身代わり妃は後宮で失せ物の夢を見る

瀬崎由美

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第二十三話・茶会

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 風も緩やかで心地よい日和。数日前の雨で土埃が洗い流された庭の植木が鮮やかな緑の葉をゆっくりと揺らしていた。
 こんな日は庭に椅子を出して陽の光を浴びるのも悪くないと思うのだが、見た目の美しさを競い合う後宮では肌が焼けるのを良しとはしない。
 確かに本物の未央も白磁器のような滑らかな肌の持ち主だった。
 でも、生まれ故郷ならば日焼けした肌は健康的で働き者の証拠だともてはやされたのだけれど。

 見覚えのある侍女二人を引き連れて殿舎を訪れてきた李妃のことを、木蘭は扉の外まで出て迎える。
 上位の妃が殿舎を訪ねて来るのは初めてで、香鈴も春麗も粗相があってはならないと朝から気を張っていた。

「ようこそお越しくださいました、李妃様」

 木蘭は侍女達と共に、幼い中級妃へと丁寧に礼を取る。
 木蘭達の出迎えに、李恵寿は恥ずかしさからかモジモジと俯きながらはにかみつつ、「本日はご招待ありがとうございます。とても良い日和で嬉しく思っております」と挨拶を返した。
 李妃の方も他の妃の殿舎を訪れるのは久方ぶりのようで、少しばかり緊張しているのかもしれない。
 ここに来る前にその文言を何度も練習したのだろうか、言い終わった後にホッとした表情になっていた。

 木蘭より頭二つ分は背の低い妃の本日の装いは、淡い桃色の上衣がまだあどけない面持ちの愛らしさを引き立てていて、その衣の支度をした者が彼女のことを大事に思っているのが伝わってくる。
 きっと李妃の乳母でもあったという侍女頭なのだろうと、木蘭は妃の後ろに控えている三十過ぎの女に目をやる。
 香鈴の話では、この侍女頭は妃にとって乳姉妹にもなる実子を早くに亡くしてしまったらしく、そのせいで李妃に対してつい過保護になりがちなのだという。

「本日は伴妃様もお誘いしております。後ほどいらっしゃるはずなのですが――」

 用意した部屋へ案内しようと身体を翻した時、門の方から玉砂利を踏む音が聞こえて木蘭はもう一度振り返る。
 今日は李妃と伴妃の二人を招待してお茶を振る舞うつもりでいた。
 首を伸ばして確かめると、案の定、伴妃も訪ねて来たようだった。伴妃は李妃より来るのが遅かったと気付き、慌てて足を速めた。

「お初にお目にかかります、李妃様。伴雪舞と申します。姜妃様、本日はお誘いいただき、ありがとうございます」

 伴妃は普段よりも深く頭を下げて礼を取り、李妃と木蘭に挨拶する。
 李妃を見て一瞬、「えっ?」という顔になったのは妃があまりにも幼かったから驚いたのだろう。
 十歳の子供だということは噂で先に知っていたとしても、実際に対面すればあまりに小さくて後宮には不似合いなのだから無理もない。
 初対面の伴妃がやって来たことで人見知りが出たのか、李妃は上衣の裾をぎゅっと手で握りしめて足下を向いていた。

「李妃様。こないだもお話しましたが、伴妃様のお庭には小鳥が水浴びに来る池があるんですよ」

 木蘭が優しくそう話しかけると、俯きがちだった小さな妃の顔が上がり、その瞳が途端に煌めく。
 部屋へ案内しながら、伴妃にも李妃がとても鳥がお好きだということを伝えると、二人は席に着くや庭を訪ねてくるという鳥の話を始めていた。
 伴妃は意外にも幼子の相手が得意だったようで、李妃が喜びそうな話題を振っていく。

「つい先日、とても珍しい羽色の鳥が遊びに来たのです。きっと遠い国から迷い飛んで来たんでしょうか。羽の一枚くらい落としていかないものかしらと眺めていたのですが、そう上手くはいきませんね。庭石に糞を落としていっただけでした」
「どんな色だったの?」
「明るい橙色でした。今まで見た中では一番美しかったですね」
「まあ、それは珍しい。うちにもいろんな羽色の子がいるけれど、橙の子はいないわ」

 初めは消え入るような小さな声で受け答えしていた李妃が、明朗な声で話すようになった姿に、木蘭は安堵の笑みを漏らす。
 この後宮で鳥ばかりを相手にして閉じ籠っていてもと、この茶会を設けてみた。
 自分も人懐っこい伴妃の存在にとても助けられているところがあったから、李妃にとってもそうなればいいと。
 李妃付きの侍女達も最初はハラハラと不安そうな表情を浮かべていたが、妃の明るい顔に嬉しそうに笑みを零していた。

「そういえば、こちらのお庭で鳥が巣を作り始めたとか?」

 時折やり取りするようになった文の中で、木蘭は以前からある木の枝に鳥の巣のような物が現れたことを書き記したことがある。
 李妃は窓から見える庭を眺めてキョロキョロしている。よっぽど興味があるのだろう。

「ええ、まだ何も住み着いてはいないみたいなので、作り掛けて止めてしまったのかもしれません。あの、東側の大きな木の真ん中辺りの枝なのですが――」
「えー、どこだろう……?」

 李妃の目線に合わせて頭を下げながら、窓の向こうの景色を指して説明すると、伴妃も一緒になって庭を覗き込んでいる。
 小枝を寄せ集めた小さな巣は真下から見上げても葉に隠れて分かりにくい。
 二人は首を傾げながらも必死に目を凝らしているようだった。

 少し開いた窓から、ふわっと柔らかな風が部屋の中に舞い込んでくる。
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