簡単に裏切る。だから裏切れないよう、弱みを握ったり首輪を着けて抑えつけた方がいい。特に先輩みたいなのは……ただただ損をして、周囲へ損害を広げる疫病神さ」
「!! ポーラ司祭は――――」
「――――待った」
サリーへ掴みかかろうとするアポロとの間へアダムが制止に入り、彼女の顔を見上げる。
「サリー神官。あなたの言わんとすることは理解できます。必要以上に【地上界】で生きる者達や【悪魔】といった部外者と関るのが、【天使】の規則へ触れることも」
「……アダム先輩はそこそこ分別があるようで」
「ですが、いつまでも私達【天使】が保守的では変わりません。少なくとも、それが上手くいっていないのは現在の王都情勢が表しているかと」
「………………」
アダムは先程書き終えた机の上の報告書と、昨日の会長会議でも使用した月間毎に纏めた街の資料を手に取り、サリーへ突き出して話を続ける。
「法・教養・種族・階級……技術革新を担い、法を布き、生活水準が最も高いとされている王都。しかし、その内側は汚職や犯罪、奴隷商売や違法取引の温床ともなっているのも事実。それを見て見ぬふりをし、【天界】への報告も隠蔽や事実を濁した状態で行っているのは、間違いありませんね?」
「そりゃそうだ。正直に報告したところで損しかしないし、下手すりゃ周囲の【天使】からも告発されて【堕天】や罰則で裁かれる。出る杭は打たれるってね。誰だってやってんだろ、そんなの」
「更にもう一つ。区画ごとに治安警戒度を示してはいますが、最も安全とされている区画でさえ、この街一つの評価に劣ります。こちらの方はポラリスが司祭になってからの統計ではありますが、教会が街へ関り積極的に動くことで、確実に犯罪件数と職や家を持たない浮浪者の数は減り、街全体が活気づいたことで、住民達の教会信仰を促進する形になっています。【機神】が出現する前までは周辺の町村と比較しても、圧倒的な高評価を得て管理局に虚偽を疑われる程でした」
サリーはアダムから報告書と資料を受け取り、パラパラとめくって確認していく。読めば読むほど彼女の眉間へ皺が寄っていくのを見るに、アダムの言っていることは虚栄ではなく、全て事実だと理解してくれたらしい。
「最後に。ペントラさんは【便利屋】として、私達よりもはるか以前に街へ定住し、発展の為に尽力してくれています。現在も前科者の再雇用仲介を行い、治安の向上にも貢献。街の重役が集まる会議へ呼ばれるほどの信頼と地位を獲得しました。魔力不足による狂暴化の傾向も無く、住人達から妥当な額の金銭と少量の魔力を報酬として今日まで生きてきた彼女は、教会にとっても十二分に【有用】であると私は考えます」
「だから、【悪魔】に弱みを握られても目を瞑れと?」
「……まだ分からないのか。弱みや首輪など無くても、住民からの信仰獲得や街への貢献は可能であるということだ。王都の信頼・信用の流儀は知らないが、裏付けされた数字と事実が裏切らないことは知っている。ポラリスの言動は破天荒かもしれないが、元より破綻している王都へ足並み揃え合わせろなど、教会や神々にとっても非効率。上から目線で指摘をする前にそちらの内部状況を改善し、地図にも無い片田舎へ負けないようにするのだな」
アダムは腕組みをし、高圧的な物言いでサリーを睨みつける。正論……ではあるか。信仰を集めるのに重要な人口や勤務している【天使】の数こそ王都が圧倒的に上であるものの、効率や比率を数字として叩き出した場合、区画によって落差のある王都は平均化しても【中の上】程度。改善しようにも王都は複数の派閥や貴族が存在して一枚岩ではない上、ほとんどが保守的だ。
その中で大規模な改革を行うのは王や【ルシ】であっても難しい。逆に街や村などの小規模であれば腰が軽く、部下や住民に提案や意見をして通れば、ある程度自由に開拓可能。管理局が良い顔をするかどうかはともかく、彼女の持つ報告書と資料に書かれた数字は、目に見える信用・信頼の材料であると言えるだろう。
サリーは頭を掻いて資料と報告書をテーブルに置き、交互に見比べるが……最後まで読み終えると唸りながら天井を見上げた。
「数字は裏切らない、ねぇ。……王都と比較されちゃうと、アタイも反論に困る。上の連中は真っ黒で、自衛もできない女子供がうろつくにゃ危険な地域も多い。王都兵は全員がまともとは言い難いし、貴族も違法商売の片棒担いでる。んで、それに対し【天使】が口を出さないのも事実さ。はぁ……確かに【悪魔】一人匿うなんて、ちっぽけな不安要因だったよ」
「でしょう? ポーラ司祭はサリーさんの思ってる以上に、住民やペントラさんの事考えてくれてるんですから、そんなの当たり前ですっ!!」
「掴みかかろうとした野郎が言うじゃないか。王都がこの数字を叩きだすのは何十年先になる事やら……いや、それより先にどっかで戦争でも起こりそうだ。あー、そんな時代が来る前におさらばしたいわぁ――――」
――――力なく膝から崩れたサリーは額を机の縁へぶつけ、鈍い音を出す。昨日もあった自殺衝動か。彼女の後ろに立っていたペントラや隣に立つアダムも予告無しの突発的行動に引いている。一先ず、助け舟を出してくれた彼に礼を述べなければ。
「……ありがとう、アダム。僕じゃそこまで自身を持って言いきれなかった」
「ん? あ、ああ。……気にするな。その資料も本来はお前を告発し、司祭の地位から引きずり降ろす為に作っていた物だ。それがまさか、こんな形で役に立つとはな。深く調べれば調べるほど、数字として明確に指摘できる点が無く、腹立だしかったよ」
「はははは……でも、無駄にならなくて良かった」
苦笑いする僕を見て、アダムは鼻で笑う。やはり彼は、僕よりも足元と数字をよく見ている。現実的に考え、冷静に判断できるアダムが司祭でも……きっとうまくいくと思うのだが。右肩を叩かれ、ペントラが僕へそっと耳打ちをする。
「悪いね、アタシの事でまた面倒掛けちまって。ダシに使われたのは癪だったけど、ノッポ女はあんたを試したかったらしい。アタシの話も半信半疑だったし……」
「いいえ。ペントラさんの人柄は街の皆さんは勿論、僕らもよく理解していますから。それに信頼って目に見える物じゃないですし、具体的に示せとか言われても、直ぐには思いつきません」
「まぁねぇ。それがアタシらの間で当たり前になってんのがおかしいのか、互いの弱み握って堅苦しく過ごさにゃいかんのか。そこんとこの分別も、王都じゃ狂っちまってんだろうさねぇ」
彼女はほっとしたように息を吐き、頭を打ち付けた姿勢で固まるサリーを見下ろす。
「弱みって程じゃないが……何なら契約でもするかい? 自由に動けない制約有りきの【契約悪魔】なら、奴隷と同じ扱いで通るかも……」
「それは嫌です。個人的にも気持ちが悪いですし――――」
「――――あ゛? アタシの事キモいって言った?」
真剣な表情から一転し、半笑いの表情で頬を左手で摘ままれる。目が笑っていないうえ、指先に込める力が強くて痛い。言葉選びが悪かったか。
「あの……そういう意味じゃなくてですね。いつも隣にいるのが当たり前だったので、友人として気持ちわ――――いえ、好きな人を奴隷とか無理矢理従えるのは、僕にはできないと言いますか……なんて言えばいいんですかね? ……ペントラさん?」
「あっ、アタシは、そんな意味じゃ……え、うん、そりゃあそうだねっ!? あっはっはっはっ!!」
ペントラは恥ずかしそうに顔を真っ赤にして目を泳がせ、僕の頬を更に力強く抓る。とりあえず、この手を放してください。取れます、痛いです。
「……まぁ、このことは水に流しましょう。あ、【信仰の力】の扱い方教えるんで、教会の外でちょっと手合わせしましょうや」
立ち上がったサリーが、額の血を手の甲で拭いながら提案する。テーブルの縁や床にも、彼女の物と思われる血がベッタリと付き、よく見ると僕とアダムの書いていた報告書の表紙にまで飛び散っていた。既に数ページは滲み込んでしまっただろう……書き直しか。こちらの表情と視線の先を見て察したのか、アダムは頭が痛そうに、アポロは左右へ首を振って溜め息をつく。
「サリー神官。その前に、テーブルと床の清掃をお願いします。その間に私とポラリスは報告書を書き直しますので、それまでペントラさんは上で待っていてください」
「あり? ……あー、結構血が出てたか。いやぁ、失敬失敬。痛覚が無いもんで、頭が切れても分かんねぇんですよ。あ、そうだ。上に行くんならついでにクソガキ様の面倒も頼めます? 待ってる間暇でしょ、マッチョ君とペントラさん?」
悪びれる態度の無いサリーへ、ペントラが呆れた顔をして近付く。
「あんた……随分と適当っていうか、ポーラ達の仕事増やすんじゃないよ。王都からわざわざ出向いて嫌がらせかい」
「ある意味それで合ってる。ま、仲良くなりに来たわけじゃないし、アタイが好きで先輩達に教えてるだけだから、そうかっかしないで。年下【天使】のお茶目なイタズラってことで流してくださいな、お姉さん?」
「限度ってのがあるだろうさ。……まぁ、上の王都兵さんの相手はアタシとマッチョ君に任せて、あんたら二人は報告書書き直してな」
「お二人さん、俺のことマッチョ君で統一しないでくれます?」
アポロが複雑な表情で会話に入り込んで訂正を促すと、ペントラとサリーはニヤリと笑って彼を見る。この二人の何処か砕けた雰囲気はよく似ていて、男勝りな性格もそっくりだと改めて感じた。
***
手洗いでたまたま席を離れていた新人【天使】と合流し、上の教会の長椅子へ腰かけ、下の三人が来るのを待つ。鎧姿のミーアは最前席へ座り、【天使】像へ祈って待っていたが、今は新人やアポロとひっきりなしに話をしている。昨日の昼間に会った時と印象が全然違うけど、サリーのあの物言い……多分ポーラがなんかしたんだろうねぇ。
そこだけ憎々しい言い方だったのが気になったが、あいつ自分に心を開いてくれないから、羨ましくて妬いてんのか。まぁ、気持ちはわからんでもないし、素直になれないのはアタシも同じだから強く言えないが、もうちょい自分の方から気を許してやりゃあいいのに。
「――――いやぁ、俺も見たかったよ。コカトリスを洞窟へ追い込むまでは、俺もアレウスさんの手伝いで参加してたんだけど、全然近寄れなくて弓矢で牽制するしかなくてさ。……正面から斬り合うだなんて、サリーさんはやっぱ強いんだなぁ。ミーアちゃんもありがとなっ!! 教会へ来た街の人達も感謝してたよっ!!」
「とっ……当然ですわ。王都兵たるもの、民草を守るのが務めですもの。毒霧なんて、私の魔術で吹き飛ばしてしまえば何の意味もございません。私達が滞在している時で良かったですわね」
「ミーアさん。私も……魔術をちょっと勉強中で……その、時間がある時でいいですから、お……教えてもらってもいいですか?」
「良くってよ。他ならぬ友人の頼みですもの、断るだなんて無粋な真似は致しませんわ。ただし、甘い物が食べられるお店を紹介してくださる? 毎日サリー神官の好みへ合わせていては、胃が荒れてしまいますもの」
ミーア十六歳、アポロ七歳、新人ちゃん六ヶ月少々。【天使】の精神年齢ってのがどれぐらいのペースで成長していくか、【悪魔】のアタシには見当もつかないけど、こうして見ると仲睦まじい友人同士の会話そのままで微笑ましいよ。ポーラの目指している理想は、こういう穏やかな光景なんだろうねぇ。
でも、最近のポーラはキラキラしてて眩しいというか、誰に対しても積極的になって、頻繁に笑顔を見せるようになった。今じゃ街の老若男女問わず、すっかり街の司祭様って認知されてる。教会を嫌って敬遠するような奴らも、ごつくてデカいニーズヘルグから若いあいつに替わったことを不審に思っちゃいたが、仲間や家族との繋がりを通して、邪推するようなことも少なくなっている。
サリーのように関わり合うことを避け、遠巻きに裏で動くってのが従来のやり方なんだろうが、数字として良い意味での結果が出ているのははっきりした。他人から理想論だと言われても、実際に行動へ移して断固たる結果があるってのは大きい。先の見えない夢に対し、あんた達が生んだ小さな指標は、本来もっと胸を張ってもいいくらいなんだ。
それをうやむやにして他と足並み揃えて報告しちまうのは、森で暮らすスピカちゃん達やアタシへ迷惑を掛けない為。今回だって、アタシが信用される判断材料を持っていれば……。いつまでも、ポーラ達に甘えてばかりいちゃいられないか。
「まぁっ!! ペントラさんはポーラさんへ【恋】をなさっているのねっ!?」
「へぇっ!?」
静まり返った教会へ響くミーアの声に、変な声が出てしまった。
「しーっ!! 声がデカいっ!! あっ、ペントラさんなんでもないんで……」
「アポロ、ちょっと退きな。そのガキの口シメるから」
「待ってっ!! おおっ、落ち着いてくださいよっ!! 地下までは聞こえてない筈ですから……」
「あんたもいらなくベラベラ喋るんじゃないっ!! っていうか、アタシまだ何にも――――」
「――――あれだけベタベタして耳まで真っ赤にするのに、バレてないって言い切るのは無理があるんじゃないですかねぇ?」
気まずそうに目を逸らすアポロ、恥ずかしげに頷く新人、そして目を輝かせてこっちを見るミーア。……アタシって、やっぱり顔や言葉に出るんだねぇ。わかりやすい単純な性格がやんなっちゃうよ。
「素敵ですわぁ。もう想いはお伝えになって?」
「あ……うぅ……まだだよ。そんなキラキラした目で見るんじゃない、どうせ実らない話なんだから」
「? ポーラさんはこちらの教会の司祭様でお忙しい方だけど、優しくて話しやすい方ですわ。押しに弱い所もございますし、五年以上のお付き合いであれば、私達以上に彼も気を許していそうですけど……意外と恋愛には疎いのかしら?」
ミーアは興味深げにアタシの顔を見て何やら思案している。彼女とアタシの間に挟まるアポロは汗を垂らしながら上を向き、新人も顔を手帳で隠してしまった。あんたら、話題投げるだけ投げてだんまりはあんまりじゃないかい?
「あの……疎い……というよりも、分からないのかもしれません。……私達は、教会で生まれ育ったので……恋とか、そういう経験やお話は、ありませんでしたから。とっ、特に司祭は……仕事熱心な方で、趣味はあれど……それ以外は、かなり無頓着と言いますか……」
視線に耐え切れなくなったのか、新人は右手を肩程まで挙げ、左手に握った手帳で口元を隠しながらアタシを見る。よく言った。
「あ……ああ、それはある。他人を好きになる事へ理由が必要のない穏やかな人だけど、言葉選びが上手くないって言うか……曖昧な表現の仕方が分からないとんだと俺も思う。数ヶ月前まで【味覚】や【嗅覚】が無かったっても言ってたし、ストレスもあるんじゃねぇかなぁ」
「そんな風には見えないのに、見えない所でさぞ大変な思いをされていたのね。昨日美味しそうに夕食を食べていたのも、味や香りがようやく分かるようになって嬉しいからなのかしら。だとしたら恋をするような心の余裕だなんて、今はとても……」
アポロとミーアの言葉に、出会ったばかりの頃のポーラを思い出す。白っぽい灰色髪に無表情。硝子玉みたいな綺麗で透き通った瞳が印象的だった。それでも、アタシのくだらない話や冗談で少しだけ笑ったり、仕事の話で上司を愚痴ったり、気にくわないと無言で気にくわない雰囲気を出したり、生意気な弟分みたいで可愛い所も有ったもんだよ。
でも――――土壇場で駆けつけて、涙を流しながらアタシを覗き見る少しだけ濃くなった瞳。どうでも良さそうに聞き流していたように見えて、ちゃんと聞こえてたって分かった時は、どうしようもないくらい嬉しかった。いつだって命懸けで、それでも一人だと弱っちいから折れそうにもなる。世界の敵や神にも同情して、できる限り気持ちを汲み取るお人好し。
最近は少しだけ我儘言うようにもなって、困る内容の時もあるけど、アタシみたいなのと一緒に居たいって……そんなの、ズルいじゃないか。
「……昔のポーラを知ってると、今のあいつは本当に毎日が楽しそうで、キラキラしてて……アタシみたいなのが独り占めしちゃ、単純なあいつは叶えようと歪んじゃうかもしれない。だから、ポーラにはもっといろんな物を見て知って欲しいんだ。色々見て知って、それでもまだアタシと一緒に居たいって言って貰えたら――――」
「――――ペントラさんは、それでもよろしくて? 我慢する感覚の麻痺している人が一緒に居たいとあなたへ言うだなんて、余程の事ですわよ。ポーラさんは有無も言わせぬ強靭な強さも無ければ圧政も好まない、温かくて穏やかな【人間】だもの。部下であるアダムさんやアポロさん、新人さんに言えないようなことも、きっとございますわ」
「俺達も最初はバラバラで、ポーラ司祭が司祭になってから、初めて顔合わせて仕事するようになったんです。それよりずっと前の司祭を知っているペントラさんの方が、まだ数ヶ月程度しか部下してない俺達なんかより、百倍理解してる筈ですよ」
二人の言っていることは分かる。特に抱え込んでる時は無言で無茶をするような奴だし……。
「いっ、いろんな物を見て知って欲しいのなら、司祭と……お二人で、お出かけしてはいかがでしょうか? この街以外の街を、あまりみたことがありませんし、司祭も……きっと喜びます」
新人ちゃんまでそう言うかぁ。アタシとしては素直に駄目だと反対してもらうくらいの方が、清々しく諦められそうなもんだけど、どいつもこいつも応援する側へ回る。生意気なアダムなら――――いや、あいつもなんだかんだと助け舟出して、アタシに利用価値があると思えばとことん利用する奴だ。口では文句を言いつつ、利益やポーラの為に流してしまいそうだ。
……恵まれてるんだろうけど、どことなく自分で自分を推せないのは、無意識に抱え込んでるせいなのかもしれない。【箱舟】の中で出会った神は、【天使】でも読めない根の深い感情や記憶まで語っていた。未だ夢に出る、自分の足元に転がる幾つもの死体と骸。手や身体が、血と肉で汚れていると自覚する。足を止めてしまうと、足元のそいつらに引きずり込まれてしまいそうで、その頭や腕を必至に手にしたナイフで切り刻む。
遠くから聞こえる、狂ったような笑い声。その光景を見て楽しんでいる、腹の底へ響く高笑い。耳を塞ぐと振り払う手も塞がる。だからアタシも叫んで、耳に笑い声が入らないようにした。けどその声は止まず、アタシの声と溶け合って、今じゃどっちが笑ってるんだかわからない。
契約者だったシスター・ディアナにも赦され、スピカちゃんにもいつの間にか受け入れられていた。だがね、どんなに赦され周りと笑って過ごしても、気を抜いた時にあの夢を見る。どうしようもなく好きなのに、好きになる事を拒んでいる。また自分のせいで、誰かを失うのが怖いんだ。
「けど……いつまでも逃げてちゃ駄目だね。仮にあいつの勘違いだとしても、お互いモヤモヤしてるのはアタシも嫌だし。第一っ!! あんた達にいつまでも突っつきまわされてたら、本来イジり倒すアタシの立場が無いじゃないかっ!? 流石にね、焦るのよ? 二十五で初恋ってのは。わかる? あんた達?」
「うわ、急に生々しい話になった」
「引くんじゃない引くんじゃない。人様の恋愛事情に首突っ込んだからには、あんた達にも責任もって手伝ってもらうからね」
「ええ、良くってよっ!! サリー神官も浮いたお話だなんて一度もなさらないから、私もお二人を見て勉強させていただきますわっ!!」
「えぇっと……私も、協力しますぅ。……ペントラさんは、私達にとっても、頼りになるお姉さんですから」
ガッツリ食いつくミーアと、協力的な新人ちゃん。事の発端であろうアポロだけが席を離れようとしたので、首根っこを掴んで再び着席させる。
「ぐぇっ!!」
「逃がすかっ!! あんたが軽口でバラしたんだから、責任もって最後まで付き合いなさいなっ!! そうだねぇ、アポロは料理が得意だろ? アタシの料理の先生になるなんてのはどうだい? 仕事終わりの空いた時間でもいいからさ」
「いやぁ、俺がバラさなくても皆気付いてたでしょうし……なぁ?」
アポロは助けを求めるように、背後の二人へ視線を送りながら投げかける。
「なんのことだか、わかりかねますわね」
「試食なら、私も付き合います」
「あっはははは……はぁ。断るに断れませんし、ようやく向き合ったペントラさんの花嫁修業を、俺の出来る範囲でお手伝いしましょう」
僅かな期待も虚しく空振りしたアポロは、観念して抵抗を止めて力なく笑い、長椅子へ完全に腰を下ろした。
「あんたがアダムみたいに捻くれてなくて助かるよ。アイツに話すと絶対うるさいからさ」
「最近は特に過保護っていうか……ライバル意識はしてるんですけど、司祭や新人に甘いんですよ。元々厳しくても、なんだかんだフォローしてくれる人ではあったんですがねぇ」
「まるで姑さんみたいですわ」
「頼りになる兄……でしょうか。教え方や仕事も丁寧で、司祭も副司祭をよく褒めています」
「……意外と司祭の心を掴むより、副司祭の心を掴む方が課題かもしれませんねぇ」
心強い(?)仲間が出来たのはいいが、あいつの身の丈に合った女になるまでは、まだまだ時間は掛かりそうだ。今度こそポーラを助けてやれるくらい、アタシも強くならなくちゃねぇ。
相手は街から少し離れた石切り場に隠れ住む鳥の頭と小さな翼、蜥蜴の身体に蛇の頭の尻尾を持つ一頭の若い【コカトリス】。周辺の植物を身体から分泌する毒で枯らし、果樹園への土壌汚染も懸念されて討伐対象とされていた。気性は荒いが深手を負うと毒霧を撒いて逃げ、逃走防止に仕掛けた罠や包囲網も空を飛んで躱すなど、その狡猾さに狩人達も手を焼いていたのは知っている。
先日、アレウスがコカトリスの脚を一本切り落とし、背の翼を切断するも小さな洞窟へ逃げ込まれてしまった。流石の彼も不用意に閉所へ飛び込むのは避けたかったらしく、日を改め洞窟から炙り出すと言っていたが、その実行日が本日であった。
「目鼻へ刺激性のある植物を焼いた煙で炙り出したコカトリスを、サリーさんは正面から斬り込み、アレウスさんは裏から挟み込む形で洞窟への退路を塞いだそうです。ミーアさんは周辺へ毒霧が広まらないよう【風の魔術】で抑えつつ、弓矢による援護を狩人さん達と連携して行い、見事首を落として討伐したと」
「はぁー……いやぁ、凄いですねぇ……。俺も見たかったなぁ」
「馬鹿を言うな。【天使】の業務がお前の最優先事項だ。応援要請が直接来たのならまだしも、冷静な判断ができないほど飲み明かして酔い潰れた男が、あれもこれもと下手に首を突っ込むんじゃない」
「それは俺のせいじゃなくて、サリーさんがやたら酒を注いできたせいですっ!! 俺もそこそこ飲めますけど、あの人は水でも飲んでるのかってくらいスルスル飲み進めていくんですもん。調子合わせて飲んでたら、胃も頭も大変なことになりますよ……」
調理場に置かれたテーブルを囲んで報告書をまとめる二人へそのことを話すと、アポロは終始羨ましそうに聞き入っていたが、隣に座るアダムは酔い潰れていた彼を諌める。逆にサリーはその量を飲みながらもそのまま会談へ赴き、午後には最前線で活躍していたのか。彼女にとって不眠不休の生活循環も慣れたものなのかもしれないが、僕らがそれに合わせ翌日の日常業務も行うのは無理がある。いや、それとも厳しい生活循環にも順応しろという、彼女からの無言の圧力か?
そんなことを考えながら手元の報告書へペンを走らせていると、扉を軽く叩く音がした。来客――――……サリーか。「どうぞ」と僕が答えると、扉を開けていつもの黒装束姿の彼女と、続いてペントラも入って来た。
「ドーモ、先輩方。昨日の約束通り、しごきに来ましたよ」
「お疲れ様です、サリーさん。コカトリスを街の狩人達と共に討伐してくださったそうで。聞いた限りは目立った被害も無く、街の皆さんも感謝していましたよ。ペントラさんもお疲れ様です」
「ん。教会に来る最中ばったり会ってね。こいつも【天使】なんだって? それで昨日はよそよそしかったワケか」
「初対面の【悪魔】相手にまで尻尾振るほど、アタイも落ちぶれてない。危険な奴かどうか、なるべく遠回しに見極めたかったのさ。……で、先輩。こちらの【悪魔】とのご関係は?」
「友人です」
「……あ、そう。友人……ね。では、彼女が【悪魔】だというのはとうにご存じで?」
「はい。五年ほど前に向こうから話しかけてきて、正体も明かされました」
「経歴や契約主に関しても把握してます?」
【悪魔】であるペントラを疑っているのだろうか、深入りしないとサリーは言っていたものの追及してくる。後ろに立つペントラも人差し指で頬を掻き、肩身狭そうに足元へ視線を落としていた。偏見……とはまた違う。【悪魔】である事実より彼女自身が危険な存在かどうか、何処まで手の内を明かしているか見定めている雰囲気だ。
「僕が一番彼女自身がどんな人物であるか把握してます。具体的な契約主を持たない、その日暮らしの【簡易契約】の【悪魔】であることも。十五年前に終えた戦争へ参加し、この街へ流れ着いたことも」
「……大っぴらに正体は明かしていないようですが、部外者へアタイらの正体を知られるってのは相当危ない事なんですよねぇ。いわゆる弱みを握られている状態って奴です。彼女一人の言動で、【天使】の存在が民衆へ露見しかねない。そうでもなったら【堕天】待ったなし。アタイらにも響きますし、当然王都への打撃も免れない」
洗い流したのだろうが、詰め寄るサリーの身体からは血の臭いが微かにした。どうやって弁明したものか。
「サリーさんの言いたいことは分かります。ですが、ペントラさん自身もこの街で穏やかに生きることを望んでいますし、僕らも彼女と敵対する理由がありません。証明……することは難しいですが、彼女と知り合ったのは五年以上前。その間も幾度となく交流してきましたが、未だ街の住民へ【天使】の存在が露見していないのは事実です」
「監視を継続していたのは認めましょう。んでも、頃合いを見て……とか、一切想定もしないのは悪手です。親し気に話しかけて来たとしても、アタイら【天使】と【悪魔】じゃ、住んでる世界も人間への価値観も違う。まぁ、どっちも食い物として見てんのには変わんないんですが」
「………………」
「ミーアに昨晩何を吹き込んだか知らないですけどもね、先輩は何かと他人へ距離を詰め過ぎる。そういうの、ふと気を抜いた時に足元すくわれやすいんで、アタイは【天使】として反対ですねぇ」
話し方こそまだ穏やかであるが、的確に指摘してくるのは警告の意味も込めているのだろう。
僕らはペントラやローグメルク、ティルレットなど良心と分別のある【悪魔】しか知らないが、かつてのザガム公のように魔力を有する者を襲う【はぐれ悪魔】、人間と契約を結び裏で動く【契約悪魔】など……王都内やその周辺では、魔物以外の脅威として存在しても不思議ではない。
信用・信頼は時間や交渉・契約、相手の価値観や過去を知り、受け入れることで得られるものだと思っているが、他者の視点ではそういった苦楽を共にした過程など知り得もせず、ただ漫然とした関係に見えてしまう。それを言葉でなく、揺るぎない照明を示せと言われてしまうと……なかなか難しい。
「先輩方の重視するものが相手の個や性格、思想だってのはなんとなーく昨日知り合っただけのアタイにもわかる。だが、内側に引き入れて、そこで山を越えたと勘違いしちゃいけない。人間も【天使】も【悪魔】も、裏切る時は簡単に裏切る。だから裏切れないよう、弱みを握ったり首輪を着けて抑えつけた方がいい。特に先輩みたいなのは……ただただ損をして、周囲へ損害を広げる疫病神さ」
「!! ポーラ司祭は――――」
「――――待った」
サリーへ掴みかかろうとするアポロとの間へアダムが制止に入り、彼女の顔を見上げる。
「サリー神官。あなたの言わんとすることは理解できます。必要以上に【地上界】で生きる者達や【悪魔】といった部外者と関るのが、【天使】の規則へ触れることも」
「……アダム先輩はそこそこ分別があるようで」
「ですが、いつまでも私達【天使】が保守的では変わりません。少なくとも、それが上手くいっていないのは現在の王都情勢が表しているかと」
「………………」
アダムは先程書き終えた机の上の報告書と、昨日の会長会議でも使用した月間毎に纏めた街の資料を手に取り、サリーへ突き出して話を続ける。
「法・教養・種族・階級……技術革新を担い、法を布き、生活水準が最も高いとされている王都。しかし、その内側は汚職や犯罪、奴隷商売や違法取引の温床ともなっているのも事実。それを見て見ぬふりをし、【天界】への報告も隠蔽や事実を濁した状態で行っているのは、間違いありませんね?」
「そりゃそうだ。正直に報告したところで損しかしないし、下手すりゃ周囲の【天使】からも告発されて【堕天】や罰則で裁かれる。出る杭は打たれるってね。誰だってやってんだろ、そんなの」
「更にもう一つ。区画ごとに治安警戒度を示してはいますが、最も安全とされている区画でさえ、この街一つの評価に劣ります。こちらの方はポラリスが司祭になってからの統計ではありますが、教会が街へ関り積極的に動くことで、確実に犯罪件数と職や家を持たない浮浪者の数は減り、街全体が活気づいたことで、住民達の教会信仰を促進する形になっています。【機神】が出現する前までは周辺の町村と比較しても、圧倒的な高評価を得て管理局に虚偽を疑われる程でした」
サリーはアダムから報告書と資料を受け取り、パラパラとめくって確認していく。読めば読むほど彼女の眉間へ皺が寄っていくのを見るに、アダムの言っていることは虚栄ではなく、全て事実だと理解してくれたらしい。
「最後に。ペントラさんは【便利屋】として、私達よりもはるか以前に街へ定住し、発展の為に尽力してくれています。現在も前科者の再雇用仲介を行い、治安の向上にも貢献。街の重役が集まる会議へ呼ばれるほどの信頼と地位を獲得しました。魔力不足による狂暴化の傾向も無く、住人達から妥当な額の金銭と少量の魔力を報酬として今日まで生きてきた彼女は、教会にとっても十二分に【有用】であると私は考えます」
「だから、【悪魔】に弱みを握られても目を瞑れと?」
「……まだ分からないのか。弱みや首輪など無くても、住民からの信仰獲得や街への貢献は可能であるということだ。王都の信頼・信用の流儀は知らないが、裏付けされた数字と事実が裏切らないことは知っている。ポラリスの言動は破天荒かもしれないが、元より破綻している王都へ足並み揃え合わせろなど、教会や神々にとっても非効率。上から目線で指摘をする前にそちらの内部状況を改善し、地図にも無い片田舎へ負けないようにするのだな」
アダムは腕組みをし、高圧的な物言いでサリーを睨みつける。正論……ではあるか。信仰を集めるのに重要な人口や勤務している【天使】の数こそ王都が圧倒的に上であるものの、効率や比率を数字として叩き出した場合、区画によって落差のある王都は平均化しても【中の上】程度。改善しようにも王都は複数の派閥や貴族が存在して一枚岩ではない上、ほとんどが保守的だ。
その中で大規模な改革を行うのは王や【ルシ】であっても難しい。逆に街や村などの小規模であれば腰が軽く、部下や住民に提案や意見をして通れば、ある程度自由に開拓可能。管理局が良い顔をするかどうかはともかく、彼女の持つ報告書と資料に書かれた数字は、目に見える信用・信頼の材料であると言えるだろう。
サリーは頭を掻いて資料と報告書をテーブルに置き、交互に見比べるが……最後まで読み終えると唸りながら天井を見上げた。
「数字は裏切らない、ねぇ。……王都と比較されちゃうと、アタイも反論に困る。上の連中は真っ黒で、自衛もできない女子供がうろつくにゃ危険な地域も多い。王都兵は全員がまともとは言い難いし、貴族も違法商売の片棒担いでる。んで、それに対し【天使】が口を出さないのも事実さ。はぁ……確かに【悪魔】一人匿うなんて、ちっぽけな不安要因だったよ」
「でしょう? ポーラ司祭はサリーさんの思ってる以上に、住民やペントラさんの事考えてくれてるんですから、そんなの当たり前ですっ!!」
「掴みかかろうとした野郎が言うじゃないか。王都がこの数字を叩きだすのは何十年先になる事やら……いや、それより先にどっかで戦争でも起こりそうだ。あー、そんな時代が来る前におさらばしたいわぁ――――」
――――力なく膝から崩れたサリーは額を机の縁へぶつけ、鈍い音を出す。昨日もあった自殺衝動か。彼女の後ろに立っていたペントラや隣に立つアダムも予告無しの突発的行動に引いている。一先ず、助け舟を出してくれた彼に礼を述べなければ。
「……ありがとう、アダム。僕じゃそこまで自身を持って言いきれなかった」
「ん? あ、ああ。……気にするな。その資料も本来はお前を告発し、司祭の地位から引きずり降ろす為に作っていた物だ。それがまさか、こんな形で役に立つとはな。深く調べれば調べるほど、数字として明確に指摘できる点が無く、腹立だしかったよ」
「はははは……でも、無駄にならなくて良かった」
苦笑いする僕を見て、アダムは鼻で笑う。やはり彼は、僕よりも足元と数字をよく見ている。現実的に考え、冷静に判断できるアダムが司祭でも……きっとうまくいくと思うのだが。右肩を叩かれ、ペントラが僕へそっと耳打ちをする。
「悪いね、アタシの事でまた面倒掛けちまって。ダシに使われたのは癪だったけど、ノッポ女はあんたを試したかったらしい。アタシの話も半信半疑だったし……」
「いいえ。ペントラさんの人柄は街の皆さんは勿論、僕らもよく理解していますから。それに信頼って目に見える物じゃないですし、具体的に示せとか言われても、直ぐには思いつきません」
「まぁねぇ。それがアタシらの間で当たり前になってんのがおかしいのか、互いの弱み握って堅苦しく過ごさにゃいかんのか。そこんとこの分別も、王都じゃ狂っちまってんだろうさねぇ」
彼女はほっとしたように息を吐き、頭を打ち付けた姿勢で固まるサリーを見下ろす。
「弱みって程じゃないが……何なら契約でもするかい? 自由に動けない制約有りきの【契約悪魔】なら、奴隷と同じ扱いで通るかも……」
「それは嫌です。個人的にも気持ちが悪いですし――――」
「――――あ゛? アタシの事キモいって言った?」
真剣な表情から一転し、半笑いの表情で頬を左手で摘ままれる。目が笑っていないうえ、指先に込める力が強くて痛い。言葉選びが悪かったか。
「あの……そういう意味じゃなくてですね。いつも隣にいるのが当たり前だったので、友人として気持ちわ――――いえ、好きな人を奴隷とか無理矢理従えるのは、僕にはできないと言いますか……なんて言えばいいんですかね? ……ペントラさん?」
「あっ、アタシは、そんな意味じゃ……え、うん、そりゃあそうだねっ!? あっはっはっはっ!!」
ペントラは恥ずかしそうに顔を真っ赤にして目を泳がせ、僕の頬を更に力強く抓る。とりあえず、この手を放してください。取れます、痛いです。
「……まぁ、このことは水に流しましょう。あ、【信仰の力】の扱い方教えるんで、教会の外でちょっと手合わせしましょうや」
立ち上がったサリーが、額の血を手の甲で拭いながら提案する。テーブルの縁や床にも、彼女の物と思われる血がベッタリと付き、よく見ると僕とアダムの書いていた報告書の表紙にまで飛び散っていた。既に数ページは滲み込んでしまっただろう……書き直しか。こちらの表情と視線の先を見て察したのか、アダムは頭が痛そうに、アポロは左右へ首を振って溜め息をつく。
「サリー神官。その前に、テーブルと床の清掃をお願いします。その間に私とポラリスは報告書を書き直しますので、それまでペントラさんは上で待っていてください」
「あり? ……あー、結構血が出てたか。いやぁ、失敬失敬。痛覚が無いもんで、頭が切れても分かんねぇんですよ。あ、そうだ。上に行くんならついでにクソガキ様の面倒も頼めます? 待ってる間暇でしょ、マッチョ君とペントラさん?」
悪びれる態度の無いサリーへ、ペントラが呆れた顔をして近付く。
「あんた……随分と適当っていうか、ポーラ達の仕事増やすんじゃないよ。王都からわざわざ出向いて嫌がらせかい」
「ある意味それで合ってる。ま、仲良くなりに来たわけじゃないし、アタイが好きで先輩達に教えてるだけだから、そうかっかしないで。年下【天使】のお茶目なイタズラってことで流してくださいな、お姉さん?」
「限度ってのがあるだろうさ。……まぁ、上の王都兵さんの相手はアタシとマッチョ君に任せて、あんたら二人は報告書書き直してな」
「お二人さん、俺のことマッチョ君で統一しないでくれます?」
アポロが複雑な表情で会話に入り込んで訂正を促すと、ペントラとサリーはニヤリと笑って彼を見る。この二人の何処か砕けた雰囲気はよく似ていて、男勝りな性格もそっくりだと改めて感じた。
***
手洗いでたまたま席を離れていた新人【天使】と合流し、上の教会の長椅子へ腰かけ、下の三人が来るのを待つ。鎧姿のミーアは最前席へ座り、【天使】像へ祈って待っていたが、今は新人やアポロとひっきりなしに話をしている。昨日の昼間に会った時と印象が全然違うけど、サリーのあの物言い……多分ポーラがなんかしたんだろうねぇ。
そこだけ憎々しい言い方だったのが気になったが、あいつ自分に心を開いてくれないから、羨ましくて妬いてんのか。まぁ、気持ちはわからんでもないし、素直になれないのはアタシも同じだから強く言えないが、もうちょい自分の方から気を許してやりゃあいいのに。
「――――いやぁ、俺も見たかったよ。コカトリスを洞窟へ追い込むまでは、俺もアレウスさんの手伝いで参加してたんだけど、全然近寄れなくて弓矢で牽制するしかなくてさ。……正面から斬り合うだなんて、サリーさんはやっぱ強いんだなぁ。ミーアちゃんもありがとなっ!! 教会へ来た街の人達も感謝してたよっ!!」
「とっ……当然ですわ。王都兵たるもの、民草を守るのが務めですもの。毒霧なんて、私の魔術で吹き飛ばしてしまえば何の意味もございません。私達が滞在している時で良かったですわね」
「ミーアさん。私も……魔術をちょっと勉強中で……その、時間がある時でいいですから、お……教えてもらってもいいですか?」
「良くってよ。他ならぬ友人の頼みですもの、断るだなんて無粋な真似は致しませんわ。ただし、甘い物が食べられるお店を紹介してくださる? 毎日サリー神官の好みへ合わせていては、胃が荒れてしまいますもの」
ミーア十六歳、アポロ七歳、新人ちゃん六ヶ月少々。【天使】の精神年齢ってのがどれぐらいのペースで成長していくか、【悪魔】のアタシには見当もつかないけど、こうして見ると仲睦まじい友人同士の会話そのままで微笑ましいよ。ポーラの目指している理想は、こういう穏やかな光景なんだろうねぇ。
でも、最近のポーラはキラキラしてて眩しいというか、誰に対しても積極的になって、頻繁に笑顔を見せるようになった。今じゃ街の老若男女問わず、すっかり街の司祭様って認知されてる。教会を嫌って敬遠するような奴らも、ごつくてデカいニーズヘルグから若いあいつに替わったことを不審に思っちゃいたが、仲間や家族との繋がりを通して、邪推するようなことも少なくなっている。
サリーのように関わり合うことを避け、遠巻きに裏で動くってのが従来のやり方なんだろうが、数字として良い意味での結果が出ているのははっきりした。他人から理想論だと言われても、実際に行動へ移して断固たる結果があるってのは大きい。先の見えない夢に対し、あんた達が生んだ小さな指標は、本来もっと胸を張ってもいいくらいなんだ。
それをうやむやにして他と足並み揃えて報告しちまうのは、森で暮らすスピカちゃん達やアタシへ迷惑を掛けない為。今回だって、アタシが信用される判断材料を持っていれば……。いつまでも、ポーラ達に甘えてばかりいちゃいられないか。
「まぁっ!! ペントラさんはポーラさんへ【恋】をなさっているのねっ!?」
「へぇっ!?」
静まり返った教会へ響くミーアの声に、変な声が出てしまった。
「しーっ!! 声がデカいっ!! あっ、ペントラさんなんでもないんで……」
「アポロ、ちょっと退きな。そのガキの口シメるから」
「待ってっ!! おおっ、落ち着いてくださいよっ!! 地下までは聞こえてない筈ですから……」
「あんたもいらなくベラベラ喋るんじゃないっ!! っていうか、アタシまだ何にも――――」
「――――あれだけベタベタして耳まで真っ赤にするのに、バレてないって言い切るのは無理があるんじゃないですかねぇ?」
気まずそうに目を逸らすアポロ、恥ずかしげに頷く新人、そして目を輝かせてこっちを見るミーア。……アタシって、やっぱり顔や言葉に出るんだねぇ。わかりやすい単純な性格がやんなっちゃうよ。
「素敵ですわぁ。もう想いはお伝えになって?」
「あ……うぅ……まだだよ。そんなキラキラした目で見るんじゃない、どうせ実らない話なんだから」
「? ポーラさんはこちらの教会の司祭様でお忙しい方だけど、優しくて話しやすい方ですわ。押しに弱い所もございますし、五年以上のお付き合いであれば、私達以上に彼も気を許していそうですけど……意外と恋愛には疎いのかしら?」
ミーアは興味深げにアタシの顔を見て何やら思案している。彼女とアタシの間に挟まるアポロは汗を垂らしながら上を向き、新人も顔を手帳で隠してしまった。あんたら、話題投げるだけ投げてだんまりはあんまりじゃないかい?
「あの……疎い……というよりも、分からないのかもしれません。……私達は、教会で生まれ育ったので……恋とか、そういう経験やお話は、ありませんでしたから。とっ、特に司祭は……仕事熱心な方で、趣味はあれど……それ以外は、かなり無頓着と言いますか……」
視線に耐え切れなくなったのか、新人は右手を肩程まで挙げ、左手に握った手帳で口元を隠しながらアタシを見る。よく言った。
「あ……ああ、それはある。他人を好きになる事へ理由が必要のない穏やかな人だけど、言葉選びが上手くないって言うか……曖昧な表現の仕方が分からないとんだと俺も思う。数ヶ月前まで【味覚】や【嗅覚】が無かったっても言ってたし、ストレスもあるんじゃねぇかなぁ」
「そんな風には見えないのに、見えない所でさぞ大変な思いをされていたのね。昨日美味しそうに夕食を食べていたのも、味や香りがようやく分かるようになって嬉しいからなのかしら。だとしたら恋をするような心の余裕だなんて、今はとても……」
アポロとミーアの言葉に、出会ったばかりの頃のポーラを思い出す。白っぽい灰色髪に無表情。硝子玉みたいな綺麗で透き通った瞳が印象的だった。それでも、アタシのくだらない話や冗談で少しだけ笑ったり、仕事の話で上司を愚痴ったり、気にくわないと無言で気にくわない雰囲気を出したり、生意気な弟分みたいで可愛い所も有ったもんだよ。
でも――――土壇場で駆けつけて、涙を流しながらアタシを覗き見る少しだけ濃くなった瞳。どうでも良さそうに聞き流していたように見えて、ちゃんと聞こえてたって分かった時は、どうしようもないくらい嬉しかった。いつだって命懸けで、それでも一人だと弱っちいから折れそうにもなる。世界の敵や神にも同情して、できる限り気持ちを汲み取るお人好し。
最近は少しだけ我儘言うようにもなって、困る内容の時もあるけど、アタシみたいなのと一緒に居たいって……そんなの、ズルいじゃないか。
「……昔のポーラを知ってると、今のあいつは本当に毎日が楽しそうで、キラキラしてて……アタシみたいなのが独り占めしちゃ、単純なあいつは叶えようと歪んじゃうかもしれない。だから、ポーラにはもっといろんな物を見て知って欲しいんだ。色々見て知って、それでもまだアタシと一緒に居たいって言って貰えたら――――」
「――――ペントラさんは、それでもよろしくて? 我慢する感覚の麻痺している人が一緒に居たいとあなたへ言うだなんて、余程の事ですわよ。ポーラさんは有無も言わせぬ強靭な強さも無ければ圧政も好まない、温かくて穏やかな【人間】だもの。部下であるアダムさんやアポロさん、新人さんに言えないようなことも、きっとございますわ」
「俺達も最初はバラバラで、ポーラ司祭が司祭になってから、初めて顔合わせて仕事するようになったんです。それよりずっと前の司祭を知っているペントラさんの方が、まだ数ヶ月程度しか部下してない俺達なんかより、百倍理解してる筈ですよ」
二人の言っていることは分かる。特に抱え込んでる時は無言で無茶をするような奴だし……。
「いっ、いろんな物を見て知って欲しいのなら、司祭と……お二人で、お出かけしてはいかがでしょうか? この街以外の街を、あまりみたことがありませんし、司祭も……きっと喜びます」
新人ちゃんまでそう言うかぁ。アタシとしては素直に駄目だと反対してもらうくらいの方が、清々しく諦められそうなもんだけど、どいつもこいつも応援する側へ回る。生意気なアダムなら――――いや、あいつもなんだかんだと助け舟出して、アタシに利用価値があると思えばとことん利用する奴だ。口では文句を言いつつ、利益やポーラの為に流してしまいそうだ。
……恵まれてるんだろうけど、どことなく自分で自分を推せないのは、無意識に抱え込んでるせいなのかもしれない。【箱舟】の中で出会った神は、【天使】でも読めない根の深い感情や記憶まで語っていた。未だ夢に出る、自分の足元に転がる幾つもの死体と骸。手や身体が、血と肉で汚れていると自覚する。足を止めてしまうと、足元のそいつらに引きずり込まれてしまいそうで、その頭や腕を必至に手にしたナイフで切り刻む。
遠くから聞こえる、狂ったような笑い声。その光景を見て楽しんでいる、腹の底へ響く高笑い。耳を塞ぐと振り払う手も塞がる。だからアタシも叫んで、耳に笑い声が入らないようにした。けどその声は止まず、アタシの声と溶け合って、今じゃどっちが笑ってるんだかわからない。
契約者だったシスター・ディアナにも赦され、スピカちゃんにもいつの間にか受け入れられていた。だがね、どんなに赦され周りと笑って過ごしても、気を抜いた時にあの夢を見る。どうしようもなく好きなのに、好きになる事を拒んでいる。また自分のせいで、誰かを失うのが怖いんだ。
「けど……いつまでも逃げてちゃ駄目だね。仮にあいつの勘違いだとしても、お互いモヤモヤしてるのはアタシも嫌だし。第一っ!! あんた達にいつまでも突っつきまわされてたら、本来イジり倒すアタシの立場が無いじゃないかっ!? 流石にね、焦るのよ? 二十五で初恋ってのは。わかる? あんた達?」
「うわ、急に生々しい話になった」
「引くんじゃない引くんじゃない。人様の恋愛事情に首突っ込んだからには、あんた達にも責任もって手伝ってもらうからね」
「ええ、良くってよっ!! サリー神官も浮いたお話だなんて一度もなさらないから、私もお二人を見て勉強させていただきますわっ!!」
「えぇっと……私も、協力しますぅ。……ペントラさんは、私達にとっても、頼りになるお姉さんですから」
ガッツリ食いつくミーアと、協力的な新人ちゃん。事の発端であろうアポロだけが席を離れようとしたので、首根っこを掴んで再び着席させる。
「ぐぇっ!!」
「逃がすかっ!! あんたが軽口でバラしたんだから、責任もって最後まで付き合いなさいなっ!! そうだねぇ、アポロは料理が得意だろ? アタシの料理の先生になるなんてのはどうだい? 仕事終わりの空いた時間でもいいからさ」
「いやぁ、俺がバラさなくても皆気付いてたでしょうし……なぁ?」
アポロは助けを求めるように、背後の二人へ視線を送りながら投げかける。
「なんのことだか、わかりかねますわね」
「試食なら、私も付き合います」
「あっはははは……はぁ。断るに断れませんし、ようやく向き合ったペントラさんの花嫁修業を、俺の出来る範囲でお手伝いしましょう」
僅かな期待も虚しく空振りしたアポロは、観念して抵抗を止めて力なく笑い、長椅子へ完全に腰を下ろした。
「あんたがアダムみたいに捻くれてなくて助かるよ。アイツに話すと絶対うるさいからさ」
「最近は特に過保護っていうか……ライバル意識はしてるんですけど、司祭や新人に甘いんですよ。元々厳しくても、なんだかんだフォローしてくれる人ではあったんですがねぇ」
「まるで姑さんみたいですわ」
「頼りになる兄……でしょうか。教え方や仕事も丁寧で、司祭も副司祭をよく褒めています」
「……意外と司祭の心を掴むより、副司祭の心を掴む方が課題かもしれませんねぇ」
心強い(?)仲間が出来たのはいいが、あいつの身の丈に合った女になるまでは、まだまだ時間は掛かりそうだ。今度こそポーラを助けてやれるくらい、アタシも強くならなくちゃねぇ。
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