文字の大きさ
大
中
小
54 / 333
4巻
4-3
ムーア先生は何度も解毒薬を作っているからか、どんどん作るスピードが速くなっていますわね。
王子たちは今後も毒を盛られる可能性があると思うのだけれど、どうなさるのかしら。
などと、頭の片隅で考えていたら、テオ様が「蓄積する毒なので、念のため解毒薬を何度か飲んでもらう必要がある。今後は定期的にお送りします」って、お二人が不安にならないよう、上手に誤魔化していたのよね。さすがテオ様ですわ。
「お二人がご無事でよかったですわ」
「これまで見たどんな毒よりも毒々しい解毒薬を見た時は、ディバイン公爵を疑いましたが……」
でしょうね。わたくしですら、本当に解毒薬か疑いましたもの。
「命を救っていただき感謝します」
ユニヴァ王子は、棘を抜かれた薔薇のようにただ美しく微笑む。
それを見たテオ様がわたくしを抱き寄せ、「私の妻に色目を使うな」と睨んだ。
「心配せずとも、色目など使っていない。ディバイン公爵、君は奥方のこととなると人が変わるな」
「ユニヴァ王子にだけは言われたくないことだな」
まぁ、お二人ともすっかり仲良しになりましたわね。
『ブラコンと愛妻家、どっちがまともなんだろうね?』
『ドッチモダメー!』
『ドッチモ、キケン!!』
妖精たち、テオ様に怒られますわよ。
「そうだ! 女神、公爵領のお食事、『おもちゃの宝箱』、そして『いるみねーしょんの街路樹』、どれもとても素晴らしかったです!! 公爵領のレストランはどこもレベルが高いですが、特にカレー専門店! あれはもう……っ、それに、見たこともないおもちゃの数々……っ」
ジェラルド王太子が嬉しそうに熱弁をふるっている。
自分だけでなく兄であるユニヴァ王子までもが知らぬうちに毒を呑んでいたことにショックを受けていたものの……すぐにどうこうなるわけではないことに加え、解毒薬もあるということで安心したのだろう。
しっかりディバイン公爵領を観光したジェラルド王太子は、『おもちゃの宝箱』で大量のおもちゃを購入していた。
「お褒めいただき光栄でございますわ」
「あのっ、我が国で研究・開発されたあるものを、この度グランニッシュ帝国への友好の証としてお贈りしたのです。それで、ディバイン公爵夫人にも是非お渡ししたいと思い持ってきているのですが、よかったら、受け取っていただけないでしょうか!」
ぷにぷにのほっぺを揺らしながら、それでも王子の気品をもってキラキラの笑みを浮かべるジェラルド王太子。
好奇心旺盛な彼がディバイン公爵領内で注目していたものは、全てわたくしのイチオシばかり。ぽわぽわおっとりに見えて、実はかなりの目利きだ。
そんな彼が言う、リッシュグルス国で開発されたものとは一体なんだろうか。
期待が高まる。
「リッシュグルス国で研究されていたものなのですか?」
はしたないけれど、興味津々で聞いてしまったわ。
「はい! 我が国では、羊皮紙や植物の繊維を編んだものではなく、もっと安価に大量生産できる『紙』の研究をおこなっていまして、やっと完成にこぎつけたんです!! 商品化の目処が立ちましたので、こちらを是非女神の生み出されるおもちゃに使用していただけたらと思い、持ってきました」
『紙』ですって!?
ジェラルド王太子の従者が、トレーにA4用紙ほどの大きさの紙の束をのせて、恭しく前に出てくる。
少し黄味がかっていて、植物の繊維らしきものが見えるし、日本のものに比べて少し厚みもあるが、これは紛うことなき『紙』ですわ!! しかも和紙!
羊皮紙やパピルス紙のようなものしかなかったこの世界に、ついに和紙が誕生したのだ。
「まぁっ、なんて素晴らしいのかしら!!」
これがあれば、絵本ももっと大量に、安価に作れますわ! それにトランプや折り紙、他にも色々作れますわよ!!
「紙の革命ですわ! このまま研究が進めばもっと薄く綺麗な紙も作れますわね。友好国がこんな素晴らしい研究に熱心に取り組んでいるだなんて、未来は明るいですわ!!」
ついテンションが上がり、テオ様の腕の中ではしゃいでしまった。
「ほう……、ディバイン公爵夫人は『紙』の価値を理解できるのですね」
ユニヴァ王子が意外そうにわたくしを見る。
「もちろんですわ!! 紙は文字や絵を書くだけでなく……、ちょっと一枚よろしいですか?」
トレーから一枚紙をいただき正方形に整えると、紙風船を作る。
「このように、おもちゃを生み出すこともできますのよ」
ぽんっ、ぽんっ、と掌で紙風船を転がしていると、ユニヴァ王子もテオ様も、呆然とこちらを見ているではないか。
「……? どうかなさいましたか?」
なにかございまして? と首を傾げていた時だ。
「す、すごい!! ディバイン公爵夫人、あなたはなんてすごい方なんでしょうか!!」
円な瞳をキラキラさせて、わたくしの掌にある紙風船を凝視し、ジェラルド王太子が声を上げた。
「――? すごいのは、リッシュグルス国ですわ」
「いえ、夫人の手はおもちゃを自在に生み出す魔法の手です!! まさかこのペラペラの紙一枚で、そのように素晴らしいものを作り出すなんて……っ。やっぱり女神だ!」
王太子の反応に困りテオ様を見上げると、テオ様まで大きく頷いているではないか。
ただの折紙ですわよ!?
「ディバイン公爵夫人、是非我が国の『紙』を使って子供たちのためにおもちゃを作ってください!! リッシュグルス国は、女神に優先的に紙を融通いたします!!」
そんな大事なことをここで決めていいのですか!? って、いいわけありませんわよね。
紙を融通すると言われかなり嬉しかったが、冷静になって考えると、隣国との貿易を、政に携わっていない一般人であるわたくしが、勝手におこなうわけにはいかないわ。
「とても光栄なことですが、わたくしが勝手に、お受けしますとは言えませんし、ジェラルド王太子殿下も、国のことをそのように簡単に決めてしまうのはよろしくないのでは?」
たとえ王太子であっても、国王や大臣、国の重鎮たちと相談して決める事柄だもの。
「大丈夫です! 女神のことは父上……、国王や大臣も知っていますし、『新たな紙』は国家事業としてグランニッシュ帝国と貿易の話を進めているところです! ネロウディアス陛下にもいいお返事をいただきましたし、女神が我が国の『紙』を使用しておもちゃを作ってくだされば、リッシュグルス国としては得しかありません!」
とまくしたてられ、あまりの勢いに一歩下がってしまった。
「ジェラルド、落ち着きなさい。ディバイン公爵夫人が困っているじゃないか」
「あっ、女神、すみません! 僕、つい興奮してしまって……。兄上も止めてくれてありがとうございます」
真っ白なほっぺたが、ピンクに染まって美味しそうなことになっているジェラルド王太子だけど、わたくしの一存ではなんとも言えませんし……
「ベル、グランニッシュ帝国の法律に反していなければ、一商人が他国と品物の取引をおこなっても問題はない」
ここで夫の助言があり、それならば……と返事をしようとしたところで待ったがかかる。
「だが、リッシュグルス国の新たな紙と、君の発想は併せると大事件に発展しそうでもある。だから、この件は私に任せてもらえないだろうか」
テオ様が優しく聞いてくださったので、大きく頷く。
「はい。テオ様にお任せしますわ」
旦那様なら、悪いようにはなさらないもの。
「ああ。ベルが喜んだ顔を私に見せてくれるよう、頑張るつもりだ」
「まぁ……、テオ様ったら」
わたくしの夫は、なんて優しい方なのかしら、などと心の中で惚気てみる。
『ねぇねぇ、ベル! その紙で作ったおもちゃ、もう一回作ってよ!』
『アカ、オボエタ。デキル!』
『アオ、ワカンナーイ!!』
妖精たち、それはあとでね。もうちょっと空気読まないと、テオ様の優しいお顔が能面みたいになっちゃうでしょ。
その後、テオ様は妖精通信を駆使して、陛下や皇后様と話し合い(電話会議みたいになっていたわ)、王子たちの滞在最終日だというのに、その会議で部屋から出てきませんでしたのよ。
ジェラルド王太子はテオ様とあまりお話しできなかった、と若干残念がっていたけれど、紙の話は上手くまとまったようで、ほくほくと満足そうなお顔で、お国へ帰っていった。
「まだ第一王子の件もありますのに、お二人は大丈夫でしょうか……」
「それならば問題ないだろう」
お見送りのあと、心配のあまり呟いたわたくしの言葉を、テオ様が拾う。
「随分自信を持っていらっしゃいますのね」
「すぐにわかる――」
SIDE リッシュグルス王国 ジェラルド王太子
ガタゴトと揺れる馬車の中、久々の故郷の街並みを感慨深く眺める。
やっぱりリッシュグルス国は美しい国だ。
「兄上、リッシュグルスへ戻ってきましたね!」
リッシュグルスは山や広大な森に囲まれた自然豊かな国だ。
林業が盛んで、木々を加工し、上質な家具などを輸出していたが、グランニッシュ帝国とは違い、鉱石の採掘量は少なく、国力が乏しかった。
どうにか新たな産業を、と皆で試行錯誤した結果、今までにない紙を作り出すことに成功したのだ。
その功績もあって僕が立太子することになった。王太子として表立って仕事ができるようになり、製紙事業に力を入れられるのはよかったんだけど……
立太子した頃から、頻繁に暗殺者を差し向けられるようになったんだ。第一王子である兄上の仕業だとわかっていたけれど、証拠がないため、なにもできなかった。
そんな時、僕の立太子を報せるためにグランニッシュ帝国に赴くことになった。
僕は以前からグランニッシュ帝国のディバイン公爵領で生まれた『子供向けおもちゃ』というものの大ファンだった。特に絵本が好きだ。こんな絶好の機会は逃せない。絶対開発者であるディバイン公爵夫人に会うんだ!
そう心に決め、ユニヴァ兄上に無理を言って、憧れの女神に会うため、わざわざディバイン公爵領に寄ったのだけど、最初はすごく警戒された。
そりゃあ、いきなり他国の王子が自領にやってきて警戒しない人はいないんだけどさ。ちょっとへこんじゃったよ。
でもおかげで新作おもちゃや絵本を手に入れられたし、紙に関してもいい宣伝ができたと思う。
グランニッシュ帝国でリッシュグルス国の紙の認知度を上げるには、女神に広告塔になってもらうのが最適だったから。
「ジェラルド、体調がいいようだな」
城に向かう馬車の中、ユニヴァ兄上が柔和な微笑みを浮かべて僕の頭を撫でる。
「兄上、僕はもう子供ではありませんよ!」
もうおじさんと言ってもいい年なのに、兄上の中では、まだ子供のままのようだ。
「ハハッ、そうだな。お前がよりよい為政者になるために努力し、大きく成長したことはわかっている。だけど、私のあとをよちよちついて回るお前も、まだ鮮明に覚えているから」
「何十年前の話ですか!」
まったく、兄上は僕が好きすぎるから……早く結婚して、その感情を自分の子供に向ければいいんだけどな……
「ディバイン公爵領に行ってよかった」
最初は行くのを反対していた兄上も、女神の素晴らしさを理解し、そのうえディバイン公爵という新たな友を得た。
「そうですね。女神や公爵とも仲良くなれましたし、黒蝶花の毒のことも教えてもらい、治療までしてもらえました。この御恩は忘れません」
本当に、公爵家の人々は命の恩人だ。
「ジェラルド王太子万歳!」
「ユニヴァ王子ぃ! こっち向いてぇ!!」
窓の外には、手を振る王都の人々。僕ら王族を慕い、親しみを持って接してくれる。なのに、兄上は……第一王子は、この民たちを戦争の道具にしようとしている。
「ジェラルド王太子、ユニヴァ王子、お帰りなさい!」
「待っていましたよ! お帰りなさい!」
その明るい笑顔に、決意を強くする。
「兄上、僕は王になります」
民の幸せそうな笑顔を、誰にも奪わせはしない。
SIDE リッシュグルス王国 第一王子
窓もカーテンも閉めきった薄暗い部屋の中、力の入らぬ手をなんとか動かす。だが、指先が震え、腕は上げることもままならぬ。以前よりマシになったとはいえ、それは僅かだ。
どうして私だけがこのような目にあわねばならない。
「王太子殿下がグランニッシュ帝国からご帰還されたそうだ!」
「なんでも、正式に友好条約を結び、国交を樹立なさったのだとか」
「さすがジェラルド王太子殿下よ! 立太子された途端に功績を立てるとは、なんと喜ばしい!」
私の部屋の前とわかっていながら騒ぎ立てる連中も、私が喉の渇きを覚えていることに気付かぬ無能な使用人も、このような身体に産んだ両親も憎くてたまらない。私がこんなに苦しんでいるというのに、誰も見舞いにすら来ないのだ。
「はやく……」
どうして私だけが痛く苦しい思いをせねばならない。
「はやく、なおせ……っ」
どうして無能な弟がこんなに称賛される。あいつは、ただ健康だというだけで私から王太子の座を奪ったというのに。
「私が……、王太子、だ……っ」
私こそが、次期国王に相応しいのに、何故それがわからない。
「こんな身体でさえ、なければ……」
風もないのに、蝋燭の火が揺れ、掻き消えると暗闇から奴が現れる。
『――使用人どもはお前を蔑んでいるぞ。両親はお前をお荷物だと思っている。弟たちはお前を邪魔者扱いし、殺そうとしているのだ。臣下たちはお前を無能な王子だと嗤っている。グランニッシュ帝国の者たちも皆、リッシュグルス国の第一王子はいらない存在だと噂しているぞ』
私がいらない存在だと……、私が、嘲笑されているだと……っ。
ならば、王になった暁には馬鹿にした奴らを全員……全員、この手で葬ってくれる……っ。
「いつ治る……? この身体は、いつ治るのだ……っ」
暗闇に向かって叫ぶと、音もたてずに近づいてくるのは最近雇った医者と名乗る怪しい男だ。
「言っただろう。お前の病はすぐに治るわけではない」
「この……、無能な医者が!」
「俺がいなければ、お前はとっくに死んでいた。それにもかかわらず、俺を無能扱いか」
医者如きが偉そうに。だが、この男が来てから以前よりも体調がマシになったのは本当だ。
前は喋ることさえ難しい状態だったからな。
「……言いすぎたようだ。だが……、ジェラルドが、戻ってきてしまった」
グランニッシュ帝国で死んでくれればいいものを。
「事故と見せかけ殺そうと、馬車に……細工をしたのでは、なかったのか」
以前から懇意にしている、金さえ出せばなんでもしてくれる犯罪組織。奴らは一体なにをしている!
「どうやらユニヴァ第二王子が気付き、馬車を乗り換えたようだ。念のため用意していた暗殺者も、全員奴が撃退したようだぞ」
ユニヴァめ……っ、暗殺者を送っても、毒を盛っても、全てあれが邪魔をする!
「『黒蝶花の毒』は、飲んだのだろう?」
「ああ」
であれば、いずれ死ぬだろう。だが、遅効性の毒では何年かかるかわからない。ジェラルドを確実に殺すには、やはり暗殺する方が手っ取り早い。
「遅効性の毒では心もとない。お前があの『化け物』を使って二人を始末しろ」
医者の影が蠢き、ケラケラと気色の悪い声を上げる。
「対価を差し出せ」
そう、この化け物どもになにかを願う時は、必ず対価を支払わなくてはならない。病を治す対価は、こうして医者として取り立てることだった。『黒蝶花の毒』を飲ませた対価は金。暗殺者の手配も金だった。ならば今度も……
「金をやろう」
「いいや。俺直々に殺すことを依頼するのならば、相応の対価でなければならない」
【ヒヒヒッ、たとえばそう……グランニッシュ帝国との戦争を早める、とかなぁ】
医者のものではない、影から聞こえてくる声は、何もかも暗黒に引きずり込むような、底知れぬ不安感を与える。
帝国との戦争だと。計画してはいたが、それを早めろというのか。なるほど……
「それはいい……。ジェラルドとユニヴァさえいなければ、老いぼれた父を殺し、すぐ王になれる。その後は、他国と秘密裏に同盟を組み、帝国に攻め入れば、お前たちに対価を払ったことになるだろう――」
SIDE イーニアス
「それでは、前回の続きからお話しいたしましょう」
「うむ。よろしくおねがいします。クリシュナせんせい」
きょうのじゅぎょうは、ていこくし。わたしがいちばんすきな、おべんきょうなのだ!
「――初代皇帝アントニヌス様は、周辺諸国が侵攻してくることにいち早く気付き、戦争の準備をしました。しかし資源が豊富とはいえ、当時はとても小さな国でしたから、周辺諸国から一斉に侵攻されるとひとたまりもありません」
ひとたまりも、ないのか……。むむっ、ひとたまりもない、とはどういういみだろうか……あとでじしょをひいてみよう。
「イーニアス殿下、このようにどうしようもない状況を、アントニヌス帝はどう解決に導いたと思われますか?」
「うぬ……、しゅうへんしょこくの、こくおうに、せんそうはたくさんぎせいしゃをだすから、だめなことだと、おはなししたのだ!」
王子たちは今後も毒を盛られる可能性があると思うのだけれど、どうなさるのかしら。
などと、頭の片隅で考えていたら、テオ様が「蓄積する毒なので、念のため解毒薬を何度か飲んでもらう必要がある。今後は定期的にお送りします」って、お二人が不安にならないよう、上手に誤魔化していたのよね。さすがテオ様ですわ。
「お二人がご無事でよかったですわ」
「これまで見たどんな毒よりも毒々しい解毒薬を見た時は、ディバイン公爵を疑いましたが……」
でしょうね。わたくしですら、本当に解毒薬か疑いましたもの。
「命を救っていただき感謝します」
ユニヴァ王子は、棘を抜かれた薔薇のようにただ美しく微笑む。
それを見たテオ様がわたくしを抱き寄せ、「私の妻に色目を使うな」と睨んだ。
「心配せずとも、色目など使っていない。ディバイン公爵、君は奥方のこととなると人が変わるな」
「ユニヴァ王子にだけは言われたくないことだな」
まぁ、お二人ともすっかり仲良しになりましたわね。
『ブラコンと愛妻家、どっちがまともなんだろうね?』
『ドッチモダメー!』
『ドッチモ、キケン!!』
妖精たち、テオ様に怒られますわよ。
「そうだ! 女神、公爵領のお食事、『おもちゃの宝箱』、そして『いるみねーしょんの街路樹』、どれもとても素晴らしかったです!! 公爵領のレストランはどこもレベルが高いですが、特にカレー専門店! あれはもう……っ、それに、見たこともないおもちゃの数々……っ」
ジェラルド王太子が嬉しそうに熱弁をふるっている。
自分だけでなく兄であるユニヴァ王子までもが知らぬうちに毒を呑んでいたことにショックを受けていたものの……すぐにどうこうなるわけではないことに加え、解毒薬もあるということで安心したのだろう。
しっかりディバイン公爵領を観光したジェラルド王太子は、『おもちゃの宝箱』で大量のおもちゃを購入していた。
「お褒めいただき光栄でございますわ」
「あのっ、我が国で研究・開発されたあるものを、この度グランニッシュ帝国への友好の証としてお贈りしたのです。それで、ディバイン公爵夫人にも是非お渡ししたいと思い持ってきているのですが、よかったら、受け取っていただけないでしょうか!」
ぷにぷにのほっぺを揺らしながら、それでも王子の気品をもってキラキラの笑みを浮かべるジェラルド王太子。
好奇心旺盛な彼がディバイン公爵領内で注目していたものは、全てわたくしのイチオシばかり。ぽわぽわおっとりに見えて、実はかなりの目利きだ。
そんな彼が言う、リッシュグルス国で開発されたものとは一体なんだろうか。
期待が高まる。
「リッシュグルス国で研究されていたものなのですか?」
はしたないけれど、興味津々で聞いてしまったわ。
「はい! 我が国では、羊皮紙や植物の繊維を編んだものではなく、もっと安価に大量生産できる『紙』の研究をおこなっていまして、やっと完成にこぎつけたんです!! 商品化の目処が立ちましたので、こちらを是非女神の生み出されるおもちゃに使用していただけたらと思い、持ってきました」
『紙』ですって!?
ジェラルド王太子の従者が、トレーにA4用紙ほどの大きさの紙の束をのせて、恭しく前に出てくる。
少し黄味がかっていて、植物の繊維らしきものが見えるし、日本のものに比べて少し厚みもあるが、これは紛うことなき『紙』ですわ!! しかも和紙!
羊皮紙やパピルス紙のようなものしかなかったこの世界に、ついに和紙が誕生したのだ。
「まぁっ、なんて素晴らしいのかしら!!」
これがあれば、絵本ももっと大量に、安価に作れますわ! それにトランプや折り紙、他にも色々作れますわよ!!
「紙の革命ですわ! このまま研究が進めばもっと薄く綺麗な紙も作れますわね。友好国がこんな素晴らしい研究に熱心に取り組んでいるだなんて、未来は明るいですわ!!」
ついテンションが上がり、テオ様の腕の中ではしゃいでしまった。
「ほう……、ディバイン公爵夫人は『紙』の価値を理解できるのですね」
ユニヴァ王子が意外そうにわたくしを見る。
「もちろんですわ!! 紙は文字や絵を書くだけでなく……、ちょっと一枚よろしいですか?」
トレーから一枚紙をいただき正方形に整えると、紙風船を作る。
「このように、おもちゃを生み出すこともできますのよ」
ぽんっ、ぽんっ、と掌で紙風船を転がしていると、ユニヴァ王子もテオ様も、呆然とこちらを見ているではないか。
「……? どうかなさいましたか?」
なにかございまして? と首を傾げていた時だ。
「す、すごい!! ディバイン公爵夫人、あなたはなんてすごい方なんでしょうか!!」
円な瞳をキラキラさせて、わたくしの掌にある紙風船を凝視し、ジェラルド王太子が声を上げた。
「――? すごいのは、リッシュグルス国ですわ」
「いえ、夫人の手はおもちゃを自在に生み出す魔法の手です!! まさかこのペラペラの紙一枚で、そのように素晴らしいものを作り出すなんて……っ。やっぱり女神だ!」
王太子の反応に困りテオ様を見上げると、テオ様まで大きく頷いているではないか。
ただの折紙ですわよ!?
「ディバイン公爵夫人、是非我が国の『紙』を使って子供たちのためにおもちゃを作ってください!! リッシュグルス国は、女神に優先的に紙を融通いたします!!」
そんな大事なことをここで決めていいのですか!? って、いいわけありませんわよね。
紙を融通すると言われかなり嬉しかったが、冷静になって考えると、隣国との貿易を、政に携わっていない一般人であるわたくしが、勝手におこなうわけにはいかないわ。
「とても光栄なことですが、わたくしが勝手に、お受けしますとは言えませんし、ジェラルド王太子殿下も、国のことをそのように簡単に決めてしまうのはよろしくないのでは?」
たとえ王太子であっても、国王や大臣、国の重鎮たちと相談して決める事柄だもの。
「大丈夫です! 女神のことは父上……、国王や大臣も知っていますし、『新たな紙』は国家事業としてグランニッシュ帝国と貿易の話を進めているところです! ネロウディアス陛下にもいいお返事をいただきましたし、女神が我が国の『紙』を使用しておもちゃを作ってくだされば、リッシュグルス国としては得しかありません!」
とまくしたてられ、あまりの勢いに一歩下がってしまった。
「ジェラルド、落ち着きなさい。ディバイン公爵夫人が困っているじゃないか」
「あっ、女神、すみません! 僕、つい興奮してしまって……。兄上も止めてくれてありがとうございます」
真っ白なほっぺたが、ピンクに染まって美味しそうなことになっているジェラルド王太子だけど、わたくしの一存ではなんとも言えませんし……
「ベル、グランニッシュ帝国の法律に反していなければ、一商人が他国と品物の取引をおこなっても問題はない」
ここで夫の助言があり、それならば……と返事をしようとしたところで待ったがかかる。
「だが、リッシュグルス国の新たな紙と、君の発想は併せると大事件に発展しそうでもある。だから、この件は私に任せてもらえないだろうか」
テオ様が優しく聞いてくださったので、大きく頷く。
「はい。テオ様にお任せしますわ」
旦那様なら、悪いようにはなさらないもの。
「ああ。ベルが喜んだ顔を私に見せてくれるよう、頑張るつもりだ」
「まぁ……、テオ様ったら」
わたくしの夫は、なんて優しい方なのかしら、などと心の中で惚気てみる。
『ねぇねぇ、ベル! その紙で作ったおもちゃ、もう一回作ってよ!』
『アカ、オボエタ。デキル!』
『アオ、ワカンナーイ!!』
妖精たち、それはあとでね。もうちょっと空気読まないと、テオ様の優しいお顔が能面みたいになっちゃうでしょ。
その後、テオ様は妖精通信を駆使して、陛下や皇后様と話し合い(電話会議みたいになっていたわ)、王子たちの滞在最終日だというのに、その会議で部屋から出てきませんでしたのよ。
ジェラルド王太子はテオ様とあまりお話しできなかった、と若干残念がっていたけれど、紙の話は上手くまとまったようで、ほくほくと満足そうなお顔で、お国へ帰っていった。
「まだ第一王子の件もありますのに、お二人は大丈夫でしょうか……」
「それならば問題ないだろう」
お見送りのあと、心配のあまり呟いたわたくしの言葉を、テオ様が拾う。
「随分自信を持っていらっしゃいますのね」
「すぐにわかる――」
SIDE リッシュグルス王国 ジェラルド王太子
ガタゴトと揺れる馬車の中、久々の故郷の街並みを感慨深く眺める。
やっぱりリッシュグルス国は美しい国だ。
「兄上、リッシュグルスへ戻ってきましたね!」
リッシュグルスは山や広大な森に囲まれた自然豊かな国だ。
林業が盛んで、木々を加工し、上質な家具などを輸出していたが、グランニッシュ帝国とは違い、鉱石の採掘量は少なく、国力が乏しかった。
どうにか新たな産業を、と皆で試行錯誤した結果、今までにない紙を作り出すことに成功したのだ。
その功績もあって僕が立太子することになった。王太子として表立って仕事ができるようになり、製紙事業に力を入れられるのはよかったんだけど……
立太子した頃から、頻繁に暗殺者を差し向けられるようになったんだ。第一王子である兄上の仕業だとわかっていたけれど、証拠がないため、なにもできなかった。
そんな時、僕の立太子を報せるためにグランニッシュ帝国に赴くことになった。
僕は以前からグランニッシュ帝国のディバイン公爵領で生まれた『子供向けおもちゃ』というものの大ファンだった。特に絵本が好きだ。こんな絶好の機会は逃せない。絶対開発者であるディバイン公爵夫人に会うんだ!
そう心に決め、ユニヴァ兄上に無理を言って、憧れの女神に会うため、わざわざディバイン公爵領に寄ったのだけど、最初はすごく警戒された。
そりゃあ、いきなり他国の王子が自領にやってきて警戒しない人はいないんだけどさ。ちょっとへこんじゃったよ。
でもおかげで新作おもちゃや絵本を手に入れられたし、紙に関してもいい宣伝ができたと思う。
グランニッシュ帝国でリッシュグルス国の紙の認知度を上げるには、女神に広告塔になってもらうのが最適だったから。
「ジェラルド、体調がいいようだな」
城に向かう馬車の中、ユニヴァ兄上が柔和な微笑みを浮かべて僕の頭を撫でる。
「兄上、僕はもう子供ではありませんよ!」
もうおじさんと言ってもいい年なのに、兄上の中では、まだ子供のままのようだ。
「ハハッ、そうだな。お前がよりよい為政者になるために努力し、大きく成長したことはわかっている。だけど、私のあとをよちよちついて回るお前も、まだ鮮明に覚えているから」
「何十年前の話ですか!」
まったく、兄上は僕が好きすぎるから……早く結婚して、その感情を自分の子供に向ければいいんだけどな……
「ディバイン公爵領に行ってよかった」
最初は行くのを反対していた兄上も、女神の素晴らしさを理解し、そのうえディバイン公爵という新たな友を得た。
「そうですね。女神や公爵とも仲良くなれましたし、黒蝶花の毒のことも教えてもらい、治療までしてもらえました。この御恩は忘れません」
本当に、公爵家の人々は命の恩人だ。
「ジェラルド王太子万歳!」
「ユニヴァ王子ぃ! こっち向いてぇ!!」
窓の外には、手を振る王都の人々。僕ら王族を慕い、親しみを持って接してくれる。なのに、兄上は……第一王子は、この民たちを戦争の道具にしようとしている。
「ジェラルド王太子、ユニヴァ王子、お帰りなさい!」
「待っていましたよ! お帰りなさい!」
その明るい笑顔に、決意を強くする。
「兄上、僕は王になります」
民の幸せそうな笑顔を、誰にも奪わせはしない。
SIDE リッシュグルス王国 第一王子
窓もカーテンも閉めきった薄暗い部屋の中、力の入らぬ手をなんとか動かす。だが、指先が震え、腕は上げることもままならぬ。以前よりマシになったとはいえ、それは僅かだ。
どうして私だけがこのような目にあわねばならない。
「王太子殿下がグランニッシュ帝国からご帰還されたそうだ!」
「なんでも、正式に友好条約を結び、国交を樹立なさったのだとか」
「さすがジェラルド王太子殿下よ! 立太子された途端に功績を立てるとは、なんと喜ばしい!」
私の部屋の前とわかっていながら騒ぎ立てる連中も、私が喉の渇きを覚えていることに気付かぬ無能な使用人も、このような身体に産んだ両親も憎くてたまらない。私がこんなに苦しんでいるというのに、誰も見舞いにすら来ないのだ。
「はやく……」
どうして私だけが痛く苦しい思いをせねばならない。
「はやく、なおせ……っ」
どうして無能な弟がこんなに称賛される。あいつは、ただ健康だというだけで私から王太子の座を奪ったというのに。
「私が……、王太子、だ……っ」
私こそが、次期国王に相応しいのに、何故それがわからない。
「こんな身体でさえ、なければ……」
風もないのに、蝋燭の火が揺れ、掻き消えると暗闇から奴が現れる。
『――使用人どもはお前を蔑んでいるぞ。両親はお前をお荷物だと思っている。弟たちはお前を邪魔者扱いし、殺そうとしているのだ。臣下たちはお前を無能な王子だと嗤っている。グランニッシュ帝国の者たちも皆、リッシュグルス国の第一王子はいらない存在だと噂しているぞ』
私がいらない存在だと……、私が、嘲笑されているだと……っ。
ならば、王になった暁には馬鹿にした奴らを全員……全員、この手で葬ってくれる……っ。
「いつ治る……? この身体は、いつ治るのだ……っ」
暗闇に向かって叫ぶと、音もたてずに近づいてくるのは最近雇った医者と名乗る怪しい男だ。
「言っただろう。お前の病はすぐに治るわけではない」
「この……、無能な医者が!」
「俺がいなければ、お前はとっくに死んでいた。それにもかかわらず、俺を無能扱いか」
医者如きが偉そうに。だが、この男が来てから以前よりも体調がマシになったのは本当だ。
前は喋ることさえ難しい状態だったからな。
「……言いすぎたようだ。だが……、ジェラルドが、戻ってきてしまった」
グランニッシュ帝国で死んでくれればいいものを。
「事故と見せかけ殺そうと、馬車に……細工をしたのでは、なかったのか」
以前から懇意にしている、金さえ出せばなんでもしてくれる犯罪組織。奴らは一体なにをしている!
「どうやらユニヴァ第二王子が気付き、馬車を乗り換えたようだ。念のため用意していた暗殺者も、全員奴が撃退したようだぞ」
ユニヴァめ……っ、暗殺者を送っても、毒を盛っても、全てあれが邪魔をする!
「『黒蝶花の毒』は、飲んだのだろう?」
「ああ」
であれば、いずれ死ぬだろう。だが、遅効性の毒では何年かかるかわからない。ジェラルドを確実に殺すには、やはり暗殺する方が手っ取り早い。
「遅効性の毒では心もとない。お前があの『化け物』を使って二人を始末しろ」
医者の影が蠢き、ケラケラと気色の悪い声を上げる。
「対価を差し出せ」
そう、この化け物どもになにかを願う時は、必ず対価を支払わなくてはならない。病を治す対価は、こうして医者として取り立てることだった。『黒蝶花の毒』を飲ませた対価は金。暗殺者の手配も金だった。ならば今度も……
「金をやろう」
「いいや。俺直々に殺すことを依頼するのならば、相応の対価でなければならない」
【ヒヒヒッ、たとえばそう……グランニッシュ帝国との戦争を早める、とかなぁ】
医者のものではない、影から聞こえてくる声は、何もかも暗黒に引きずり込むような、底知れぬ不安感を与える。
帝国との戦争だと。計画してはいたが、それを早めろというのか。なるほど……
「それはいい……。ジェラルドとユニヴァさえいなければ、老いぼれた父を殺し、すぐ王になれる。その後は、他国と秘密裏に同盟を組み、帝国に攻め入れば、お前たちに対価を払ったことになるだろう――」
SIDE イーニアス
「それでは、前回の続きからお話しいたしましょう」
「うむ。よろしくおねがいします。クリシュナせんせい」
きょうのじゅぎょうは、ていこくし。わたしがいちばんすきな、おべんきょうなのだ!
「――初代皇帝アントニヌス様は、周辺諸国が侵攻してくることにいち早く気付き、戦争の準備をしました。しかし資源が豊富とはいえ、当時はとても小さな国でしたから、周辺諸国から一斉に侵攻されるとひとたまりもありません」
ひとたまりも、ないのか……。むむっ、ひとたまりもない、とはどういういみだろうか……あとでじしょをひいてみよう。
「イーニアス殿下、このようにどうしようもない状況を、アントニヌス帝はどう解決に導いたと思われますか?」
「うぬ……、しゅうへんしょこくの、こくおうに、せんそうはたくさんぎせいしゃをだすから、だめなことだと、おはなししたのだ!」
感想 12,017
あなたにおすすめの小説
初夜のあとに愛する人がいると言われたので祝福で身体の時間を一日戻しました
夫婦となって初めて迎えた夜、セレンティアは夫リオールから「俺には、愛する人がいる」と告げられる。
彼が初夜を済ませた理由は、三年後に白い結婚として婚姻無効を申し立てられないようにするためだった。
けれどリオールは知らなかった。セレンティアの祝福《一日回帰》が、自分自身の身体にも使えることを。
セレンティアは自分の身体の時間を一日前へ戻し、三年間、侯爵家の妻として務めを果たすことを決める。
夫に愛されるためではない。三年後、白い結婚としてこの家を出ていくために。
「今日限りで君を解雇する」――20年仕えた地味なメイドですが、料理も手紙も暗殺者対策も私がやっていました
「エナメル。今日限りで君を解雇する」
20年仕えた屋敷をクビになった、地味なエルフのメイド・エナメル。
だが、晩餐会の料理も、侯爵への手紙も、調度品の手配も、屋敷を狙う暗殺者の処理も――すべて彼女が陰で支えていたものだった。
エナメルが去ったあと、屋敷は少しずつ綻び始める。
一方の本人は、そんなことも知らず。
「さて。次はどこで雇っていただきましょう」
地味で目立たないベテランメイド・エナメルの、新しい奉公先探しが始まる。
※本作は『メイドのエナメルは今日も静かにお仕えします』シリーズの第1作です。本作単体でもお楽しみいただけます。
側妃を紹介されたので、その婚約はお断りいたします
公爵令嬢ヴィオレッタは、王子の婚約披露の日に、もうひとりの令嬢を「側妃に」と紹介された。
逆らってはいけない――そう信じて微笑んだわたくしは、濡れ衣を着せられ、お腹の子を奪われ、雪の離宮でひとり息を引き取った。
けれど目を開けると、そこはあの婚約披露の日。時間が、巻き戻っていた。
今度は、飲み込まない。今度は、微笑まない。
前の生で覚えた数字も、罠も、あの女の手口も、ぜんぶ覚えている。
「その婚約、謹んでお断り申し上げます!」
涙を武器にする令嬢に、二度は負けない。そして――誰も見ていないと思っていた場所で、ずっとわたくしを見ていた騎士がいた。
これは、運命に流されるだけだったわたくしが、自分の人生を"選び直す"物語。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
婚約破棄を受け入れた瞬間、王太子殿下が青ざめました
王都でもっとも華やかな春の夜会。その中央で、王太子エドワードは冷ややかな目を婚約者へ向けていた。
「リリアーナ・フォン・アルベルト公爵令嬢。君との婚約を、ここで破棄する」
会場が一瞬で静まり返る。
リリアーナは淡い金髪を揺らし、静かに王太子を見つめ返した。
「理由を、お聞きしてもよろしいでしょうか」
「理由など明白だ。君は嫉妬深く、心が狭い。それに比べ、私は真実の愛を見つけた」
そう言ってエドワードが隣へ引き寄せたのは、男爵令嬢のセシリアだった。
婚約者に五年ほっとかれてる間に、ちょっと取り返しのつかないことになっちゃったんですよね
「私は明日より隣国へと赴任する。君のような地味で退屈な女にかまっている暇はないから、大人しく待っているように」婚約者にそう言われて、大人しく暇つぶしをして待っていたら、なんだか……年下ハイスペイケメンに侍られるし大金は降って湧いてくるしで……。
【18日完結】病弱妹優先婚約者様が、51回目に「アレなら死んだ」と笑った。
婚約者に50回すっぽかされ続けた令嬢レスフィーナ。
50回全て病弱な妹様が呼んでいるからという、最低な理由で。
51回目。婚約解消の用意も万端で臨んだその日——
「ああ、アレなら死んだ」
婚約者は、妹様の死を、晴れやかな笑顔で告げた。
……これってどういうこと!?
他サイトで掲載しておりましたものに、少しだけ手を加えて掲載しております。
子どものころから嫌いだった幼馴染は、私と結婚するつもりだったらしい
幼いころからアレクシスのそばにいるたび、リディアは周囲の令嬢たちから嫌がらせを受けてきた。何度も「嫌い」「離れたい」と訴えても、両親はそれを子どもの意地や照れだと思い、本気にしなかった。
十五歳で外国の高等学院へ留学したリディアは、魔道具職人として自立する道を見つける。そして十七歳の成人を迎えた日、彼女は伯爵家から離籍し、二度と故郷へ戻らないと決めた。
一方そのころ、アレクシスはリディアと結婚するつもりでいたことを明かす。けれどリディアは、そんな未来を一度も望んでいなかった。
これは、誰にも届かなかった「嫌だ」を抱えていた少女が、自分の人生を自分で選び取るまでの話。
