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第三章
閑話 ~ルーベンスさんの不運な午後~
しおりを挟むルーベンス視点です。
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「旦那様、朝ですよ」
「ウフフ。普段はキリリとした旦那様のかんばせも、寝顔になるととっても可愛いわ」
「昨夜は頑張って下さったのだもの。もう少し眠らせてあげても良いのではなくって?」
「ダメよ。今日は大事な会議があるって言ってらしたじゃない」
私の朝は愛妻達の可愛らしいさえずりから始まる。
「まぁ旦那様ったら、寝たフリをしていましたのねっ」
「もうっ 旦那様ってば!!」
「起きていらしたの?」
「フフッお茶目な方」
今日も良い一日になりそうだ。
いつものように私の美しい妻達に見送られ、王宮へと向かう。
執務室で本日中に処理しなければならない書類を確認し、仕事を始める。ある程度仕分けた所で、午後一番にある会議で使用する書類に目を通す。部下に指示を出し、置いてあった資料の不足分を用意させる。そんな事をしていれば、いつの間にか会議の時間が迫っていた。
まとめた資料をもって会議室に向かえば、第1~3の騎士団師団長達の顔ぶれがそろっていた。
ルマンド王国の英雄達だ。並んだ姿はさすがに壮観である。
ゆるりと席につき、陛下を待つ。
暫くすると陛下がお見えになったので立ち上がってお出迎えする。
会議の内容はいつものように政治経済や環境問題等、来週の貴族会議で議題に上る問題について討議し、煮詰めていく。それが粗方煮詰まった所で出た議題に場が騒然とした。
“フォルプローム国がバイリン国と結託して戦争を起こそうとしている”
ルマンド王国4代を遡っても、戦争などという愚かな行為を始める国はどこにもなかった。当たり前だ。世界は戦争が出来ぬ程疲弊していたのだから。
つまり、戦争を知らぬ我々からしてみれば寝耳に水。
それが真実であるなら、由々しき事態である。
その衝撃から立ち直れぬまま、ロヴィンゴッドウェル第3師団長に主導権を握られ終わってしまった会議。
奴のつがいが人族の神であるという噂と、元々英雄という事も手伝ってか、国民の支持率が異様に高い。このままにしておけば、ルマンド王国の新たな王にという者も現れるやもしれぬ。いや、すでに貴族の一部からはそのような声も上がっているのだ。
奴は危険だ。このままにしておくわけにはいかん。
そんな事を考えながら執務室に戻り仕事をしていたからか、部屋の中に少女が居た事にすぐには気づけなかった。
黒髪に黒い瞳の少女は、どうやら人間ではないようだ。この結界が張られた部屋に、私に気付かれずに入って来るという事が人間ではない証拠だ。
魔族である私は、“魔道具”に触れる機会も多く、それを使用出来る程度の魔力もある。故に結界を張る魔道具を手に入れる事が出来たわけだが、その結界をものともせんとは…恐らく精霊か神族の類いだろう。
しかし精霊というには何というか…普通の可愛らしい容姿だ。という事は、彼女がロヴィンゴッドウェル第3師団長のつがいだろうか?
しかし警戒心のない少女だ。お茶を用意すればすぐに口を付け、菓子を食べる。すぐ顔に出る素直さ…愚直と言えばよいのか。
…これが“人族の神”か? ただの人族の少女にしか見えんが。欺く為の芝居だろうか。
少女はお茶を飲み終えると、堂々と扉から出て行った。結果、護衛騎士に追われていたが。
あまりの事に呆然としていたが、私には今日中に終わらせなければならない書類があるのだ。ぼうっとしている場合ではない。と仕事を再開して30分後、この世の者とは思えぬ程の美貌を持った、白髪の少女が執務室を訪れたのだ。
今日は人外に出会う日なのだろうか?
先程の黒髪の少女と違い、圧倒的な力の差を感じるのだが…きっと白髪の少女が神で、やはり先程の少女は精霊なのだろうと納得した。
白髪の少女は魅力的だが、自由すぎてこの老体にはついていけなかった。
何というか…独特の世界観を持っているのだろう。話も噛み合わない上に、何やら一人納得して去っていったのだ。
「成る程。好色という事は男も女も両方イケると。やはり攻めですか? いや、その顔で受けはないよね!!」
意味がわからん。
女性は大好きだが、神とは性別を越えた未知の生物であるらしい。
王族の為に神の血を取り入れたいとは思うが、あれはナイな。
今日は色々あって疲れた。
帰って愛しい妻達に癒してもらうとしよう。
私は疲れきった身体を何とか動かし、帰路についたのだ。
◇◇◇
おまけ
王宮の厨房で働く若者視点です。
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夜間勤務の日は激務だ。夕方から出勤し、戦場のような厨房を駆け回り、深夜に交代で2時間程度の仮眠をしてから朝の仕込みに入る。夜が明ければ再び戦場になる厨房を駆け回って、昼前に勤務が終わる。
そんな激務の日が今日だった。
ここで働き出して3年。慣れたとはいえ、やはり夕方の戦場でくたくたになった俺は、仮眠用の部屋へやってくるとすぐにベッドへとダイブした。
いつもは埃っぽい部屋の空気が、今日は何故か清々しく感じ違和感を覚えた。閉じっぱなしのカーテンも何故か開いている。
気になりだすと眠気が吹き飛び、部屋をキョロキョロと確認していると、足元に何かが転がっているのを見つけた。
ベッドの下から本のようなものが見えるのだ。
本などそんな高級なものがこの部屋にあるわけはない。そうは思うが手に取って見るとやはり本のようだ。大分薄いが。
もしかしたら誰かの日記だろうか?
しかし、この部屋を使う奴に日記を書くような上品な奴がいるとは思えない。書いてレシピのメモだろう。
そんな大事なものをベッドの下に置いておくというのもあり得ないが。
ドキドキしながらぺらりと一枚めくると、目に飛び込んできたのは…っ
男同士が抱き合っている絵だった。
同性での恋愛など、人族の住む国ではそう珍しくもないが、獣人の俺は普通に女の子が好きだ。こういう趣味はない。一体誰の趣味だろうか…? 人族の奴ならいいが、竜人や魔人、獣人等にこの手の趣味の奴がいるとしたら、男の俺は狙われるんじゃないだろうか…?
読み進めていくとすぐに内容が過激になり、ヒィィィ! と叫んで本を投げ尻を押さえてしまった。
あまりの恐怖に本をまたベッドの下へ戻し、結局仮眠は一切取れぬまま朝の戦場を迎えたのだ。
その日から、あの仮眠室を使った奴らには気まずい空気が流れだし、それからふた月後、男同士のカップルが生まれたのだった。そしてあの仮眠室は男同士のカップルの聖域となり、世に語り継がれたのであった。
ちなみに俺の今の恋人は、副料理長のイヴァンカさん…男である。
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