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コロ

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staying at Myacon

コロージュン家の家族とアイリス

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ワイナール皇国暦286年、6の月



「1日と半分くらいかかったね?
飛びっぱなしで疲れてない?アナヴァタプタ」

「うむ、問題無いぞ?」

「そっか、ありがとね
しかし、この高さから皇都って初めて見るけど…
改めて見ると皇都ってデカイ都市ってのが判るねぇ
つーか、綺麗に区分けされてるから、まるでオードブル容器みたいだ」
アナヴァタプタの背で雲の切れ間からミャーコンを見下ろす

「ふ~む、確かに想像していたよりも大きな街だな」
「うむ、歩いて廻れば数日はかかりそうだな」

「そうだろうね?俺だって初めて街の外に出る時は1日使ったからね
それも、皇都の端の方から出発したのに…だよ」

「なるほどのう」
「して、ロウの実家?とやらは何処にあるのか?」

「うん、あの真ん中の円い区画が皇居だから…」
ロウが中央の円環を指差し、そのままなぞる様に下へ向ける
「…そこから、東に…手前だね?に、広がる街が東街区
その東街区の中で1番大きな敷地面積の建物がウチ…?」
ロウが、少し固まり首を傾げた
「あれがウチだよな?上から見たのは初めてだからなぁ…
いまいちピンとこない…
まぁでも、間違い無いだろ」

「ロウ!ロクローパパの匂いがする!」
ワラシが公爵家を指差す

「お⁉︎そっか⁉︎あそこも録郎が造った家だよ、ワラシ」

「そっかー!ロウ!いきたい!」
「ふむ、ではこのまま降りるか?」

「いや、降りるんじゃなく、このまま堕ちよう
ウチの真ん中に穴が空いてる様になってるの見える?」

「ふむ、確かにあるな?」

「あれは中庭なんだ、あの中に堕ちれば気付く人もいないんじゃないかな?
気付く人だって、たまたま見てたってぐらいだろ
まだ目立つには早いからね」

「「うむ」」

「っていうか…」
ロウが目を凝らす
「まさに針の穴にしか見えないな…
つか、だいぶ風に流されそうだから気を付けなきゃ
堕ちる衝撃にはコマちゃんとアナヴァタプタとタクシャカは大丈夫だろうけど、ワラシは…
うん、ワラシ?
ワラシは自力で飛べないから俺に捕まっててな?」

「うん!わかった!」
ワラシがロウの背中にギュッと張り付く

「よし、じゃあアナヴァタプタ?竜人形態になっていいよ
2人とも、堕ちる時はなるべく気配を殺してね」

「「うむ」」

そして自由落下
ぐんぐん地面が近づいてくる

「まるでGo●gle Earth観てるみたいだ…
おっと?ズレてきた」
下を見ながらチョイチョイ位置をズラし…


“ズドドオオオォォォォォン!”

「ふう…なんとか無事着地。
どう?ワラシ大丈夫だった?」

「うん!」

「そっか、良かった
しかし、地面は芝なのに土埃が巻き上がるもんだな
コマちゃん、アナヴァタプタ、タクシャカ、無事着地したよね?」

【大丈夫だよ】
「うむ、問題無いぞ」
「うむ、地面が少し抉れてしまっただけだ」

状況確認していると、俄かに屋敷内が騒がしくなる
そして、一室の扉が勢いよく開き数人が飛び出してきた

「何かが落ちてきたのか!」

「あれ?この声は父上?」

「へ?」









「して、御神鏡が割れたと?」

「はっ!本殿内を掃き清め、これから祝詞奏上しようかというところで」

「ふむ、では我と同じぐらいの刻か」

「陛下、同じぐらいとは?
何事か祭殿で異変が御座いましたか?」

「うむ、アシュラム
以前…今年の初めにあったであろう?」

「まさか?こちらでも御神鏡が?」
アシュラムが御神鏡に振り向く

「こっちでは割れてはおらぬが、あの時の様な不穏な気配が漂ったのでな
今日の祭祀は取り止めておった」

「左様で御座いましたか…」

「エゴール、神社の方はどう対応しておるのか」

「ははっ!神職たちには本殿から出し、警戒させております」

「うむ、それで良い
しかし、此方の不穏な気配は其の方らが入る前に消えたようだ
だが、此方は警戒しておくので数人の兵を配置しておけ
我は部屋へ戻るとしようか」

「「「ははっ!」」」










「「「「あにさまーー!」」」」

「うおっ⁉︎ちょおっ⁉︎待っ…」
ロドニー達がタックルする勢いで突っ込んでくるも立ちはだかる影が1つ

「うー‼︎ロウ?だれー?」
ワラシがロウの前で腕を広げカミーユ達を威嚇する

「「「「だれ⁉︎」」」」

すると、ロウとワラシの頭越しに2つの巨大な頭がヌウッと出てきてロジャー達を舐める様に見る

「ふ~む、ロウやワラシと同じぐらいの小さき者達だな」
「ロウよ?この者達が言っておった弟妹達か?」

「「「「ひうえっ⁉︎」」」」
マリー達が仰け反りながら萎縮する

「アナヴァタプタ、タクシャカ、そうだよ?食べないでね」

「「「「食べる⁉︎」」」」
ロドニー達が仰け反りながら後ずさる

【アナヴァタプタ、タクシャカ、この子達は獣人以外の異種族自体を見た事が無いはずだから
恐がらせたら怒られるよ?】
と、コマちゃんがマリーの足元へトコトコ歩く

「「わあ!コマちゃん♪」」
カミーユとマリーがコマちゃんを抱き締める
「ワフッ!」

「ワラシ、アナヴァタプタ、タクシャカ、魔世、僕の弟と妹達だよ
こげ茶色の髪の顔立ちがソックリな双子がロドニーとカミーユ
その2人より明るい髪色の子達がロジャーとマリー」


「?ロウがお兄ちゃんなのか?」

「そうだねワラシ」

「ふ~ん」



「兄様?この子は誰ですか?」

「ん?この子はワラシだよ、カミーユ。僕の従魔だね」

「「「「従魔⁉︎」」」」
「「「従魔…」」」
「なるほど⁉︎その子だったか!」

「あれ?父上は御存知でしたか?」

「うん、報告を受けていたよ?
確か、ダムド領で従えたんだったね?」
「ロウ!だれー?」

「従え…んー、少し違うと思いますけど間違いではないですね
ワラシ?僕の父だよ、名前はロマンって言うんだ」

「ちちー?ロマンー?」

「そうだよ、ワラシに解りやすく言うとロマンパパだね」

「⁉︎⁉︎⁉︎ロマンパパ⁉︎⁉︎⁉︎」
「「「「「ロマンパパ?」」」」」

「ふふっ…」

「へー!へー!へー!へー!へー!へー!
ロマンパパがロウを創ったのか⁉︎
スゴイ!すごい!スゴイ!すごい!」

「録郎の直系子孫…解るかな?ずっと録郎から繋がってきた人でもあるよ」

「ロクローの⁉︎スゴイ!ロマンパパすごい!スゴイ!」
ワラシがダッシュでロマンに抱きついた

「⁉︎⁉︎…あの…ロウ?パパとか…ロクロー?えっと、なんだろう?」
ロマンがワラシを抱きとめ、頭を撫でながら困惑している
その様を見てコロージュン家の皆も困惑している

「ふふっ…後で説明します、他の後ろの者達の事も
それと…母上達もお久し振りです、お変わりなく」
ロウが大袈裟に右手を振り胸に当て、頭を下げる

「「あ、あ…えぇ…」」
「ロウ?ええ?そんな芝居がかって…そんな子でしたか?」

「ふふっ…数ヶ月の間、辺境に居たんです
長男として、少しは成長したところを見せないとロドニー達に笑われてしまいますから」

「「「………」」」

「それよりも、まずはアイリスは何処に?部屋ですか?
それにハンスは?アイリスに付いているんですか?」

「え⁉︎あ、あーーちょっとロウ、こっちへ」
ロマンが正面からワラシに抱きつかれたまま、ロウと中庭の隅へズリズリと移動する
公爵家当主としては実に締まらない格好だ

“ロウは何処までの話を聞いたのかな?”

これでロウは、ロマンぐらいしかアイリスの状態を知らないと踏む
あるいは家族だけに教えていないのかもしれないと予想し
「ワラシ、僕とロマンパパの周りに水の膜を」

「うん!」
返事をするなりワラシが水テントを展開する

「「「「わあ⁉︎スゴイ⁉︎」」」」
「「「まあ⁉︎」」」

「なんて事だ…」

「父上、これで小声ではなく御話ください
家族にはアイリスの事を教えてないんでしょう?」

「ふふっ…やれやれだねぇ…本当にロウは読んで気を使う子になったね
まぁいい…その通りだよ、アイリスの状態が酷くてね?とても妻達や子供達には見せれない」

「瀕死だと聴きました…」

「うん、瀕死の状態ではあったが命には別状ない…
いや、死なない様に瀕死の様な状態にされた…と言うべきか…」

「…?話が見えません、生きているのですよね?」

「生きているだけだ!人としては殺されている‼︎」
ロマンが昂ぶり叫ぶも
「…いや、済まない…取り乱したね…」

「いえ、大丈夫です。僕も辺境では少々経験した事がありますから気にしません
それに、アイリスは生きているのですから救いがあります…」
ロウの目が暗く沈む

「なっ⁉︎……そうか……」
ロマンがロウの頭をポンポンと叩く

「へへっ…そんな事をしてもらうのも久しぶりですね?
3歳ぐらい以来かな?」

「ふふっ…もう少し甘えてくれても良いのだけどね?」

「はい…それよりアイリスの元へ連れて行ってください
生きているのなら僕がなんとかします
そこにハンスも居るのでしょう?」

「いくらロウでも難しいとは思うが…
ハンスは謹慎中だよ」

「謹慎中?ハンスが?」

「うん、アイリス本人に頼まれて殺そうとしたんだ…」

「………そうだったんですか…ハンスも辛かったでしょうね…」

「そうだね…だが…まぁいい、アイリスの元へ行こうか」

「ええ、でしたらハンスも呼んでください
僕がいる限り絶望する必要がないって教えてあげますよ」

「…ロウがそう言うなら任せようか
ワラシ?もう水を消してくれて構わないよ?」

「うん!」

水テントが消えると、周りに控えるメイドに
「誰か!ハンスを連れてきなさい!それと…」
家族に振り向き
「君たちは朝食を終わらせて部屋に戻っていなさい」

「「「そんな⁉︎」」」
「「「「えーー⁉︎」」」」

「大丈夫だ、すぐに応接室に呼ぶから待っていなさい」







「な⁉︎ロ、ロウ様⁉︎え⁉︎あの気配⁉︎いや…まさか…そんなはずが…」

「やあハンス、久しぶりだね?街門以来だね
彼らの気配に気付いてたのは流石はハンスだけどさぁ
早まっちゃったみたいだね?」

「はい、申し訳ありません…」

「いいよ、別に、苦渋の決断って事なんでしょ?
その苦渋を取り去ってあげるよ
それに、少しは想像が付くけど目の当たりにしたら僕だって頭に血が上るかもしれない…」
クルッと振り返り
「コマちゃん、ワラシ、魔世、アナヴァタプタ、タクシャカ、その時は全力で僕を抑制おさえてくれない?」

「「うむ」」
「うん!」
『はい!』
【オッケー】








「ロウ?取り乱してはいけないよ?
君たちは部屋外で待機してなさい」

「「はい」」

ロマンがアイリス付きのメイドを外に出し
部屋の中に入るとロウ達も続き、ハンスが最後に扉を閉めた
そして、ロマンがゆっくりとアイリスを覆うシーツを捲る

「っ⁉︎な ん だ…こりゃ……………
はぁぁぁぁぁ~ふうぅぅぅぅぅ~
………………」

【大丈夫?】

「……………」
ロウが俯き必死に耐えるも握った拳がブルブル震えている
「アイリス…僕が分かる?ロウだよ?」

「……⁉︎ぁーあー」
アイリスがジタバタしだすと慌ててロマンが抑える

「声も…目もか………クソが………魔世…」

『はい』

「鏡を…向こうで治療する…」

『はい』
魔世の欠片がロウの懐中からフワフワ出て、鏡になる

「アイリス?僕が…いや、僕らがアイリスを必ず完治させるよ
ハンス?アイリスを抱えて付いて来て…」

「えっ⁉︎あ、はい!」
魔世の事を呆気に取られて見ていたハンスが、慌ててアイリスのベッドに行き
嫌がるアイリスをお姫様抱っこする

それを横目で確認したロウが
「じゃあ父上も来てください、治療を見たいでしょう…」
と鏡に入っていく

「ハンスとやら、先に行け」
「うむ、早ようせぬか」

「え?あ、はい」
アイリスを抱えたハンスが鏡に入る

「ロマンパパもー!」
「え?おいおい…」
ワラシがロマンをグイグイ押して鏡に入ると、続いてコマちゃん、アナヴァタプタ、タクシャカが入っていった






ロマンがワラシに手を引かれ、ハンスがロウの後をキョロキョロしながら歩き
竹小路を抜けた処に木造家屋があった
そして、そこには
「いらっしゃいませ。ロマンパパ、ハンス
ようこそ主人様あるじさまの屋形へ」
縁側で魔世が三つ指ついて頭を下げていた

「え…あの…」
「えーっと…ロウ?この綺麗なひとは誰かな?」

「魔世ですよ。魔世?敷布団を敷いてくれる?」

「はい、既に」
魔世が奥に手をかざすと畳敷きに柔らかそうな布団が敷いてある

「うん。じゃあハンス、あそこにアイリスを寝かせて
着てる物は…ガウンタイプの寝間着だから大丈夫かな」

「え?あ、はい」
ロウが靴を脱いで上がったので、それに倣いハンスも慌てて靴を脱ぎ上がって布団の上にアイリスを横たえる

「主人様、仙桃になさいますか?」

「ん~?いや、モノを食べるのは難しいだろうからエリクサー神薬にしよう
それに、仙桃は強すぎるかもしれない
アイリスの体力が凄く落ちてると思うから万難を排したい」

「承知しました。では」
魔世が畳に手を付き離すと緋金のエリクサーが顕れた
そして、もういちど繰り返し2つのエリクサーを出す
更に手を付け離すと赤ポーションがあった
「念の為に2つあれば大丈夫かと、それに赤で体力を回復させればよろしいかと思います」

「うん、そうだね。ありがとう魔世
ワラシ、アイリスの身体を水で柔らかく抑えて」

「うん!」

「アイリス?これから神薬を飲ませる」

「⁉︎⁉︎ぁー!」
アイリスが首を振って嫌がるも

「ふふん、どうせアイリスの事だから自分なんかに大事な薬を使うなってんでしょ?」

「……」
アイリスが頷く

「そんな心配なんて要らないよ
この神薬は僕と魔世と龍王達とワラシが居れば、いくらでも創れるからね」

「⁉︎⁉︎⁉︎」
「「龍王⁉︎」」
ロマンとハンスが目を剥いてアナヴァタプタとタクシャカを見る

「ワフッ?」(私は?)

「コマちゃんはトマト漁りでもしてろ」

「わふっ⁉︎」(ヒドイ⁉︎)

「トマトトマト言ってたバツだ、ザマァ」

「ワウ…」(むう…)

「ただアイリス?神薬を使っても治る過程で凄く痛いかもしれない
深く眠らせようかとも思ったんだけど、脳に近い目の治療もだから痛みで目が醒めた時の方がツライと思う
だから、身体はワラシの水で抑えるから我慢してよ
父上?父上とハンスも反対はしないよね?」

アイリスが、しっかりと頷いているのを見て
「アイリスが苦しむ姿は見たくはないが、私には何も出来ない
これをロウが何とか出来るのを信じるよ
と言うより、もう朝から次から次へと精神が揺さぶられ過ぎて何が何だか…
事が済んだら説明してもらうよ?」
「私もロウ様が為さる事に異論はありません
元々、謹慎中の身でありますから…」

「はい、説明しますよ
じゃあ始めます、エリクサーを飲ませた瞬間に全身が同時に治って…いや、復元していくはずなので
アイリスの苦しむ様を見たくなければ外へ」

「いや…」「いえ…」

ロウが頷き
「アイリス、口に流し込むね」
とエリクサーの瓶の口を挿し込み、一気に流し込んだ

“ゴクリ”と聴こえたのは誰からだったのか、それとも全員が喉を鳴らしたのか
音がした刻からアイリスの目、口、両手足の傷がある部分がボンヤリと緋金に輝きだし…

アイリスの表情が苦痛に歪む
呻き声も上げず、歯を食いしばり苦痛に耐えているのは元暗殺者の意地か、メイド長としての矜持か

だが苦しみも復元してしまう迄だった
最初に目が新しく出来、古い目玉が溢れ落ち
口の中で見えないが舌も生えてきていた
両手足は、ゆっくりとだが切断部から同時に新たに生えてきていた

両手足が完全に生えてきて発光が消えると、ゆっくりとアイリスが目を開ける

「どう?見える?」

「リ、リョウハマ、ミヘマル…」

「うん、再生した舌に馴れてないね。コレを飲んで?
ワラシ、水を消して?」

「うん!」
ロウがアイリスの口に赤ポーションを挿し込み飲ませる間に、ワラシが覆っていた水を消した
赤ポーションを飲んだアイリスの血色が一気に良くなり半身を起こすと

「リョウハマ…」
アイリスがロウを見て大粒の涙を零し
ロマンとハンスが、あらぬ方向を見て肩を震わせていた






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